読み物 2018.04.10
【第2回】アイドルおたく、秘伝のレシピ。
アマノ食堂をご覧の皆さま、こんにちは。
バラエティ番組で時折「夫が働いてない」といじられがちな犬山紙子の夫、劔樹人と申します。
この場をお借りして言うのもどうかと思うのですが、割と働いてますよ!ずっと家にいるというだけ!(家事育児と在宅仕事)
とはいえ私を知る人からしたら、何の仕事をしているのか、何が本業なのかイマイチよくわからないような人生を送ってきたのは事実であるかもしれません。
音楽をやったり、マンガを描いたり、コラムを書いたり、バンドのマネージャーをしたり、色々なことを同時にやることで、ようやく生活できるだけの収入を得ていたのです。
その中で、たまに職業みたいに「アイドルオタク」と紹介されることもありますが、それだけは仕事とは程遠いものです。
逆にお金を払っているものですからね。それも相当の額です。でもまあ、自分を紹介するアイデンティティとしては決して間違ってはいないのですが。
ただ決して、「アイドルオタク」ではないのです。正直アイドル自体にさほど興味があるわけではなくて、私が好きなのはモーニング娘。などが所属するハロー!プロジェクトだけ。
※興味のない方からすればどう違うのかもわからないかもしれませんが、そこだけは譲れないタカ派保守本流のハロプロファンなのです。
近年、ハロプロは他所のメジャーなアイドルグループと違って、テレビにそんなに出ていません。その代わり毎週3本、自前のネット番組をYouTubeで公開していて、その中にメンバーがプロから料理を教わるコーナーがあります。
メンバーが作って食べたものを再現できるなんて、オタク主夫としてはたまらないコンテンツです。
しかも、そこで料理を教えていたのが、麻布十番にある『京寿々(きょうすず)』という和食屋の料理長である黒木二郎さんという方だったんですが、この人がまたなんともいえないいいキャラでファンたちから人気があったんですよ。
繊細な和食の料理人であるはずなのに、分量は大体ざっくり。「まあこんくらいでいいでしょ」「適当でいいんだこんなもんは」ばっかりで、全然正確なレシピが出てこないっていう。料理番組のキャスティングとしては完全に失敗です!
でも、「料理は失敗しても、楽しけりゃいいんですよ」ということをよくおっしゃっていて、その姿勢にハッとさせられることもありました。
家事の中でも1日3回もしないといけない料理は、大さじ小さじがどうとか、グラムがどうとか細かいこと気にせずなるべく楽しくやりたいじゃないですか。
わが家ではそんな黒木さんの適当なレシピを色々参考にしてきたんですが、その中でもよくリピートするのが「キャベツと塩昆布のサラダ」。
これは実際に『京寿々』でも提供しているメニューで、手軽でおいしいんです。
キャベツを適当な大きさに切ったら、タッパーに入れて電子レンジで3分ほど加熱します。これを固く絞って水気を切る。黒木さん曰く、「親の仇かってくらい」しっかり絞ります。
そこに塩昆布、鰹節、ドレッシングを和えて完成です。めちゃくちゃ簡単です。
でも番組の中で「ドレッシング」としか説明されていなかったドレッシングって何なの? 雰囲気的に店の自家製っぽかったんですが、ドレッシングにも色々ありますからね。
さすがに適当すぎて正解がわからなかったので、僕は実際に『京寿々』で食べて検証してきたんです。醤油ドレッシングっぽいけど、ごま油の香りがする。印象的にこのごま油がけっこう大事な気がしたんですね。
というわけで、この場合のドレッシングは、市販のよくある和風醤油ドレッシングに少しごま油を加えるとそれっぽい味になります。番組を観ただけでは絶対再現できないドレッシングの秘密はこれだ! 間違ってもオレガノとハーブのドレッシングとか、マンゴーチャツネのドレッシングとかそんな洒落たもんをかけないように!
キャベツがあればさっとこれを作って出す。
わが家の食卓では、もう一品ほしいときに重宝しています。
まだ奥歯がなくて繊維質のキャベツを噛みちぎれない娘には、キャベツをよく煮たスープを。
感想は、「わんわ!」とのことです。
(スプーンでボタボタこぼしてましたがたぶん食べられました)
劔樹人(漫画家・ミュージシャン)
[PROFILE]
男の墓場プロ所属。「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。著書に「あの頃。〜男子かしまし物語〜」(イースト・プレス)、「高校生のブルース」(太田出版)、「今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました」(双葉社)。「小説推理」、「みんなのごはん」、「MEETIA」などで連載中。
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この料理はわが家で結構頻繁に登場するメニューです。
キャベツの水分、昆布の塩分、ごま油の香ばしさと、永遠に食べられる系と言いますか。万人受けするおいしさかと思います。
で、これはハロオタの友人が遊びにくると振舞われるメニューでもあり、その度つるちゃんが「くろっきの塩昆布キャベツ!」と満面の笑みで出しているのを見かけます(黒木さんの愛称がくろっき)。
オタ達もくろっきのエピソードを早口で語りながら「おいしい」「京寿々の味」と言いながら食べるという。このメニューは自分で食べるより、私に食べさせるよりも何よりもオタたちに振る舞う時が一番嬉しそうです。
でもその気持ち、わかるのです。そもそも何かにハマれる喜び、ハマってるジャンルについて語れる友人がいる喜び、その友人を自分の創作物で喜ばせる喜び……。
幸いハロプロに関して私にもそういう友人はいますが、以前私が「ワールドトリガー」という漫画にハマった時(とにかく頭脳戦がおもしろい)、熱烈に考察を語れる友人が欲しいと願い、友人に全巻買って送りつけるとかやってましたから……。あの喜びは何ものにも変えがたいでしょう。
わが家は、ぱいぱいでか美ちゃんをはじめ、結構な頻度でオタたちが遊びに来て一緒にごはんをよく食べるのですが、それもつるちゃんが作り上げたわが家の食卓。みんなが推しへの愛を代わる代わる自由に語り尽くし、DVDを観始め、踊り出す……。
ちなみにハロプロ、娘もノリノリです。
みんなが踊り出すと一緒に踊り、みんなが曲間に娘の名前をコールしたりケチャ(アイドルにペンライトや手を振って、気持ちを捧げるオタ芸の1つ)をしてくれて。大人になってもアホで楽しそうだな、くらいに思ってくれたら御の字です。
犬山紙子(イラストエッセイスト)
[PROFILE]
大阪府生まれ。ニート時代に書いたブログを書籍化した『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。現在はイラスト・エッセイストとして多くの雑誌で執筆。テレビ、ラジオにも出演している。2017年1月に女児を出産。近著にさまざまな生き方の女性たちにインタビューし、自らの妊娠、出産も描いた新刊『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)
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