読み物 2019.12.11
【第21回】わが家の天変地異。
アマノ食堂をご覧の皆さま、ごきげんいかがですか(つばきファクトリー風に)。
劔樹人と申します。
日頃はバンド活動とマンガの執筆をしながら、主夫活動に勤しんでいます。
先日、妻がレギュラーパーソナリティを務めているラジオ番組のゲストに料理研究家の土井善晴先生がいらっしゃって、何やら感化されてきたみたいなのです。
「私も料理、やってみようかな…」
驚きました。
妻は料理に私も知り得ないなんらかのトラウマがあり、台所に立つだけでめまいがすると言っていたのに!
それなのに昔、松尾スズキさんに勧められて卵焼きを作ってみたところ、「アンチョビと思えばおいしい」と言われて一層絶望したと言っていたのに!
とにかく、料理に前向きになったのはいいことです。
そこで、土井先生の影響でどんな料理が作りたくなったのか聞いたところ、熱々ご飯に目玉焼きとソーセージをのせたソーセージエッグ丼と、冷蔵庫にある野菜とソーセージと目玉焼きを入れたおみそ汁だと言うのです。
それ、ただ目玉焼きとソーセージが好きなことを再確認しただけなのでは…。むしろ私にとっては周知の事実なんですが。
土井先生のSNSを拝見すると、どちらも写真が載っていたのですが、なるほど、見た感じこの目玉焼きは、エスニック料理によくある、揚げる目玉焼きですね。
それならばちょっとコツがいるので、一度私が作ってみました。
まずはおみそ汁から。これは手慣れたものです。
野菜たっぷりにしてほしいということなので、冷蔵庫にあったかぼちゃ、玉ねぎ、にんじん、白菜を煮て、味噌は長野の実家からもらった特製の味噌。
母がどうやって手に入れているかわからないのですが、この味噌があれば、みそ汁はどうやってもおいしいんですよ…。
そこにソーセージを投入します。
うちに常備してあるのは、妻の好みで、小粒のウインナーです。
卵は、普通の目玉焼きよりたっぷりの油をフライパンの角に集めて、そこで揚げるように焼きます。
蒸し焼きにはせず、白身がだいたい固まれば、外はカリカリ、黄身はとろける目玉焼きの完成です。
これをみそ汁に入れ、さらに同じものをご飯にものせて…
みそ汁とソーセージエッグ丼のできあがり。
同じ食材が並んでいますがこれでいいのでしょうか。
「これこれ! サイコー!」
やっぱり妻は卵とソーセージが好きなだけだと思いました。
そして娘には、妻が同じソーセージと卵でスクランブルエッグを作ってくれました。
意外にも卵がふわふわ!
結婚して5年、全然料理できないと思っていたけど、そんなことないんだね!?
「昔やってたんだから、やればできるんだよ!」
とのことですが、私はやっぱり、作ってあげたい気持ちの方が勝るのでありました。
***
そうです、私には料理や家事に対するトラウマ……というと大げさですが「できるだけ自分から遠ざけたい」という気持ちが強くあります。
というのも、20歳のときに母が病に倒れ、そこからヘルパーさんたちに来てもらうまでは、兄弟で実家の料理と家事をやることになったのです。
家族5人分の料理は本当に大変で、自分の好きなメニューを作るわけでもない。それに家事もやるとなると本当に大変で、もともと家事が嫌いだったというのもあり、そこから「将来はなるべく家事をしたくない……」と決心するに至ったんです。
そのまま30代を過ごしてきたわけですが、先日尊敬する土井先生の一汁一菜のお話を聞く機会があり。すると料理に対して氷のように閉ざしていた私の心が初めて少し溶けたんですね。料理をする人と食べる人の間に流れる気持ちや空気のお話です。
それからひっさしぶりに卵焼きを焼いたのですが、出汁を入れておいしくできて、夫が「おいしいね!」って顔して食べてくれて、料理いいなあって思ったんですよ。
(ちなみに夫が掲載した写真のスクランブルエッグは失敗作の方です。上手にできたものの娘は卵イヤって口から出してましたが)
無理しない範囲で、カット野菜でも買ってみそ汁にも挑戦しようと思っています。
それにしても夫の最後の一文、胸にくるものがある。つるちゃんや、ああつるちゃんや、つるちゃんや。
劔樹人(漫画家・ミュージシャン)
[PROFILE]
男の墓場プロ所属。「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。著書に「あの頃。〜男子かしまし物語〜」(イースト・プレス)、「高校生のブルース」(太田出版)、「今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました」(双葉社)。「小説推理」、「みんなのごはん」、「MEETIA」などで連載中。
犬山紙子(イラストエッセイスト)
[PROFILE]
大阪府生まれ。ニート時代に書いたブログを書籍化した『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。現在はイラスト・エッセイストとして多くの雑誌で執筆。テレビ、ラジオにも出演している。2017年1月に女児を出産。近著にさまざまな生き方の女性たちにインタビューし、自らの妊娠、出産も描いた新刊『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)
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※ランキングは2022年12月~2023年11月の弊社流通出荷実績です。