対談 2020.03.23
秋元里奈さん×左今克憲さん【第1回】おいしい野菜を全国の食卓へ!新しい食農サービスができるまで
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- 秋元里奈
- 1991年、神奈川県生まれ。株式会社ビビットガーデン代表。2016年、こだわり農作物のオンライン直売所「食べチョク」を立ち上げる。人気番組「セブンルール」(カンテレ)の出演をはじめ、各種メディアでの活躍のほか、世界を変える30歳未満の30人を表彰する「30 UNDER 30 JAPAN2019フード部門」にも選出されている。
- 食べチョクHP
- 秋元里奈Twitter
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- 左今克憲
- 1982年、福岡県生まれ。株式会社アグリゲート代表取締役。全国の農家や市場から目利きのバイヤーが直接仕入れを行い、野菜や肉魚を販売している「旬八⻘果店」を運営。小売から飲食、生産、教育など様々な事業を展開している。様々なイベントや経済メディアで活動している。
- 株式会社アグリゲートHP
- 左今克憲Twitter
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。
今回のゲストは、農作物のオンライン直売所「食べチョク」を運営する秋元里奈さんと、全国の農家や市場から直接仕入れを行う青果店「旬八青果店」など9店舗を展開するアグリゲート代表左今克憲さんです。
『新しい食農サービス』をテーマに、20代で農業の新しいビジネスを始められたきっかけや、苦労、そしてこれから先の広がりなど。お2 人のサービスに込める想いやこだわりをお聞きしました。
◆お2人の出会い
―農業ビジネスを展開するお2人ですが、以前にお会いしたことがあるんですよね?
はい! 左今さんとは2回ほどお会いしていますよね。
最初は去年の4月ですかね?
もうそんなにも前ですか!?
たしかツイッターを通じて知り合ったんですよね。
そうですね! もちろん私は前から一方的に知っていたんですけど、SNSで繋がることができたので「これはお会いしたい!」と思ってお時間をいただきました。
「特にゴールなくざっくばらんに話しましょう」みたいな感じで楽しかったですね。その時も思ったんですけど…、秋元さんはいつもこのTシャツ着ているんですか?
はい! 食べチョクTシャツは家でも外でも毎日着ています。30枚くらい持っています(笑)。背中に食べチョクのリンクに繋がるQRコードがついているんです。
ほんとだ、すごい(笑)。これはいい宣伝になりますね〜。
今回は左今さんが運営する「旬八青果店」の野菜が食べられる「旬八キッチン&テーブル」にて対談。
お店を見ていると、主婦の方が多いですね。
ここの店舗(新虎通り)はそうですね。夕方頃には仕事帰りの会社員の方もよく寄ってくれます。食べチョクのユーザーは主婦の方が多いですか?
子育て中の30代のお母さんが多いです。子どもに色んな種類の野菜に触れてもらって、野菜に対する知識を増やしていきたいという想いがあって使ってくれる方も。
僕らの場合、エリアによっては結構年配のお客さんも来てくれますよ。土日とかはもともとその地域の地主だったおばあちゃんやおじいちゃんとか来ていますね。
◆食農サービスを始めたきっかけ
―お2人とも20代から現在のサービスを始めていますが、このビジネスを始めようと思ったきっかけを教えてください。
実家の農家の廃業が「農業」を考えるきっかけに
(秋元里奈さん)
私はもともと、農業とは全く関係ないIT系の会社にいました。ただ実家が農家だったので“農業”というものはずっと身近にありましたね。ただ、たまたま会社員時代に実家へ帰ったとき、家の農地が荒れ果ててしまっていたんです。
そうだったのですね。
その後廃業してしまって、「なんで農業を辞めちゃったんだろう?」という疑問が生まれて…。そこから農業の業界を調べ始めた、というのが最初のきっかけですね。
ご実家の影響は大きいですね。
左今さんのご実家は農家じゃないんですよね?
旅の中で農家の現状の目の当たりにした
(左今克憲さん)
はい、うちの実家は農家じゃないです。僕のきっかけは大学時代かな。頻繁に旅をしていたんですけど、その時に農家の実態を目の当たりにしたんです。もともと環境問題に興味があり、そっちの勉強をしていたこともあって、日本一周旅行とかもしてました。
アクティブですね!
その時に、データ上は農地が多いとか、農家さんが減っているとか、若い人がいないっていう状況は知っていたんですけど。実際に困っている農家さんや荒れている農地を自分の目で見ると「これを自分の力でどうにかしたいな」と思ったんですよね。
2人とも「農業をどうにかしたい!」という思いがあったということですね。
そうですね。秋元さんはそこから今のビジネスに転換していくアイデアって、どこから生まれましたか?
「農業をどうにかしたい」という思いで会社を立ち上げたものの、何も決まっていませんでした。そんな時に、たまたまフリマアプリで野菜が売られているのを見つけたんです。
フリマアプリ! その頃だとまだそういうサービスは珍しいですよね。
そうなんです。友人に話すと「えっ?フリマアプリで野菜売ってたんだ!」みたいな、新鮮な反応があるようなタイミングでした。今となっては、フリマアプリで野菜が売られてるという認知は多少広まっていますが、当時は誰も知らなかったですよね。調べてみたら、たくさんの種類が出品されていて、しかもちゃんと売れていたんですよ。
へぇ!そんな頃から…!
自分も知人が作っていた野菜をちょっと売ってみたりしました。ただ、なかなか売りたい値段では売れないんですよね。
そうなんだ。どういう野菜が売れるんですか?
フリマアプリだと、安い価格帯の商品はみんな買うんです。ただ、付加価値をつけて高く売るのは厳しいのかなと思いました。それぞれの野菜のストーリーに価値を感じてもらい、直接買いたい人をマッチングするサービスがあればいいなと思って。それで『食べチョク』が生まれました。
なるほど。そういう経緯があったんですんね。
こだわり生産者が集うオンライン・マルシェ『食べチョク』
フリマアプリとはまた違う、コンセプトは違うけどシステムはフリマアプリに近いものがあってもいいんじゃないか? というのが一番最初のきっかけで、そこから今の『食べチョク』のビジネスに少しずつ寄っていきました。
たしかに、僕が会社を始めた頃も今となっては定着している「野菜宅配サービス」なんかも珍しくて。そう考えると、時代が変わりましたよね。
「旬八」さん、今10周年でしたっけ?
はい。今年で10周年です。僕も前の会社にいた時に、起業する気になって。でもビジネスモデルなしでとりあえず始めたんですよね (笑)。
なんと!私たち、スタートの仕方も似ていますね(笑)。
まずは「腹くくってやってます!」という姿勢を見せないと、本業の名刺を持ちながら「農業に興味があるんですよね」って言っても、説得力がないというか。
わかります。
本気度が伝わらないといけないと思ったんです。どんな会社を経営していて、どういうビジョンでやっているか、自分ではっきり説明できる方が信頼できると思ったんですよね。でもやっぱり農業の方に信頼してもらうのには時間かかりましたね。秋元さんはどうですか?
私も左今さんと一緒ですね。まさに最初前職の名刺を持って行っても軽くあしらわれていて、むしろ不審がられるというか。だから途中からは思い切って会社を辞めて、農業1本で行こうと!
とはいえ行動力がすごいですね!
本格的に起業していることを伝えると全然反応が違いました。私は実家が農家というのもあったので、「農家の娘で…」と話すと、ちゃんとこの業界の難しさも知っているんだね、という感じで理解してくださる農家さんが多かったです。
なるほど。
農家さんを訪ねると「あぁ、また来たよ」という反応をされることもあって。「君みたいなビジネス10年前からあるんだけどね」とおっしゃる方も。
わかります。農業ってIT企業が参入しては撤退するっていうのを繰り返してるから、農家のみなさんは不信感持っている方も多いですよね。
そうなんです。そんな中でも私を信頼してくれたのは実家が農家ということに加えて、自分で会社立ち上げて1人でリスクを持ってスタートしたからなのかなって。まさに左今さんと同じですね。
僕も同じようにアプローチしましたね。秋元さんみたいにバス移動もしましたよ。
左今さんも出張に夜行バスで行っていたんですか?
農家さんには「そこまでして来てくれるんだ」という本気度を伝えたかったんですよ。
左今さんにもそんな時期があったんですね!
そうなんです。できるだけ、自分の足で行くようにしていました。自転車で行けそうなところは自転車で行くとか。
へー、すごい! じゃあ、初期の頃はご自分で全国各地を周っている感じだったんですか?
はい。もう直接行くしか情報がないので。全国の農家さんに会うために、とりあえず現地まで向かっていました。
そうなのですね。今の私と近いところがあります。
―自ら農家に足を運んでコミュニケーションを取りながら現在のビジネスを広げていったお2人。最近の農業ビジネスの流れや世の中変わったと感じることはありますか?
2008 年の雑誌『BRUTUS(ブルータス)』の農業特集が出たあたりから、農業ビジネスが広がっている気がしますね。最近ではネットでも広がっています。
私はまだ起業して3年なので正直その前と今の比較ができないんですけど、最近では農業系のスタートアップも増えてきていますね。ちょうど私が起業したくらいのときに同じタイミングで創業した農業系ベンチャーさんとか、結構いるんですよ。
へー、そうなんですか?
食材を輸出している企業とか、流通系の企業とかたくさん出てきてました。
◆食農サービスを体験したお客さんの声
―最近では農業ビジネスがユーザーにも認知されてきて「食べチョク」と「旬八青果店」の利用者も増えていると思いますが、お客さんの反応はどうですか?
うちは店頭販売なのでお店にお客さんが来てくれますが、「食べチョク」はネット販売だからお客さんの顔が見えないですよね? 秋元さんは、どうやってコミュニケーションを取っていますか?
サイト上のコメントで「おいしい野菜が届いてうれしいです」みたいな投稿ももちろんいただくことは多いんですけど、やはりお顔は見えないので、ユーザーさんをオフィスに招いてインタビューすることもあります。
直接のご意見を聞くようにしているんですね!
人の温かみを価値に感じてもらえる
(秋元里奈さん)
「ネットで直接生産者さんから食材を買う」という体験は、頭では理解していても実際に届いた食べものを見て初めて価値を感じてくださる方も多いみたいで。例えば「お手紙が入っていて嬉しかった」とか。たまに誤字もあるけど、それも含めて温かい気持ちになれたとか (笑)。
温かみがありますね!
そういう人間らしさを感じると、その先に暮らしがあることを想像できますよね。それは本当に当たり前のことなんですけど、感覚的に感じることで、さらに食に興味を持ったり、おいしいと思える。そういう話をしていただけるお客さんがいらっしゃるんです。旬八青果店ではお客さんの反応はいかがですか?
「旬八の野菜はどれもおいしい」という期待に応える
(左今克憲さん)
僕らは“形じゃなくて味”を大事にしているので、「旬八」で買ったのにまずかった、という風にはならないように気をつけています。しっかりとおいしい野菜を揃えているという自負があるので、そこはお客さんからも反応がありますし、期待していただいている強みかなと思います。
おいしい野菜、どうやって見極めていますか?
専属のバイヤーが目利きしているんですが、中には実家が農業一家で野菜にとても詳しい社員もいます。でも、違いは食べてみるしかないですね(笑)。あとは、おいしい野菜を作るには「育て方」が大事で、農家さんに育て方を尋ねるようにはしていますね。秋元さんは、今でも生産者さんと関わることありますか?
もちろんです! つい一昨日までは長野の生産者さんのところに居ました。
そうだったんですね!
現場で生産者さんとお話したり、お野菜を食べさせてもらったりしないとわからないことばかりですからね。「食べてみる」という点では、社内で毎日ランチを作ってみんなで食材を食べるようにしています。「食べチョク」に登録されている生産者さんの食材です!
良い取り組みですね! それでいうと、僕らも「青果報酬」という制度を導入しています。
“青果”報酬!?
そうです(笑)。野菜をいくらか安く買えるように設定して、社員が試してみたい野菜を遠慮なくどんどん買って帰れるようにしています。野菜好きの社員が多いので喜ばれますよ。
素敵ですね! うちの社員で野菜嫌いなエンジニアがいたんですけど、毎日のランチのおかげで野菜が食べられるようになった社員もいますよ。他にも「この野菜は苦手だったけど、ここの農家さんのなら食べられる」とか、「この農家さんの野菜が好き」とか。農家さん単位で好きになってくれる社員もいます。
それはすごい! そうやって派生していくのは嬉しいですね。
***
新しい農業ビジネス。生産者、消費者、そして運営する人にまで広がっています。続く後編では食材を届ける人と食べる人をつなぐ素敵なビジネスのこだわりと努力をお伺いします。後編もお楽しみに!
【撮影協力】
旬八キッチン&テーブル
■住所
東京都港区新橋4-1-1 新虎通りCORE 1階(新橋駅から徒歩5分)
■営業時間
[月~金曜]
八百屋 8:00〜22:00
モーニング 8:00~11:00
ランチ 11:30〜15:00
セルフバー(ビュッフェ) 17:00〜22:00
[土・日曜、祝日]
八百屋 11:00〜20:00
セルフバー(ビュッフェ) 11:00~16:00、17:00〜20:00
※現在旬八キッチン&テーブルでは、
■定休日
無休(ビルの定休日に準ずる)
写真/パタヤナン・ワラット(vvpfoto)
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