読み物 2016.04.18
第6話 「現役!おばあちゃんはスナックのママ」
【登場人物】
おかっぱちゃん…28歳、イラストレーター。いつもふざけてばかりいる末っ子。趣味はひとり旅。
ういち(母方の祖父)とりこ(母方の祖母)…品川でスナックを営む現役のマスターとママ
第6話 「現役!おばあちゃんはスナックのママ」
何を隠そう、わたしの母方の祖母はスナックのママだ。
“ママだった”ではない、いまだ現役で働いている。
そして、店のマスターはというと、誰かを雇っているわけでもなく、祖母よりも歳が6つも上の祖父だからさらに驚く。
現役77歳のママと、83歳のマスター。
もともとテーラーだった祖父は、既製品のスーツが出回り始めた年に店を閉じ、カラオケ好きが高じてスナックを開いたのだった。しかも祖父が還暦を過ぎてからのスタート。「第二の人生」がスナックのマスターとママとは粋だなぁと思う。今思えば、その歳から店をいちから始めるなんて、今思えばすごいことだ。
20年以上も続く、スナック。
祖父母の年齢だけ聞くとヨボヨボの老人が営んでいるように思えるが、祖父母の足腰はしっかりとし、背筋もピシッとしている。しかも、祖母は瓶ビールをしこたま呑めるほど酒に強い。若者と同じペースでじゃんじゃか呑めるほどだ。
一方、マスターの祖父はダジャレが得意中の得意で、口を開けばすぐに冗談を言う。
もうそろそろボケてきてもおかしくはない年齢なのに、祖父は根っからの芸人気質でお客さんをいつも笑わせている。
わたしは幼少期からこの祖父からダジャレを仕込まれてきたので、客人を前にどうボケるか、どうつっこむか。いかに楽しませるか。など、まるで大阪で育ったような客人をもてなす性分が体に染み付いている。
それと同時に、お客さんの歌に合わせて常に手拍子をしていたものだから、友達とカラオケに行った際にも手拍子をしながらついつい「あっ よいしょ~!」などのかけ声をいれてしまう。
そんな祖父母のスナックは品川区の小さな商店街にある。
店内には青いベロアのソファーが20席ほどあり、天井にはくるくると回る小さなミラーボール。壁には胸元が大きく開いたセクシーなマリリン・モンローの絵が飾られ、昭和の香りがプンプンと漂っている。飲み放題&歌いたい放題でなんと2500円。そんな安さでよくここまで続けて来れたものだ。
スナックといえば、やはりカラオケ。店にももちろんあるのだけど、祖父母のスナックはただのカラオケスナックではない。お客さんの平均年齢は75歳。若者の出入りといえば、孫のわたしくらい。
マスターの祖父は言う、
「カラオケして棺桶はいろう!」
これも祖父が得意とするダジャレのひとつで、年老いたお客さんに向かって放つ“謳い文句”である。それを聞いたお客さんは「いやいや、まだ死ぬわけにゃいかねえよ~!!」と、笑いながらまた元気に1曲歌いだすという流れ。
「カラオケして棺桶はいろう」を唱え続けるマスター。
縁起でもないダジャレだけれど、孫のわたしは大好きな祖父母にいつまでも、いつまでも、このスナックで好きな歌を歌い続けてほしいと思っている。
次回は第7話「誰か止めて!お父さん、柿の木と戦う」をお送りします。
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