対談 2018.01.29
編集者・都築響一さん×作家・戌井昭人さん| 【第2回】面白アイデアはどこから生まれる?!創作のヒントと秘訣を聞きました
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- 都築響一
- 1956年、東京都生まれ。『POPEYE』『BRUTUS』で現代美術や建築、デザインなどの記事を担当。自らカメラを手に、狭いながらも独創的な若者たちの部屋を撮影した『TOKYO STYLE』や、日本各地の奇妙な名所を探し歩いた『ROADSIDE JAPAN』で、既存メディアにはない視点で現代社会を切り取る。秘宝館やスナック、独居老人など、無名の超人たちに光を当て世界中のロードサイドを巡る取材を続行中。
- ROADSIDERS' weekly
- 都築響一Twitter | (@KyoichiT)
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- 戌井昭人
- 1971年東京都生まれ。小説家、劇作家。玉川大学文学部演劇専攻卒業。文学座研究所を退所後、1997年に劇団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ。2008年『鮒のためいき(新潮3月号掲載)』で小説家としてデビュー。2014年に『すっぽん心中』で川端康成文学賞を、2016年に『のろい男 俳優・亀岡拓次』で、第38回野間文芸新人賞を受賞。主な著書に『まずいスープ』『ぴんぞろ』『ひっ』『どろにやいと』などがある。
- 鉄割アルバトロスケット
- 戌井昭人Twitter | (@inuwari)
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けするお客さん対談。今回のテーマは、「人生の転機」。ゲストは、世界中の“ロードサイドを巡る取材”を続ける編集者・都築響一さんと、「鉄割アルバトロスケット」主宰、俳優や小説家としての顔も持つ戌井昭人さん。
現在の道に進んだきっかけをお届けした前編に続き、後編ではお2人に創作のアイデアや面白い企画を生み出す秘訣を教えてもらいました!
—それぞれの分野で、日々創作を続けるお2人。常に面白く、斬新なアイデアや企画はどうやって思いつくのでしょうか?
いろんな場所を歩きながら考える
(戌井昭人さん)
「鉄割アルバトロスケット」(以下、鉄割)の演目を考える時は、あまりじーっと煮詰めて考えることはしませんね。いろんな場所をプラプラしながら考えることが多いです。地方に行っても路地裏ばかり歩いてます。沖縄にコザ(※1)という街があるんですが、中心街から少し離れた路地裏を1人で歩いていたら、これがなかなか面白くて。
※1 沖縄市の中心市街地であるコザ十字路から胡屋地区、中の町地区まで広がる文化圏の愛称。
前に行ったことあるよ。ものすごい高級なステレオを導入したクラシックの喫茶店を見つけてさ。急に取材をしたことがあるんだけど、すごく面白かったな〜。
急に取材したんですか(笑)!
うん、急だね(笑)。ブログに載せたいから撮影していいか確認して。でも、こういう面白い場所こそ、突然見つかるんだよ。
たしかに。
ネット上にある情報って、すでに誰かが訪れて開拓されている場所じゃない。そういうところじゃなくて、何でもない路地裏とか商店街をブラブラ歩きながら自分の足で面白いネタを探すのが楽しい。じっと座っているだけじゃ出会いなんてないもの。
ブラブラしている時って、本当に意外な出会いがありますよね。以前、藤沢(神奈川)の路地裏で猫に餌をあげているおばちゃんと話したことがあったんです。夜にスナックをやっているって聞いたから行ってみたらすごく良かったんです。
そうそう、そういうの。いいねぇ。
あと、最近再訪した沖縄の安里も面白かったんですよ。昔、文学座にいた頃に訪れたことがあるんですけど、山羊料理屋に20年ぶりに行ってみたらまだお店も残っていて。中心部はすっかり栄えて変わった部分もたくさんあったけど、裏路地に変わらない景色が残っていて何だか安心しました。
いつもと違う場所に“発見”が
(都築響一さん)
わかるなぁ。僕も久しぶりに花巻(岩手)を歩いていたら、ずいぶん昔に見たスナックの看板が残っていて無性に嬉しかったのを覚えてる。
時間が経ってから行ってみると、「この場所前に通ったことある!」って懐かしい気持ちになりますよね。
馴染みある場所を再訪するのも発見があるけど、自分のテリトリーじゃない場所に行ってみると、違った発見があって面白いんだよね~。
都築さんは、色んな土地へ取材に行かれますもんね。
どこにいてもノートパソコンとWi-Fi環境さえあれば、原稿を書けちゃうから今は本当に便利だよね。『ROADSIDERS’ weekly(※2)』の半分以上は、地方のビジネスホテルで書いてるよ。
※2 都築さんが毎週水曜に発行している有料メールマガジン。
ホテルで執筆するのは効率が良いですね。早く外へ出かけたいし、「この時間までに終わらせるぞ!」ってスイッチが入りそう。地方へ行く時は、長期間かけて一気にまわるんですか?
昔は車にカメラや機材を積んで、1週間かけてまわっていたこともあったけどね。今は1泊して東京に戻ってくることも多いかなぁ。
—小説家としての顔を持つ戌井さん。作品のストーリーを考える際、実際に訪れた場所や出会った人にインスパイアされたことはありますか?
実際に出会った人が
『酔狂市街戦』のモデルに
(戌井昭人さん)
訪れた土地や人がモデルになること、ありますね。そういえば、『酔狂市街戦』(扶桑社)で、知人の男性の名前をそのまんま使って怒られたことがあったな…(笑)。
※3 戌井昭人さんが2016年に発表した短編集。
はは!それ大丈夫だったの?
えぇ。お詫びに相撲のマス席を予約して、一緒に観に行きました。
マス席で許してくれたんだ(笑)。
そうですね。せっかく席を予約したのにその男性がぎっくり腰になっちゃって、うまく座れないというハプニングはありましたけど(笑)。「こんなタイミングの悪さだから小説に描かれちゃうんだよ〜」って。
人もそうだけど、場所も影響していそうだよね?実際に住んでたからだと思うけど、作品には浅草がよく出てくる印象。
浅草には長いこと住んでましたからね〜。場所の影響はたしかにありますよ。あ、話が逸れちゃいますけど、都築さんと浅草で飲んだこともありますね。「トライバルビレッジ浅草」に行ってからの鶯谷の「よーかんちゃん」。あのコースは…最高でした。
「よーかんちゃん」は東京最強のスナックだもんな〜!
彫刻家の三沢厚彦さんとも一緒に行きましたよ。そういえばこの前、東京駅の近くで通りかかったお店の前に、三沢さんのあのライオンの彫刻が飾ってあって。「こんな所にも作品があるなんてすごい!」って感動したんですよね。
三沢君ね。彼には学生の頃「芝浦GOLD(※4)」の壁画を書いてもらったなぁ。いやー、すごいよね。
※4 都築さんが空間コンセプト・デザインを担当したクラブ。1995年に閉店。
都築さんの活動が誰かの“転機”になっていることって多いんじゃないでしょうか?学生時代に都築さんと出会って今一線で活躍している人、他にも知ってますよ。
どうかな〜。もし誰かに転機を与えられているようだったら、いいんだけどね。
— 都築さんの活動が誰かの人生の転機になっている、と話す戌井さん。自身の影響について、ご本人はどう感じているのでしょうか?
他人に左右されずに
自分にとっての大切なものを見つけてほしい
(都築響一さん)
自分の活動が誰かにいい影響を与えているのならもちろん嬉しいけど、僕としては、他人に影響はされても“左右”はされるべきじゃないと思うんだよね。自分にとって「いい」と思えるものを大切にするのが一番。それがたとえ、世間的にくだらないと見なされているようなものでもね。
例えば、本とかもさ。人に勧められたものより、自分が読みたいものを読むのが一番いい。もし「人前で読むのはちょっと恥ずかしいな」と思っちゃうものでも、思い入れのある大切な本なら他人の目を気にしてコソコソ読む必要なんてないし、ブックカバー外して電車の中で堂々と読めばいい。
ブックカバーを外せた瞬間に、一段階超えられるのかもしれませんね。いろんなものを吹っ切れるというか。
それに、そういう持ち主の思いがこもっているものって輝いて見えるんだよね。本に限らず、音楽とか服とかどんなものでも。
“モノ”の背景にある物語って、総じて面白いですよね!
そうなんだよ。僕が夏に出した『捨てられないTシャツ(※5)』(筑摩書房)っていう本で、70人が自分の捨てられないTシャツを紹介してるんだけど、別にどれもかっこいいとか欲しいとかは思わないわけ(笑)。でも、その1枚に込められた持ち主のエピソードを聞くと、何だかものすごく素敵なものに見えてくるんだよなぁ。
※5 さまざまな人にとっての「捨てられないTシャツ」を集め、その持ち主のエピソードを綴ったユニークな「Tシャツ・カタログ」。
— お2人の会話には、創作のヒントや面白いものとの出会いが随所に出てきます。そして、創作活動を肩肘張らずに楽しんでいる様子が垣間見えました。創作のヒントは、もしかしたらここが一番のポイントなのかも知れませんね!最後に、今後の活動について聞いてみました。
鉄割も小説もずっと変わらず続けていく
(戌井昭人さん)
これからもいろんな場所に行ってみたい。あとは、鉄割も小説も辞めないように(笑)、これまでと変わらず続けていくことですね。何かでっかいことを成し遂げてやろう!みたいな感じでは決してないんですけど、止まらずに進んでいきたいですね。
僕も、メルマガを1号でも長く続けていきたいな。今年で 6年目なんだよね。
メールマガジンも電子書籍も
現在進行形の新しい挑戦
(都築響一さん)
長いですね。続けるのは大変じゃないですか?
周りから「隔週にしておけ」って、散々言われてきたけどね(笑)。大変だけど、楽しいから全然ストレスにはならないよ。
楽しんで続けられるというのはいいですね~。
あと、最近自分たちで電子書籍も作り始めたんだよね。『TOKYO STYLE』が出版された25年以上も前のデータを、すべてスキャンし直してさ。
1993年に京都書院から出版された都築さんの写真集「TOKYO STYLE」の特製USBメモリ版。どんなに高価で精巧な印刷でも得ることができない高い解像度で、書籍版では掲載できなかった別カットも収録されているそう!
うわ〜!それは大変そう…。何枚くらいスキャンしたんですか!?
800枚以上かな。600MBあるから、指先でズームアップするとちゃんと細かいディテールもわかるんだよ。ほら、こんな感じ。
(最大の特徴は指先でズームアップできること。カセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名がかなりの確度で読み取れます!)
すごいな〜!これは何だろ…あ、山本リンダのDVD(笑)!
他人の部屋を覗き見しているような気分になるよね。動画や音声も一緒に入れられるから、印刷した紙の本とはまた全然違う楽しみ方ができるでしょ。
ですね!これ、ズームしてじっくり見るとかなり面白い。
—創作活動を長く続けているお2人の会話は、常にどこかに新鮮なのもがありますね。最後に、アマノフーズの「かに雑炊」でひと息どうぞ。
「1人暮らしの人にも便利だね。これ“団地の入り口”あたりに置いておいたら、一気になくなりそう!」(by都築響一さん)
「探検家の方とか、野外で活動する人にもぴったりですよね!」(by戌井昭人さん)」
ふとしたコメントにも、楽しい発想力が…。
都築さんの「TOKYO STYLE」を、戌井さんは今でも寝る前に読み込むほど影響を受けているそう。大判写真集として発売されてからすでに半世紀以上が経ち、今では電子書籍となってまたひと味違う楽しみ方ができるようになりました。「振り返れば、これを作った当時が僕の転機だったのかも(!?)」と都築さんが語る1冊。ぜひチェックしてみてくださいね。
本日は楽しい対談をありがとうございました。読者の皆さんにも、素敵な転機が訪れますように!
[第1回]人生の転機は、狙ってつくれない。2人のターニングポイントを振り返る
[第2回]面白アイデアはどこから生まれる?!創作のヒントと秘訣を聞きました
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