豆知識 2021.07.14
【やさしい発酵図鑑vol.13】漬物の種類と違いを解説! 自宅でできる「三五八漬け」レシピも
こんにちは、発酵料理家の真野遥です。
やさしい発酵図鑑は、今回で最終回になります!これまで楽しく書かせていただき、本当にありがとうございました。よろしければ、是非最後までお読みいただけましたら嬉しいです。
さて、今回のテーマは「漬物」です。
最終回にしては地味なテーマに思われるかもしれませんが、漬物はその土地の気候風土がよく現れており、多様性に富んでいて非常に面白い発酵食品なんですよ!
さらに、発酵食品には漬物に起源を持つものや、その特性を持つものも多く、発酵をキーワードにすると、漬物のイメージがガラリと変わるはずです!
漬物=発酵食品ではない! 「発酵漬物」と「無発酵漬物」の違い
漬物の歴史は古く、最も古い記録として残っているのは奈良時代ですが、実際は縄文時代〜弥生時代などの有史以前から存在したのではないかと考えられています。
元々は食材を塩で漬けて保存したのが漬物の始まりですが、時代とともにどんどん発展・多様化していきました。
漬物は種類が多いため、様々な分類方法があるのですが、そのうちの1つに「発酵しているかどうか」による分類があります。
漬物=発酵食品というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、漬物には「発酵漬物」と「無発酵漬物」があります。その違いは、微生物が関与しているかどうかです。
乳酸菌や酵母で発酵する「発酵漬物」
【代表的な発酵漬物】ぬか漬け、たくあん、白菜漬け、しば漬け、すぐき漬け、高菜漬け
ぬか漬けは最も代表的な発酵漬物で、乳酸菌や酵母、酪酸菌など様々な微生物が関与することで、複雑な風味が醸し出されます。たくあんもぬか漬けの一種ですね。
そして、白菜漬けやしば漬けなどは、主に乳酸菌が関与した発酵漬物です。
発酵漬物には乳酸菌が関与したものが多く、乳酸菌が増殖することで食材が酸性になり、雑菌が繁殖しにくくなるため、保存性が向上します。
なぜ乳酸菌だけが都合よく増えるのかというと、漬物に関与する乳酸菌は高い塩分濃度でも生育することができるからです。また、乳酸菌は酸素がない環境を好む(嫌気性)ため、食材を塩で漬けて重石をして空気を遮断すると、他の雑菌は死滅し、乳酸菌だけが増殖するのです。
乳酸発酵漬物には、乳酸菌の特性がうまく活かされているのですね。
微生物が生育しない「無発酵漬物」
【代表的な発酵漬物】浅漬け、らっきょうの甘酢漬け、梅干し
数時間だけ塩に漬ける浅漬けには微生物が関与していません。また、甘酢漬けは酢の酸により微生物が生育できず、梅干しのような塩分濃度の高い漬物も微生物が生育できません。
“酸の防腐作用を活用する”という点は、乳酸菌が関与する「白菜漬け」や「しば漬け」と同じ原理ですが、”何によって酸を用いるか”が違うのですね。
◾発酵食品を使った”無発酵漬物”!?
ちなみに、「麹漬け」や「酒粕漬け」「味噌漬け」などの、漬け床自体に発酵食品を使った漬物は、一般的に無発酵漬物へと分類されます。
麹や酒粕や味噌など、漬け床自体は発酵食品であるものの、それらの力を使用して漬けることで食材を直接的に発酵させるわけではないためです。
ただ、発酵由来の風味が食材に移ることで、浅漬けなどとはまた違った味わい深い漬物になる上、発酵漬物よりも手軽に安全に作りやすいため、家庭で作る漬物としてオススメですよ!
【豆知識】野菜だけじゃない!? 肉も魚も漬物に
「漬物」と言うと一般的には野菜の漬物を表すことが多いですが、肉も魚も、果物や海藻だって、なんでも漬物になります。
例えば、北陸で親しまれている「へしこ」は、魚を塩漬けにしたのち、米ぬかに漬けて発酵させたもの。滋賀県の「鮒鮓(ふなずし)」に代表される「熟鮓(なれずし)」も、塩漬けにした魚をご飯で漬けて発酵させたもの。いずれも「漬物」と言われることは少ないですが、立派な発酵漬物です。
また、塩辛や酒盗のように、魚介類を内蔵と塩と一緒に漬け込んだ食品も漬物の一種と言えます。さらには、「いしり」や「しょっつる」のような魚醤も、それ自体は漬物ではありませんが、魚を塩漬けにして保存したことに起源を持ちます。
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魚醤に関する記事はこちら
【やさしい発酵図鑑vol.4】タイ料理だけじゃない!魚の旨味たっぷり「魚醤」のおいしい使い方
このように、発酵食品と漬物は密接な関係にあり、野菜の漬物以外に目を向けてみると、さらに漬物の世界が広がりますよ!
個性豊かな日本全国の発酵漬物
南北に長く、四季のある日本には各地に様々な漬物が存在しますが、「発酵漬物」に焦点を当てて、日本でも代表的な種類をいくつかご紹介いたします!
<京都の発酵漬物>
古い歴史を持つ京都には様々な漬物があり、中でも「しば漬け」「すぐき漬け」「千枚漬け」は、「京都三大漬物」と言われており、なんと全て発酵漬物なのです。
・しば漬け
茄子やきゅうりなどの夏野菜を赤紫蘇とともに塩で漬け込み、重石を乗せて発酵させた、大原地区の伝統的な漬物。赤紫蘇の色が乳酸発酵により綺麗な紫色に染まった、香り豊かな酸っぱい漬物です。
・すぐき漬け
上賀茂地区の伝統野菜「すぐき菜」を塩で漬け込み、しっかりと重石をして水分を抜いたのち、暖かい室(むろ)で発酵させた漬物です。室で発酵を進める方法は大変珍しく、すぐき漬けには特有のうま味と酸味があります。乳酸菌飲料やサプリメントとしても販売されている「ラブレ菌」は、すぐき漬けから発見された、植物性乳酸菌です。
・千枚漬け
聖護院かぶを使った甘酸っぱい漬物。元々は、聖護院かぶと昆布、塩を原料に乳酸発酵させた漬物だったそうですが、現在は甘酢漬けが一般的です。
<長野県の発酵漬物>
・すんき漬け
漬物には基本的に保存性を高めるために塩が使われますが、なんと長野県の木曽地方には塩を使わない「すんき漬け」という発酵漬物があります。
赤カブの茎を湯通しして雑菌を死滅させ、乳酸菌だけを増殖させて作られます。木曽地方では塩が貴重品であったため、塩を使わずに野菜を保存する方法が生まれたそうです。
<奈良県の発酵漬物>
・奈良漬け
酒粕を漬け床にした漬物です。伝統的な製法の奈良漬けは、塩漬けにした瓜などの野菜を熟成粕に何度も漬け替え、数年かけて作られますが、現在はそのような伝統製法は希少な存在となっています。
【番外編】全国で種類はさまざま! 魚をご飯や米麹で漬ける「熟鮓(なれずし)」
(手前ははす子の熟鮓、奥は鮒寿司)
鮒鮓(ふなずし)で有名な熟鮓(なれずし)は、魚をご飯や米麹で漬けて作る乳酸発酵漬物で、全国各地に様々なものが存在します。
北海道の「飯寿司(いずし)」は熟鮓の一種で、ニシンなどの魚と人参などの野菜を米麹に漬けて乳酸発酵させたもの。
石川県の「かぶらずし」も、かぶの塩漬けにブリの塩漬けを挟んで米麹で漬け込んで発酵させた、熟鮓の一種です。
その他にも、和歌山県の「秋刀魚の熟鮓」や、福井県や滋賀県の「鯖の熟鮓」、岐阜県の「鮎の熟鮓」など、日本全国に様々な熟鮓が存在します。
熟鮓は、元々は東アジアから伝来した保存食で、私たちが現在食べているような「寿司」の原型になったもの。熟鮓のように乳酸発酵させる代わりにお酢で酸味を付けたのが、現在の寿司の始まりです。
発酵漬物の文化は、現在の私たちの食文化に深く関わっているのがよく分かりますよね。
ほっこり優しいおいしさ! 漬け床から作る「三五八漬け」のレシピ
「三五八漬け」のレシピ
寒さの厳しい東北地方では、保存食として生まれた様々な漬物が存在し、中でも「麹漬け」の文化が根付いているのが大きな特徴です。
特に有名なのは「三五八漬け」で、福島県や山形県、秋田県などを中心に親しまれています。
元々は<塩:麹:ご飯>を<3:5:8>の割合で漬け床を作ることが名前の由来だそうですが、この比率だと塩辛いため、現在はこの比率よりも塩分控えめなレシピが一般的です。
今回は、そんな三五八漬けの作り方をご紹介いたします!
三五八漬けの漬け床は塩麹によく似ていますが、塩麹とは異なり”炊いたご飯”を使うことと、塩麹と比較して水分量が少ないのが特徴。炊飯器の保温機能を使って簡単にできる三五八漬けの漬け床の作り方を紹介します。
- 材料
-
【作りやすい分量】
・米…1合
・米麹(乾燥)…200g
・塩…50g
・好きな野菜
作り方
米は洗って30分以上浸水させ、普通の水分量で炊く。
炊き上がったご飯に水150ml(分量外)を加えて混ぜ、米麹を加えてよく混ぜる。
※生の米麹を使う場合は水を50mlに減らしてください。
平らにならし、炊飯器に濡れ布巾を乗せる。蓋が半開きになるようテープで止め、保温ボタンを押して8時間ほど置きます。できれば途中で1〜2回ほど混ぜ、布巾を再度水で濡らすと良いでしょう。最後に塩を加えて混ぜれば完成です。その時、熱くなっているので、やけどに注意してください。
この漬け床をさらに1〜2週間ほど常温で熟成させてから使うと、うま味が増して更に美味しいですよ。
※熟成中は、表面が空気に触れないように、ぴったりとラップをしてください。
現在はすぐに使える市販品も多いですが、手軽に手作りできますので是非お試しください。
完成した漬け床は容器に移して冷蔵庫で保管し、お好みの食材を漬けてください。野菜の場合はそのまま容器に漬けても良いですし、ビニール袋に移して漬けてもOK。
初めの頃は塩分濃度が高いので、キュウリなどの水分が多くて漬かりやすい食材は3〜4時間程度で十分漬かります。人参などの硬い野菜は半日程度漬けるのがオススメです。
だんだん野菜から水分が出て薄まってくるので、漬け時間をもう少し長くすると良いでしょう。
ミニトマトを漬ける場合は、2〜3箇所に切り込みを入れると味がしみこみます。アスパラは、さっと茹でてからでも、生のまま漬けてもおいしいですよ。
ふっくら柔らか食感に。肉や魚を漬けるのもおすすめ!
ご飯と麹の甘味とうま味がきいた、やさしい味わいの「三五八漬け」。野菜を漬けるのはもちろん、肉や野菜を漬けると麹の酵素の働きでふっくら柔らかくなりますよ。
肉や魚を漬ける場合は、必ず野菜類とは別に漬け床を取り分けて漬けてください。ジッパー付きの保存袋に入れて、冷蔵庫で一晩ほど漬けると良いでしょう。
魚の三五八漬けは、ふっくらと焼きあがって絶品です。鮭や鰆など、お好みの魚の切り身で是非どうぞ。朝ごはんにピッタリですよ。
鶏むね肉の漬け方
鶏むね肉は、フォークで全体を数カ所刺してから、一晩ほど漬けましょう。
30分ほど常温において室温に戻したら、油を敷いたフライパンで皮目をさっと焼きます。裏返したら酒(大さじ1)をまわしかけ、蓋をして弱火でさらに7分ほど蒸し焼きにし、火を止めて5分ほど置き、余熱でじっくり火を通せば完成。
しっとり柔らか、ジューシーなチキンステーキの完成です!
<三五八漬けをおいしく食べるポイント>
・使っているうちに、野菜から水分が出て漬け床の塩分が薄まり水っぽくなります。味を見て塩を加え、ご飯や麹を足して水分量を調整してください。
・適切な塩分濃度と水分量を保てば、1ヶ月以上使うことができます。
・嫌な匂いや味がしたら廃棄するようにしてください。
・肉や魚を漬けた後の漬け床は再利用しないことをオススメしますが、スープなどの味付けに使うと美味しいですよ(魚の漬け床は臭いがあるので注意が必要)。
そのほかにも、ゆで卵やアボカドなどを漬けても◎。ぬか漬けにできるような食材はなんでも漬けられますよ!
\きょうの日本酒/
三五八漬けには、ふっくらとした米の味わいのある純米酒を。三五八漬けがよく食べられている秋田県横手市の「まんさくの花 巡米 秋田酒こまち70(日の丸醸造/秋田県)」は、米のジューシーな甘味が感じられるお酒。
米の優しい甘味とうま味がしみ込んだ三五八漬けをポリポリとかじりながら、ちびちびお酒を味わうのは、なんともノスタルジックで至福のひとときです。
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発酵は、特別なものではなく、実はとても身近なもの。みそ、醤油、酢、みりん、納豆、鰹節など、これまでやさしい発酵図鑑で取り上げた発酵食品たちも、身近なものばかりだったかと思います。
これまでのバックナンバーはこちら
普段はあまり意識しないけれど、これらの発酵食品には先人の知恵と工夫が詰まっており、何世紀もの長い歴史を生き抜いてきた精鋭たちなのです。そんな彼らが現代の私たちの食卓にのぼっていると思うと、感慨深いものですね。
このコラムを通じて、そんな身近な発酵食品の魅力や実は面白い一面を、少しでも感じていただけたら嬉しいです。またいつでも本棚の図鑑を開く感覚で、このコラムを覗いてみてくださいね。
これからも、発酵がみなさまの食卓を彩りますように。これまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
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