豆知識 2021.05.25
【やさしい発酵図鑑vol.12】強い生命力を持つ「納豆菌」の働きとは? 「納豆」の基本と食べ方アレンジ
こんにちは、発酵料理家の真野遥です。今回のやさしい発酵図鑑のテーマは「納豆」です!
朝ごはんの定番でもある納豆は、日本の食卓に馴染み深い発酵食品のひとつ。なんといっても特徴的なのは、独特な香りと粘り気ですね。
今回は、そんな納豆の「ねばねば」の秘密や、地域色が豊かな食べ方について深掘りしていきます!
酒蔵では納豆NG? 納豆菌の恐るべき生命力
かき混ぜるとねばねばと糸を引く「糸引き納豆」。これが文献に最初に登場したのは、室町中期の読物と言われていますが、実際は稲作が伝わり米の副産物として稲わらが登場した縄文時代後期頃から作られていたのではないかとも考えられています。
江戸時代頃に庶民の味として定着し、江戸の町では納豆売りが売り歩いていたそうです。
そもそも納豆とは、蒸した大豆に「納豆菌」を繁殖させたもの。あのねばねばとした食感は納豆菌が作り出すもので、アミノ酸の一種である「グルタミン酸」が鎖状に結合した「ポリグルタミン酸」という物質です。
現在の納豆は、洗浄・浸漬した大豆を蒸し、納豆菌を噴霧し、容器に入れて発酵・熟成させて作られていますが、昔は稲わらに包んで作られていました。稲わらには納豆菌が棲息しているため、蒸煮した大豆を入れて温めておくと納豆になるのです。
納豆菌は、あらゆる菌の中でも飛び抜けて生命力が強いのが特徴で、100℃でも納豆菌の胞子は死なないようです。稲わらで納豆を作る際は、あらかじめ稲わらを水に浸けて煮沸し、納豆菌以外の雑菌を死滅させ、納豆菌だけ残る状態にしてから作られます。
それだけ生命力が強い菌のため、多くの日本酒蔵では、造りの期間中に納豆を食べるのは厳禁とされています。酒蔵はもちろんのこと、酵母菌やイースト菌を扱う食品工場では禁止されているのだそう。
万が一、口の周りや洋服などに付着して酒造りの現場に持ち込んでしまうと、納豆菌による汚染が原因で酒造りが失敗してしまう危険性があるためです。
(中には、「ウチは納豆菌なんかに負けるような脆い酒は造っていない!」と、気にせず納豆を食べている酒蔵さんも例外的にあります)
そのため、酒蔵を訪問する場合はくれぐれも納豆を食べてから行かないよう気をつけましょう!
納豆菌が関与しない納豆も! 納豆の種類と特長
納豆の種類には、「糸引き納豆」と糸を引かない「塩辛納豆」があります。
■糸引き納豆
私たちの生活に身近な「糸引き納豆」。形状によってその呼び名が変わってきます。
<粒納豆>
スーパーで目にすることも多い「極小粒」「小粒」「中粒」「大粒」納豆のこと。全てを総称して「粒納豆」と呼びます。
この「粒納豆」、最も人気があるのは「小粒」というアンケート結果が出ているんですよ。粒が小さいことでご飯に合わせて食べやすい点もポイントなのかなと考えられますね。一方、大粒は大豆の風味をしっかり味わえるという良さがあります。
<ひきわり納豆>
納豆巻きで定番の「ひきわり納豆」は、大豆を砕いて皮を取り除いた後に、納豆菌をつけて発酵させたもの。粒納豆よりも柔らかく、皮が無いぶん消化しやすく、お子さんやお年寄りに好まれています。
■塩辛納豆
「塩辛納豆」とは、煮た大豆に醤油用の麹菌を繁殖させて大豆麹作り、そこから塩水に数ヶ月漬け込んで乳酸発酵させたのち、乾燥させたものです。
納豆菌が関与していないため、厳密には納豆とは異なる発酵食品なのですが、歴史は古く、奈良時代頃から作られていたと言われています。
中国から伝来したと言われている塩辛納豆は、寺院で作られていたことが多かったことから「寺納豆」とも呼ばれています。京都では、寺の名前にちなんだ「大徳寺納豆」「一休寺納豆」があるほか、静岡県の浜名湖畔で作られている「浜納豆」も、代表的な「塩辛納豆」の一つです。
「塩辛納豆」は、麹菌の分解作用による強いうま味と、乳酸菌由来の酸味があり、糸引き納豆とは全く異なる味わい。そのままつまんでお酒のお供にするもよし、お茶漬けにトッピングするもよし。中華食材の豆豉に似ているため、麻婆豆腐や中華風の炒め物に使うのもおすすめです。
地域によって変わる! 納豆の食べ方
気候が関係している? 地域による嗜好性の違い
納豆の嗜好性は、個人差だけでなく地域差も大きく、とりわけ東日本では納豆が好まれ、西日本ではあまり納豆が好まれない傾向があると言われています。
理由は諸説ありますが、寒冷な東日本(特に東北地方)では、冬の保存食として納豆が貴重なタンパク源として重宝されていたことや、温暖な西日本では納豆が過剰に発酵して食味が悪くなりやすいことなど、気候的な要因が大きいと考えられています。
特に、納豆の消費量全国1位が山形県であるように、東北地方では特に納豆が好まれており、その食べ方や嗜好性も特徴的です。
全国的に小粒納豆が好まれている中で、東北地方ではひきわり納豆を好む地域が比較的多く、しかも納豆に砂糖を入れて食べる人も多いのだとか。また、東北の一部の地域には、納豆に麹を加えてさらに発酵させた「五斗納豆(ごどなっとう)」という変わった納豆もあります。
青森県の郷土料理「ごと」の秘密はこちら
【小倉ヒラクの「発酵トラベルノート ~旅と醸しのおたのしみ~」第45回】納豆×麹×乳酸発酵? 青森十和田『ごど』の衝撃
納豆を使った郷土料理
全国には、納豆を使った個性豊かな郷土料理がたくさんあります。簡単に再現できるものばかりなので、ぜひ作ってみてくださいね。
・納豆汁
山形県や岩手県、秋田県などで冬場に食べられている、納豆をすり鉢ですりつぶして加える汁物です。
いもがら(里芋の茎を干したもの)や山菜、油揚げ、きのこなどを具材にして、味噌などで調味。地域によっては、正月に食べるハレの料理として親しまれています。
・納豆餅
山形県を中心に、宮城県や北海道、京都府の一部などで食べられている郷土料理。
東北や北海道では餅に納豆をかけるのが主流ですが、京都では餅の中に納豆を入れて作るという違いもあるそうです。
・そぼろ納豆
納豆に切り干し大根を入れ、塩や醤油などで漬け込む、茨城県水戸市の郷土料理。ご飯のお供はもちろん、お酒のおつまみにぴったりです。
・ひっぱり(ひきずり)うどん
茹でたうどんに納豆や鯖缶、生卵などで作ったタレを絡めて食べる、山形県の郷土料理。熱々の鍋からうどんを引きずり出すようにして食べることから、この名前がついたそうです。
地域色豊かな納豆を辿ると、まだまだ知られざる魅力がありそうです!
納豆の魅力を再発見! 納豆のちょい足しアレンジとおすすめレシピ
醤油だけじゃない!おすすめちょい足しアイデア
ご飯のお供として定番の納豆ですが、アレンジは無限大。定番の刻みねぎをトッピングする代わりに、私は玉ねぎのみじん切り(今なら新玉ねぎを使うのがおすすめ)を加えるのがお気に入りです。
また、これからの暑くなる季節は、ポン酢で調味して大根おろしを加えると、さっぱりいただけます。
納豆は発酵食品と相性が良いため、塩麹で調味したり、キムチや粉チーズを加えるのもおすすめですよ。
さらに、意外にもオリーブオイルを加えると、コクが増してさらにおいしくなります。形状を活かして、ひきわり納豆に粒マスタードとオリーブオイルを加えてディップソースにしても◎。
加熱してホクホク食感に! 納豆のフリットレシピ
「納豆とパセリのフリット」のレシピ
納豆は加熱すると大豆のうま味が増す上に、ホクホクとした食感になります。私は納豆オムレツをよく作りますが、他にも納豆パスタ、納豆トーストなども絶品ですよね。
そして、煮たり焼いたりするのはもちろん、揚げるのもおすすめ!
そこで、今回は納豆を使ったフリットをご紹介します。
サクサクした衣とパセリの食感、ホクホクの納豆、シャキッとみずみずしい玉ねぎが絶妙なハーモニー。独特の香りがマイルドになり、納豆が苦手な方でも食べやすい一品です。日本酒はもちろん、ビールやワインのおつまみにもぴったりですよ!
- 材料(2人分)
・納豆(大粒がおすすめ)…1パック
・玉ねぎ…1/4個
・パセリ…正味15g程度(約3本分)
・小麦粉…35g
・ベーキングパウダー…小さじ1/3(1.5g程度)
・冷水…60ml
・塩…適量
・粗びき黒コショウ…適量
15分
作り方
玉ねぎは1cm角に切り、パセリは茎から葉を外しておく。
ボウルに小麦粉とベーキングパウダーを入れてさっと混ぜ、冷水を加えて箸でさっと混ぜる。そこに納豆と一緒に1を加えて、具材に衣が絡むように混ぜる。
POINT
混ぜすぎて、グルテンが出てしまうとサクサク感が無くなってしまうため、ダマが少し残る程度でさっと混ぜればOK。
深めの鍋に油を入れ、中温(170℃前後)まで加熱したら、大きめのスプーンで2をすくって1〜2分ほど揚げる。
※揚げ油がはねやすいので火傷には注意しましょう。
POINT
衣を一滴油に落として、ゆっくり浮き上がってくる程度の温度がベスト!
器に盛り、塩と粗びき黒こしょうをふりかけ、レモンを添えたら完成。
\きょうの日本酒/
サクッと軽いフリットには、「神蔵 蜜號 京ゆず(松井酒造/京都府)」を。大吟醸の日本酒をベースにした、ゆずのリキュールです。
ふくよかな納豆の香りにゆずの爽やかな香りが寄り添う、意外なマリアージュ。炭酸で割って合わせてもおいしいですよ。
***
栄養満点でアレンジ無限大な納豆。郷土料理を再現したり、色々な調理法で新たな納豆の楽しみ方を発見してみてはいかがでしょうか?
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