対談 2015.10.20
グルメ漫画家対談!『いつかティファニーで朝食を』マキヒロチさん×『おとりよせ王子 飯田好実』高瀬志帆さん
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- 高瀬志帆
- 漫画家。12月21日生まれの射手座。息子・娘・夫の4人暮らし。趣味は散歩、耳かき、音楽。息子と一緒に空手も始める。現在、月刊コミックゼノンで『おとりよせ王子 飯田好実』、エレガンスイブで『イケナイ家族(ファミリー)』、日経DUALで中学受験漫画を連載中。
- 『おとりよせ王子 飯田好実』(コミックゼノン)
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- マキヒロチ
- リアルな人間模様を描いたストーリー漫画から、時計専門漫画、ギャグエッセイなど幅広いジャンルで活動中。現在月刊コミック@バンチで『いつかティファニーで朝食を』、ゴーゴーバンチで『創太郎の出張ぼっちめし』(いずれも小社刊)、ヤンマガサードで『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を連載中のほか、著書多数。
- 『いつかティファニーで朝食を』(日本テレビ)
アマノ食堂に訪れるお客さんの“おいしいお話”を毎週お届けしていきます。
第7回のテーマは「グルメ漫画」。
近年ブームのグルメ漫画の中から、TVドラマ化された2作品をピックアップ!今回は、それぞれの作品の作者のお2人にご来店いただきました。
今回は、2013年に放送された『おとりよせ王子 飯田好実』作者の高瀬志帆さんと、2015年10月10日に第1話が放送された『いつかティファニーで朝食を』作者のマキヒロチさんです。作品が生まれた背景や制作の裏話を教えてもらいました!ファンにはたまらない、グルメ漫画家対談です。
- 高瀬さんとマキさん、実は10年来のお知り合いだそうですね。
そうなんです。まさか高瀬さんとこんな形で対談するなんて!何だか改まると…変な感じがします(笑)。お互い頻繁に連絡を取り合うわけじゃないですけど、フェスではよくお会いしますよね。毎年フジロックの会場で会って、その後に「今どのあたりですかー?」って連絡を取り合ったり…。でも初めてお会いしてからもう10年も経つなんて早いですね〜。
もうそんなに経つんだね。マキさんには以前、私の連載を手伝ってもらっていたんです。
そのときは、高瀬さんのお子さんがまだ生まれたばかりだったような…。
そう!その子がもう中学生になるんですよ。それくらい長い付き合いですね。
-では早速、お2人の作品『おとりよせ王子 飯田好実』と『いつかティファニーで朝食を』が生まれた背景を教えてもらいましょう。
前に担当してくれていたのが、おとりよせが好きな編集者さんだったんです。でもその方をモデルにしたわけではく、テーマが「おとりよせ」なのでもっと家に引きこもるようなタイプの、人付き合いが苦手な主人公にしたかったんです。
主人公を男性にしたのはなぜですか?
連載している『ゼノン』という漫画雑誌が、当時男性向けの漫画が多かったからです。男性がこの漫画を読んで、料理を真似してくれたら良いなと思って描いていました。
それが今や女性のファンも多いですよね!
そうなんです(笑)。
『いつかティファニーで朝食を』は、働く女子の味方!
(マキヒロチさん)
私の場合は、担当編集者さんからグルメ漫画の話をいただきました。すでにグルメ漫画はいくつかあったけど、「朝食」をテーマにしたものはまだ誰もやっていなかったし、忙しく生活しているとおろそかなりがちな「朝食」こそ、大事なんじゃないかと思ったんです。
なるほど。
ちょうど、東京にも「朝食」を出すお店が増えてきたタイミングだったので、自分で作る「朝食」というよりは、「朝食」を食べられるお店を紹介していこうとスタートしました。私が好きな働く女性を主人公にして、そのアクセントとして「朝食」を加えて「朝食で元気になる働く女性」のドラマを描いてみたいと思いました。
これまでのマキさんの作品を読んでいるから、またなんかおもしろい漫画を描いてるなあって思っていました。
高瀬さん、めっちゃ漫画読んでますよね!そうなんです。それまではだいぶ違うテイストの漫画を描いていましたね。失恋したら現れる喫茶店のママとか……(笑)一応働く女性が登場する、という部分では一貫していますが。
今や『いつかティファニーで朝食を』は、働く女子の味方ですね。
そうですね。これからも働く女子を応援していきたいです!ところで、高瀬さんは誰の味方なんですか?
1人でおいしいものを食べたいと思っても良いじゃないか、って思う
(高瀬志帆さん)
「1人でもおいしいものを食べたい」と思う人の味方、かな。例えばおいしいものを食べるとき、大勢でワイワイしながら食べなくても、1人でおいしいものを食べたいって思っても良いじゃないか、って思うんです。それと、連載が始まってすぐに東日本大震災があって、漫画の存在意義について考えたことがありまして…。ごはんを食べて、人見知りながらもちょっと人とふれあいながら普通に生活する主人公が登場するこの作品を読んで、気分が沈んでいる人たちの気晴らしになったらいいなぁと。
『おとりよせ王子 飯田好実』の中で、おとりよせしたものを料理してアレンジするじゃないですか。あれはどういう風に生み出しているんですか?
手当たり次第に作っています。
えー!高瀬さんご自身で!?
そうそう。全部自分で作っています。あんまり好きじゃないから食べたくないなって思うものでも。でもそういうものの方が、意外と良いアレンジができたりするんですよ。
レトルトカレーをスープにするなんて、考えたことがなかったです!
元々、キムチを買っても汁を捨てないタイプなんですよ。それでご飯もう1杯食べられるじゃんって。
すごい!でもそれが楽しいんですよね。
そうなんだよね。マキさんは、お店をどのように選んでいるの?
最近はストーリーに合うものを探しています。出張で地方へ行くときに取材依頼をすると、断られることも多いんですよ。
へぇ、そうなんだ。
「うちの店は別にアラサーの女に来て欲しくない」
なんて、言われることも…(汗)
(マキヒロチさん)
その土地の書店で、店員さんに「このあたりでおいしいお店知っていますか?」と聞いたりして、意外とバタバタと決めています。
『いつかティファニーで朝食を』の最新刊で、金沢へ行くシーンがあるよね。
あれも1人で金沢に行って取材してきました。出張は大体いつも1人ですね。
え!1人で…!? 取材交渉とか大変じゃない?
大変ですよ〜。漫画で取り上げたいって交渉したら「うちの店は別にアラサーの女に来て欲しくないから」なんて言われたことも(汗)。高瀬さんは、どんな風におとりよせの商品を選んでいるんですか?
たくさん試食をして、その中から担当編集者さんと一緒に選ぶことが多いですね。おとりよせってどれもハズレがないんですけど、取り上げるには、おいしいだけじゃなくて、ひとひねり欲しい。ちなみに、今まで紹介したおとりよせが「美味しくなかった」というクレームは1つもないんですよ。だんだんハードルは上がっていきますね。
美味しさ以外に、アレンジができるっていうのもポイントですもんね。
そうですね。だから、お菓子を取り上げることは少ないです。アレンジが難しいので。
そして白いものほど、絵だとヴィジュアルも伝わりにくいですよね。白いものって、すごく難しくないですか?
難しい!豆腐とかね。
そうそう!あと、おかゆとか。
あ〜 朝食におかゆとかよく出てきそう。
そうなんですよ。料理はアシスタントが担当することが多いんですけど、白い食べ物にはトーン貼りすぎないように注意してもらっています。
グルメ系の漫画だと、アシスタントを食事に連れて行く人も多いですよね。
そうですね。私もアシスタントを連れて行きます。例えばラタトゥーユなどの、男性アシスタントさんになじみのないものを頼む場合は、玉ねぎと、なすと…と、入っている材料をいちいち伝えないとわからないので。
食いしん坊じゃないと楽しめないかもね。
そうなんです。「マスカルポーネって何ですか?」と聞かれても説明しにくいんですよ。女の子だったらある程度わかってくれますけどね。
じゃあ男の子のアシスタントだと説明が大変?
マスカルポーネとかバルサミコとか、何回言っても覚えてくれませんね(笑)。
取材も大変そうだけど、私は取材に行くことがあまりないからうらやましいなぁとも思う。築地にも行ったことがないから行ってみたい。あと、地方に行って「おとりよせできないもの」を食べたりもしたいですね。
取材は、大変ですね…。地域によっては、断られる確率が高いところがあります。たまたま運が悪かったのかなぁ。南の方の地域は、断られることが少ないような気がします。
おとりよせも、たまに断られることがありますよ。オーダーが急に増えると、対処しきれなくなるからって。でもね、やっと第6巻で日本の全都道府県を制覇しました!最後は愛媛県と茨城県だったかな。
すごい!最後は難しかったですか?名産がないとか。
難しいのは“選択”ですね。例えば、大阪府は特に食に厳しいから、お好み焼きとかたこ焼きなどの王道メニューは避けて、あえてタイ料理にしました。北海道もおいしいものが多すぎて悩みましたが、小さいチーズケーキにしました。
なるほど。高瀬さんは、食べるシーンで気をつけていることはありますか?私はキャラクターがたくさんいるから良いですけど、飯田君ひとりで大変じゃないですか?
食べ方もそうだけど、表現も難しい。もう「濃厚」とかいう表現はありきたりで書けない。その料理の美味しさや特長を表すベストな表現をいつも模索していますね。ちなみに、さっき仕上げてきた原稿の“イカのお腹にシシャモの卵を詰めた食べ物”は、「華麗なる養子縁組」という表現にしたり(笑)
もう彦摩呂さんの域ですね!(笑)
マキさんは、キャラクターによって食べ方を変えたりしているの?
私は毎回ロケーションが違うので、あまり変えていないですね。高瀬さんの漫画のロケーションって…。
大体が「家」ですね。職場もいつもの同じオフィスだし。角度を変えたりはするけど。
それはなかなか大変ですね。
マキさんはロケとか行くから大変ですよ。漫画を制作する過程も苦労しているポイントも、やっぱりお互い違うんですね。
-ヒット作品が生まれた背景に、そんな苦労があったとは!『いつかティファニーで朝食を』『おとりよせ王子 飯田好実』、どちらの作品も実在のおとりよせやお店が描かれているので、漫画の中で紹介されている料理を自分でも味わうことができるのが魅力的です。お2人にこれまでに描いた中で印象的だった、おとりよせやお店についてお聞きしました。
「読者の方から反応が多いのは“牛とろフレーク”」
(高瀬志帆さん)
どれもすごく美味しかったのですが、以前、吉祥寺にある東急百貨店の催事場で『おとりよせ王子』のフェアを開催していただいたことがありました。そのときに、漫画で描いたお店がたくさん出店していたのですか、たくさんおみやげをくださって。中にはお母さんみたいな人もいて「これも食べな」「あれも食べな」とひと通りいただきました。しかもどれもすごくウマい!これまで細々と漫画を描いてきたつもりが、世の中の経済活動の循環の中にちゃんと入っていたんだなぁ、役に立ててよかったなぁと思いましたね。
そうなんですね。読者の方から反応が多いのは何ですか?
「牛とろフレーク」かな。
それ、買いました!
買った?あれは漫画描いている時の追い込みのお供として、非常に優秀ですよ。あとはやっぱり「卵かけごはん」かな。
うーん、いいですね!私は「烏骨鶏のデニッシュ」が気になりました。
あれは、残念ながら生産中止になっちゃったみたい。マキさんは、印象に残っているお店はありますか?
「サンドウィッチ屋の“カリーナ”が大好き!」
(マキヒロチさん)
私は上井草の「カリーナ」というサンドウィッチ屋さんが好きです。すごくたくさん種類があって、朝早くから開いていてサイフォンコーヒーと一緒に店内でも食べられるんです。家族経営で、社会人になった息子さんが家に戻ってきてお店を手伝っているところも、あたたかい感じがして大好きです。
ほのぼのするね。読者の方から反響が大きかったのは?
ネットなどで「行ったよ」と書かれている中では、第1巻の「グッドモーニングカフェ」が多いかな。あと、築地の「かとう」という定食屋さん。
マキさんは、おとりよせはする?
たまにしますよ。最近おとりよせしたのは「ゼリーのイエ」です。何年もチャレンジしていたんですけど、ぜんぜん予約が取れなくて。毎週金曜日の9時から売り出されるのですが、瞬殺で売り切れてしまうんですよ。(スマートフォンで写真を見せながら)カラフルな、こんな感じのゼリーです。
かわいい!
昔ながらのかためのゼリーで、すごくおいしいんですよ。10個以上のセットをほとんどひとりで食べてしまいました。
【information】
高瀬志帆著 『おとりよせ王子 飯田好実』 第6巻
マキヒロチ著 『いつかティファニーで朝食を』 第7巻
-おいしいそうな食べ物の話をしたあとに、〆の一品のお時間。本日の〆は、寒い季節に食べたくなる「ビーフシチュー」と「クリームシチュー」です。
お湯かけるだけなんですか?すごい!
世の中にはまだ、知らないものがいっぱいあるね。…おお、本格的だ!
パセリも入っているんですか?おしゃれですね。
これ、1袋しか使ってないんですよね!?
すごく濃厚ですね。なんかよく薄いスープとかありますけど、全然違いますね。
フリーズドライって、すごいな〜。
おいしいですね。
さっきごはん食べたのに、ペロリと食べられますね。ごちそうさまでした!
-とても楽しいトークをありがとうございました。またのご来店をお待ちしています!
企画協力/鯰組、なんてんcafé
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