豆知識 2020.11.25
【やさしい発酵図鑑vol.6】日本食に欠かせない発酵調味料「醤油」のルーツと種類
こんにちは、発酵料理家の真野遥です。
今回のテーマは、日本食に欠かせない調味料「醤油」です!
私は目玉焼きには絶対に醤油派なのですが、皆さまはいかがでしょうか?
醤油はとても身近な調味料ですが、実はものすごく奥が深いのです…。
今回は、醤油の基礎知識から、ちょっとマニアックな情報まで、知れば知るほど面白い醤油の世界をご紹介いたします!
※今回は天然醸造醤油に限定して話を進めていきます。
(天然醸造醤油とは、①本醸造製法 ②食品添加物不使用 ③酵素添加などの醸造の促進をしていない、という3つの条件を満たす醤油のことです)
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醤油とみそはルーツが同じ!
まずは簡単に、醤油の歴史から。
以前の発酵図鑑「みそ」の回で、みそのルーツが中国にあることをお話ししました。実は、みそと同じく、醤油のルーツは古代中国から伝わった「醤(ひしお)」(食料を長期間塩漬けしたもの)であると考えられています。
そこから日本独自に発展し、徐々にみそと醤油に分かれ、安土桃山時代の記録には「醤油」の文字が歴史上初めて登場します。江戸時代には現在のような醤油のスタイルが確立され、近畿地方から関東へと広がり、そして全国へと広がっていきました。
なお、鎌倉時代に覚信(かくしん)というお坊さんが中国から持ち帰り紀州で広まった径山寺味噌(きんざんじみそ)の桶の底に溜まった液体が醤油の原型になったという説もあります。
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醤油ができるまで
醤油の原材料は「大豆」と「小麦」と「塩」。およそこの3種類の材料で、あの醤油の風味が生まれるとは想像しにくいのですが、これぞまさに発酵の力なのです!
— 工程1 原料処理・製麹 —
(写真提供:職人醤油)
大豆を蒸し、小麦を炒り、種麹を混ぜて2〜3日かけて麹を作ります。麹の酵素の働きにより、大豆のたんぱく質がアミノ酸に分解されて「旨味」が生まれ、小麦のデンプンがブドウ糖に分解されて「甘味」が生まれます。
ブドウ糖は、乳酸菌や酵母菌のエサになるため、その後の発酵に欠かせない存在です。
—工程2 発酵・熟成 —
麹と塩水を桶に仕込み、1年以上かけて発酵・熟成させます。この間に、蔵に棲みつく乳酸菌や酵母菌などの様々な菌の影響を受け、醤油ならではの風味が醸成されていきます。
—工程3 圧搾・火入れ・ろ過 —
熟成した諸味(もろみ)を圧搾装置にかけて搾り、火入れやろ過などの処理が行われたのち、瓶詰めされ出荷されます。
なお、搾りたての醤油は「生揚(きあげ)醤油」と呼ばれ、菌が生きているため市場には流通しません。醤油蔵に足を運ばないと出会えない、幻の醤油なのです。
菌を育てておいしい醤油を。昔ながらの木桶で仕込む小豆島の蔵元へ
発酵中の諸味の様子
醤油の蔵元さんを尋ねると、時にこんな言葉を耳にします。「醤油を造っているのは菌たち。私は菌の居心地が良い環境を整えているだけ」
小豆島で木桶仕込みの醤油を醸すヤマロク醤油の蔵元・山本康夫さんも、そのひとりです。
「僕、醤油造ってないんですよ。うちの蔵に棲みついている菌にはある種の生態系があって、醤油を造っているのは彼らなんです」と、山本さんは語ります。
現在、醤油を仕込む際の桶はFRP(繊維強化プラスチック)やホーロー、ステンレスが主流ですが、今もなお昔ながらの木桶で仕込んでいる蔵元さんがわずかながら残っています。ヤマロク醤油さんもその1つ。
適切に手入れをしないと箍(たが)が緩んだり、カビが生えたりと管理が難しいのですが、木の隙間に菌が棲み付き、蔵独自の味(「蔵ぐせ」と呼ばれる)が生まれるのが魅力です。
なんと、ヤマロク醤油さんには木桶の中でも“エースの桶”があるそうで、一番入口の人目につく桶は、おいしい醤油に仕上がるそう。一方、人目につきにくい奥の方の桶は、風味が少々劣るそうです。
これを山本さんは「菌には意識がある」と表現します。やっぱり、菌も人に注目されると気分が良いのでしょうか…! 目に見えない菌の世界に思いを馳せられるのも、木桶仕込み醤油の魅力ですね。
私も自分で醤油を仕込んでみて分かったのは、仕込み自体は(麹さえ手に入れば)非常に簡単なものの、その後の発酵のコントロールが難しいことです。
温度管理や混ぜるタイミングなど、仕込んだ後が醤油造りの本番。ここから菌をどう育てるかが重要なのですね!
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醤油を使いこなそう! 5種類の醤油と使い方
醤油は、農産物や畜産物の品質保証に関わる制度「JAS規格」により5種類に分類されています。それぞれの醤油の特徴を知り、上手に使いこなしましょう!
■どんな料理にも合わせやすい「濃口醤油」
醤油の生産量のおよそ8割を占める『濃口醤油』は、あらゆる料理に使える万能醤油。江戸っ子の嗜好に合う醤油として生まれたのち全国に広まり、現在は全国で生産、消費されています。
●おすすめ料理●
味のバランスが良く、お刺身、焼き鳥のたれ、煮物、焼物、汁物など、基本的にどんな料理にも使えます。
■出汁との相性抜群。西日本で定番の「淡口(うすくち)醤油」
料理の色を綺麗に仕上げられる『淡口(うすくち)醤油』は、兵庫県で生まれ、京料理とともに発展していきました。主な消費地は西日本です。
●おすすめ料理●
素材の味や色を活かしたい料理に最適で、出汁と相性が良いのが特徴です。お吸い物や茶碗蒸し、野菜の煮物、お浸しなどにぴったり。なお、色は淡いものの、濃口醤油よりも塩分濃度が高いので調理の際はご注意ください。
■とろ〜り濃厚。”醤油”で仕込んだ「再仕込醤油」
醤油を仕込む際に、塩水ではなく濃口醤油を使い、いわば“醤油で醤油を仕込んだ”のが『再仕込み醤油』。
普通の濃口醤油の2倍の材料と歳月がかかった、濃厚な旨みを持つ、とろりとした醤油です。色は黒々としていますが、意外にも濃口醤油よりも塩分濃度は低いです。
●おすすめ料理●
お刺身につけるなら、マグロなどの赤身魚がおすすめ。ソース代わりにも使えるので、豚カツにかけたり、濃厚さを活かしてすき焼きの割り下にしたり。魚の煮付けにもぴったり。カレーの隠し味として少量入れると、グッとコクが出ます。
■あっさりとした味わいに小麦の香ばしさ香る「白醤油」
淡口醤油よりもさらに色が淡い『白醤油』は、主に愛知県で生産されており、関西を中心に消費されています。白醤油に出汁や甘味を加えたものは、「白だし」として親しまれています。
旨みは控えめのあっさりとした味わいですが、原材料のほとんどが小麦のため甘味が強く、小麦の香ばしい香りがするのが特徴です。
●おすすめ料理●
色を綺麗に仕上げたい料理に適しており、だし巻き卵や茶碗蒸しなどの卵料理、お吸い物、炊き込みご飯、お浸しなどにおすすめです。
■濃厚ながらも香りは控えめ。「溜醤油」
大豆を主原料とした『溜(たまり)醤油』は、東海地方を中心に生産、消費されている、地域に根付いた醤油です。元々は、同じ東海地域(特に愛知県)で造られている豆味噌から滲み出た液体が原型であるとされています。
旨みが強く、とろりと濃厚なのが特徴ですが、小麦がほとんど使われていないため、香りはやや控えめです。
●おすすめ料理●
地域性の強い醤油のため、三重の「伊勢うどん」、愛知の「ひつまぶし」や「きしめん」など、東海地方の郷土料理に欠かせない存在です。
照り良く仕上がるため、肉や魚の照り焼きや、焼き餅、たれなどにおすすめ。グツグツ煮込んでも味が崩れないため、煮込み料理にも。再仕込醤油と同じく、カレーの隠し味にもバッチリです。
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他にもある! 個性豊かな醤油たち
■グルテンフリーの「そら豆醤油」
そら豆が原料の「そら豆醤油(高橋商店/香川県)」は、大豆や小麦アレルギーの方向けに開発されたそう。
そら豆には、醤油を造るために必要なたんぱく質とデンプンがバランスよく含まれているため、大豆や小麦を使わなくても普通の醤油に近い風味に仕上がるのだそうです。味わいは普通の醤油と遜色なく、そら豆の香りもほとんどありません。
■原料がコオロギ!?「 コオロギ醤油」
主原料がコオロギという、衝撃の「コオロギ醤油(桝塚味噌/愛知県)」は、今コオロギラーメンで話題を集めている創作料理店「ANTCICAD(アントシカダ)」プロデュースによるもの。
なんと、1本あたり約482匹のコオロギが使われているのだとか。旨みが強く魚醤に近い風味が特徴で、出汁がわりにも使えます。
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醤油の甘辛ダレを絡めて。サクふわ! れんこん入り月見つくね
「れんこん入り月見つくね」のレシピ
今回は、醤油の香りと旨味を活かした、ご飯もお酒も進むレシピをご紹介いたします! 濃口醤油はもちろん、溜醤油や再仕込み醤油で作るのもおすすめですよ。(料理監修 / 真野遥)
- 材料(2人分)
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鶏ひき肉 …200g
れんこん …50g
長ねぎ …8cm
青じそ …5枚
しょうが …1かけ
卵 …1個
片栗粉 …大さじ1/2
酒 …小さじ2
塩 …小さじ1/3
サラダ油 …適量<調味料A>
醤油 …大さじ1と1/2
みりん …大さじ1と1/2
砂糖 …小さじ2
作り方
れんこんは半分をすりおろし、残り半分をみじん切りにする。長ねぎ、青じそはみじん切りにする。しょうがはすりおろす。卵は卵黄と卵白に分けておく。
ボウルに鶏ひき肉と酒、塩を入れ、手でこねる。粘りが出たら、すりおろしたれんこん、卵白、片栗粉を加えてこねる。みじん切りにしたれんこん、長ねぎ、青じそ、しょうがを加えてさらにこねる。手に油をつけ、8等分に丸める。
フライパンにサラダ油を熱し、2を並べる。片面こんがりと焼けたら蓋をして、弱火で5分焼く。ふっくらと焼きあがったら一度皿に取り出す。
フライパンをペーパータオルでさっと拭いたら、<調味料A>を入れて中火にかける。水分が飛んでとろみがついたら火からおろし、3を戻し入れてタレを絡める。
器に盛り、卵黄を添えて完成。
\きょうの日本酒/
醤油ベースの甘辛いタレには、熟成酒が相性抜群。『睡龍 生酛純吟(久保本家酒造/奈良県)』は、蔵元で数年熟成されたお酒で、熟成由来のビターな風味があり、醤油の香ばしさと見事に調和。
お燗にすると、ふっくらとした芳醇な味わいになり、お肉のジューシーさを引き立ててくれます。お気に入りの醤油で作ってみてくださいね!
定番の聞き慣れた種類から、個性的なものまで。違いを楽しみながら、醤油の新たな魅力を発見してみてはいかがでしょうか?
**参考文献**
「醤油本」(高橋万太郎、黒島慶子/玄光社)
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