読み物 2018.09.28
【第39回】「道」ではなく「快楽」を極める!中国茶会の悦楽
味噌汁飲んでますか?発酵デザイナーの小倉ヒラクです。
前回もお酒の話だったように、酒の文化を愛してやまないヒラクにはひとつ心配があります。
「ヒラク君、身体がもう限界なので金輪際お酒は飲まないように」
とドクターストップがかかってしまったらどうしよう…。
日本酒もワインもビールもウィスキーも焼酎もジンも紹興酒も飲めなくなってしまったらどうしよう〜!?
とパニクりそうになった時に、
「いや、僕にはまだお茶がある!」
と心を落ち着かせるようにしています。
そう。お茶はお酒に負けない最強にエンタメな嗜好品。奥深さをエンドレス愛でられる沼なのであるよ…!
食文化の洗練はアベレージラインで決まる
突然ですが、文化の洗練度のモノサシって何でしょうか?
大学で文化人類学やったり20代の頃にデザインの仕事していた影響で、僕は何を見るにつけ「文化としての質」というものを考えてしまう。
食でもいいし、ファッションでもいいし、文学でもいい。
その国なり民族なりの「文化の質」。それは何を基準に見るのか?
答えは、台湾の駅ナカにある喫茶店にあるんだよ。
台湾のローカル駅に併設している、没個性かつアノニマスな喫茶店orお茶スタンドで目についた中国茶を頼んでごらん。むちゃくちゃ美味しいんだよ。たまに日本で出くわす、電車のホームにあるいわゆるよくある立ちそば屋さんが実はすごくこだわりの名店だった…!みたいなパターンではなく、どこのお店行っても美味しい。
お化粧バッチリの女子学生が、スマホ片手に飲んでるのはスタバのカフェラテじゃなくてお茶スタンドでゲットした薬草茶ドリンク!
地元で評判のお茶屋に行けば、ちょっとしたホテルのランチビュッフェくらいの値段で至高の飲茶体験をすることができる。
これがお茶における台湾クオリティ。
もうちょい普遍的に言うならば、アベレージラインの高さが文化の質を保証するということだ。適当に入った店、あるいはスーパーで普通に売っているもののレベルがすでに高い。なので、ちゃんとした店に行くとものすごいレベルのものが出てくる。さらに上を目指すならヴィンテージワインもびっくりの超高級茶だってある。
ボトムから文化のレベルが底上げされまくっているんだね。
ちなみにかつて僕がフランスに住んでいた時代のこと。
アパートに洗濯スペースがなかったので、よく洗い物を近所のクリーニング屋さんに出していました。で、そのクリーニング屋さんはなぜかパン屋を併設していて、受付の合間によくバゲットを食べていました。
兼業パン屋だからあんまり期待できないレベルだろう…と思いきやけっこう美味しいんだよ。しかもフルサイズのバゲットまるまる1本で100円弱というとんでもないコスパ。お金がなくなったらとりあえずここのバゲットをかじれば飢えはしのげる…!
そんな感じで、例えば台湾のお茶やフランスのパンは街場のアベレージラインがめちゃ高く、高級店や専門店に行けばすでにハイレベルな標準ラインをさらに上回ってくる。
日本でも確かに美味しいお茶やパンも食べられる。しかし適当に入ったお店ではゲットできない。雑誌で特集されるようなこだわりのお店に行って、それなりの値段を払わないとレベルの高いものは手に入らない。この状態だとまだそのプロダクトは「根付く途中の文化」だ。
「じゃあ日本でバッチリ根付いているプロダクトって何なのさ?」
そうね。例えばラーメンを考えてごらんよ。
どの街角にもいい感じのラーメン屋があって、適当に入ってもみんなそこそこ美味い。チェーン系のお店もちゃんとしている。3軒に1軒くらいはかなり満足度の高い工夫を凝らしたメニューに遭遇できる。地元の人が足繁く通う名店に行けば、最高すぎる味を堪能できる。しかもどんなに美味しくても1000円もしない。だからみんな日常的に食べる。そうすると食べる側のリテラシーが上がり、つくる側の美意識も洗練されていく。
これが文化の質。コミュニケーション量を増やすことによって、受け手と作り手のこだわりスパイラルを発生させていくんだね。
中国茶会の悦楽
ということで本題のお茶の話。
台湾のお茶は美味しくて、何より楽しい。
(中国本土のお茶文化も当然スゴいのだが、広大すぎて生半可なコメントができない)
お茶屋さんに行くと、日本酒バーのボトルリストのごとく、様々なバリエーションのメニューを自由にセレクトすることができる。
日本のお茶でいうと、お茶=緑茶なのだが、中国のお茶において緑茶は数多あるカテゴリーのひとつでしかない。
茶葉を熟成させずにフレッシュなままで飲む緑茶、茶葉を揉むプロセスを経ずに生に近い味わいを楽しむ白茶、茶葉をやや熟成させて香りと味わいをいいとこどりする青茶、茶葉をしっかり熟成させて芳しさを楽しむ紅茶、微生物による熟成を経てコクのある風味が醸成される黒茶。
チャノキの茶葉からつくられるお茶だけでこれだけのバリエーションがあり、さらにジャスミンや蓮のような花の葉でつくる花茶や、野草や漢方の植物でつくる薬草茶のようなカテゴリーもある。さらには穀物や海藻、昆虫(セミの殻とか)を煮出してつくるお茶までありとあらゆるお茶が存在し、だんだんお茶の概念がゲシュタルト崩壊してきそうだぜ…!
こういう色んなカテゴリーのお茶をどんどんテイスティングしまくるわけさ。そして出てくる単位がカップじゃなくてポットなので、複数人でシェアしながら飲んでいくのが合理的かつ楽しいんだね。
なので、台湾(中国)ではよく友人や親族が集ってのお茶会が開かれる。みんなでお気に入りのお茶を持ち寄って、順々にレコードかけてDJしていくみたいにお茶をワイワイテイスティングしていくんだね。
僕も幸運なことにこういうお茶会に参加する機会があったのだけど、とにかく気軽でハードルが低い。日本でお茶会というと、茶室でビシッとしつらえしてお作法バッチリで臨まないと恥ずかしい!緊張する!というセレモニースタイルを想像しますが、中国茶はカジュアル&フリースタイル。お湯を流しっぱなしにして茶葉の味が薄い最初の1〜2杯は遠慮なく捨て、茶器もそのへんによくある安価なもので構わない。「最近どう?いいことあった?」みたいな世間話をわあわあ話しながらCJ(お茶ジョッキー)を楽しんでいく。
「なんだよ…お茶ってめちゃ楽しいじゃねぇか…!」
と中国茶のエンタメ度の高さにすっかり感激してしまったんだよねえ。
「道」ではなく「快楽」を極める!
台湾にしても中国本土にしても、その懐の深さは文化をすぐ「道」にしないで「快楽」を大事にするところだと僕は思っていてだな。
ほら。「美味しい!」という体験に必ずしも知識とか作法が必要なわけじゃないじゃん。しかも味覚は個人の好みに左右される要素が強いので、究極どんなゲテモノでも安物でも食べるその人が美味いと思えばそれが正しい。つまり「個々が感じる快楽」が食体験の本質であるとも言える。
前述の台湾(中国)スタイルお茶会は、参加者がそれぞれの快楽を持ち寄ってシェアすることにより、コミュニティ単位での快楽のバリエーションを増やしていくという「貪欲に快楽を追い求める姿勢」がめちゃ楽しい。その時の暗黙のルールとして知識や教養の絶対化をしないのも素敵だ。
「個々の快楽を追い求める」
「追い求めた快楽をコミュニティでシェアする」
というスパイラルが文化のアベレージラインを底上げし、駅ナカから高級店まで色んなレイヤーの快楽が味わえる環境が生まれる。
これこそが食文化の真髄。みんな、快楽追い求めてこうぜ〜!!
それではごきげんよう。
【追記1】台湾を代表するカテゴリーが「青茶」。いわゆる烏龍茶です。山の急斜面で取れた高級茶葉でつくる高山茶、独特の香りを強調した凍頂烏龍茶、虫に喰われた茶葉を使うことでフルーツのような風味をつくる東方美人茶などなど、台湾は烏龍茶天国!あと微生物発酵を経た黒茶や薬草茶の文化も盛んです。このあたりのお茶事情はまた別の回で詳しく書きたいぜ。
【追記2】ちなみに台湾にも様式美バリバリのお茶会があり、カジュアルスタイルだけでない文化の奥行きがあります。
【追記3】様々な製法のお茶があるということは、そのカテゴリーに見合ったお茶の淹れ方があるということ。フリースタイルに見えつつも、お茶を淹れるリテラシーはけっこう求められたりするよ。
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