対談 2017.12.18
せきしろさん×セパタクロウさん|【第2回】人気番組の構成作家が語る、ラジオ業界の裏側と醍醐味
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- せきしろ
- 1970年北海道生まれ。主な著書に『去年ルノアールで』や『不戦勝』(共にマガジンハウス)、『妄想道』(角川書店)、などがある。共著に、『カキフライが無いなら来なかった』や『まさかジープで来るとは』(又吉直樹との共著。共に幻冬舎)、『ダイオウイカは知らないでしょう』(西加奈子との共著。文集文庫)など。近著に、『たとえる技術』(文響社)などがある。今年7月にラジオ好き号泣必至の半自伝的小説『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』が発売。
- 『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』
- せきしろ (@sekishiro) | Twitter
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- セパタクロウ
- 構成作家。『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』のハガキ職人から、番組に見出されて放送作家に転身。現在は、TBSラジオで『JUNK山里亮太の不毛な議論』を担当。2010年4月の番組スタート当初から製作に携わる。
- 『JUNK 山里亮太の不毛な議論』
- セパタクロウ (@sepadesu) | Twitter
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする当コーナー。今回のテーマは、独自のカルチャーを創り出し熱狂的ファンが多い「ラジオ」について。対談ゲストは、放送作家・コラムニスト・脚本家などマルチに活躍するせきしろさんと、TBSラジオの人気番組『JUNK山里亮太の不毛な議論』構成作家のセパタクロウさんです。
お2人がラジオに魅了されたきっかけを伺った前回に続き、今回はハガキ職人からラジオ業界に飛び込んだきっかけと、“ラジオのこれから”について語ってもらいました。
—お2人に共通しているのが、ハガキ職人を経て現在ラジオの仕事をしていること。この業界に進んだきっかけは?
憧れの番組からのスカウトでした
(セパタクロウさん)
転機になったのは、TBSラジオのJUNK枠で『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』。大好きな番組で、放送が始まったばかりの頃からネタを送っていたんです。
うん。
一度TBSラジオの方からノベルティの発送の件で電話がかかってきたことがあって「放送作家とか興味ありますか?」と聞かれたので「あります」って答えたんですけど。その時は別に誘われるわけでもなく、そのまま会話が終わりました(笑)。
え、そんな感じなの(笑)。
でも、「もしかしたらチャンスがあるのかも」って思ったんですよね。後日、番組で芸人さんのネタをリスナーが作る『他力本願ライブ』というイベントがあったんですけど、書いたら採用されたんですよ。その直後にTBSラジオの方から電話で正式に誘われました(笑)。投稿して本当に良かった。
僕も結構ハガキを投稿してたけど、今考えると何の役にも立ってない…(笑)
「演者の力になりたい」と思った
(せきしろさん)
僕は昔から伊集院光さんのラジオ番組を聴いてて、自然と演者の力になりたいって思いが強くなったんだよね。その後にいろんな芸人さんと一緒にイベントをする機会が増えて、形を問わず「誰かの力になれること」がどんどん楽しくなっていったな。
ラジオに限らずってことですよね。
そう。ただ、ラジオが大好きでハガキを送っていた人の気持ちもすごくわかる。実際にラジオの仕事をしてて、自分やセパちゃんと同じように熱量を持ってネタを送ってくる子がいたら、少なからずフックアップしてあげたいと思う。何かしら作る仕事をお願いしたり、相談に乗ったり。ハガキ職人をやっていて良かったと思うことは、僕が優しくなったことくらい(笑)。
僕もせきしろさんに助けられた1人ですから!『JUNK 山里亮太の不毛な議論』も、せきしろさんと一緒じゃなかったら僕はすぐ辞めていたかもしれません。初めの頃は、まだ放送作家になったばかりで不安も多くて。僕が誰かに怒られていたら、あとで必ずせきしろさんが「大丈夫?」って心配して声をかけてくれて…いつも救われていました。
リスナーとして見るラジオの世界と、実際のラジオ業界の現場はまた違うよね。面白いことを考えるだけではダメな世界だし、シビアなことも多い。辛くて最初のほうで挫折しちゃう子もいるよね。でも、余計なストレスを感じる必要はないから。
その結果として、僕は今も仕事を続けられているので感謝しかないです。
あ、でも1回だけセパちゃんを怒ったことはあるな。「お前、面白すぎるだろ!」って。
それ、最高に優しいじゃないですか(笑)。
—現在はラジオ番組を作る側の立場として、毎週届くリスナーからの何千通ものメールに目を通すそうですね。ネタを選ぶ時に大切にしていることは?
いくら面白くてもお題とネタの内容が合っていなかったり、公共電波だからいろんな事情で採用できないこともあるんです。でも本当に面白い人って、ちゃんと番組内で読める絶妙の面白ネタを送ってくれるんです。そういうのを見ると「ちゃんと考えて送ってくれてるんだな〜」って、嬉しい気持ちになりますね。
放送時間は限られているけど
できるだけたくさん紹介してあげたい
(せきしろさん)
その気持ちがわかるのは、元ハガキ職人だからこそ。送られてきたネタを読んでると、「この人は今こんなことをやりたいんだろうな〜」「この人は少し迷走している時期だな」とか、過去の自分と重なったりするよね。
文章やネタの内容に顕著に表れますよね。
それがわかってしまうことが、この仕事をしていて良いのか悪いのかはわからないけど。でも、できるだけ多くの人のネタを紹介してあげたいよね。ただ番組の時間は限られているから、選ぶ基準やバランスが本当に難しい。
「初めて投稿します!」っていう人も嬉しいですよね。最初のほうは遠慮がちだったけど、一度読まれると自信がついてどんどん面白くなっていく人もいて。そういう変化を感じるのも楽しい。
ネタの選定はどうしてる?気をつけてることとか。
個人的に好みじゃなくても番組で読んだら面白いかもと感じるものは、なるべく選びますね。コーナーによっては1人で担当している場合もあるんですけど、自分の好みで偏るのも良くないですし。番組がいかに盛り上がるかを最重視しています。
たしかにね。今は投稿の9割がメールでしょ。ハガキだけだった時代と比べて圧倒的に量が多いじゃない。いつ選んでるの?
普段は放送が深夜1時からなので、夕方〜19時頃にTBSラジオに行って、その日までに送られてきたメールを選ぶことが多いですね。前日までの間にも一度は局に行って必ず下選びをします。
下選び!偉いね。でもさ、大変だけど届いたメールを見るのってやっぱり好きだよね。
好きですね〜。
同じ人から大量に届いてたら、嫌になったりもするけど(笑)。「こんな捉え方をするんだな」とか、勉強にもなることも多いよね。
そうですね。
何千通も「意志のある文章」を読む。
こんな仕事、ほかにない
(セパタクロウさん)
投稿ネタを選ぶ作業を25年くらいやっているからわかるんだけど、最近投稿界も高齢化してきててさ(笑)。たまに大量のメールの中に、おじいちゃんからのふとした投稿とか紛れ込んでて。全然系統が違うけどそれがまた面白いんだよ。
ありますよね!以前80歳くらいの方から封書で届いて、中を開けたら縦書きの作文用紙にネタが書いてあった時は驚きました(笑)。
なんか神々しいよね…(笑)。
いろんな人の意志のある文章を、ときには週に何千通も読む。こんな仕事ってほかにないですよね。書き方や改行で、そのリスナーの性格や人物像を想像するのも楽しいですし。
すごい仕事だよね。自分もハガキ職人だったからよくわかるけど、メールに込められている熱量がすごい。リスナーたちから受け取るその熱に刺激をもらいます。
***
—最後に、お2人が思う“これからのラジオ”についてお話を聞きました。
今、ラジオは意味を持ちすぎているのかも
(せきしろさん)
ネタを送ってくれるリスナーがいないと番組が成立しないし、もちろん送ってくれる人には感謝しつつ、ラジオは何よりもパーソナリティが一番の主役であってほしいです。
あと、ラジオが大好きで「よし、ラジオ聴くぞ!」とストイックに聴いてもらえるのもありがたいですけど、もっと気楽に楽しんでもらいたいですね。
そうなんだよね。最近は、ラジオがエモーショナルな感じで語られることも増えてきたから(笑)。意味を持ちすぎているのかもしれないね。帰りのタクシーの中で誰かの番組が流れてて、それをいつしか聴いているような感じで、何気なく楽しんでもらえるのがちょうどいい。
そうですね。なんか面白いことやってるな〜って自然と色んな人が集まってくれるのが理想です!
—せきしろさんの半自伝的小説『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)のなかでも、ハガキ職人だった頃の話が綴られていますよね。
はい、今年の6月に発売しました。この本を書き終えたのは2011年くらいなんですけど、当時は全然相手にされなくて。それが最近ラジオが注目されるようになって、いきなりみんな優しくなったんですよね(笑)。
(笑)。本の中でパーソナリティのフリートークの描写があるじゃないですか。このくだり、実際にラジオで放送されていた内容なんですか?
よく当時の放送を書き起こしたって間違われるけど、それっぽく書いてるだけなんだよね。ちなみにそこはあるパーソナリティの口調で再生されるイメージで書いた(笑)。よりリアルな感じが伝わるように細かい部分にもこだわって書いたつもりだけど、ちゃんと伝わってるのかな。
そうなんですね。本当にフリートークでありそうだなと思いながら読んでいたので、それくらい細かいところまでリアルでした!ラジオ好きが共感するポイントが随所にあるんですよね。
—さて対談の最後に、アマノフーズのおみそ汁「なすのおみそ汁」でほっと一息。とろっとしたなすの食感と、まろやかな味わいを楽しめる定番の一杯です。深夜ラジオを聴きながら小腹が空いてきたら、ぜひ夜食のお供に。
対談終盤はリラックスムード。「お湯だけでできるんですね」「なすの食感がすごい!」と、お2人とも喜んでくれた様子。さて、ここでちょっと面白いお話がポロリ。
最近よく聴いているラジオ番組は『三四郎のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)なんだそうですが、ラジオの第一線で活躍する現在でも、“いちリスナー”としてネタ投稿することがあるのだとか!
たまに適当な名前で送ったりするんですけど、全然読まれないんですよ(笑)。投稿している時の気持ちは僕も全国のリスナーもみんな同じです!
裏側のこともよく知っているので、「今はメールがたくさん届いてて、選ぶ作業が追いつかないんだろうな〜」って、勝手に想像して納得するようにしています。
パーソナリティに自分のラジオネーム、そして練りに練った投稿が読み上げられた時の感動を知っているからこそ、今でもハガキ職人たちの気持ちや熱量を忘れないお2人。ラジオ番組、そしてラジオというカルチャーの作り手として、今後の活動がますます楽しみです!
楽しいトークをありがとうございました!またのご来店をお持ちしております♪
撮影協力/池尻セレクトハウス
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