対談 2017.09.08
林家彦いちさん×春風亭昇々さん|【第1回】落語界への入門がわかる!ブームの火付け役が語る “師匠への弟子入りと稽古”
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- 林家彦いち
- 1989年、林家木久蔵(現・木久扇)師匠へ入門。2000年に若手落語家の登竜門と呼ばれる『NHK新人演芸大賞落語部門』で大賞を受賞。2002年に真打に昇進後も数々の賞を受賞。現在は数多くの落語を創作し、ひとり会「喋り倒し」や新たな試みを行う「彦いちラボ」開催つつ、全国各地で独演会を展開中。創作落語「熱血怪談部」(あかね書房)、「長島の満月」(小学館)は絵本化に。その名はアウトドア通としても知られており、国内外の山や川を制覇中。好きなおみそ汁の具材はなめこ。
- hikoichi.com
- 林家彦いちTwitter / @hikoichikumite
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- 春風亭昇々
- 2007年、春風亭昇太師匠へ入門。2011年、二ツ目に昇進。アグレッシブでユーモア溢れる語り口で若い世代を中心に人気を集め、近年の落語ブームを牽引する若手落語家のひとり。2015年、2016年の『NHK新人落語大賞』では100人を超える参加者のなかから5名が残る決勝に勝ち進むなど、人気に裏打ちされる実力を兼ね備えている。また、落語のみならず「ポンキッキーズ」(BSフジ)ではメインMC、「ミライダネ」(テレビ東京)ではナレーションを務めるなど多岐に渡ってマルチに活躍中。好きなおみそ汁の具材はあおさ。
- 春風亭昇々ブログ
- 春風亭昇々Twitter / @shoshoa2011
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。今回の対談テーマは、今、若い世代から注目を集めている「落語」。
ゲストは、“創作落語の鬼”と称され新しい噺(はなし)を次々と生み出している林家彦いちさんと、枠に捉われない芸風で“アバンギャルド昇々”との異名を持つ春風亭昇々さん。現代の落語界を席巻するお2人が弟子入りを決意したきっかけや、落語の知られざる世界を全3回でお届けします!
—老若男女、幅広い世代から愛される落語。ここ最近は若い世代からも注目を集めています。その人気の、まさに火付け役とも言えるお2人のお互いの印象&意外な関係性とは?
彦いち師匠は「武闘派」で男らしいイメージです。6年ほど前に、うちの師匠(※1)と 3人で北海道の富良野に仕事で行きましたよね。その帰りに彦いち師匠が、僕の目の前までつめ寄ってきて、拳ギリギリの距離で「頑張れよ!」って一言残して去って行ったのが印象に残っていて(笑)。あれは本当にびっくりしましたよ。
※1:昇々さんの師匠は春風亭昇太さん。2016年より『笑点』の司会を務めていることでもお馴染み。
そんなこともあったね。きっと照れ隠しでしょうね(笑)。昇々さんは何番弟子なの?
2番弟子です。
昇太兄さん(春風亭昇太)とは親しくさせて頂いていて。ずっとお弟子さんを断っていた方だったので1人目、2人目…と弟子を取った時は、「とうとうお弟子さんを!!」と驚きでした。昇々さんのことも、「これからの落語界を作っていく人になるんだろうな〜」という気持ちで見ていたので…その北海道の時は“昇太兄さんのDNAを受け継げ!”みたいな、激励の気持ちがあったんじゃないかなぁ。
そんな話を、東京駅のホームでして頂いたのを今でも覚えてます!
—直接の師弟関係でなくとも、昔から親交があって、とても素敵な関係性ですね。では最初に、お2人が落語の道を志したきっかけを教えてください。
僕は学生時代に関西学院大学の落研(※2)に所属していて、その流れで入門しました。落語の世界ではすごくオーソドックスな流れですね。
※2 落語研究会
落研からの弟子入りは多いよね。もともと落語が好きだったの?
いや、昔からではないですね。高校の時は一応空手部だったので…。
一応(笑)?
空手部の幽霊部員でした。放課後は週3日でテコンドーの道場にも通っていたんですよ。
意外と武闘派だね!
大学でたまたま所属していたのが
「落語研究会」
(春風亭昇々さん)
学生の頃は落語がすごく好きっていうわけでもなく、「落研がつぶれちゃうからお願い…!」って頼まれて入ったんです。ラジオを聴くのが好きだったので、落語を聴く機会といったら、たまたまラジオから流れてくるのを聴くぐらい。でも、お笑いも好きだったので、なんだか面白そうだなと思って。
落研に入る人はお笑い好きが多いよね。文化祭だと、コントや漫才を披露している人が多かったし。弟子入りしようと思ったのはどうして?
コントや漫才も好きだったんですけど、みんなでやらないといけない。僕は自分だけでやるのが好きなので、落語だな!と思って(笑)。師匠の噺を生で聞いたことがあったんですけど、これが面白くて…大学卒業間近になって、新宿・末廣亭に出演していた師匠を出待ちして、弟子入りを志願したんですよね。師匠は少し困った様子で、「1ヶ月以内に連絡するかもしれないし、しないかもしれない」って言ったんです。
うんうん。それで結局どうなったの?
1ヶ月経ってから「横浜にいるんだけど、今から来れる?」って突然電話があったんですよ。その時は関西にいたんですけど、断ったら弟子入りできなくなる!と思ったので、そのまま新幹線に飛び乗って。師匠からは「本当は弟子は取りたくないけど、周りが取れってうるさいから良いよ」って言われました。
その“うるさい周り”には、僕も入ってると思うな(笑)。
え!彦いち師匠も!? そうでしたか…(笑)。
—彦いちさんが落語家になろうと思ったきっかけは何ですか?弟子入りの印象的なエピソードはありますか?
親があまりテレビを観せてくれなかったのも大きくて、落語は読み物としてずっと好きでしたね。「イソップ物語」や「ほら吹き男爵の冒険」とか、とにかく笑い話と名のつくものを図書館から借りてきては読んでました。僕のなかでは、“日本のお話=落語”なんですよね。
子どもの頃から落語に親しまれていたんですね。
でも、まさか自分が落語家になるなんて思ってもいなかったよ。高校時代は柔道部で、自転車に乗って旅をするのが好きだったし、大学時代は空手をやっていたから。
そこからどうして落語の世界に?
「弟子入り」に憧れて入った落語界
(林家彦いちさん)
「弟子」というものが、ものすごく魅力的に感じられてね~。とにかく“弟子入り”ということをしてみたかった(笑)。学生時代、空手が強い人に弟子入りして親に怒られたりもしたな…。
へぇ〜!そんなことが。
空手道場に通ってる人がみんな強くて、
(笑)。でも、なぜ空手から落語の世界へ?
「振り切っている人間が面白い」ってことは薄々感じていたけど、その面白さを“喋って伝える”ほうが楽しいと思ったんだ。寄席にも通っていたし、当時読んでいた夢枕獏(ゆめまくらばく)さんや筒井康隆さんの本にも落語が出てくるから、そこにも影響されたかも。
落語って、いろんな読み物に登場しますからね!
そうそう。でも、全然押し付けがましくない。世の中に点在している落語はさりげなく落ちていたりするから、違和感なく心に残るんだよね。よく小説でも「いや、時そば(※3)じゃあるまいし!」って、例えの一つとして表現されるようにさ。そこで「ん?時そば?ちょっと気になるなー」くらいの軽い感じ。それがいいじゃない?
※3 古典落語の演目の一つ。蕎麦の屋台で起こる滑稽話であり、数多い古典落語の中でも一般的に広く知られている。
いいですね~。ちなみに、木久扇師匠に弟子入りした時はどんな感じだったんですか?
木久扇師匠に直接弟子入りして
そのまま落語家の道へ
(林家彦いちさん)
大学時代、地理学を専攻するくらい地図や、旅に行くのが好きでね。当時はインターネットもないから情報を集めるのはいつも本屋。その流れでたまたま紀伊国屋書店に行ってタレント名鑑を読んでいたら、うちの師匠の事務所が載ってたの。住所も書いてあったから、1階の地図売り場で場所を調べて、そのまま会いに行きました(笑)。師匠に「弟子入りさせてください!」って。
地図が読めるから、すぐに事務所の場所もわかったんですね。それにしても、すごい行動力。
そうしたらすぐに「いいよ!じゃあ、これ持って!!」って、師匠から荷物を渡されて(笑)。そこから転がるように噺家の前座見習いです。落語には寄席(※4)っていうシステムがあるんですけど、落語の世界に産んでくれたのが師匠で、細かいことは兄弟子から教わる。「師匠は自分で選べても、兄弟子は選べない」って、落語の世界でよく言われるよね(笑)。
※4 演芸が専門に行われている劇場。弟子として師匠に入門すると、①見習い(噺の練習や着物のたたみ方などの基本を教わる)→②前座(師匠の許可が下りたら寄席デビュー)→③二ツ目(独り立ちの第一歩として自分の落語会を開ける)→④真打ち(落語家として一人前となり、弟子を取ることができる)
あと、浜美雪さんの『師匠噺(河出書房新社)』という本にも出てくるけど、落語の稽古を師匠から直接教わることって実は意外と少ない。昇々さんはどうでした?
3つの噺を教わりました。一般的には、芸は師匠から教わるイメージもあるようですが、違いますよね。
そうそう。縦の関係がきっちりしていると思われるけど、僕が師匠から教えてもらった噺は1本半だけ。『寿限無(じゅげむ)』と『たらちね』の途中までだったかな。なんか途中で飽きちゃったみたい(笑)。
自分で見て覚えるのが落語の世界
(春風亭昇々さん)
師匠から一番多く教わったことは「噺家としての生き方」。仕事に対する姿勢や落語に対する考え方とか。うちの師匠はあまり厳しく言わない。それは自分で“見て覚えろ”ってことだと思います。師匠がどんな風に動いて喋っているのかを真似するんです。
<解説> 落語の稽古
落語の特徴的な稽古が「口伝(くでん)」。向かい合って師匠の噺を聞き、それを録音して文字に起こしたものを暗記して師匠に見てもらう稽古のこと(これを「アゲ」という)。普通なら3週間くらいかけるところを2週間ほどで覚え、師匠に「アゲをよろしいでしょうか」と言うことが、弟子の熱の見せ所なのだそう!
「お客さんが何を求めているのかを考えるのが大切。それこそプロだ!」っていう師匠の言葉は、今でも心に残ってますね。
僕はね、「噺家は幸せになっちゃいけない」って言われたことがある(笑)。
あぁ〜、なんとなくわかります!うちの師匠も「ちょっと不幸なくらいが面白い」って言うんです。「宝くじが3億当たりました」なんて話、聞いても面白くないですもんね。
少し満ち足りていない人から出てくる言葉のほうが面白いんだよね~。決して、不幸になれってことではないけどね!ただ、落語家が幸せになりすぎてはいけないってこと。師匠の“落語に対する姿勢”って、本当に見習う部分が多いよね。
撮影協力/池尻セレクトハウス
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