まごころ出前 2016.05.09
〜前回までのあらすじ〜
これまで全国の依頼主のもとへ「思い出の味」をフリーズドライしてお届けしてきましたが、次なるお届け先はまさかの火星…!? 極地建築家・村上祐資さんとフードユニット「つむぎや」の金子健一さんと一緒に“火星めし”のメニューを考案。前回は、アメリカ・ユタ州で行われる、有人火星探査を想定した2週間の実験生活に参加するクルー・平木雅くんに火星めしを無事お届け完了!あれから無事に日本に帰国した平木くんの感想は?
〜都内某日〜
本日は…模擬火星プログラムを終えて、日本に無事帰ってきた平木くんと再会する日!果たして“火星めし”の出来はどうだったのでしょうか!? 平木くんの感想&現地での反応が気になるところです。
島村さん:はぁ〜。無事に火星めしも完成したし、これで僕も一安心。よかった…よかった…
ひと仕事を終え、リラックスムードの島村さん。でも、これまでとは異なり、今回フリーズドライ食品を食べてもらったのはアメリカ・ユタ州の閉鎖空間。現地でどんな反応だったのかって考えると、やっぱり少し不安ですよね…島村さん?
島村さん:え?緊張なんてするわけないよ。だって、平木くんもすごく喜んでくれていたし。きっと現地でも大成功であること間違いなしだよ。きっとみんなでおいしく食べてもらえたんじゃないかな〜。(キリッ☆)
さすが今まで数々のヒット商品を生み出してきた“フリーズドライの伝道師”。やっぱり頼もしいですね。ウインクをかますほど余裕の表情!
島村さん:はぁ〜、僕にとっても宇宙空間での“食”って初めての挑戦で…。開発する商品としてもまったくの未知数なんだよね。何だか少し緊張してきた…。早く平木くんの喜んでいる顔が見たいな〜。
期待と緊張を胸に、平木くんが来るのを待つこと数十分…。
島村さん:平木くんおかえり〜!あれ?なんか会わないうちに少し凛々しくなったんじゃない?
平木くん:え?本当ですか?(笑)
村上さん:確かに…。ちょっと顔つきが違うかも!現地での2週間、どんなことをして過ごしていたの?
平木くん:毎日すごく刺激的でしたよ!現地での僕の役割は、水やガスのチェックと毎日使う日用品が壊れていないかを確認をしたり、グリーンハブと呼ばれる植物工場があるので、そこのチェックをしたりと色々でしたね。参加クルーの役割は、「研究」と「設営」を担当する人で大きく2つに分かれるんです。今回、僕は「設営」のサポートとして日常のルーティンチェックを担当しました。
平木くん:プログラムに参加したクルーは、僕を含めて6名いて。日本人は4名と外国人が2名。アメリカ・ユタ州の砂漠にあるハブという基地を拠点に訓練をしてきました。現地では、一畳半の部屋が1人ずつに用意されていて、リビングスペースもあって。食事は、そのリビングで集まって食べるんですけど、雨漏りしてしまって食事中にテーブルに雨がポタポタと…。
金子さん:えぇ〜!それは大変だったね。
平木くん:はい。でも、その日以外はずっと天気が良かったので。逆にその雨の日のことが印象に残っています(笑)。
平木くん:あと、気候は日本と比べてすごく乾燥していました。室内の温度は20度以上あって、僕は毎日Tシャツで過ごしていたんです。夜は、星がすごくきれいでしたね。
村上さん:じゃあ、結構みんなハブの外に出掛けたりもしたの?
平木くん:今回は、ルーティンチェックや研究を含めて、外に出るのは全部で10回ほどありました。朝の10時〜11時くらいに出て、14時頃にはハブに戻ってくるというような感じです。3〜4人で一緒に外に出る一方で、ハブに残っている人が常時2〜3人いるようにみんなで話し合って決めていましたね。
村上さん:それぞれの研究や個人の作業をすることも多いと思うんだけど、クルー同士の関係や全体の雰囲気はどうだった?
平木くん:性別、国籍はもちろん年齢もバラバラだったので、家族みたいな感じでした。僕が一番年下の弟というポジションで。時間の過ごし方は、本を読んだり昼寝をする時に個室を使って、あとはリビングに集まって報告書を書いたりしていましたね。
さて、ここからが気になる本題!
平木くんに現地での食事の様子について聞いてみましょう。
金子さん:2週間の中でクルーみんなの食事はどんな流れだったの?
平木くん:最初の5日間は現地で支給された食事でした。うどんの茹で汁で作ったお茶漬けやスパムを食べたりして過ごしていて…。その後、用意してもらった火星めしをみんなで食べました。決まったサイズや形の食器で小鉢をいくつかつけて作った“エコノミークラス”は6日目。器や盛りつけにこだわって御膳をイメージして作った“ファーストクラス”は11日目。それぞれ僕が6名分を用意して、クルーのみんなと一緒に朝・夜の4食分を食べました。
現地でチーム火星めしがお届けした“エコノミークラス”メニューを作る食事担当の平木くん。参加クルーのために、黙々と調理に取りかかっています。
平木くん:僕が主に食事を担当していたので、直接皆さん(チーム火星めし)に教えて頂いたやり方を試してみました。戻す時に水の量を間違えると食感や味も変わってしまうので、そこが一番難しかったですね。せっかく作ってもらった“火星めし”を一番おいしい状態でみんなに提供できるようにと思って頑張って作りました!
島村さん:平木くんにそんなこと言ってもらえるなんて…とっても嬉しいよ。
“エコノミークラス”の朝メニュー(写真・左)と夜メニュー(写真・右)
(チーム火星めしが用意した“エコノミークラス”のメニューを食卓に囲む参加クルー達)
平木くん:何とか準備はできたんですけど…実際に現地で調理してみて、自分が思っていたよりも難しかったですね。あと、みんなそれぞれ食の好みや習慣も違ったりして。少し和食に飽きてしまっていた頃だったんですけど、火星めしの “帆立の卵とじ”を金子さんにアドバイスをもらったように、あらかじめお粥と卵とじは分けておいたんです。自分の好みの割合で混ぜていったら、段階的に味を楽しめたので、こういう仕掛けでも気持ちに変化がでるんだなって驚きがありました。
金子さん:うん。現地でも試してくれたんだ!そういうアレンジ力ってすごく大切だよね。
平木くん:飲み物だと、グリーンスムージーがおいしくて、現地で大好評でした!季節が3月だったので、桜の入った甘酒に季節感を感じられる要素が入っているのも良かったですね。ただ、赤い器だと色の鮮やかさが分からないので、そういう時に中身が映えるグラスや容器があったら良いなぁ…って思いました。
“ファーストクラス”の朝メニュー(写真・左)と夜メニュー(写真・右)
平木くん:ファーストクラスのメニューでは、鮭のパリっとした食感やあんかけ皿うどんが本当においしくて!
金子さん:ファーストクラスの食事では「WASARA」のお皿を使ったけど、彩りや盛りつけを含めて、エコノミークラスの時と変化を感じた?
平木くん:エコノミークラスで使用した赤い食器よりも、食材の色や料理も盛りつけが映えるファーストクラスで使用した「WASARA」のほうが色も映えて、見た目も華やかに感じました。実際の宇宙空間でもこういうお皿が使えるんじゃないかっていう会話にもつながったりして…。
平木くん:外国人のクルー2名も喜んでくれていました。今回2週間も和食が続くので、正直日本人でも少しきつくなってきた時があって。でも、食卓にファーストクラスのような彩りや食感とかいろんなバリエーションのあるものが並ぶと気持ちが全然違いました。
(そうか…喜んでもらえたみたいで良かった!)
平木くんの感想に一安心のチーム火星めし。でも、平木くんにとっても閉鎖空間で生活をするということはもちろん初めての経験。本当に平木くん、よく頑張りました!
—現地で平木くんが大変だなって感じたことは?
村上さん:それぞれ食の好みや日頃の習慣が異なるから、精神的にもきついなって感じる時はあった?無事2週間終えて、今だから言える話とかないの?(笑)。
平木くん:う〜ん(笑)。朝は「絶対コーヒーを飲みたい!」「たまには、チョコレートとか甘いものを食べたい!」とか…。人によって日頃の習慣になっていることはそれぞれあるので。食事の中でも味付けの好みが少し違うとか、ちょっとしたことがストレスに感じてしまう時は正直ありましたね…。
村上さん:そんな時に誰かが雰囲気を良くしようとしたり、何か行動したり…。全体の雰囲気に変化はなかった?
平木くん:同じような食事に飽きてしまったら、少し変化がほしいなっていう気持ちはでてきました。でもチーム全体の雰囲気は壊れていなかったので、僕の場合はほうれん草をいっぱい食べるとか(笑)。間食がいつもよりも増えていたりして、そういうところでお腹を満たすようになりましたね。
金子さん:食材のアレンジ力って大切なんだよね。いろんな世界各国の料理本を持って行って、自由時間にみんなで眺めたりして、こんなアレンジどう?こんな盛りつけはどう?などワイワイ楽しみながら話しあって一緒に作ったりするのも良いかも。
平木くん:そうですね!みんなで味の変化を楽しめると良いなって思いました。火星めしで持っていった「薬味」も、特に生姜が大好評で。物足りない時に食材と一緒に食べて…そういうちょっとした変化が嬉しかったですね。
島村さん:え?本当に?現地でも好評だったの?わぁ〜よかった!
金子さん:元から食材自体の味つけを薄めにしておいて、自分の好みで追加したり、そういうものが今後の宇宙空間でもできたら良いよね。現地で調理をする楽しみもコミュニケーションの一つになるしね。
—エコノミークラスとファーストクラスのメニューの食事で違いを感じたことはありますか?
平木くん:やっぱり食感はファーストクラスのほうが良いっていう意見はみんな一致で…。
金子さん:食感って大切だもんね。例えば、食感別の食材表みたいなのを作ってみるとか?最近は、なんかシャキシャキっとした食感が足りないよね!っていう話題になったら、キャベツとか近い食感のものを使ってみて、そこから会話のきっかけにつなげたりしても面白いかも。
村上さん:火曜日はコリコリ、水曜日はトロトロとかね(笑)。まさに、そういう遊び的な要素が宇宙での食卓にあったら、面白いですね。食事をより楽しめるような気がする。
平木くん:あと、お米は結構意見が分かれますね。戻す温度で吸水が分かれるんです。低い温度で戻すと、あられみたいな食感になるし。
村上さん:そういう感覚も人それぞれだからね。ちょっとずつ飽きてくると、自分の好きなように食べさせてくれよ!とか思ったでしょ?
平木くん:そうですね。
島村さん:うんうん。それなら、今度はA定食、B定食、C定食みたいに3つくらいの種類の中から選べるとかやってみようかな〜。
村上さん:宇宙空間でそれは、ものすごく贅沢ですね!
島村さん:そうね〜。これ、次に火星めしを作る時は大変だよ(笑)。
村上さん:僕、最後に聞きたかったんですけど…皆さんにとって、どんなものが“火星めし”に必要だと思いますか?
金子さん:やっぱり僕は“食感”というのが一つの重要なキーワードになると思うんです。どうしても今まで想像していた宇宙食のイメージってチューブ式とか、クッキーみたいな。食べるというよりも身体に入れるという感覚なのかなって。
島村さん:確かにそうだね…。
金子さん:宇宙空間で過ごす時間が長くなればなるほど、単に生き延びるためではなくて、普段の営みや暮らしを豊かにするための食が必要なんだなって思いました。そのためには、食感や見た目、盛りつけということも重要になってくるし。“和”という枠を飛び越えて創作的なアレンジができる食の可能性はあるんじゃないかって思います。その中でも火星めしの一つとして、和食という要素もやっぱり欠かせないキーワードになる。なので、そこを広げていくことがこれからも大切だと考えています。
平木くん:今回のプログラムを通して、宇宙空間で暮らすためだけでなく、“住むことを考えた食事”を考えていくということを学びました。そのためには絶対に楽しみがないと生活に飽きてくるなって思って。僕はその楽しみの一つとして、最後に行き着くのが“食”だと思うんです。その楽しみをどこから持ってくるかという課題が今回の場合は和食だったんですけど、和食の持っている良い部分、外国の料理の良い部分、世界の国の料理のいいとこどりして集まったものが、将来の宇宙食や火星の食になるんじゃないかなって思っています。
村上さん:なるほど。
島村さん:僕は食品じゃなくて、まずは食材を何とかしたいなって考えていて。次の世代に必要なものを作り出したいですね。さっき平木くんが食事の楽しみを大切にしたい、毎日似たような食事だと飽きてしまうって言っていたじゃない?まずは、宇宙空間に運ぶということが大変だから水やお湯で戻したらボリュームが出る野菜とか…あと、調味料もバリエーションを増やしたりしてさ。
平木くん:確かに、現地でいろんな味わいを楽しめると嬉しいです。
島村さん:移動に2年かかると言われているから“楽しめる移動中の食事”、“着いてからの食事”とか色んなパターンをフリーズドライ食品を通して考えていきたいな。元の形を保ったままフリーズドライにした「まるごととうもろこし」は見て楽しめるし、剥いてポロっと簡単に食べられるとか、そういうものを火星や宇宙での暮らしのシーンを想定して作ること。そういうアイデアを僕自身も火星めしを通して勉強させてもらったなって感じています。
平木くん:何度も言うんですけど、「まるごととうもろこし」は本当に感動しました!
村上さん:食事って相手の気持ちを気にかけるバロメーターにもなるんです。例えば、隣の席の人が多めに調味料を入れている時があったら、「最近、ストレスを感じているのかな?」とか、閉鎖的な空間の中でいろんなことを計る指標にもなるし。それは調理を作る人も料理に気持ちが表れたりするから同じなんじゃないかな。
平木くん:確かにそうですね。
村上さん:これからの火星めしのあり方を考えた時に、宇宙空間では“時計”に変わるものを探さないといけないんです。地球と火星って自転の関係で、毎日40分ずつだんだんズレていってしまう。なので、曜日の感覚もズレていくんですよ。でも、これから火星で生活をしていくうえでは、地球とセットで考えていかないといけないので、そういう時にお互いに意思疎通ができるようにしていくことが必要なんです。
村上さん:現地でも仲間と共通した時間の感覚や認識を持つことはとても大切ですよ。僕が以前、南極に行った時は「あれ?今日って何曜日?」って本当に曜日の感覚がなくなってしまって…。みんなそれぞれ忙しかったりすると、“休み=日曜日”ということではなくて、曜日なんて関係なしに「身体が疲れたな」って思った時に休む。それってあまりメリハリがないから、あえてみんなの共通認識として休日を作ることが必要なんですよ。だから、日曜日をちゃんと設定してしっかりと休んだほうが良いと思うんです。そうなった時に南極探検隊だと金曜日に必ずカレーを食べることができたりして…。火星でも南極のように「カレーを食べれば金曜日」みたいなそういうものを作れたらいいなと思って。みんなが生活に欠かすことができない“食事”が時計の代わりになるんじゃないかな。なので、単に生き延びるための食事ではなく、“火星で暮らしていくための食事”をこれから考えて作っていけたらなって思っています。
極地建築家として活動する村上祐資さんとフードユニット「つむぎや」の金子健一さんと一緒にお送りしてきた“火星めし編”ついに完結。これまで生き延びるためだけに体に流しこむ、食事の時間を削ってでも自分の役割や仕事を優先するというイメ−ジの強かった宇宙での食事。でも、彩りや盛りつけも含め“食事の時間”を仲間と楽しむこと!そんな大きな目的を果たすことができた今回の火星めし開発。そして早速、その先にある“火星で暮らしていくための食事”という新たなミッションも始動…!? それでは、さらにパワーアップした“チーム火星めし”にまたいつかお会いしましょう!
※本件の食材(フリーズドライ加工品)の海外への搬出については、日本火星協会の企画の枠組みにおける「個人による持込み」の形式をとっております。また、フルーツや野菜については、熱処理を施してあります。
\どんな注文もおまかせ!/
アマノ食堂では、島村さんにまごころ出前してほしいという方を随時募集中!必要事項と理由を添えて contact@amanoshokudo.jpまでメールでご連絡ください。
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【必要事項】
・お名前
・年齢
・職業
・電話番号
・お届けしたいor届けてもらいたい人との関係性(母親、息子、娘、恋人…etc.)
・お届け先(例)岡山県→東京都
・依頼したい料理
(例)岡山県に住む母親がつくる豚汁、遠恋中の彼女がつくる肉じゃがなど
・その料理にまつわるエピソード
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