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林家彦いちさん×春風亭昇々さん|【第3回】創作落語を見に行こう!気鋭の落語家がうむ「これからの落語」の新たな可能性

林家彦いちさんと春風亭昇々さん
  • 林家彦いち
    林家彦いち
    1989年、林家木久蔵(現・木久扇)師匠へ入門。2000年に若手落語家の登竜門と呼ばれる『NHK新人演芸大賞落語部門』で大賞を受賞。2002年に真打に昇進後も数々の賞を受賞。現在は数多くの落語を創作し、ひとり会「喋り倒し」や新たな試みを行う「彦いちラボ」開催つつ、全国各地で独演会を展開中。創作落語「熱血怪談部」(あかね書房)、「長島の満月」(小学館)は絵本化に。その名はアウトドア通としても知られており、国内外の山や川を制覇中。好きなおみそ汁の具材はなめこ。
  • 春風亭昇々
    春風亭昇々
    2007年、春風亭昇太師匠へ入門。2011年、二ツ目に昇進。アグレッシブでユーモア溢れる語り口で若い世代を中心に人気を集め、近年の落語ブームを牽引する若手落語家のひとり。2015年、2016年の『NHK新人落語大賞』では100人を超える参加者のなかから5名が残る決勝に勝ち進むなど、人気に裏打ちされる実力を兼ね備えている。また、落語のみならず「ポンキッキーズ」(BSフジ)ではメインMC、「ミライダネ」(テレビ東京)ではナレーションを務めるなど多岐に渡ってマルチに活躍中。好きなおみそ汁の具材はあおさ。
林家彦いち春風亭昇々

旬のあの人の“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。ゲストは落語界を席巻する、新進気鋭の人気落語家・林家彦いちさん春風亭昇々さん

意外にもアクティブな休日の過ごし方や貴重なプライベート事情が明らかになった前回の対談で、落語に親近感が湧いた!という方も多いのではないでしょうか?最終回の今回は、若い世代からも支持を集め、新たな落語ブームの火付け役であるお2人の落語にかける想いを教えてもらいました!ちょっと構えてしまいがちな「落語」。敷居は意外と低いかも!

ー前座の頃から積極的に新作落語を作っているお2人。新たな落語の可能性に挑戦し続ける姿勢にはどんな想いが込められているのでしょうか?

春風亭昇々

本来の落語は創作されるもの

「新作落語」を広める

(春風亭昇々さん)

ずっと「新作落語」をやってみたくて。落研に所属していたときは「古典落語」を中心にやっていたんですけど、僕は真面目ではなかったので(笑)。むしろ真面目にやっている人たちを少し小馬鹿にしているタイプでした。

<解説> 古典落語と創作落語
落語は大きく分けて、古典落語と創作(新作)落語の2種類。文字通り、古典は歴史の古い落語を指し、大正時代以降に作られたものを創作落語、または新作落語と呼ぶ。お2人は特に、自ら噺を作って喋る創作落語に力を入れていることで知られている。

どことなくシニカルというか、客観的に見られる存在って落語の世界に限らず必要だよ。そんな人がどんどん増えると落語はもっと楽しいと思うなあ。

師匠にそう言ってもらえるのはすごく嬉しいです。落研では、盲目的に一つの噺(はなし)を覚える習慣があって。でも正直、面倒くさいなと思うこともあったんです。すでにある何かを演じるよりも、自分で作ってみたい!という想いが強くなりました。

昭和の名人の書籍を作り続けている人がいるんだけど、その人も落語が大好きでいろんなものを聴くらしい。なかでも一番好きなのは新作落語だそうでね。落語を本当に好きな人こそ新作を好きになるのかもしれないね!

そもそも落語って「江戸の日常」を誰かが描いて作られたものじゃないですか。なので、作ることが当たり前だと思ってます。よく“古典落語と新作落語”って言われますが、僕は勝手に“古典落語と落語”だと言っているんですよ。

なるほどね。

ただ、地方に行くとやっぱり古典落語を求められることも多くて。落語=古典落語だと思っている方も多い。うちの師匠からも「今日は地方だから古典やれよ」って言われますし(笑)。矛盾しているようですけど、お客さんが古典落語を求めている場合は、それをやるべきだなと思ったりもします。

まずは、お客さんに楽しんでもらうことが一番ですからね~。落語を難しく考えないで、一度見にきてほしいですね!噺を聴いて面白い場合、その噺家は人間としても絶対面白いんです。

林家彦いち

落語がさらに多様性のある世界に

(林家彦いちさん)

登山家に、植村直己(うえむらなおみ)さんという方がいるでしょ?アマゾン川のいかだ下りで6000kmを冒険した時、山岳協会から文句を言われたらしい。「登山家が川を下るとは何事か!」って(笑)。ほかにも、現地で出会った先住民と言葉が通じないから、ラジオ体操をして仲良くなったり、信じられない話がたくさん出てくるんですよ。すごく面白いよね。つまり、大事なのは“何事にも本気であること”。それは落語家も同じでしょ。絵空事じゃなくて、落語でごはんを食べさせてもらっているから、そんな心意気を伝えていきたいね。

思い切りやりきるほうが、結果的にたくさんの方を喜ばせたり、笑わせたりする一番の近道になる気がします!理想としては、馬鹿ばかしいことを座布団の上でジタバタしながらやって、お客さんが誰も笑ってなくても、「よし!今日はやってやったぞ!!」って思えるくらいの精神力が欲しいです(笑)。

ははは!自分が面白いと思うものをやるのが一番良いし、それが自分の血肉になる。僕だって、昇々さん自身が本当に面白いと思っているものを聴きたいですからね~。新作落語の面白さって、「この人、こんなことを面白いと思ってるんだ」とか「こんなに一生懸命やってるよ。バカだなぁ」とか、そんな感じなんじゃないかな。

白鳥師匠、昇太師匠、喬太郎師匠と一緒にやっていたSWA(※1)も、全員がちょっとずつ違って、それぞれが思う“面白い”をみんなでアシストしてひとつものを創ってました。刺激的で幸せでした。落語界の“森”は、そんな多様性があるから楽しいんです。

※1  2003年 創作話芸の可能性を極めるべく立ち上げた集団「創作話芸アソシエーション」。メンバーは他 春風亭昇太さん、柳家喬太郎さん、三遊亭白鳥さんの四人

落語が山だとすると、頂上には師匠がいて、その下に弟子がいる。それぞれの山は一つしかないように思われがちですけど、いろんな山があったら面白い。音楽と一緒で、クラシックやヒップホップがあってもいい。もっと落語の世界が広がればいいなって。

「落語が好きなんですか?」って会話の入り口としてはいいけど、音楽のように「音楽が好きなんですか?」「ロックも好きなんですか?」って感覚が落語にはないのかも。そんな意味では、多様性がもっとあるといいのかもしれないね。

 

—これまでの枠に捉われない、今とこれからの落語。その知られざる世界に興味を持った方もきっと多いはず。新たな落語ブームの火付け役であるお2人の今後について聞いてみましょう!

林家彦いち

枠に捉われず“彦いちの落語”をやり続ける

(林家彦いちさん)

僕はとにかく、自分の落語の本数を増やしていくことですね。古典落語や創作落語という枠のなかでなく、“彦いちの落語” (※2)をやり続けていきたい。そのためには興味深いと思ったことを突き詰めていく。山登りはじめ、普段自分がやっていることは全て落語のためなんですよ。変な人たちともたくさん出会うけど(笑)、そんな経験もちゃんと落語にフィードバックする。色んな面白いことにアンテナを張って、常に好奇心を絶やさないことですね!

※2 彦いちさんは、初心者でも安心して楽しめる落語会『渋谷らくご』で、創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」を偶数月に開催!

春風亭昇々

常に新しいものを取り入れていきたい

(春風亭昇々さん)

僕も“昇々落語”を作ることは目標です。自分の言葉でしゃべって、自分なりの落語を作っていきたい。Youtubeの『アバンギャルド昇々(※3)』では動画をアップしたりして、常に新しいものを取り入れていきたい気持ちがあるので、どんどん挑戦したいです。

※3 昇々さんが出演するYoutubeチャンネル。らくごマンなどの個性豊かなキャラクターが話題に!

あとは、『NHK新人落語大賞』で大賞をとることですかね。これまでも2度出場しているので、もうネタがないんですけど(笑)。大賞をとる人は1度目でとるし、なかなか難しいですね。去年は決選投票があって、1票差で負けてしまったので…。まぁ~、悔しくてすごく泣きました。

1票は1票だけど、本当に大差はないわけ。でも、全部を否定された気持ちになっちゃうよね。僕も似たような経験ありますけど。

山登りと一緒で、大賞をとることは山頂まで登りきるのと同じ。そこで負けてしまうのは、最後の手が届きそうな所で崖から落ちるような感覚で。師匠にも嬉しい報告をしたかったです。

良い報告をする時のあの嬉しさって何なんでしょうね…。

落ちても報告はしなきゃいけないんですけどね(笑)。去年「またダメでした…。すみません」って師匠に連絡したら「こういうのは、審査員との相性だからなぁ」って。優しいんです。

昇太兄さんもそうだけど、落語の第一線でやっている人は、ちゃんと見ているから大丈夫。

そうですね、賞をとるためだけにやっているわけじゃないですしね。そういう意味では、大賞をとること自体が目標ではないんです(笑)。いつも通りに「ふざけてやる!」っていう気持ちですね。

わかるわかる。僕は新人落語大賞の意気込みを聞かれた時に「金のためですよ!」って言っていた時期もあったな。「別に賞のためにやってないし、賞金ないなら出ないよ?」とか、イキがってたな〜(笑)。

林家彦いちと春風亭昇々

師匠が大賞をとったのは2000年ですよね?それ以降16年間は新作落語が大賞を取っていないんですよ。

僕が大賞をとった時、“新作落語のパイオニア”として本当にお世話になった圓丈師匠(※4)に真っ先に電話したね。ここだけの話、一番に圓丈師匠に電話をしてから、うちの師匠に電話しましたから(笑)。

※4三遊亭 圓丈(さんゆうてい えんじょう)さん

新作派って、なんとなく仲間意識もありますよね。

そうね、圓丈師匠ともすごく特別な関係でしたね。新作落語で大賞をとれるのってほとんどない。お礼の電話をすると、その後に長いメールをもらったんです。たしか僕がおこがましく、「これからは先輩方に少しでも恩返しがしたい」って伝えたのかな。そしたら、「僕には恩返しはいりません。これからは君の下の人にやってあげなさい」って。

素敵ですね。師匠にしてもらったことは自分の下の人に返せばいい。直接的でなくても、師匠の背中から教わることって多いですね。

落語家にとって大事なのは、毎日着物を着るとか、高座に上がるとか、“やり続けること”。昔は、全てがうまくいかない時期があって、走ったりサンドバッグを叩くことで、スッキリしていたんです。でも、ある時「俺は何をやってるんだ。落語以外で満足してる場合じゃねーよ!!」と思ってやめました。

滑ってしまった時のストレス解消法は僕もよく聞かれるんですけど。他の趣味に没頭しても、結局は落語のことを考えてしまうんですよね。お客さんを楽しませることでしか取り戻せない。やっぱり落語の借りは落語で返さないとダメですね!

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ー彦いちさん、昇々さん、本日は楽しい対談ありがとうございました。最後にアマノフーズの「しじみのおみそ汁」&「とん汁」でいっぷくしてもらいました!

林家彦いちと春風亭昇々

「具材がまるごと入ってる!」「キャンプに持っていくのもいいよなぁ〜」など、アウトドア好きならではの感想をくれましたよ〜♪

ちなみに、しゃべるだけでなく身振りや表情を使う落語では、食べる仕草を行う時は“大げさにやる(彦いちさん)”“食べている姿を想像する(春風亭昇々)”など、それぞれ表現のコツがあるそう!

ー落語の世界は奥深いですね!これからもますます注目の「落語」。お2人の今後の活躍が楽しみです。またのご来店をお待ちしております。

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撮影協力/池尻セレクトハウス

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