読み物 2018.07.17
【第5回】直近の話題レシピ。
アマノ食堂をご覧の皆さま、こんにちは。
劔樹人と申します。
日頃はバンド活動とマンガの執筆をしながら、主夫活動に勤しんでいます。
先月は泊りがけで地方へライブに行くことが2度ありました。娘が生まれてからは泊まりになる遠方のライブはほとんどやってこなかったのですが、またぼちぼちそういうのもやっていけたらいいかな、なんて思っています。
さて、今回は私がこの人生において最もやりがいを感じる料理「カレー」でも作ろうと思い様々なルーやスパイスを用意していたのですが、ちょうどその直前にうちの母がすじ肉を持って田舎からやってきてくれて、カレーを大量に作るという不測の事態が起きました。
ちょっと前に、音楽界きってのカレーの達人として有名なホフディランの小宮山雄飛さんから、「カレーに入れる玉ねぎは長い時間炒めれば炒めるほどいい、という定説が、最近どうもそうではないらしい流れになってる」という話を聞いたこともあり、完全にカレー原稿を書く頭になっていたのですが。
正直「ちょっとこれ、自分が作ったことにしようかな…」という悪い考えも頭をよぎったのですが、さすがにちょっとだけ良心が勝りました。
じゃあコラムどうしようかな?という時にふと思い浮かびました!そういえば最近、ネットで話題になってて「これ作ってみよう」と思った料理があったなと。
それは、「とうもろこしの炊き込みご飯」。
前回に引き続きまた炊き込みご飯かよという感じなのですが、前回も書いた通りうちは夫婦で味の濃い炭水化物が大好きで、「いぬつる家の食卓」とはそういう食卓なのです。
今回の炊き込みご飯は、漫画家のおかざき真里さんが最近SNSで紹介して話題になったものです。私もそれで知りました。
作り方を簡単に説明すると、とうもろこしの実をそぎ落とし、芯をご飯と一緒に炊く。その間にバター醤油でとうもろこしの実を香ばしく炒め、炊き上がったご飯と混ぜる、という感じ。
すごく簡単だし、また具は米と一緒に炊かないという例のニュータイプなんですよ。ネットを調べてみると、一緒に炊く旧式のバーションやもっと調味料を使う派生型のレシピもたくさんあって、わりと昔から多くの人に支持されている料理のようです。
その夜は妻が泊りがけの出張だったので、娘を寝かしてから調理開始。
翌朝、10:30頃に帰ってきて、腹が空いたという妻に軽く1杯だしてみました。
しばらく前にうちで友人のおっさんが「背徳の味」とか言いながらバター醤油ご飯をモリモリ食べていたことがあったのですが、そもそも味がバター醤油って、グルメ的には卑怯というか反則というか、素材とか料理の腕とかに関係なく、そんなのおいしくないわけがないでしょう?みたいな所があると思うのです。
そんなことを思っていると、妻からまさかのひとことが。
「これ…たまごかけご飯にしてもいい?」
バターに醤油に生卵とは!
なんて悪いことを考えるんでしょうか。
早朝から仕事をして腹を空かせながら新幹線で帰ってきた人間は、ここまで欲望に忠実なんですね。
卵黄を落としました。
「ウヒョ〜うめえ〜」
生卵はありませんが、娘には薄い味付けのほうを。
妻と同じテンションで食べました。
感想は、「ピョ!ピョ!」とのことです。
(絶望的にボロボロまき散らしたので、うちでは永遠に靴下にご飯つぶがこびりつきます)
***
幸せな匂い。お腹が減ってパン屋の前を通ったときのふんわり甘い炭水化物の香り、忙しい時にわざわざ時間を作って淹れたコーヒーの香り、ドーピング的に鼻に送り込まれる鰻屋の香ばしい甘い香り、黄昏時寂しい気持ちで帰路を急ぐ時の漂う人の家の夕飯の匂い。
朝の3時半に起きて名古屋の番組に出演し、そのまま新幹線で帰ってクタクタの私には、家の扉を開けた時にポワッとバターの香りが広がるのは天国でした。
もう、とうもろこしの炊き込みご飯を持ったまま布団にダイブしたい。寝ると食べるを一緒にできる体が欲しい。
まあ、できないので寝るよりもこの幸せなバターの香りをまずは楽しむことにしました。
口に運ぶとバターの中でとうもろこしの粒たちが香ばしさを持っていい仕事してます。思ったよりも味がしつこくなく、まさに香りを食べる感じ。
「一生食べられるやつや」と思いながら最後は卵を落としてフィニッシュ。この幸せな気持ちのまま寝る、これ以上の極楽はないのでは……。
つるちゃんがいると家の匂いまで癒しに変わるもんだと、つるの「どう?」という犬みたいな顔を見ながら思ったのでした。
劔樹人(漫画家・ミュージシャン)
[PROFILE]
男の墓場プロ所属。「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。著書に「あの頃。〜男子かしまし物語〜」(イースト・プレス)、「高校生のブルース」(太田出版)、「今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました」(双葉社)。「小説推理」、「みんなのごはん」、「MEETIA」などで連載中。
犬山紙子(イラストエッセイスト)
[PROFILE]
大阪府生まれ。ニート時代に書いたブログを書籍化した『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。現在はイラスト・エッセイストとして多くの雑誌で執筆。テレビ、ラジオにも出演している。2017年1月に女児を出産。近著にさまざまな生き方の女性たちにインタビューし、自らの妊娠、出産も描いた新刊『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)
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