読み物 2016.11.30
【第18回】地味と侮ることなかれ!秋の夜長の「湯豆腐利き酒」
味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。
すっかり秋も深まりまして、冷え込む夜の定番といえば鍋料理。
すき焼きをヒエラルキーの頂点として、しゃぶしゃぶやモツ鍋、チゲ鍋や薬膳火鍋など様々な鍋レシピがありますが、発酵デザイナーにとっての至高の鍋は「湯豆腐」。
「地味すぎだろ!」と突っ込まずにいられないそこのアナタ。まずは、このコタツに入って僕の話を聞いてくれないだろうか?
無味透明の湯豆腐は、利き酒するのに最強すぎる!
発酵のスペシャリストでお酒好き、しかも麹(こうじ)が専門である僕にとって、「日本酒をいかに愛でるか」は日々の重要なテーマ。
しかも、全国各地から集まった選り抜きの銘酒がセラーにぎっしり積み上がっているわけで、一度の食事で複数の日本酒を利き酒することもしばしば。
そうなると、合わせる食事は「日本酒の風味を際立たせてくれて、かつゆっくり長く食べられる淡白な料理」が理想。しかも寒い季節ならば、燗酒も楽しみたい。
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燗酒堪能したい=淡白+ゆっくり楽しめる+あったまる=???
という方程式で導かれる解は、当然「湯豆腐」となる。
発酵デザイナーの発酵オリエンテッド湯豆腐
それでは、発酵デザイナーの趣味丸出しの湯豆腐の食べ方を紹介しよう。
まず土鍋にたっぷりのお湯を張り、昆布だしを割と贅沢目に取る。そのあいだに…
- ・豆腐(僕の場合は木綿と絹の両方)
- ・白菜
- ・えのき茸
- ・長ネギ
- ・しらたき orくずきり
を適当に刻んで大皿にキレイに並べておく(ていうか見事に白色の食材ばっかりだぜ)。同時に、
- ・お気に入りのポン酢
- ・お気に入りの醤油+みりん少々
- ・お気に入りの塩+ごま油少々
- ・薬味として、かつお節&おろし生姜&練りワサビ
の三種の調味タレと薬味を用意し、これで上記の地味な食材を淡々と食べ続ける。最初に断っておくと、お酒を飲まない下戸の人がこの湯豆腐を食してもまったくもって面白くない。普段イタリアンやら豚骨ラーメンやらを食べ慣れている人にとっては、ほぼ苦行であると言えよう。
しかし! この究極に淡白かつ胃腸に負担をかけない湯豆腐は、日本酒の味を引き立てまくるのであるよ。もっと言えば、日本酒の各銘柄の持つ味の細部を映し出す鏡になる。
どんな酒も邪魔をしない湯豆腐利き酒の魔力
鍋の準備はできたかしら?
では早速、湯豆腐利き酒を始めよう。
ちょうど新酒の時期だし、まずは適度に旨口でフレッシュな宮城の特別純米酒を冷酒でくぴっと1杯。そして、木綿豆腐をポン酢につけてひとくち。
「おぉ〜、まずは新酒の香りが花開き、その後に旨味とポン酢の酸っぱさが横山やすし・西川きよしのボケと突っ込みのごとく渾然一体となったコンビネーションを見せ、その風味が木綿豆腐のテクスチャーのなかに吸い込まれていく…!」
「うまいでしかし!」
それでは次に、山形の切れ口のいい吟醸酒を同じく冷酒で飲みつつ、今度は絹豆腐を醤油+みりんにつけてひと口。
「メロンを思わせる極上の香りとともに米の旨味が広がり、しかも森の清水を口に含んだときのような清涼感と、絹豆腐のシルキーな食感の奥に、みりんのほんのりとした甘味。全盛期の立川談志師匠のごとき、このキレ、爽快感、高貴さ……!」
「やだね〜、酒に決まってんだろ!」
そして最後に、山陰の生酛(きもと)づくり純米酒の古酒を燗酒で飲みつつ、白菜とえのき茸を塩+ごま油で噛み締めてみよう。
「古酒独特の苦味とこうじ由来の甘味、スモーキーかつ濃厚な香りが白菜とえのき茸のシャキシャキ感と絶妙のハーモニーを醸し出し、しかも隠し味のごま油の風味が古酒のクセと不思議とマッチする!多種多様の風味が同時に怒涛のように押し寄せてくる…これは柳沢慎吾の『ひとり甲子園』もビックリの『旨味の同時進行』やぞ〜!」
「いい夢見ろよ!」
それじゃみんな、あばよ!!
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