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後呂孝哉さん×紺野真之介さん|【第1回】オンライン宿泊にオンライン美術館!距離も環境の垣根も超えられる“ニューノーマル”な楽しみ方

  • 後呂孝哉
    生まれ故郷である和歌山県・熊野エリアのゲストハウス&カフェバー「WhyKumano」オーナー。田舎への嫌悪感から上京するも、外から地元を見ることで熊野の魅力を再確認。その魅力を伝えるべく、2019年7月に「WhyKumano」をオープン。コロナ禍によって多くの宿泊業者が休業を余儀なくされるなか、世界初となるオンライン宿泊を考案、注目を集める。

  • 紺野真之介
    オンライン美術館「HASARD」代表。小学生時代、地元・青森県に開館した青森県立美術館を訪れたことでアートに開眼。長じてIT企業に就職。ウェブサービスの構築や運営のノウハウをもとに、2019年4月、世界初のオンライン美術館を開設。コロナ禍によるイベント自粛によって美大生の卒展が中止されるなか、『超合同オンライン卒展』を企画し、話題となる。

アマノ食堂を訪れるお客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。

新型コロナウイルスによって「新しい生活様式」が広まりつつある今、ゲストとしてお招きしたのは、オンライン宿泊の先駆けであるゲストハウス「WhyKumano」オーナー・後呂孝哉さんと、オンライン美術館のパイオニアである「HASARD」代表・紺野真之介さんです。

そして今回は、アマノ食堂初となるオンラインでの対談取材!

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そこで対談のテーマは『ピンチをチャンスに! オンラインで楽しむ新しいコミュニケーション』。お2人がオンラインに乗り出したきっかけからパイオニアゆえの苦悩、その先にある可能性まで、前後編の2回にわたってお届けします!

***

—— ゲストハウス「WhyKumano」オーナーの後呂さん、オンライン美術館「HASARD」代表の紺野さん。それぞれ立ち上げのきっかけは何だったのでしょう?

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人との密接な関わりを作りたい

(後呂孝哉さん)

僕の生まれ故郷、熊野の魅力を伝えたい。この想いと同時に、直接的なきっかけは「日本一周の旅」でしたね。

すごい。全国各地をまわられたんですね。

もともと旅が大好きなんです。最初は世界一周を考えていたものの、まずは日本国内を見て周るべきだな、と。そこでサムライの格好をして、日本一周の旅に出たんです。

なんと、サムライの格好ですか! すごく注目されそうですね(笑)。

狙いはまさにそこ(笑)! 実際にいろいろな人との出会いがあったし、旅の楽しさは人に依存する、ということを実感したんです。となれば、熊野の魅力を伝えるにも人ありき。旅人同士も、旅人とスタッフの関わりも密接な、ゲストハウスを開くことに決めたんです。

人との密接な関わり。そこはもしかすると、私がオンライン美術館を立ち上げた理由に通じるかもしれません。というのもアートって、ちょっとハードルが高いじゃないですか。

なんとなく、わかる気がしますね。

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アートをもっと身近な存在にしたい

(紺野真之介さん)

私は小学生の頃からアートが好きでしたが、人とアートの距離感に、ずっと違和感があったんです。

たしかにアートって、どこか高尚な感じがするかも。僕のように地方に住んでいると、都心の美術館に行くのもひと苦労ですから(苦笑)。

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オンライン美術館「HASARD」

同じくです。私は青森県の出身なので、美術館に行くにも新幹線でしたよ(笑)。それが、例えば「漫画」なら立ち読みができるし、スマートフォンでも読むことができます。アートだって同じくらい人と密接に、身近にできるのではないか。この想いが「HASARD」を立ち上げたきっかけです。

紺野さんは、その気持ちを見事に実現されたんですね。

ずっとITの仕事をしてきたので、スキルはあったんです。IT企業で働きながら、2カ月くらいで「HASARD」をオープンさせました。会社の終業後に、眠い目をこすりながら…。

なるほど。気合い勝負ですね(笑)。

― 新型コロナウイルスの影響で様々な業界が打撃を受けるなか、後呂さんは「オンライン宿泊」、紺野さんは「オンライン卒業作品展」を企画・開催されましたが、どのような想いでこの取り組みを始めたのでしょう?

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どうにか閉めずに乗り切りたかった

(後呂孝哉さん)

コロナの影響から休業を決める宿泊業者さんが増え、うちのゲストハウスも3月以降の予約が全てキャンセルになっていたタイミングでした。

このまま開けていても非難されるだけ。あの頃は、そういう状況でしたからね。

でも、僕はどうにか閉めずに乗り切りたくて。オンライン飲み会が流行り始めた時期でもあったから、「動画とzoomを組み合わせれば、オンライン宿泊が可能かもしれない」って。ITの知識もないまま、勢い任せでしたね。

勢い任せ。それが可能なのがオンラインの強みですよね。アイデアはどこから生まれたのか、気になります。

アイデアの源は、緊急事態宣言が出る直前に見た「銭湯の動画」です。

銭湯の動画?

銭湯の浴槽にお湯が注がれているだけの動画が、めちゃくちゃバズっていたんです。「これはゲストハウスにも応用できるはず!」という発想でしたね。思い立ったが吉日、動画を見た約1週間後には、オンライン宿泊をスタートさせました。

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オンライン展示のノウハウを生かして美大生の役に立ちたい

(紺野真之介さん)

「HASARD」でも卒展の機会を失った美術系大学の学生さんに向け、『超合同オンライン卒展』という企画を立ち上げましたが、実は同じく勢いだったんです。

それは意外!

オンライン展示のノウハウはあるので、「美大生を助けたい。それなら、とにかく実行してしまおう!」と(笑)。決断したらすぐに始められるのは、「オンラインだからこそ」ですよね。

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オンライン卒展「Not wasted」。タイトルは、むだにしないという意味。「学生たちが一生懸命つくった作品やその想いを大切にしたい」という気持ちが込められています。

そうですね。オンラインこそのスピード感だったと思うし、僕はオンライン宿泊を始める以上、誰よりも先に始めたかったんです。いろいろと便利なツールがある世の中なので、僕に必要だったのも「挑戦するか否かの決断」だけ。あとは最低限の機材を揃えるくらい(笑)。

とは言え、新しい挑戦だけにご苦労もあったはず。私はオンライン美術館を立ち上げた当初、「批判の声」にずいぶん悩まされましたから(苦笑)。

めちゃくちゃ、わかります。

特にアート業界は「生で鑑賞することに意味がある」といった風潮が根強いため、「けしからん!」という声を多くいただいて。

僕たち宿泊業も、泊まってもらってナンボの世界。「泊まりもしないのに宿泊なんて、意味がわからない」という声は、本当に多かったですね。ちょっと落ち込むくらい(苦笑)。

それでも批判は発憤材料。批判の声に悩みつつ、奮い立たされましたね(笑)。

たしかに。それに批判の多さは注目度のバロメーター。「批判されるのは注目されているから!」と思えば、前向きになれますよね(笑)。

― オンラインの機能を活かして新しい形を創造されたお2人。オンラインのメリットとは、どのようなところにあると思いますか?

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オンラインがリアルへの欲求を掻き立てる

(紺野真之介さん)

1つの大きなきっかけ作りですね。オンライン美術館は、リアル(現実)を否定しているわけではないんです。それどころかリアルの美術館を訪れる、きっかけになり得ると思うんです。

めちゃくちゃ同意。僕だってできることなら、現地に来てほしい。リアルなおもてなしがしたいし、熊野の魅力は現地にあります。それが難しい状況において、「いつか行きたい」と思ってもらうためのオンライン宿泊なんです。

同感です! 実際のところオンライン美術館をきっかけに、リアルの美術館に行かれるユーザーさんも多いんです。

オンライン美術館とオンライン宿泊、同じ流れが起きていそうですね。

例えば、漫画家・安野モヨコ先生の個展。私たちのオンライン美術館「HASARD」での展示を行いつつ、世田谷文学館でも個展が同時開催されていたんです。

やっぱり一緒ですね。オンラインの個展を観ると、今度は生で観たくなる。

そうなんです。気軽にアートを鑑賞できるオンラインによって、オフライン(生で見ること)への欲求が掻き立てられるんです。

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いつか熊野に行きたくなる気持ちにつながる

(後呂孝哉さん)

めちゃくちゃいい言葉! 実は「WhyKumano」のオンライン宿泊でも、オフライン(実際に足を運ぶこと)への欲求を掻き立てるような工夫をしています。

どんな工夫をされたんですか?

紙の観光マップの代わりにGoogleマップを使います。参加者の皆さんとGoogleマップを画面共有しながら、熊野の案内をするんです。

宿泊先のフロントの方に、地元のおすすめ情報を聞く感じ。旅の醍醐味ですね。

そう。マップにピンを打ちながら、「この観光地に行くなら、このレストランが近くておすすめです」という案内をするんです。

臨場感がありますね。実際に足を運んでみたくなります。

しかもGoogleマップって、ストリートビューも、ご飯屋さんの写真も見られるじゃないですか。「行きたい! 食べたい!」という気持ちに直結するんです。

それがオフラインへの欲求。オンラインとオフラインは、切っても切れない関係なんですよね。

—— オンラインとオフラインは、切っても切れない関係! オンラインサービスへの興味が湧いてきますが、実際に利用されたユーザーさんからは、どんなお声が届いているのでしょう?

「HASARD」の立ち上げから約1年。オンライン美術館が浸透しつつあるのを感じています。ちょっと皮肉ではありますが、コロナがあったゆえだとも思っていて…。

うん。うちのオンライン宿泊も、コロナがなければ生まれていない。外出が難しくなり、生活様式が一変しましたからね。

そこで「自粛期間中にもアートを楽しめた」というユーザーさんの声はもちろんですが、嬉しかったのが作家さんの声なんです。

アートを鑑賞する人ではなく、アートを発信する人?

作家さんとしても、できることなら生で観てもらいたい。その想いから、オンライン美術館への躊躇もあったと思うんです。でも、コロナ禍では個展の開催は難しい。そんなアーティストの方にご利用いただいたところ、「海外に住む方にも作品を観てもらえた」という、喜びの声をいただいて。

すごい。オンラインのおかげで、海外にまでファン層が広がったんですね。

あと、これはコロナ禍以前からですが、オンライン美術館は地方に住む方、ハンディキャップによって外出が難しい方にも好評なんです。リアルでは遠くても、オンラインならすぐ側にある。オンラインは、美術館と人との距離を縮めてくれるんです。

めちゃくちゃ同感ですね。というのも、うちのオンライン宿泊のゲストに多いのが、実はママさん。

お子さん連れでは、なかなか自由に出かけられないし、宿泊はさらにハードルが上がりますもんね。

そうそう。「でも、子どもを寝かしつけた後、オンラインだから旅行ができた」という声をいただいたんです。

オンラインなら、すきまの時間に旅行ができる。素敵ですね。

ほかにも印象的だったのが、「子連れの旅行は、いつも子ども第一。オンライン宿泊のおかげで、久しぶりに自分だけのために旅行ができました」という声。これにはもう、感動しちゃいましたよ(笑)。

いや、それは感動しますよ。感動するし、それこそがオンラインの力。インターネットの環境さえあれば、距離や生活環境、あらゆる垣根を飛び越えられます。

垣根のなさこそが、まさにオンラインの可能性ですよね。しかもオンラインから広がる可能性って、想像以上に大きいと思うんです。

(後編へ続く)

***

コロナ禍によって「人との距離を保つ」ことが推奨される今ですが、お2人がオンラインに乗り出すきっかけには「人と密接に関わること」があったなんて、とっても興味深いお話!

そして後編には、さらに背中を押されるようなお話がいっぱい。「私もオンラインを活用してみたいけど…」と悩む人に向けた、具体的なアイデアも飛び出しますよ! ご期待くださいね!

 

【ゲストハウス&カフェバー WhyKumano】

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和歌山県熊野市のゲストハウス&カフェバー。2020年4月より、ウェブ会議システム「zoom」と写真共有サービスを活用した宿泊体験を楽しめる「オンライン宿泊」を開始。熊野に行けずとも熊野を満喫した気分を味わえるプランが人気を集めている。

オンライン宿泊の詳細はFacebook/Instagramで公開中。

ご予約はSNSのDMから。

「WhyKumano」Facebook 
「WhyKumano」Instagram 

 

【オンライン美術館 HASARD】 
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「アートを、もっと身近に」をコンセプトに、誰でも・いつでも・無料でアートを楽しめるオンライン美術館。常時様々な企画展を開催し、実際に行われている美術館の展示を一部公開することも。

入館はこちらから

 

 

取材・執筆/大谷享子

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