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藤原夕貴さん×安原伶香さん|【第1回】和菓子界の新世代が語る!美しさを超える和菓子作りの源とは?

  • 藤原夕貴
    和菓子デザイナー、グラフィックデザイナー。出版社勤務を経て、ロンドンへデザイン留学。帰国後、グラフィックデザイナーとして広告・ブランディング業界で働く一方、茶道を教える祖母の影響で幼い頃から身近にあった「和菓子」に着目し、デザイナーの視点から独自の感性で和菓子を制作。自然や日常をテーマにした和菓子を始め、企業とのコラボ作品など既存の枠にとらわれない和菓子のあり方を探求、作品を発表している。
  • 安原伶香
    「大三萬年堂」13代目、株式会社HANARE 代表取締役社長、和スイーツ研究家。兵庫県で江戸時代中期から続く老舗の和菓子屋「大三萬年堂」の13代目として生まれ、大学進学で上京後、大手通信会社勤務を経て和スイーツ研究家に。自身の30歳となる節目の日に“和洋折衷”をテーマにした和菓子カフェ「大三萬年堂HANARE」を東京にオープン。かわいくてヘルシーな和スイーツに注目が集まり、メディアやSNSで話題に。現在は社長業、ディレクター業の他、雑誌やWEBでスイーツコラム連載や和装スタイリストとしても活躍している。

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。

今回の対談テーマは『和菓子の新たな魅力』についてです。

和菓子といえば日本が世界に誇る文化のひとつですが、それゆえになんとなく敷居が高いと感じてしまう人も多いはず。しかし近年、そのイメージに大きな変化が起き、ぐっと身近な存在になってきているんです!

ゲストは和菓子デザイナーの藤原夕貴さんと老舗和菓子店「大三萬年堂」13代目の安原伶香さんです。和菓子界に新風をもたらしているお2人にお話を伺いました。前後編の2回に渡ってお届けします。

 

***

—— お2人は今日が初対面ですが、安原さんは藤原さんのインスタグラム(以下:インスタ)をフォローしていたとお聞きしました。

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和菓子について検索していたときに藤原さんのインスタが目に留まって。見ているだけで「素敵!」と気持ちが上がるようなお写真ばかりで、よくチェックしていたので対談のお話をいただいたときは驚きました!

わぁ!ありがとうございます。私は逆に、今回のお話がきっかけで「こんなに素敵な和菓子屋さんが都内にあるんだ!」と知れたので嬉しいです。

—— 和菓子がつないだご縁ですね。それではまずは、お2人が和菓子と深く関わり、お仕事をするようになったきっかけから教えてください。

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デザインと共通する和菓子の魅力に気づいた

(藤原夕貴さん)

私は、よく和菓子だけを作っている人と思われがちですが、本業はグラフィックデザイナーをしています。

和菓子とは関係ない職業だったんですね!

そうなんです。当時働いていた会社の社長が「個性」を大事にする人で、社員の個性が伸びるように、「本当に好きなこと」を追求する時間を作ろうという社内プロジェクトがあったんです。

そこで藤原さんは、和菓子を追求されたんですか?

はい! 自分は何が好きなんだろうと振り返ったときに、やっぱり昔から和菓子を食べるのが好きだったなと気づきました。元々、祖母が京都でお茶の先生をしているというバックグラウンドもあったし、和菓子の美しさもデザインと共通するところがあるなと思って、和菓子をテーマに選んだことが現在に繋がっています。

まさかそんなきっかけで藤原さんの今があるなんて!

自分でも予想外です(笑)。デザイナーって、普段ずっとパソコンと向き合って、基本デジタルな世界の中で完結しちゃうので、「もっと自分の手を動かしてデザインしたい」という思いは常にあったんですね。その点、和菓子作りは自分の手の中から生み出されていく、童心に戻って粘土遊びをするような感覚もあるのが良かったんです。

アーティストって感じですよね。

あとは、変化の激しい時代の中で、すぐになくならないものを作りたいなと。和菓子って1000年も前から日本に存在して、ずっと食べ続けられているものだから、私が死ぬまでの100年くらいの間になくることはないかなと。

そうですよね! 藤原さんは和菓子をデザインするだけじゃなく、実際に作ってもいらっしゃいますよね。それは、どこかで学ばれたのですか?

最初はどうやって初めていいのか分からなかったので、インスタを見て「この人の作品すごく素敵だな」と思う方に聞いたんですよ。「どうやって和菓子を学ばれたのですか?」と。

メッセージを送ったんですか? すごい行動力!

そうです! インスタって共感で繋がっていく世界なので、自分が好きなものを相手も好きだと分かると、すごく丁寧に教えてくださるんですよね。そこで、その方も通っている教室に伺ったりして和菓子を勉強しました。

元々手先が器用で、職人気質なところがあったのかもしれないですね。

普通の人と私、もし違うところがあるとしたら「ものの見せ方」に対する経験値かもしれません。デザイナーって「目の前にあるものを、実物以上によく見せる」ことが仕事なので(笑)。

taidan_2002_01_04藤原さんの作品「水風船」
スターバックスとのコラボ和菓子。「涼やか」をテーマにアイスコーヒーに合う和菓子を提案。暑い夏でも口にしやすいよう、錦玉(飴玉を溶かしたお菓子)をコーティングしてツヤ感を出している。

なるほど! 藤原さんのインスタに投稿されている写真の色味とか全て含めてデザインってことですよね。すごいです。

いえいえ。でも「どうやって見せたら魅力的に感じてもらえるか」という見せ方を他の人より心得ているというのはあるかもしれないです。安原さんは、やっぱりご実家が和菓子屋さんというのが今のお仕事のきっかけですか?

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食文化の中心地で和菓子を広めたかった

(安原 伶香さん)

そうですね。実家である「大三萬年堂」は兵庫県たつの市で江戸中期から360年続いている店です。本店では最中(もなか)や羊羹など、昔ながらの和菓子を手作りしてきたんですけど、やっぱり、時代に合わせて変えていかないと私の代、次の代へは繋いでいくのは難しいのかなというところがあって、色々と奮闘しているところです。

素敵ですね。では子どもの頃から「将来は13代目になるぞ!」と家業を継ぐことを意識されていたんですか?

全然意識してなかったです。物心つく前からお店の手伝いはしていたんですけど、思春期のときは「和菓子って古臭い」とか「なんでうちって和菓子屋なの?ケーキ屋がよかった」と泣いていた時期もあったらしくて(笑)。

えー! 今の姿からは想像できないですね。

意識が変わったのは大学進学で上京したときでした。自己紹介で「実家は和菓子屋で…」と言ったら、「すごい!時代を繋いでいくって素敵だね」「360年続いているって素晴らしいことだよ」と、今まで言われたことのない反応をされて。「私ってすごくありがたい環境で生まれてきたんだな」と価値観が変わりました。

お友達との出会いに恵まれたんですね。じゃあ大学卒業後すぐ実家を継いだ感じですか?

それも迷ったのですが、「自分がやりたいことをやりなさい」という家で、私もまだ決心がつかなかったので、大学卒業後は普通に就職して、4年半は会社員として働きました。余裕が出てきた26歳の頃、自分自身ともう1回向き合ったときに「私にしかできないことって何なんだろう?」と考えたんです。

将来のことを、真剣に考える時期ですよね。

その時にやっぱりたどり着くのは家業のことで、私がやらないと12代続いた歴史が途絶えてしまうし、次世代に残していきたい! と思ったんですよね。今行動しないと、40代、50代になったときに後悔する気がして。

13代目誕生の瞬間ですね!

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今回の対談は、安原さんがプロデュースする「大三萬年堂HANARE」にて実施。安原さんが出してくれたのは、「レモン煎茶」と「かりんとう」。白くてかわいらしい「かりんとう」に使われているのは、なんと酒粕。ヘルシーで見た目もかわいい商品が多く揃うのが「大三萬年堂HANARE」の特徴です。

私は猪突猛進型なので「辞めよう!」と思ってからは早かったです。でも、いざ和菓子の世界に入ったものの最初は何から始めればいいかわかりませんでした。だからまずは人脈と知識を増やそうと思って、スイーツライターになったんです。大学時代のサークル活動の中で取材や執筆をすることが多かったので、その経験が活かせましたね!和洋問わず色んなスイーツと出逢えたことが今の商品開発のアイデアにも繋がっていると思います!

へー!まさかのスイーツライター! 会社を辞めてからすぐに継いだわけじゃなかったんですね。

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一般的にはすぐに継ぐのが普通だと思うんですけど、私はそうしたくなかったんです。というのも、田舎でずっと同じことをやっていても、私は限界があると思っていて。

なるほど。

いいものを作っても知ってもらわないと意味がないし、それができるのって食文化の中心地である東京だと私は思っていたので、東京を拠点にスイーツライターとして活動してたくさんの人と出会うようにしました。

—— 幼少の頃から和菓子が身近にありながら、真反対の世界を経て最終的に和菓子のそばに戻ってきたお2人。なんだか運命的なものを感じますね。お2人とも、自らのアイデアを形にするという点で共通していますが、作品作りのモットーやコンセプトはいかがですか?

私はこんな感じでスケッチをしてアイデアを膨らませていきます。

taidan_2002_01_09藤原さんがいつも持ち歩いているというスケッチブック。手書きのアイデアがノートにびっしり!

スケッチの量がすごいですね。さすがデザイナーさん! 私、こういう風にイラストが描けないので尊敬します…。どんな風にアイデアを広げていくんですか?

まず、思いついた言葉たちを絵に起こして、バーッとインスピレーションを広げてます。例えば、「桜」というテーマでも色んな視点から考えます。ある人は花が咲く前の蕾の状態に春の生命を感じるかもしれないし、またある人は満開の桜よりも散り際の姿が美しいと思うかもしれない。切り取りたい瞬間というのは様々なんですよね。

たしかに。人によってきっと違いますよね。

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自分の心に響いたものを形にする

(藤原夕貴さん)

自分はどんな桜の表情に心を動かされたかで、デザインするものも変わってくるかなと思うので、常に「何を表現したいか」を考えながら、自分の心に一番響いたものを形にしています。その際、モチーフを具体的に描きすぎないようにという意味では、私のなかで和菓子って、抽象画みたいなイメージですね。

なるほど! その感覚、すごいです。考え方がやっぱりアーティストですね。

今日も、ひとつ作品をお見せしたくて持ってきました。

taidan_2002_01_13藤原さんの作品「苔庭」

素敵!とても繊細ですね。こちらも何かをイメージして作られてたんですか?

京都で行ったお寺に苔の絨毯のような美しい場所があって、その時の苔を表現しました。「これが和菓子になったらどうなるんだろう?」と思って、その苔のお庭を切り取った箱庭的な感じで作ったものです。

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京都に行かれた時に印象に残ったシーンが和菓子になっているんですね。背景が素敵です。そしてこの苔の部分、とてもきめ細かいですね。こし器でこしているんですか?

はい。いわゆる「きんとん」という和菓子で、そぼろ状にした餡の和菓子です。普通は真ん丸な球状なんですけど、あえてそれをお庭っぽい形に仕立てて、蓋を開けたら京都の苔庭みたいになるようにしました。

なめらかな部分と毛が逆立っているような部分が混ざっていて、すごく苔感がありますね。きっとそれも計算されているんですよね?

そうですね。ちょっと「ぞわぞわする感じ」というのが、私的には一番人の心を惹きつけるデザインなのかなと思っていて。

「なにこれ!?」って興味を持たせる感じが、すごくいいですよね。

ありがとうございます! きれいすぎるものって、その瞬間はテンションが上がるんですけど、すごい速さで忘れられていくんですよ。それは和菓子だけじゃなくてデザイン全てに共通しているのですが。だからこそ、ちょっと引っ掛かるとか違和感があるものの方が、最終的に人の心を強く惹きつける力があるかなと。

何気ない感覚にもちゃんと理由があるんですね。うちのお店でお茶と一緒に出したいなあ…!

嬉しいです! ここのお店のメニュー、すごい豊富ですよね! 安原さんは、お店のメニューをどのように考えられているんですか?

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伝統の味を守りつつ、新しさも取り入れる

(安原 伶香さん)

「若い世代からご年配の方まで、幅広いお客様に気軽に足を運んでいただきたい」というコンセプトで商品を考えています。敷居が高いと思われがちな和菓子をもっと気軽に楽しんでもらいたいという思いから作っていて、「和洋折衷」や「温故知新」をテーマにしています。

思わず写真に撮りたくなるお菓子がいっぱいですよね。器や店内のデザインも可愛くてワクワクしちゃいます。

「女性ならではの視点」はすごく大切にしています。とくに若い女性に来てもらいたいので、自分でも「かわいい」と思えるかどうかは大事ですね。よかったら、お店で一番人気の「どらぱん」を召し上がりませんか?

taidan_2002_01_15メディアにも頻繁に取り上げられている名物「どらぱん」(左)と、女性一番人気の「いちごピスタチオ」(右)。米粉パンを使用してヘルシーに。

コロンとしていてかわいい〜!「どらぱん」温かくてモチモチなんですね。いただきます。

ハンバーガーのように紙で包んで召し上がってください!

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面白い!食べるのも楽しくなりますね。こんなにかわいらしい見た目なのに、あんこが本格的で上品で、とってもおいしいです!

そう言っていただいて、嬉しいです。かわいらしさは大事にしていますが、やはり和菓子屋なので味にはこだわっています。とくに「あんこ」は、本店でうちの父親が2日間かけて手作りしている、こだわりの「あんこ」なんです。

あんことバターとの相性も最高ですね。

バターは発酵バターを使っています。うちは生クリームを一切使っていなくて、全部豆乳クリームなんです。豆乳クリームは生クリームの半分のカロリーですし、小豆がお豆なので、動物性の生クリームよりも植物性の豆乳クリームの方が相性がいいと思っています。

小さめサイズなのも罪悪感がなくて嬉しい♪ 女性が好きそうですけど、さきほど男性のお客さんも食べてましたね!

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かわいさだけでなく、フィロソフィー(考え方)がブレないよう、「味」へのこだわりは忘れないようにしています。なので、最近は男性にも人気ですよ。

そうなんですね!

最近では「チョコレート」と「あんこ」の融合を実現させた「あずきとかかお」という、あんこ入りのガトーショコラを発売しました。そうやって新しいものを生み続けることは常に意識してます。次世代に和菓子の良さを伝えるために、日々挑戦し続けてます。

 

(後編へ続く)

* * *

それぞれのやり方で、和菓子を次世代に残すために、新しい道を切り開いているお2人。和菓子への愛情と熱い想いを感じました! 後編もお楽しみに。

 

【撮影協力】

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大三萬年堂 HANARE

兵庫の老舗和菓子店「大三萬年堂」から誕生した和スイーツブランドとして安原伶香さんがオープンしたお店。和洋折衷、温故知新をコンセプトにし、本店こだわりのあんこを使った見た目もかわいい和スイーツが人気。

 

撮影/山田健司
取材・執筆/大西マリコ

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