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【第18回】夏を待ちわびている

夏が来る。徐々に暑くなってきて、夏の気配がじんわりと広がり始めたように思う。

 

夏だ! 夏! 夏が来るよ、みんな!!

 

急にテンションがあがってしまうくらい、わたしは夏が好きだ。正しく言うと、「夏を待ちわびる季節」が好きだ。梅雨前から梅雨明け直前までの時期。みんなが「早く夏にならないかな」と待ちわびて、テレビでもプールのCMが始まるあの頃。浴衣や水着が徐々にショッピングモールに並び始める。この時期が、最高に好きだ。

 

夏そのものが1番好きと言えないのは、単純に暑いからだ(笑)。夏が来る直前までは「早く!」と思っているのに、実際夏になると「え、こんなに暑かったっけ…」とぐったりする。毎年、予想以上に暑い。

わたしのように体力のない人間が夏を全身で満喫できるはずもなく、大体の場合は涼しいところから活気付いた世界を眺めている。または床の冷たいところを探してゴロゴロと転がっている。その夏の楽しみ方も悪くないけれど、「夏を待ちわびる時間」のほうがやっぱりいい。まだ暑くないうえに、ワクワクを味わうことができるから(笑)。

 

夏を待ちわびる時期には、いつもある誓いをする。

 

「ワンダフルな恋をするぞ」と。

 

いつも誓っているあたり、すでに(大丈夫か)という雰囲気が漂っているけれど、わたしはどういうわけか夏に恋をしそびれることが多いのだ。夏直前まで好きな人がいたり恋人がいたりしても、夏前に見事終わりを迎える。そして放心状態で夏を過ごし、正気を取り戻した頃には秋。これがよくあるパターンなのだ。悲しい。

 

でもめげずに、今年も誓いを立てた。ワンダフルな恋をするぞ。

 

なぜなら夏は、何をしても許される季節なのだから!(「夏は何をしても許される」というのはわたしがよく言う言葉で、実際なにか許してほしいほどのことは毎年起こらないけれど、「好きになっちゃった。だって夏だもん」などと夏のせいにして、自分の心に素直になる恋をするぞ、と決めているのだ。毎年。)

 

***

 

今年の夏、好きな人としたいことはもう決めている。

 

まず夜道の散歩。

 

好きな人とお酒を片手に持って、ぬるい夜道を歩きながら、子どもの頃の話をする。「小さい頃どんな子どもだった?」「お菓子はなにが好きだったの?」「学校からの帰り道、どんなことを考えていた?」質問をたくさんするわたしに彼は少し困ったように笑いながら「そんなこと聞かれたのはじめてだよ」とか言う。あたりまえだ。誰も知らない彼をわたしが知るために質問しているのだから。

 

次は右に行ってみようかとか、今度はあっちかなとか、目的もなく歩きながらお酒を飲んで、だんだんと気持ちよくなってきたところで、会話が途切れる。そして目を合わせ、ふわっとしたキスをする。

 

彼の背中に手をまわせば、彼のTシャツは少し湿っていて「ごめん、汗かいてる」と彼がいい「夏だからね」とわたしは答えもう一度キスをする。我に返った彼が「ちょっと、こんなところでこんなことしていいの?」と聞き、わたしは答える。「夏だから、いいの」。

 

…これはもう毎年ランクインする、やりたいことNO.1だ。

 

***

 

それから、たこ焼きも食べたい。

 

たこ焼きは、映画館デートをした帰り道に発見して「なんかたこ焼き食べたくない?」と顔を合わせ「いいね〜」とかニヤついて、1個ずつ買う。夜ごはんがたこ焼きだと、なんだか不真面目な感じがして心がのびのびする(わたしだけ?)。不真面目ついでに、思わずセットで「ラムネ」を買って、風通しのいいベンチで食べる。

 

ラムネを開けたとたん、シュワシュワと炭酸が溢れて、わたしたちの手はすぐにベタベタになる。

 

「うわ、ベタベタ」

 

指先をぺろっとなめてしのごうとする彼にティッシュを渡し、ふたりで「食べ終わったらあそこのコンビニで手洗いしよ」とか言い合って、はふはふとたこ焼きを食べる。子どもみたいにベタついた指も、夏なら許される。ベタついた指先のせいで携帯が触れなくなってしまうのもいい。ふたりでたこ焼きを食べる夏らしい時間に邪魔者が入らなくていい。

 

花火

 

そして、欠かせないのは、花火。

 

恋人の浴衣姿を見るのは昔からの夢だ。わたしは少し大人っぽい絵柄の浴衣を着て、彼は「お、そうきたか」とかコメントする。「え、なに、だめかな?」と答えると、ふいっと前を向いて視線を逸らしたまま「良すぎる」と返答があり、最高のデートがはじまる。

 

彼は安っぽくない男物の浴衣を綺麗に着こなしている。決してやたらとはだけていたり、無駄に腰の低いところで帯を結んだりせず、きれいに、誠実な人柄がにじみ出るような着こなしをして立っている。

 

その首筋にツーッと流れていく汗のつぶを、指ですうっと拭えるほどにわたしは彼のことが好きで、何度も彼に見とれる(ちなみに、汗をかいている姿さえ愛せるというのはわたしにとって結構なポイント。昔、大好きだった人の汗を見て、それすら愛せる、と思ったことがある。そこからは、汗をかいている姿に対する感情は、惚れ度に関わると信じている)。

 

彼も何度もわたしを見ては「あーうれしいなぁ」などとつぶやく。どれだけ帯が苦しくても、どれだけ下駄が辛くても、この時間のためなら我慢できる。花火にまぎれて、軽くキスをして、その瞬間に周囲から「わ〜きれい!」と声が上がる。見所の大きな花火を見逃したってぜんぜんかまわない。だって浴衣姿の彼がいるんだから。

 

***

 

そしておうちでは。

 

彼とお昼寝をしたい。朝からちょっとはしゃいだ日、15時ごろ家に帰ってきて、カバンを置くや否やシャワーを浴び、洗いたてのTシャツに短いズボンを履いて、これまた洗いたてのシーツの上にふたりで寝転がる。

 

「疲れたねぇ」「はしゃぎすぎたねぇ」と言い合いながら、窓を開けて涼しい風を体に感じながらウトウトする。眠りに落ちる直前で彼が、「暑い」と文句を漏らしながらもくっついてくるので「暑いなら離れたらいいじゃん」とちょっと冷たく答えると「そのまま離れちゃったら困るじゃん」などとよくわからない返答がある。何かを答えようとしたものの言葉にならず、そのままふたりで眠りに落ちていく。起きた時にはもう外はまっくら。

 

「寝すぎた」「ほんとだ」「どうする?」

 

そこからふたりで目を合わせて「そうだ、映画に行こう」と言う。そしてまた夏の夜道へと繰り出して行くのだ。

 

***

 

…あぁ最高。書いていてよだれが出てきたくらいに最高。夏の恋って、どうしてこんなに素晴らしいんだろう。他の季節にする恋よりも湿度がある。どういえばいいかわからないけれど、とにかく記憶に張り付いてくるような重みがあるのだ。たいしたことをしていなくても。

 

って、思わず自分があたかも体験したかのような気分になってきたが、危ない、これらはすべて未体験の出来事。些細なことのように見えるのに、なぜか体験できていない。

 

ワンダフルな夏のために、そろそろ準備をしよう。梅雨にしっかりとズンと沈んでおくことや、梅雨にたっぷり足元を濡らして不快な思いをしておくことも、夏への開放感のために欠かせない。

 

今年の夏こそは、ぜったいに。

 

わたしは意気込んでいる。

去年と同じように。

 

 

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