読み物 2016.04.29
第7話「誰か止めて!お父さん、柿の木と戦う」
【登場人物】
おかっぱちゃん…28歳、イラストレーター。いつもふざけてばかりいる末っ子。趣味はひとり旅。
じょうや(父)…60歳、職人。力持ち、頼りになる人。明るいが短気な一面もあり。趣味は海遊び。
第7話「誰か止めて!お父さん、柿の木と戦う」
今回は、これまでわが家に起こった珍事件の中でも上位に挙がる話をしたい。
ある日家に帰ると、わが家がジャングルになっていたことがある。
その原因は父・じょうやにあるのだが…。
まず父の紹介をすると、わたしの父は普段とても優しく、笑いジワがまるでお地蔵さまのように深く入っているくらい、ありがたい顔をしている。
そんな父だけれど、実はとても「気が短い人」として家族の中では恐れられている。
例えば、飲食店に入り注文した料理が10分以上出てこないとイライラしだし「帰る!」の一言で店から突然出てしまったり。家族で出かける寸前に、誰かがトイレに行きたいと言おうものなら「早く行っとけ!」と、時間通りに物事が進まないことに腹を立てる。
小さなことで済めば問題ないのだが、大きな怒りになると何を言っても納まらない。
穏やかだった顔から、鬼の形相に変わる。
その姿はまるで大黒様が閻魔大王になったような感じ。わたしは幼少期、よく父を怒らせたので、その度に天国から地獄へと突き落とされたものだ。
そんな父の性格はというと、白黒ハッキリさせたいたちで、まがったことが大嫌い。筋の通っていないことは全力で反対する。正義の味方なのか?というくらい正義感が強い。男らしい父親ではあるが、とにかく父を怒らせたら大変なことになるのだ。
ある秋の日、父が仲間との飲み会から帰って来た時に事件は起こった。
ほろ酔いのいい気分で帰って来た父が家の門を開けると、近所に住むおばあさんが声をかけて来た。
「あの~すみません、お宅の柿の木の落ち葉で家が汚れて困っているんです」
「あぁ、それは失礼しました。今すぐ片付けます」と、酔った頭で謝罪し、落ち葉を掃除した父。
それから5分後。さっき話したことを忘れてしまったのか、またしてもおばあさんが
「あの~お宅の柿の木の落ち葉で困ってるんですけど…!」と、父に声をかけた。
このやりとりを3回した後、ほろ酔いのいい気分が一気に冷めた父が突然物置からあるものを持ち出した。
なんと、それはノコギリ!
庭に生えた直径70cmはあるであろう柿の木を、ノコギリ1本でゴリゴリ切り出したのである。
家には電動ノコギリもあったというのに、怒りまかせで一気に切り倒してしまった父。一心不乱に後先考えず切ってしまったので、倒れた柿の木は玄関のギリギリ手前でバタンと止まった。そのせいで、家族全員家に入れなくなってしまった。
父は柿の木を切り倒すとスッキリした表情で「これで落ち葉はなくなるな!」と、満足げな顔。
父の短気が原因で、倒れた柿の木は、我が家の綺麗な庭をジャングル化させ、今度は母から「パパ~、この木掃除してよ!」と怒られるのであった。
父がせっせと電動ノコギリを使い、倒れた柿の木を小さく刻む姿がなんとも滑稽で、娘のわたしは「閻魔大王になっても、結局嫁には頭が上がらないんだな」と密かに思うのだった。
次回は「第8話 怒り爆発!お父さんと宅配便屋さん」をお届けします。
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