対談 2016.04.30
KIKIさん×野川かさねさん|この春おすすめの登山スポットと「山ごはん」の魅力
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- KIKI
- 東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。雑誌をはじめ広告、TV出演、連載の執筆、近年では自身の写真展『PRISMA』シリーズを発表。また芸術祭に作家として参加するなど活躍の幅を広げている。NTV「ゆっくり私時間 ~my weekend house〜」レギュラー出演中。著書に「山が大好きになる練習帖」(雷鳥社)「美しい山を旅して」(平凡社)スタイルブック「KIKI LOVE FASHION」(宝島社)など多数。5月に登るのにおすすめの山は「天城山」(静岡)
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- 野川かさね
- 1977年生まれ。山や自然の写真を中心に発表を続ける。写真集に「山と鹿」(ユトレヒト) 、 「Above Below」など。著書に「山と写真」(実業之日本社)、共著に「山と山小屋」(平凡社)、「あたらしい登山案内」(ピエブックス)など多数。自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動中。5月に登るのにおすすめの山は「霧ヶ峰」(長野)
- Kasane Nogawa
東京下町のとある街角にひっそりと佇むアマノ食堂。この店に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けします。第18回の対談テーマは、登山の醍醐味の一つでもある「山ごはん」について。
今回のゲストは、モデルとしてだけでなく登山愛好家としての一面も持つKIKIさんと、「noyama」の一員としても活動する写真家・野川かさねさん。春・夏・秋・冬と、さまざまな表情を見せてくれる日本の“山”。そんな自然の中で楽しむ“山ごはん“の魅力と、おすすめの登山スポットを教えていただきました!
—「山が好き」という共通点があるKIKIさんと野川かさねさん。実はプライベートでも仲の良い登山仲間なのだとか。まずは、お2人が思う山の魅力&楽しみ方を教えてください。
かさねちゃんと出会ったきっかけは「山」。私は周りの友人に誘われて山に行くようになったんですけど、そこでかさねちゃんと出会いました。お互い「山が好き」という共通点があったので、そこから自然と一緒に山に登ったり旅行へ行くような仲に。
一番初めは「屋久島」に2人で遊びに行ったよね?
そうそう、20代の頃ね。懐かしい!かさねちゃんはその時から写真を撮っていたよね。
山には私の撮りたいものがすべて詰まってる
(野川かさねさん)
カメラを始めた当初は、東京の“街“をテーマに作品を撮っていたんだけど…いろんな植物園をテーマに撮影している時期に、ふと「私には花や植物、自然をモチーフにするほうが合ってるかも」って気づいたんだよね。山に行けば、自分の撮りたいものが全部あるような気がして。そこからかな、山の写真を撮るようになったのは。
かさねちゃんって、花や植物の名前をたくさん知っていて本当に詳しいよね。
母親が植物に詳しくて、昔から道に咲いている植物を見つけると「これは◯◯という花だよ」って名前を教えてくれていたんだよね。小学校の自由研究でも、母親と一緒に草木染めや押し花をやってたな〜(笑)。小さい頃からずっと植物が身近にあったから、それも影響しているのかも。
道に咲いている花や庭木の名前を知っている人って意外と少ないもんね。私もなるべく覚えるようにしてはいるけど、かさねちゃんはすごいな〜っていつも思うよ。
嬉しい!特にここ5年くらいは、山に行くと植物を見たり撮ることが一番の楽しみになりつつある。ちょっとおばあちゃんぽいかな(笑)。人によっては歩くことや高い所まで登るとか、それぞれ楽しみ方があると思うんだけど、KIKIちゃんは登山していてどんな時が楽しい?
山での過ごし方って人それぞれ
どこに比重を置くかで楽しみ方が変わる
(KIKIさん)
写真を撮ったりもするけど、基本的にはいろんなことを平均的に楽しんでいる感じかな。一言で“山に登る”と言っても、登ることがメインの人もいれば、きれいな景色を見るためとか。楽しみ方は一つじゃない。私の場合、どこに比重を置くかは登る山や季節によっても変わるかも。
今はどこに一番比重を置いているの?
最近は、山に登った時にその場所でしか見られない珍しい花を見つけると嬉しくなる。あと、登山地図を見ることが好きだから“道”にもこだわってる。地図には山の歩くべき道が記されているけど、その中でも点線になっている「波線ルート」って呼んでいる不明瞭な道があって。そういう場所は、笹株に覆われていたり、途中に大きな岩があったりするのね。一般的な道じゃなくても、仲間と一緒に「どうやって行こうか?」とか、「こんな対処をしよう!」って話し合いながら、ちょっとしたサバイバル感覚で登るのも楽しいかな。
—お2人は登山紀行『山・音・色』(山と渓谷社)という本を一緒に作られていますよね。一緒に山に登った中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
この本を作る以前から、プライベートでかさねちゃんと一緒に山へ行くことはあったけど、仕事としては初めてだったからとても印象深いです。
それぞれ山に関わる仕事をしている私達を見た編集の方から、「一緒に何か作ってみたら面白いんじゃない?」って考えていたようで、それでお話を頂いたことがきっかけです。
実際に旅した山々での出来事や感じたことをそのまま文章と写真で表現しているんです。山によって見るべきものや楽しむべきものがあるので、それぞれのテーマを山に登った後に決めました。北八ヶ岳のテーマは「雪」、八丈富士のテーマは「島」みたいな感じで。
KIKIちゃんの中で印象に残っている場所はどこ?
この本がきっかけで、長野の「北八ヶ岳」はよく行くようになった!北八ヶ岳には山小屋がいくつかあるけど、それぞれの山小屋のご主人が個性的だったのが面白かったな。もちろん山の頂上を踏む達成感とか景色も素敵だけど、人との出会いも大きな楽しみの一つ。かさねちゃんはどう?
どこだろう…いっぱいあって迷っちゃうなぁ。毎回どこへ行くのか、どんなことをするのかを決めてはいたけど、なかなか予定通りにはならなかった。そういうのも含めて楽しめたかな。
伊豆諸島の“八丈島”に行った時も天気がすごく悪くて大変だったよね。「八丈富士」って呼ばれているきれいな山を見に行ったのに…結局、山は姿を見せなくて。一応登ったけど、大自然ってそういう予期せぬことが起きるよね。
そうそう。あの時はものすごい暴風雨でね。ビショ濡れになっちゃって(笑)。
でも、実際に行ってきれいな景色が見えないとか、劇的なことが起きなくても、山に行くとすべてが物話になる気がするんだよね。
旅も、登山も、日常も
目的を達成することがすべてじゃない
(KIKIさん)
何を達成したかじゃなくて、その場所で自分が何を見て、こう思って、どう感じたかという“山で過ごした時間”を大事にする。この本は、そういう気持ちで私が写真を撮り、KIKIちゃんが文章を書いて作り上げた1冊なんです。
例えば旅も、目的を達成できなくても、その旅は失敗じゃなくて何かしらの“意味”がある。山や日常生活だって同じ。そう思うことで何が起きても楽しめるし、対処法も考えられるようになると思う。たとえ目的地に辿り着けなかったとしても、そのプロセスごと楽しむというか。
うん。意外と「山」と「日常」って通ずる部分がたくさんあるよね。
あと、登山中に天気が悪くなってきた時、かさねちゃんが「雨が降ってきたから今日はもう撮らない!」ってオフモードに切り替えていたのも印象的。なんかそういうの、いいなって思った(笑)。
カメラを持たずに山に行くことないから、私の中ではオンとオフの境目ってないんだよね。
山ってオンとオフがあるようでないのかも。登っている途中さえも無駄になることなんてないし、流れるすべての時間に意味があるんだと思うな。
そうだね。本当の意味でのオフって、お酒を飲んでる時くらいかも(笑)。
—そんななかでも、食事は緊張をほぐしてくれるリラックスタイムでもありますよね。今まで数々の山を登ってきたお2人にとっての、“忘れられない山ごはん”はありますか?
忘れられない山ごはんは
KIKIちゃんが作ってくれた「角煮丼」
(野川かさねさん)
一緒に山に行くと、いつもKIKIちゃんが料理を作ってくれるんです。今まで作ってくれた料理はどれもおいしかったけど、なかでも印象深いのは「角煮」。おいしくて今でも忘れられない!
手作りの角煮を真空パックにして持っていくんです。その角煮をカレーや中華丼にも入れてアレンジしたりもできるからおすすめです。
これは、本当に絶品ですよ!
冬の尾瀬で食べる「鍋」は絶品!
(KIKIさん)
私は尾瀬の「尾瀬ヶ原」で食べた鍋かな。冬の尾瀬ヶ原は、積もった雪の中で生肉を冷やしておけるんですよ。以前行った時にその冷蔵方法を活用して、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋を作りました。味付けに唐辛子、鶏ガラスープを入れて。日本酒で煮ると、さらに体もあったまるから寒い時期にぜひ試してみてほしいです。水の量はお好みで調整して。
でもたしか、あの時は日本酒オンリーだったよね(笑)。
そうだったかも(笑)。最後はラーメンでシメてね。
ホロ酔いで幸せな気分になったな。
あと、疲れていると、自分の思った通りに食べられなかったりするじゃない?そんな時に山の上で食事のバランスを考えるのも楽しいんだよね。最終日の楽しみのために我慢して「この時のために卵はとっておいた!」とかね。
そうそう。ご褒美的な感じで。
山に食材や調理器具を持って行くと、荷物が重くなるから食べる順番って難しい。泊まりで行く時は上手く調整しながら、いかにおいしく、楽しく、そして荷物を軽くできるかを考えています。そういえば…かさねちゃんは山小屋で台所の写真もよく撮っているけど、それはどうして?
うん、いつもこっそり隅のほうで撮らせてもらってる。“台所”っていう場所にすごく惹き付けられるんだよね。台所は表側に出るものじゃなくて、その場所のいわゆる内側の部分でしょ。だから、それぞれの山小屋に特徴がある。これまで日本に限らず、ネパールとか世界各国で山小屋の台所を撮影してきたけど、やっぱり全部違うの。今は台所を見ると、どんな山小屋なのかがわかるようになったよ。
へぇ!そういう違いを楽しめるのは面白いよね。あと、お米のおいしさにも山小屋によって違いが出る気がする。
山でしか味わえない“おもてなし”が心地良い
(野川かさねさん)
圧力鍋を使っているとか…ちょっとした違いで、お米のおいしさも変わるよね。でも、山小屋の人って、そういう細やかな工夫とか食材にもこだわっているのに大っぴらには言わないじゃない。一見、街のホテルよりも不便に感じるかもしれないけど、山でしか味わえない“おもてなし”が私にとっては心地良い。
私の中で伝説になっているのが、八ヶ岳にある「縞枯山荘(しまがれさんそう)」のごはん。あれは本当においしかった!
わかる!あれは、ぜひ直接行って堪能してほしいね。たしか最近は新しいメニューでマリネもあったよ。あと、北八ヶ岳の「しらびそ小屋」では、この前みんなで餃子を作ってた!そういう山小屋ならではの手料理を味わえるのも、山登りの楽しみの一つなんだよね。
—その山小屋ならではの料理を堪能する。それが登山の楽しみの一つでもあると話すお2人。その他にも、山ごはんの楽しみ方ってありますか?
「おいしさ」=味だけじゃないと思うんです。誰と食べるか、どう食べるか、人と人との時間も「おいしさ」を左右する大事な要素。だから、山でも家でもなるべく誰かと一緒に楽しくごはんを食べたいなと思っています。
KIKIちゃんは食べるの好きだもんね。
大好き!かさねちゃんも食べるの好きだなって思うけど、こだわる部分は少し違うのかな?
私の場合、写真を撮っているせいか食材や料理の“視覚的なおいしさ”も重視しているかも。「とうもろこしの粒がきれいに並んでいるな〜」「茹でたら色が変わったな〜」とか、料理の彩りや食材が気になったり、惹かれることが多い。この間フキノトウを食べた時も、「色が淡くてきれいだなぁ」って幸せな気持ちになったりね。
—澄んだ空気の中で、訪れた先の食材を食べる“山ごはん”の味は格別ですよね。これから山登りシーズンが始まりますが、初心者でも楽しめるおすすめスポットはどこですか?
伊豆半島の「天城山」は
昔ながらの風情があって楽しみ方も色々
(KIKIさん)
おすすめは、静岡・伊豆半島にある「天城山(あまぎさん)」かな。この前ちょうど登ったんですよ。
お〜。渋いね。
いくつか連なっている山の全体を「天城山」って言うんですけど、山中の緑やブナがきれいな“尾根道“を眺めながら歩けるからおすすめですよ。最後のゴールが小説「伊豆の踊子(川端康成)」の舞台になっている“旧天城トンネル”。昔ながらの風情があって、本当に行ってよかった。
あのあたりって、近くに温泉もあるからいいよね。
そうそう。あと、距離が長いから1日かけて登っても、出発地点に前日に泊まってもいいし。下山してから修善寺に泊まるのが個人的には一番おすすめ。修善寺のほうに下りるとトンネルがあって、その手前にわさび田があるんです。わさびってこういう風に作られているんだって感動しました。帰りはお土産でわさびや干物を買って…楽しかったなぁ。
いいね。
春の山って4月くらいでも雪がまだ残っていることがあるんです。でも、伊豆は大丈夫!5月はシャクナゲやツツジの花がきれいだし、これからの季節はおすすめですよ。かさねちゃんのおすすめは?
初心者にもおすすめなのは
ハイキング気分で登れる「霧ヶ峰」
(野川かさねさん)
そうだな〜初めて登るなら、長野にある「霧ヶ峰」かな。ここも5月にはほとんど雪が溶けているし、簡単に歩けるからハイキング気分で気張らずに楽しめるんじゃないかなと。いっぱい道があって、なにより景色が素晴らしい!北アルプス・南アルプス・中央アルプス・八ヶ岳・御嶽山・富士山も見えるんです。
やっぱり富士山が見えると嬉しくなるよね。
それに“高層湿原”だから花や緑が本当にきれい!
—絶景を眺めたり、山小屋でごはんを食べたり、大切な人とゆったり過ごしたり。そんな山での時間は、お2人の活動やお仕事にどう活かされていますか?
自然の中で養った感性を
日常や仕事にも落とし込んでいく
(KIKIさん)
山に登ると心がフラットになって、日常生活がより充実したものになるんです。自然や山で過ごす時間を楽しみながら、街に戻ってきてからも自分自身の感性を養って、極めていけたらいいな。最近だと…お家の庭で育てていた山椒(サンショウ)を以前枯らしてしまったので、もう1回育ててみようかなって。とても小さなことではあるんですけど(笑)、そういった身近なことから身を持って行動して、日常生活でも仕事でも何かの形でアウトプットしていきたいです。
「山」と「街」の境目が
なくなるような表現活動を
(野川かさねさん)
山はこれからもずっと行き続けると思います。でも最近は、街にいても感じられる自然や季節の移ろいに毎日感動していて。山と街、どっちがいいとかじゃないんです。どちらの魅力も感じているからこそ、「山」と「街」の境目がなくなるような表現活動をこれからも続けていきたい。もちろん、私の中では山がメインではあるんだけど、そこからどんどん広げていけたらいいですね。
街中で自然を感じるといえば、この前お茶会に行った時にハッとしたことがあって。「茶室」っていう、お茶を出してもてなすための空間で季節を詠む。狭い人工的な空間の中でも、自然を表現する習わしがお茶の世界にはあるんです。それって、もてなす側が自然の魅力を知らないとできないことなんですよね。お茶の世界には「市中の山居(=都会にいながらにして山里の風情を味わうこと)」という言葉があるんですけど、街にいても自然を感じることができるっていうのは、すごく贅沢な考え方だなと思いました。
へぇ〜。知らなかった!素敵な考えだね。
—さて、お話は尽きませんが、そろそろ〆のお時間!本日の〆の一品は、野菜スムージーで煮込んだ「野菜と鶏肉のカレー」です。フリーズドライ食品は軽量でかさばらないことから、登山アイテムの一つとしても知られています。登山女子代表のお2人に食べた感想を伺いました。
スパイシーでおいしい!カレーは山ごはんにはもってこいだよね。あとフリーズドライだとお湯だけで手軽に食べられるのも嬉しい。
これはパンや麺にも合いそう!
うん。食パンとかタイ麺とかね。山に行ったらこのまま容器にご飯を入れても良いし、これは便利かも。
味が本格的だから普段の食事にもいいよね。こうやって器に盛りつければお家でも「私が作りました!」ってお客さんに出せる気がする(笑)。
外でも家でも楽しめるのっていいよね。「山だから」「家だから」っていう境界線なく、どっちでもおいしく食べられるのはポイントが高いです。
— 楽しいトークをありがとうございました!またのご来店をお待ちしています。
撮影協力/蓮月
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