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池田浩明さん×間中伸也さん| パンを知れば人生は100倍楽しくなる!奥深い「パンの魅力」

池田浩明さんと間中伸也さん
  • 池田浩明さん
    池田浩明
    パンライター。全国のパンを食べ歩いて研究する「パンラボ」主宰。「パンラボ」「パン欲」などパンに関する本を多数執筆するほか、最近では“おいしいパンってなんだろう”を追求した「パンの雑誌」をプロデュース。2015年5月、採れたての小麦を全国で販売するプロジェクト「新麦コレクション」を立ち上げる。
  • 間中伸也さん
    間中伸也
    世田谷パン祭り事務局代表。オールドファッション株式会社代表。2008年、三宿でハンカチ専門店「H TOKYO」をオープン。2006年より3年間「IID 世田谷ものづくり学校」の副校長を勤める。2009年に三宿四二〇商店会を発足。秋には、今年5年目となる「世田谷パン祭り」を2015年10月3日(土)〜4日(日)に開催する。
池田浩明さん間中伸也さん

 

東京下町のとある街角にひっそりと佇む「アマノ食堂」。この店に訪れるお客さんの“おいしいお話”を毎週お届けしていきます。第3回のテーマは「パンの魅力」大解剖!

普段何気なく食べているパンですが、一歩その世界に足を踏み入れると、まだまだ知らないことがたくさん。今回は、奥が深いパンの魅力を文学的・科学的に紐解きながら“おいしい”だけに留まらないパンの楽しみ方をお伝えします!

ゲストは、“ブレッドギーク”を名乗るパンライターの池田浩明さんと、年々盛り上がりを見せるパンイベントの先駆けである「世田谷パン祭り」を立ち上げた間中伸也さん。パン業界応援団の中でも団長クラスのお2人が語る、まだあまり知られていないパンの魅力と可能性とは…?

池田浩明

パンラボを立ち上げたきっかけは「プルースト現象」

(池田浩明さん)

意外にこうやってちゃんとお話するのは初めてですね。パン業界にいると池田さんのお名前は必ず耳にしますが、池田さんはそもそもどんなきっかけでパンが好きになったんでしょうか?

小学校2年生のある日、母親が近所のパン屋さんでブリオッシュ(注1)を買ってきたんです。「こんなおもしろい形の食べ物があるんだ」と衝撃を受けました。うちはあまりお菓子を食べさせてもらえなかったので、パンなのに甘いものが食べられるというよろこびもありましたし。以来かなりパン好きになりましたね。

Brioche parisienne(注1)ブリオッシュ…バター、卵、砂糖をたっぷり使ったフランスの菓子パンのひとつ。写真のようにポコッと頭がついた「ブリオッシュ・ア・テット」というだるまのような形をしたものが一般的。他にもさまざまな形があります。

 

すごい、小2でもうパンに目覚めたんですか!池田さんは「パンラボ」をどんな経緯で立ち上げたんですか?

直接のきっかけは、何か食べたり匂いを嗅いだりした瞬間に過去の色んなことが蘇るという「プルースト現象」ですね。大人になってブリオッシュを食べたときに、子供の頃に食べたことを走馬灯のように思い出したことがあって。当時、僕は普通のライターだったんですが、パンを食べてこんなにも色々と思えるんだったら、パンのことを自分の言葉で書いてみようと思ったんです。

なるほど、“自分の言葉”で。

はい。パンについて語りあおうとしても「おいしかったね」くらいしか言えないですよね。国産小麦とかフランス産小麦とかあるけど、そもそもどれがどういう味になるのか全然わからなかったし、美味しさを表現する言葉が見つからなかったので。その言葉を作っていきたいなと。

ああ、確かに。ワインなんかは色んな表現がありますもんね。ちなみに、どんな表現や言葉が生まれましたか?

例えば、「しゅわっとした口溶け」と「すーっとした口溶け」は違いますよね。パンって皮と中身でできていて、口の中で溶ける速度が全然違う。先に皮の味がきて、それがなくなった後に中身の味がくるんです。溶けていくにつれて味が変わっていくんですね。あと、例えば皮について言うと、フランス産小麦だったらバターみたいに甘くとろけます。でも国産小麦は舌になじむような感じ。お米を食べた時のじわーっとした甘さがしたりとか。…この話、ちょっとマニアックかもしれませんね(笑)。

いやー、おもしろいです!ワインを飲むときも、最初と中間と終わりかけで味の違いがありますが、パンにもあるんですね。食べるときの表現や見方を知ると、目安になって楽しいです。

 

間中伸也

「パンには、人を引き寄せたり幸せにする力がある」

(間中伸也さん)

間中さんはなぜ、世田谷パン祭りを始めたんですか?

僕は普段、三宿でハンカチ屋をやっているんですが…。

あ、偶然なんですけど、この前行きました!めちゃめちゃいいお店ですね。

ありがとうございます(笑)。それで、お店をオープンしてどうやってお客さんを呼ぼうと考えた時に、自分のお店だけが流行るんじゃなくて、近くのお店と一緒に賑わうほうがいいと思ったんですね。それでまず商店会を立ち上げました。その商店会で街歩きをする企画があって、たまたま商店会やその周辺のパン屋さんを案内して歩いたらすごく評判がよくて。実は僕はもともとパン好きというわけではなかったのですが、その時に「パンにはこんなに人を集めたり、幸せにしたりする力があるんだ!」って感動したんです。それで、パンのイベントを開いて、人にたくさん来てもらって、商店会が盛り上がればいいなと思って始めました。もう今年で5年目ですね。

それは素晴らしい考えですね。売り上げももちろん大切だけど、やっぱり自分の店のことだけ考えていても逆に伸びないんじゃないかと思います。みんなで協力して「この街おもしろいよ」ってなると、みんなその街に行ってみたくなりますよね。そういうの、大事です。

そうですね。しかも、世田谷って本当にパン屋さんが多いんです。何でなんでしょうね。

僕が思うに、世田谷のようなアッパーミドルの住宅街の中にヨーロッパ風のパン屋さんがあるっていうのが、みんなの頭の中にある幸せのイメージだからなんじゃないかなぁ。あと、新しいことを始めて成功している先駆者的存在のパン屋さんも多いですね。

ああ、そうですね。評価してくれる方がたくさん住んでいるっていう土地柄もあるかもしれない。

それも大きいと思います。

世田谷パン祭りも、最初始めるときにモデルになるイベントを探したんですが、なかなか見つからなかったので、手探りで始めました。そもそもパン屋さんが出店してくれるのか、人が集まるのか…不安を感じながらのスタートでしたが、蓋を開けてみたら、たくさんのお客さんが来てくれて。よかったなと思います。

池田浩明と間中伸也

「1km行列があったら、後ろの900mは
パンマニアの自覚がない普通の人」

(池田浩明さん)

世田谷以外でも最近パン屋さん、増えていますよね。

そうですね。でも店主が40代以上と以下のお店では、結構感覚が違う気がします。40代以上のパン屋さんは、昔から色んなパンを一生懸命作ってちゃんとビジネスとして商売している方が多い。一方、若い世代は自分の好きなパンだけを作るというフリースタイルな人が多くて、今はそっちが増えてきているのかなと思います。パンってみんなの頭の中にある普通のあんぱんとか食パンだけじゃなくて、他にももっと色んな種類があるんだって気付かせてくれるので、パンの幅を広げるきっかけにもなっています。

いいことですよね。世田谷パン祭りもそんなきっかけのひとつになれたら嬉しいです。沖縄などの遠方からパンが出品されると、なかなか手に入れられないこともあって好きな方は長い時間並ばれたりもしていて。みなさんのパン熱の高まりを感じます。

1kmくらい並ぶこともありますもんね。僕が思うに、その中で最初の100mくらいは、オープンと同時に走っちゃうくらいのパンマニア。で、後の900mくらいはパンマニアの自覚がない普通の人たちです(笑)。でも流行るときって、マニアだけじゃなくて普通の人の話題にも上っているときだから、今はパンが本当に流行っているんでしょうね。

パンって間口が広いから、ファミリーやカップルでも来やすいですしね。でもやっぱり女性が多いですね。

そうですね。パン好きの9割は女性なんじゃないかな。男性は奥さんがパン好きで一緒に回らされているうちに洗脳されちゃった人がほとんどです(笑)。

池田浩明

「粉ってすげーな、生きてるんだな、と感動した」

(池田浩明さん)

確かに、山陰からうちの店にハンカチを買い付けにきてくれる男性のお客さんも、買い付けのたびに奥さんにパン屋巡りを頼まれています(笑)。

ああ(笑)。でも山陰も今いいパン屋さん増えてるんですよね。大山小麦といって、大山の麓に小麦を植えて、小麦粉から作っているパン屋さんとか。

小麦から!

なかなかおいしい小麦ですよ。実はおいしい小麦って全国にたくさんあって、お酒とかお米と同じようにちゃんとその土地の味があるんです。

へぇ、小麦にも味の違いがあるんですか。

この前作った『パンの雑誌』で、全国の小麦粉約20種類をちょっとずつ食べ比べるテイスティングの企画をしたんです。おもしろいことに、全部味が違うんですよ。北海道の小麦はクリアで結構甘い。ミルクとかバターとか柑橘系を彷彿とさせる甘さです。甘さってストレスに関係すると一説では言われているんですね。ストレスが大きいほど甘みが強くなる。北海道は寒いので、その温度差がストレスになって食べ物が危機感を感じて甘み成分を出すらしいです。
小麦粉の話に戻りますが、九州地方の小麦粉は、逆に雑味とかがありますね。噛み締めていくと旨みに変わっていくような感じ。そういう小麦は、カンパーニュ(注2)のようなどっしりしたパンに合います。

(注2)カンパーニュ…「田舎」を意味するフランスパンの一種。正式名称は「パン・ド・カンパーニュ」で“田舎パン”と呼ばれることも。シンプルな丸型をしているものが一般的で、ライ麦粉や全粒粉を混ぜて作られることが多い。

 

おもしろいですね!

今回の企画で初めて小麦粉を食べるようになったんですが、本当に粉からオレンジの香りとかがするんですよ。「粉ってすげーな、生きてるんだな」と感動しました。

その香りってすぐにわかるものなんですか。

今回は僕も初めてだったからだと思うんですが、ずっと味わっていると「これ、なんとかの味がしますね」って言葉がでてきます。それで、誰かから一回その言葉がでたら「あぁ、本当だ」って思うんです。だから、はじめの表現の話にも共通しますが、おそらく感じていることはみんな一緒で、要はどういう言葉で表現するかが重要なんですよね。何か言葉がぽんって出ると「あー!そうそう」って納得するんです。それがすごくおもしろいです。

その言葉をこれからどんどん確立していくんですね。

できたらいいですね。あと、実は最近「新麦コレクション」という団体を立ち上げました。土地それぞれの小麦の特徴に合ったパンができたらいいな、そういう食文化が増えたら楽しいなと思って。小麦農家さんのうちにはまだまだ、自分の作った小麦の味を知らない方も多いんですよ。小麦粉って普通食べないから、誰かに「あなたの小麦すごくおいしかったです」と言われることもない。それってすごく残念だなと思って。だから「新麦コレクション」が、全国の農家さん、製粉会社さん、パン屋さん、消費者をつなぐリンク役になれればいいなと思います。

すごく楽しみです。今年の世田谷パン祭りも「パンの科学」というテーマでやろうと思っているんです。パンって使っている材料は本当に単純なものだから、素材が何かって、大切な要素なんだなって思いますね。でも小麦粉から考えてパンを作っているお店ってまだあんまりないのでは?

そうですね、まだまだマニアックです。

なんてんcafeの料理

パンは“見ているだけで幸せ”感がある

(間中伸也さん)

個人でやっているようなパン屋さんは、店主の思想や世界観がお店に出ていて、そこのパンを食べるとやっぱり「ああ、そうだよな」とどこか腑に落ちるものがありますね。店主の人格がパンに現れているというか。

絶対ありますね。あと、温かい気持ちになったり、励まされたり、テンションが上がる。パン屋さんにはいつもポジティブな力をもらっています。

初めて訪れるパン屋さんに入るときは、どんなところに注目しているんですか。

やっぱり、どんなパンがあるかですね。前にパン屋さんに「パン好きは、お店に入ったときにすぐにわかる」と言われました。トレイを持たずただぐるぐるパンを見て回っているんだそうです。確かに自分もそうだった。変態はそうなるみたいです(笑)。

わかります(笑)。僕もハンカチ屋をやっていると、生地が好きな人ってわかるんです。ハンカチの違いって、デザイン的なものはもちろんありますが、やっぱり触り心地が違うんです。織り方とか加工の仕方とかで変わってくるんですけど、高級なものになると綿でもシルクかと思うくらい。本当にいいものになると、触っているだけで幸せな気持ちになりますね。お店に入ってきてずっと生地だけ触っている人もいますよ(笑)。

あぁ!

多分それと同じように、パンも“見ているだけで幸せ”感がありますもんね。

そこまでいくと、めちゃめちゃハマっちゃいますね。

池田さんはパン屋さんで、必ずこれは買うっていうものはありますか?

フランスっぽいブーランジェリーのお店だったらバゲット(注3)、地域密着型の昔ながらのお店では食パン、天然酵母が特徴のお店ではカンパーニュが基本かな。毎回同じものを買っていると定点観測になって、違いがわかりやすいのでより楽しくなります。

taidan08_01_17(注3)バゲット…フランスパンのなかでもっともポピュラーなパンのひとつ。日本でもサンドイッチなど色んな食べ方をされています。日本語訳で「棒」「杖」という意味を指し、パリパリした皮と塩味が特徴。

 

なるほど。自分の切り口をこれって決めておくのはいいですね。

間中さんはよく買うパンってありますか?

うーん、僕は単純に好きなあんぱんかな。でも池田さんがおっしゃっていること、わかりますよ。ハンカチ屋からしてみたら、やっぱりまずは基本の白いハンカチを知ってほしいなと思います。白のハンカチだって、織り方とか糸で全然違ったりしますからね。

 

– さて、パンの味の表現方法や小麦粉の話、パンマニアの実態など、まだまだ尽きないパン談義。まだまだ聞きたいところですが、そろそろ〆のお時間です。最後に改めて、お2人が考える「パンの魅力」と「可能性」についてまとめていただきましょう。
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「パンを通して地方や農業を活性化していきたい!」

(池田浩明さん)

パンは見方によってすごくおもしろくなったり、真面目になったり、泣いたり笑ったりできるんですよね。色んな顔を持っています。僕はその中でも、これからは小麦粉を通して、地方や農業を活性化する活動に力を入れていきたいと思っています。

いいですね。ちなみに、パンをたくさん食べ過ぎていやになったりはしないんですか?

それが全くないんですよね。この前小麦アレルギーになったらどうしようかとすごく不安になりました(笑)。

「パン職人たちのパンにかける色んな想いを知ってほしい」

(間中伸也さん)

僕は世田谷パン祭りを始めてから、これまで無自覚にパンを食べていたことを反省しました。パン屋さんって経営だけでもものすごく大変なのに、それでも、パンを通して自分の世界や考えをすごくダイレクトに、真摯に伝えています。4年間世田谷パン祭りを開催してきて、パン職人さんたちが色んな想いでパンを作っていることを知りました。あと、店構えもパンの世界観を表現する要素のひとつなので、世田谷パン祭りをきっかけに直接お店に足を運ぶ人が増えて、街が盛り上がるといいなと。今年のパン祭りでは、世田谷のパンMAPなども作りたいですね。

それいいなぁ、すごく欲しいです!

 

– それでは最後に〆の一杯を。本日は「朝スープ 梅としらすふんわり卵(※販売終了)」です。

アマノフーズ 朝スープ梅としらすふんわり卵

これ、すごくおいしい。インスタントによくありがちな舌に残る感じがない。スープってパンにすごく合うと思うんです。パンばっかり食べているとスープが無性に飲みたくなる。しかも、こういった和風のスープをパンに合わせるようになれば、パンがもっと身近になっておもしろいんじゃないかと思います。

 

ーちなみに、このスープと一緒に食べたいパンは何ですか?

三軒茶屋にある「シニフィアンシニフィエ」さんの“キタノカオリのチャバタ”ですね。国産小麦のパンなので、和食と合いやすいんです。こういう和のテイストで一緒に食べたらいいかなと思いました。

僕も三軒茶屋にある「濱田家」さんとか。日本の総菜を使ったひじきパンなどがあるので、さっぱりと和で揃えたいですね。

ああ、いいですね!

 

ーご来店、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています!

line02企画協力/鯰組、なんてんcafe

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