対談 2017.03.29
中村航さん×島本理生さん|【第3回】恋に悩んだら読んでほしい!お互いが選ぶマイベスト作品
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- 中村航
- 1969年、岐阜県生まれ。小説家。2002年『リレキショ』で第39回文藝賞を受賞し、デビュー。2004年『ぐるぐるまわるすべり台』で第26回野間文芸新人賞受賞。2005年出版の『100回泣くこと』は累計85万部を突破するベストセラーとなり、2013年に映画化。『年下のセンセイ』、『世界中の空をあつめて』、『小森谷くんが決めたこと』など著書多数。2012年出版の『トリガール!』は映画化され、2017年9月に上映予定。
- 中村航 公式サイト
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- 島本理生
- 1983年、東京都生まれ。小説家。小学生から小説を書き始め、15歳で『ヨル』が「鳩よ!掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞する。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年、20歳のとき、『リトル・バイ・リトル』で受賞した第25回野間文芸新人賞は、同賞史上最年少。近著に『イノセント』、『Red』など多数。2005年出版の『ナラタージュ』は、翌年「この恋愛小説がすごい」第1位に輝き、2017年秋に映画化。
- 島本理生 Official Website
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。ゲストは中村航さんと、島本理生さん。
第2回では、お2人の恋愛観から作品への影響まで、貴重なお話が伺えました。そして迎えたラストの今回は、さらに興味そそられるお話が展開しますよ!
中村さんの最新の恋愛小説『年下のセンセイ』、島本さんの今月発売の新刊『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』のストーリーにまつわる、ここだけでしか聞けない特別談義をじっくりとお楽しみください。
—数々の恋愛小説を世に出してきたお2人。ご自身の作品のなかで、特におすすめしたい恋愛小説は?
年下男性との恋愛を描いた
『年下のセンセイ』
(中村航さん)
やっぱり今はこれですね、『年下のセンセイ』。
タイトルが良いですよね、年下の“センセイ”。
恋愛小説は僕も書きたいし、ニーズもあるみたいなんですけどあまり書けなくて。今は年に1回くらい書けたらいいなって感じ。これは出版してから1年ほど経ってるんだけど、僕にとっては最新の恋愛小説ですね。この先の構想もあって。『年下のセンセイ』は主人公である年上女性&年下男性のセンセイのお話だけど、今度はそれを男女逆転させて年下女性のセンセイ&年上男性の物語を書きたいなと思ってます。
私、年下の男性って弟みたいに思えて恋愛対象じゃなかったんですけど、この本を読んで「年下男子と付き合いたい!」と思っちゃいました。
それはいいね!年下男子(=センセイ)がいきなりある日和服で現れるシーンがあるんだけど、少女漫画作家さんに「おお!少女漫画展開!」って言われたんですよ。全然意識してなかったんだけど、僕がこれまで少女漫画を読み続けた日々は無駄じゃなかったんだなって思いました(笑)。
女性が書くとなんとなく狙った感じが出ますけど、男性が書くと良いですよね。
少女漫画展開は楽しすぎる。「か、顔が近い!(照)」みたいなことを女性視点で書くのってすごく楽しいなと気付いた。島本さんのおすすめは?
私ももうすぐ出る新刊をぜひ読んでほしいです。航さんにも読んで頂いた『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』ですね。
これ、すっごく面白かった。3時間くらい語れる気がする。
30代女性のリアルな恋愛事情を
綴った新刊『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』
(島本理生さん)
ありがとうございます!主人公と年上男性の恋愛がメインではあるんですけど、実は脇役の女友達や妹のエピソードが個人的に気に入っていて。みんな30歳前後のアラサー世代で、彼氏がいなくて結婚相談所に行ったらすごいダメ出しされたり、ちょっと派手な業界で仕事をしていて素敵な既婚の人と遊んでみたけど全然ピンと来ないとか。それまで、がむしゃらに突っ走ってきた30歳前後の女性が一度立ち止まって生き方を考えてみたときに、試行錯誤してみる感じがうまく表現できたんじゃないかなと。「自分はどういう風に生きたいのか」を登場人物たちが考えて、それぞれに違う決断をしていく過程の描写は自分でも気に入ってます。
なんか痛いほどリアルなんだよね。妹の話が一番びっくりしたなあ。ただ出てきただけの妹だと思っていたから…。
ふふ。少しネタバレしちゃうと、主人公の妹はどちらかというとずっと悪者的な立ち位置だったんですよね。でも最後の最後に、「この妹にも何か事情があるんじゃないか」ってふと思いついて。そこは見所の一つなので、実際に読んでもらいたいですね!
あと、結婚相談所に行く人の話とか、もう胸が痛い…。
(笑)。それは実際に取材したんですよ。
あぁ、そうなんだ。業界人との大人な男女エピソードも、なんだか猛烈なリアリティーがあるんだよね…。
個人的にリアルだと思うのは、ベッドに入ったら彼の体型が崩れてたところかな。文系青年が文系中年になるとこうなるんだ、と。身もふたもない描写ですが…(笑)。
完璧ですごく素敵な人なんだけど、「そういう人だってこの年になるとこうなるのか」って主人公は思っちゃうんだよね。それでもその夜をやり過ごすんだけど、その後若い女の子と旅に出て…あれは良いシーンだった。
ありがとうございます。女同士で旅に出るシーンも結構多いです。私自身も、女友達の存在ってこのくらいの年齢になると改めて貴重だな〜って感じるんです。男の人とはわかりあえない部分を、女同士なら不思議とわかり合えるというか。
そもそも男同士で旅行って、あんまりしないですからねぇ。
女の人は女同士で旅に行くの好きですからね。
そうそう、あとそれぞれの章のタイトルがすごく良かったなぁ。章タイトルを並べていくと恋や物語が進んでいくような感じっていうのかな。これって最初からこういうタイトルをつけようと決めてたんですか?
実は私、タイトル付けが苦手で。なので最初に単語だけ羅列していたら、意外としっくりきて。今回はそんな感じで、キャッチーな言葉を拾って、タイトルにしていました。
例えば「雨の映画館、焼き鳥、手を繋ぐ」というタイトルで、関係が素敵に進んでいることがわかったりするんだけど、「桜、生しらす、春の海」っていう章タイトルを見たときは「生しらすって、もしかしてすごいエロい意味があるんじゃないだろうか?」って思った(笑)。単語や言葉の並びから、色んな鮮やかなイメージが湧く。
そんな想像をしてくださっていたんですね(笑)。それぞれ小説の章の中で一番印象的な食べ物入れようかなって。
だんだん好きになっていくというより「だんだん許していく」っていう恋愛だと思うんだけど、『年下のセンセイ』も共通する部分があるなと思いました。相手に対して踏み込めずに躊躇してるんだけど、ちょっとずつじんわり踏み込んでいく。
アラサー女性がグッと一歩踏むところを書きたかったんです。
でもこれは、ものすごくヘビーなところに踏み込んでいて、最初にも話したけど、本当に「旅をしてごはんを食べる小説」じゃなかった。
ー 最後は、お互いの恋愛小説で好きな作品をそれぞれ挙げていただきました。
航さんらしさが詰まった
『僕の好きな人が、よく眠れますように』
(島本理生さん)
私、『僕の好きな人が、よく眠れますように』がすごく好きです。結婚している女性に恋する話なのに、こんなにどちらも悪いと思えなくて、2人とも爽やかで切ない話を書けるのって航さんくらいだと思いました! 航さんの小説は切なくても温かい話が多い印象です。
ありがとうございます。僕も島本さんの作品みんな好きです。こないだのほら、“強い男の人が出てくるやつ”。あれ好きだなぁ。強い? 強いじゃなくて、ヤバい男の人。
強い男の人が出てくるやつ(笑)!『夏の裁断』ですか?
そうそう、それ。まず地の文章と会話文の連なりが、驚くほど美しかった。あと、どこに辿り着くのか、読み手の期待みたいなものって絶対あると思うんだけど、こうあってほしい、みたいなこととは違うところに進んでいく。でもさっき島本さんの「書いてる途中にこの人の話も書こう!って思いついた」って話を聞いて、なるほどな〜って思った。
私、そのときの気分で書くことを増やしちゃうんです。
今回の新刊も夢中で読んだから、「キレイにまとめよう」ってのが、ジャマになるときもあるんだな、って勉強になったかもしれない。
大学生の爽やかな恋愛が
かわいい『クローバー』
(中村航さん)
あと島本さんの小説で言うと『ナラタージュ』とか『生まれる森』とかよく話題に出ると思うんですけど、僕、『クローバー』好きですね。
『クローバー』は私自身、書いていてすごく楽しかったです。
若い!って感じが良いし、爽やかでかわいい。なん言うんだろうなぁ…羽海野チカさんの『ハチミツとクローバー』を彷彿とさせるような青春っぽさというか。最後のほうに出てくるベビーカーのシーンがすごく鮮やかで、幸せな感じがしたなぁ。
『クローバー』を書いてるときは大学生くらいだったんで、大学生の頃の元気でエネルギーがある感じが滲み出ていたかもしれないですね。
幅広いですね、島本作品は。興味が尽きません(笑)
ーさて、お話はまだまだ尽きませんが、そろそろ〆のお時間。今回はビストロリゾットシリーズから、中村さんには「ほうれん草とチーズのリゾット」、島本さんには「トマトとーチーズのリゾット」をご用意しました。
まろやか〜。味付けはしっかりなんだけど、しょっぱすぎたり人口的な味がしたりとかが全然ない!
優しい味がしますね。おいしいです。
朝、お腹が空いているときにも良いですよね。パパッとつくれるし。
いいね。あとロケットに乗って月に行くときにも絶対良いよね(笑)。
ー季節は冬から春へ。新しい出会いが多くなるこの時季に「読んでみたい」と感じた小説があったなら、手に取ってみてはいかがでしょうか。中村さん、島本さん、楽しいトークをありがとうございました。またのご来店をお持ちしております。
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