読み物 2017.01.26
【第14回】「俺、それ食べていい?」
最近、「男性と一緒に食事に行った時に、キュンとしたことってありますか?」と聞かれ、一生懸命考えてみた。
……言い出せば、そりゃあいろいろと出てくる。
そもそも「キュン」以前に、食事には相手の男性を知るうえでの大事な要素がたくさん詰まっている。
店選びの段階から、メニュー選び。店員さんへの態度や、食事の食べ方。
以前別のコラムで書いたことがあるのだけれど、こちらの体調や状況などを配慮せず「自分の連れて行きたい店一択」でデートを決めているような人は、(それがどれだけ素敵な店でも)人への想像力が不足しているタイプなので先行き不安だなと思ってしまうし、食事のペースを配慮してくれない人もあらゆる場面で「マイペース」なので、場合によっては結構困りものだと思う。
なんせ食事は「本能」にとても近いところにある行為だ。普段隠している諸々が出てきやすい。
わたしは「食」と「性」にはかなりの相関性があると思っている。だから付き合う前の食事ではその男性の所作を一挙一動観察する……と、このあたりを語り始めるとどこまでも長い原稿になってしまいそうだし、なによりわたしとデートに行く男性がかわいそうになるので、多くは語らずそろそろ話を戻す。
食事は、相手を知るうえで大事な行為だ。そして諸々の「最低限」をクリアすれば基本的にはOK。さらにOKラインのその上に「キュン」があるとすれば、こちらが残した食べ物を見た時に放たれるこのセリフかもしれない。
「俺、それ食べていい?」
または「食べきれなかったら俺が食べるから頼みなよ」とか「おなかいっぱい? 俺、食べよっか?」とか。
決して大柄な人や食いしん坊な人にキュンとするのではない。この言葉には、自分の「罪悪感」や「弱い部分」をカバーしてくれる優しさがあるからキュンキュンするのだ。
***
個人的な話をすると、そもそもわたしは食事は自分で全部食べきりたい。そして、もりもり美味しそうにご飯を食べきる女子が好きだ。「そんなに食べるの?」と笑われちゃうくらいに幸せそうにご飯を食べたい。
でも、胃弱の私は、ダイエットなんかのせいじゃなく食事を食べきれないことが多々ある(胃弱というあたりに残念な匂いが漂っていることについては、この際黙っておいて欲しい)。
残してしまうことにはもちろんかなりの申し訳なさを感じていて、残してしまった際には店員さんに「決してこの料理がおいしくなくて残しているわけじゃないのです」とアピールするためにも「おいしかったです。ごちそうさまでした」と声をかけるようにしている。それほど「食事を残す」ことには抵抗がある。「ごめんなさい、ごめんなさい」と心でつぶやきながらお店を出たこともたくさんある。
それゆえ「頼みたいな〜」「食べたいな〜」と思うものがあっても「食べきれなかったら?」のほうが気になって頼めない。
ちょっと話が膨らむけれど、スペインにはじめて一人で旅行にいったときも「食べきれなかったら嫌だな」という不安が大きかったので、「持ち帰っていいですか?」という意味の「Me lo puedo llevar?」という言葉だけは暗記して、食べきれなかったら持ち帰ればいいのだと安心して食べたいものを注文した。魔法の言葉かな? と思うほど、その一言でわたしは心配事から解放された。「食べきれるかどうか」は、わたしにとって「学校で先生に当てられるんじゃないかとヒヤヒヤしている状態に近い」といっても過言じゃない。
日本では「持ち帰り」は基本的にはNGなので、一人で食事に行った時も、男性とデートで食事に行った時も、わたしの頭の中では「食べきれるか」ぐるぐると回る。この心配具合は徐々に義務へと変わり、「恋人の実家でお母様が出してくれた食事がわたしの嫌いなものだらけだった!」という時さながらの義務感で食事をこなさなければいけなくなる。
食べきれなかったものを「食べきれないから食べて」と差し出すのは残飯を渡しているようで申し訳ないし、食べきれなかった事を詫びている瞬間も苦しい。
だからこそ「やばい、おなかいっぱいかも」と思っている時に、「食べきれなかった分は俺が食べるよ」という趣旨の言葉を押し付けがましくなく言ってくれる男性は、もはや救世主。「無理しなくていいよ、俺まだ食べられるし」などと付け加えてくれたなら嬉しさレベルは頂点。
「ありがとう愛してる!一生ついていきます!」と抱きつきたくなるほどに。
大げさだなぁと思った人もいるでしょう。そのくらい「残す問題」を深刻に捉えている女が、ここにいる。
***
もしデートの段階であれば、様子を見て「おなかいっぱい? じゃあ俺それ食べていい?」と言ってあげるといいと思う。
間接キスなんかで盛り上がる年齢じゃないけど、自分が食べたものを「食べたい」と言われると正直ドキドキする。
長々と「残した食事は食べてくれー」と願望を綴ってきたので、最後はこのセリフにおける最高のシチュエーションを、こちらに好意を寄せてくれている年下男子相手で妄想して終わりたい。
***
「それ、僕食べてもいいですか?」
「え、これ? わたしすごい食べちゃったよ?」
「いいの、いいの。……このラーメンも、先輩も好きだしね」
あくまで軽く。しれっと、冗談っぽくこんなことを言われたら…………!
さすがにこんなに素敵な男性は現れそうもない。好意を寄せてくれている年下男子を見つけるのも、その男子のおなかに余裕があるかどうかも、またその男子が恥ずかしげもなくそんなセリフを言ってくれるかどうかも、考えれば考えるほど非現実的な気がしてきた。
悲しいけれど、まずはいっぱい食べられる強い胃になるのが、この理想的すぎる妄想から解き放たれる一番の術かもしれない。
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