対談 2018.03.15
文筆家・甲斐みのりさん×小説家・山内マリコさん|【第1回】土地の魅力は「加点法」でキャッチを!地方めぐりがもっと楽しくなる秘訣とは?
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- 甲斐みのり
- 1976年、静岡県生まれ。旅、散歩、お菓子に手土産、クラシック建築やホテル、雑貨と暮らし…と、女性が憧れるモノやコトを題材に書籍や雑誌に幅広く執筆。昨年は、地元パンを特集した『マツコの知らない世界』に出演して話題に。近著は『地元パン手帖』(グラフィック社)、『京都おやつ旅』(監修/PHP研究所)など。和歌山・田辺市の観光ガイドブック『朝・昼・夕・夜 田辺めぐり』を手掛ける。
- 「Loule(ロル)」
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- 山内マリコ
- 1980年、富山県生まれ。2008年「16歳はセックスの齢」で女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。2012年に刊行した初の単行本『ここは退屈迎えに来て』は、オール富山ロケで2018年秋に映画化。ほかの著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『東京23話』『買い物とわたし』などがある。
- 「メガネと放蕩娘」
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。今回の対談テーマは、「地方の魅力」について。
ゲストは、全国各地を旅するなかで見つけたモノやコトを題材に取り上げ、独自の世界観を生み出す文筆家・甲斐みのりさんと、地元・富山を舞台に軽快なタッチで描いた最新作『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)が話題沸騰中の小説家・山内マリコさん。そんなお2人の「地方」を訪れる時に大切にしていることや取材の裏話を全2回でお届けします。
—「地方」をテーマに書く仕事もされているお2人。各地を訪れる際に大切にしていることはありますか?
いいお店と出会う秘訣は
「加点法」
(甲斐みのりさん)
食道楽のエッセイや随筆がもともと好きで、池波正太郎先生の本を参考にして大阪・京都・金沢を巡ったりしていました。何十年も前の作品なのに、今でも老舗の名店として営業しているお店がほとんどなんですよ。長く続くお店を嗅ぎ分ける能力がすごいなって。
当時はGoogleマップもない時代だったから、道に迷ったりすることもあって。でも、そういう時ほど意外なお店を発見したり、怪しげなお店にときめいたりもするんですよね(笑)。
怪しげなお店に入るのは、ハードルが高くないですか?
勇気が要るんですよね。入ろうかどうしようか迷いながら店前でウロウロしていると、店員さんと目が合って焦ったりして!でも、どうしても諦めきれなくて30分後に戻ってきたり。1人で葛藤しながら…。
そういう積み重ねがあるからこそ、甲斐さんにしか見つけられないお店と出会えるのかも。
素敵なお店と出会うには、「加点法」がいいと思うんですね。
加点法、ですか?
そう。インターネットの口コミやSNSには「ここが残念でした」とか、マイナスな情報も多いじゃないですか。でも、よくも悪くも個性的な部分があるからこそ、記憶や印象に残ったりもするんです。減点法ではなくて、加点法でその土地やお店を巡ると見え方も変わると思います。
勉強になりますね〜。減点法でいくか加点法でいくかで、生き方まで変わってきそう。地方にはどのくらい行かれているんですか?
年間30日以上は。
旅人だ!今年に入ってからも結構行かれていますもんね。
1月は中国・岡山・和歌山・愛知に行きました。地方に行くと歩き回るので、その反動で東京にいる時は引きこもりがちですよ。マリコさんは?
ラジオの仕事で月1回は富山に帰っています。でも、地方イコール地元になってしまって、富山以外だと、温泉地にばかり行きがち(笑)。今年は行ったことのない県にも行きたくて、てはじめに四国旅行を計画してます。そういえば、甲斐さんは富山にも行かれたことはありますか?
祖父が富山出身で、お正月にはよく富山から食材が届きました。「昆布巻きかまぼこ」が大好きでした。富山は昆布がおいしいですよね。
昆布で刺身を締める「昆布締め」が名物なんですよ。『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)の主人公のモデルになっている姉妹のおうちも、実は『竹嶋昆布専門店』という昆布屋さんなんです。とろろ昆布のおにぎりとか、昆布を使った郷土料理は多いです。
—地方に関わる仕事をされるなかで、新しい発見はありましたか?
今回マリコさんが地方商店街の物語を書かれているように、私も観光協会や自治体との仕事が楽しくて。5年前から和歌山県田辺市の観光ガイドブックを作っているんです。『暮らすように旅する田辺』『朝・昼・夕・夜 田辺めぐり』の2冊を作っているのですが、昔から街に根付く場所やお店を中心に紹介しています。
甲斐みのりさんが監修したガイドブック『朝・昼・夕・夜 田辺めぐり』。甲斐さんならではの視点で切り取った田辺の魅力がたくさん詰まった1冊!表紙の写真は朝の紀伊田辺駅、裏表紙の写真は、営業時間が夜だけの喫茶店「ビートル」のホットケーキ。
地元の人と一緒に土地を巡るんですけど、魅力的なモノがたくさんあっても、その場所に住んでいる人はもう慣れてしまって。私のような外部の人間からすれば、何もかも新鮮で面白い。
甲斐さんはその土地の隠れた魅力をかわいく引き出すのが本当に上手!日本全国のガイドブックを作ってもらえたら、全ての地域が輝くと思います。これは『メガネと放蕩娘』にも書いたあるある話ですが、地方都市って、自治体ごとにパンフレット作りがちなんですよね。しかもけっこう、微妙なやつが多くて…。
もともと地方のパンフレットを集めるのが好きで、その土地を訪れると毎回持って帰るんです。なかには画像の解像度が低かったり、ここをこうしたら良さが伝わるんじゃないかと、改善点を考えたり。案内所に置いてあるパンフレットは基本的に無料だから、一度読んだら捨てられてしまうこともある。
だから自分でガイドブックを作るなら、旅の思い出として残るようなものを作りたいなって。この田辺市のガイドブックを作った時は、本棚に飾ってくれたり、紹介しているお店を巡ってくれる人がいたり。一緒に作った担当の方が「歩いていたら、ガイドブックを持っている人がいましたよ!」と連絡をくださったり。そういうのを聞くとすごく嬉しいです。
地元への恩返しになるように。
自分の街と重ね合わせて読んでもらいたい
(山内マリコさん)
素敵〜。そうやって自分の書いたものや作ったものがきっかけで、その場所を魅力的に感じてくれる人が増えると嬉しくなりますね。今回書いた『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)は、富山での売れ行きがとても良いみたいで。この本が、少しでも刺激になったらいいなぁと。新しいお店がオープンしたり、商店街が活気づいたりしないかなぁと、夢を見ています。
富山県民の課題図書にするべき!私も地方に行くと、その土地をモデルにしてる本や映画を観たくなるんです。実際にその場所を訪れて、作品を読むのがすごく好きなので、実在する商店街に行ってみるのも楽しそうだし、いろんな可能性がありますよね。
—山内さんの新作『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)の舞台は、地元の富山。地方商店街の活性化がテーマになっていますよね。
今回の作品では、高校生の頃によく遊んでいた『中央通商店街』『総曲輪(そうがわ)通り商店街』という2つの商店街をイメージして書いています。当時は「コム・デ・ギャルソン」や「ヴィヴィアン・ウエストウッド」とか、若者から人気のブランドを取り扱うセレクトショップがあったり、わくわくする街だった。学生時代の思い出の場所なんです。
でも、2000年を過ぎるとだんだん空き店舗が増えてしまって。そのころ、チャレンジショップ(将来お店を持ちたい若者が期間限定で出店できる)という複合テナント形式を発案・運営している姉妹がいたんです。わたしも実際にそこで買い物をした思い出があって。商店街の活性化をテーマにしようと考えたとき、彼女たちをモデルに、前向きな話を書きたいと思いました。
地元を舞台にした物語を書きたい、という気持ちは前からあったんですか?
地方をテーマに書こうと思ったのは、新人賞を取ってからですね。それまでは女の子同士の友情を描きたいって気持ちが強くて。受賞後に、自分は何を書くべきなのかを掘り下げて。当たり前すぎて気がつかなかったけど、地方に住む女性の気持ちっていうのは、まだあんまり書かれていない。これは自分が書くべきなんじゃないかと思いました。
地方を描くとき、地名は一切出さないんです。街の描写だけで、どの地方都市に住んでいる人にも、自分の街と重ね合わせて読んでもらえる。地名をがっつり入れて地元のことを描くのは、もっと年を取ってからかなぁと思います。
甲斐さんに富山のガイドブックを作ってほしいなぁ。写真も素敵…!視覚で興味をそそられます。
写真って、場合によってはマイナスな魔法にもなりうるんですよね。 “廃れている街”というワードも、写真でプラスに伝えるのは難しいけど、言葉で読むと廃れた街が輝かしく感じられることもある。作家さんは自分で伝えたいことを言葉で表現できるから、すごいなぁと思います。
そんな風に言ってもらえると嬉しいです。
—「地方」にフォーカスした作品の取材を行う際に、大変だったことはありますか?
最新作のテーマは「地域活性化」
(山内マリコさん)
その土地の良いことだけを書きたいのですが、さじ加減が難しい。やっぱり、地方が抱えている課題もたくさんあるし、ダメな部分も目についちゃう。今回の取材を通して、普段はなかなか出会えない人と深い話ができたのが、何よりの収穫でした。もともと、取材自体はすごく苦手なんですけどね。
私も取材苦手です…。
嘘だ〜(笑)!甲斐さんは、よくご自身で取材をされているから得意なイメージがありました。
いや、本当に苦手で!取材というか、人との交流が苦手なのかも(笑)。
意外すぎますね〜。
取材に限らずプライベートの入り口がすごく狭いので、ちょっと苦手意識があるのかも。でもいい大人なので、人見知りと言うのは意識的にやめているんです。
甲斐さんの本作りは、苦手な取材がたくさん必要だと思うんですけど、どうやって乗り越えてるんでしょう?
『地元パン手帖』(グラフィック社)を制作した時は、取材というよりも“研究”に近い感覚でしたね。
研究!なんとなくわかる気がします。
取材というより、研究に近い感覚
(甲斐みのりさん)
民族学の研究みたいなんですよね。いろんな街に行って、自分でお金を出して買って、食べて、記録して。それを10年近く続けて、本を出す時に事実関係を一気に確認する感じです。
へぇ〜!長年の地道な研究があった上で、最後、論文にまとめる感じだ(笑)。膨大な時間と労力がかかってる。並大抵のことじゃないですよ。
自分が調べないと、この文化を伝える人がいなくなるかも…という小さな義務感もあって。結構、孤独な作業だったりもするんですけどね。もし他に語ってくださる方がいたら、私は読むほうにまわりたいです。
そういうお話を聞くと、見え方がまた違って面白いですね!
撮影協力/6次元
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