読み物 2019.02.28
【第44回】海藻の発酵食品? 宮崎日南の『むかでのり』を探せ!
味噌汁飲んでますか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクです。
宮崎県南部の日南海岸沿い、飫肥(おび)や南郷と呼ばれる地域に『むかでのり』という発酵食品があるのをご存知だろうか?
世界あちこちの発酵文化を訪ねてまわっている発酵デザイナーでも「ななな…なんじゃこりゃ!」とびっくり仰天レベルMAXのスゴい発酵食品なんだよこれが。
謎すぎる海藻発酵
むかでのりは、世界的に見ても超珍しい、海藻を使った発酵食品。
日南海岸に生えるキリンサイと呼ばれる海藻を集めて何度も何度も天日干しにして乾燥わかめ状にしたものを水で戻したあとに煮出して寒天にし、それをさらに味噌漬けにして味付けするという「どうしてそうなった!?」と言うしかないスゴい製法のプロダクト。
むかでのりという名前は、磯に生えるキリンサイがまるでムカデのように見えることから。
最初は濃茶色の海藻なのですが、何度も何度も(場合によっては10回も)天日干しするうちにだんだん海藻の色がピンク色になっていきます。それを寒天にすると、ピンクと茶色の中間のような不思議なゼリーができます。で、それを数日〜10日ほど味噌漬け(つくる人によって麦味噌だったり米味噌だったり様々)にしてできあがり。
食べてみると、基本は味噌味なのですが、こんにゃくゼリーをさらにプルップルにしたようなマジカルな食感。これをご飯のおともやお茶請けにしたり、焼酎のアテにしたりするんだね。
お盆のお供え物の定番
この謎の発酵食品。調査初日、宮崎市内で泊まったホテルのすぐ近くの料亭の大将に、「むかでのりって知ってますか?」と聞いてみたらば、
「ああ、知ってるよ!俺日南出身だからな!そういやおばさんが作ってるからいま聞いてあげるよ〜」
と電話でおばさんにつないでくれました(宮崎ピープルは優しい…)。 そこから地元の人たちに色々聞き込みをしていって判明したのが、
・日南地方では海辺でも山間でも昔からむかでのりを手作りしている
・日南地方以外の人たちはむかでのりを知らない
・初夏にキリンサイを収穫し、お盆に神様にお供えする習わし
・霧島連山が噴火してからキリンサイがとれなくなり、手作りが困難に
ということ。地元の人たちに紹介してもらった漁師や食品加工メーカー、飲食店は軒並み
「いやあ〜キリンサイがとれなくて今年はむかでのりないんだぁ」
と残念な返事ばかり。
こりゃもう無理かも…と諦めかけたところ、日南ピープルには知らぬ人がいないローカルスーパーの雄「戸村フーズ」の一角でむかでのりを発見!パッケージの裏に書かれた製造元アドレスに直行し「アポなしですが製造しているところ見せてほしいー!」と頼み込んでみたら、
「あっ、こないだNHKに出てた発酵の人だ!」
と、製造スタッフのお母さんが僕のことを知っていたらしく、小一時間ほど現場で世間話させてもらうことができました。
主に食肉加工をしている「戸村フーズ」さんですが、少なからぬ地元の人からのむかでのりのニーズに応え、取引先の漁師さんからキリンサイをかき集めて手作りしていました。
若い人には「クセのある味でちょっと苦手…」と不評なむかでのりですが、年配の人にはお盆の風物詩 or ソウルフードとして根強い人気があるそう。おいしいむかでのりをつくるコツとしては、
・天日干しの手間をケチらない
・海藻を細かく刻んでから水に戻すと繊維が浮かないキレイな寒天になる
・ハイクオリティな味噌で漬けると間違いない
ということでした。工場ではお父さんとお母さんがめちゃ丁寧に海藻刻んで寒天にする下処理をしていたよ。尊い…!
宮崎はガラパゴス食大国説
むかでのりに限らず、宮崎には個性的な食文化がたくさん。
魚介を入れた味噌のだし汁をご飯にかけて食べる冷や汁や定番B級グルメのチキン南蛮、イワシやアジなどのすり身を味噌と黒砂糖と味付けして揚げるおび天など、わかりやすくおいしくて南国感たっぷりのユニークなメニューがやたらいっぱいある(そしてなぜかラーメンが辛い)。
宮崎で車を借りてあちこち走ってみてわかったのだが、宮崎は中心部が他の九州の県の県庁所在地からけっこう遠い。つまり離島をのぞくと九州のなかでもひときわ地理的に隔絶した土地。そこから他の県とは明らかに違う独特の文化と気質が生まれたのではなかろうか。
また暖かい時期に宮崎ドライブしてご当地グルメを堪能したいものですなあ。
それでは、ごきげんよう。
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