読み物 2019.01.30
【第43回】発酵まで「おもろい」! 大阪の謎の漬物を探せ!
味噌汁、飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。
2019年最初の連載更新。みなさま、今年もどうぞよろしくお願いします。
最近僕、大阪で仕事したり遊んだりすることが多くなりました。食べ物がおいしかったり、街角散歩が楽しいのもあるんですが、とにかく人が面白い(大阪的に言うと「おもろい」ですね)。
東京育ちの僕からすると、大阪の人たちの持っている独特のコミュニケーションのテンポ、すぐに人の懐に入ってしまう距離感、冗談に冗談を重ねていく笑いへのリテラシーの高さ。
こういうのが複合して発生する「おもろいフォース©︎江弘毅さん」の達人たちと遊んでもらえるのが何よりの楽しみなわけで。
で、ですね。
僕の友人のなかでも屈指の「おもろいフォース」の使い手である『スタンダードブックストア』の中川おじさんと去年の秋頃に「守口漬け」という幻のローカル漬物を探しに行きました。
ちなみに前にも中川おじさんが登場した過去記事はこちら。
▶【第14回】日本酒に貴賎なし!磯の食堂でおじさんたちがウニ味噌と熱燗を囲む幸せを語ろうか。
NHKの『ごごナマ』でも放映された珍道中旅の裏話がめちゃ面白いので、この連載でみなさまに公開してしまおうではないか…!
幻の守口漬けを探せ!
大阪の中心からほど近いベッドタウン、守口市にかつて「守口漬け」というローカル漬物がありました。淀川の河川敷でとれる細長い大根を酒粕漬けにした素朴な郷土食だったそうです。
ある日、秀吉公が守口村(当時)を通りかかって一服した時に、村人に何かお茶受けを持ってくるように命じると、「こんなものでよければ…」と村人が差し出したのがその大根の漬物。
素朴な風味に感心した秀吉公が「これはおいしい漬物じゃ。これを守口漬けと名付けよう」と告げてから、村の名物になったとさ…というのが守口漬けの誕生ストーリー。
そして時代は下り、寒村だった守口市は急速な近代化を遂げ、田畑のほとんどないニュータウンへと姿を変え、守口漬けも忘れられていきました。
ところが! 守口漬けのレシピ自体はなぜか愛知や岐阜に渡り、東海地方の郷土料理になってひっそりとサバイブしていたんですね。
なんと長いものは2m近くに育つ守口大根のプランター
そして 21世紀に入り、守口市の農政課や農協、お母さんクラブ達が「なにわの伝統野菜」として守口漬けの原料である細長い守口大根に注目。その種を復活させる活動を始めました。
「どうやら守口市に謎の漬物があるらしい…」
という風の噂程度の情報をもとに調査を開始した、僕ヒラクと中川おじさん(もちろんアポなし)。
近所の公民館にいたお母さんたちに「守口大根っていう細長い大根探してるんだけど…」と訪ねてたどり着いたのが近所の農協。そこの駐車場に手作りのプランターを置いて、そこで守口大根を作っていたのでした。
めちゃくちゃひょろ長いゴボウのようなカタチのこの守口大根。種を復活させるプロジェクトのご意見番であるおじちゃんいわく「辛くて苦くて正直生では食べられん」とのこと。
つまり…あんまり、おいしくない!
「なるほど。だから漬物にする必要があったわけなんですね! 漬物は試してみました?」
と聞いてみたらば、
「いやそれが東海地方のレシピ教えてもらったんだけど、難しくてなかなか成功しないんだよ」
とのこと。でその東海地方のレシピ、ざっくり言うとほぼ奈良漬け。漬け床を何度も変えながら2年以上熟成させる高級漬物のつくりかたなんですね。そりゃ素人が再現するのはなかなか難しい…と思っているうちに疑問が。
「あんまりおいしくない野菜に、高級漬物の手間をかける必然性はあるのか?」
身もフタもないようなことを言ってしまうようだが、守口大根は河川敷の痩せた土で「まあ採れないよりはマシか」ぐらいのテンションで育てていた作物だ。だから漬物にするときも「まあそこそこ食べられればいいよね」ぐらいの着地を目指してつくるシンプルなレシピだったはず!
東海地方のレシピは名古屋や岐阜の裕福な旦那衆がアレンジしたものに違いない…!と地元のおじさん達に熱弁を振るっていると、中川おじさんが、
「そうや! 川向こうの摂津富田でも何かローカル漬物があるらしいでえ!」
と閃いたらしく、一路守口市から淀川を渡って摂津富田の老舗酒蔵へ向かってみたら、なんと…!
富田漬け発見!
あったんだよ。
どう考えても守口漬けの原型っぽいローカル漬物が。
酒蔵の片隅でひっそりつくられていたウリの酒粕漬けで、熟成させた酒粕に塩を加えて踏み固めた床に、原料のウリを入れて1~2ヶ月ほど熟成させて、おしまい。奈良漬のように漬け床を変えないで一発でつくるスーパーシンプルレシピ。昔から摂津富田一帯で手作りされてきた素朴なお漬物なんだね。
酒蔵の旦那いわく、
「昔からこのあたりは酒蔵が多くて、冬から春にかけて大量の酒粕が出る。だからそれを使って漬物をつくる文化が発展していったんですね」
とのこと。
で、原料となるのは服部という地区でとれるウリ。「どんな味ですか?」と聞いてみたら「固くて苦くて生では食べられない」って、あれ?なんか聞いたことある話なんだけど?で、酒蔵の旦那が続けて話したのが、
「ある日、家康公が摂津富田を通りかかって一服した時に、村人に何かお茶受けを持ってくるように命じると、村人が差し出したのがこのウリの漬物。素朴な風味に感心した家康公が『これはおいしい漬物じゃ。これを摂津富田漬けと名付けよう』と告げてから、村の名物になったとさ…」
という富田漬けの誕生ストーリー。
えっ、何?これ何かのテンプレなの!?
…と開いた口が塞がらない、僕と中川おじさん。帰り際に摂津富田にほど近い茨木市の小さな酒蔵に寄ったところ、お茶を出してくれた蔵の旦那がおもむろに
「もしよければ、ウチの地域の漬物食べます? 茨城漬けって言うんですけど…」
と出してくれたのが、なんとまた別種の酒粕漬け!
えっ、何? 大阪の漬物ってなんかのテンプレでできてるの!?
とまたもや絶句。
大阪は人だけじゃなくて発酵文化も超絶おもろい。何この三段オチ…!
ということで。
これで守口漬けのオリジナルレシピも(ほぼ)判明。
せっかくのご縁なので、僕のラボで富田漬けのレシピで守口漬けを試作してみることに。無事おいしい守口漬けに仕上がった暁には、守口市のみなさまに郷土料理としておうちで手作りしてほしいものです。
***
【ちょっと宣伝】
今回の守口漬けをはじめ僕が47都道府県のローカル発酵を訪ねてまわる旅の模様が、今年の4月末から渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMで展覧会になります。
これから3ヶ月ぶんの更新は、僕が取材の旅で出会ったビックリ発酵食品について書こうと思います。みんな展覧会に遊びに来てね!
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※ランキングは2022年12月~2023年11月の弊社流通出荷実績です。