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編集者・都築響一さん×作家・戌井昭人さん |【第1回】人生の転機は、狙ってつくれない。2人のターニングポイントを振り返る

都築響一と戌井昭人
  • 都築響一
    都築響一
    1956年、東京都生まれ。『POPEYE』『BRUTUS』で現代美術や建築、デザインなどの記事を担当。自らカメラを手に、狭いながらも独創的な若者たちの部屋を撮影した『TOKYO STYLE』や、日本各地の奇妙な名所を探し歩いた『ROADSIDE JAPAN』で、既存メディアにはない視点で現代社会を切り取る。秘宝館やスナック、独居老人など、無名の超人たちに光を当て世界中のロードサイドを巡る取材を続行中。
  • 戌井昭人
    1971年東京都生まれ。小説家、劇作家。玉川大学文学部演劇専攻卒業。文学座研究所を退所後、1997年に劇団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ。2008年『鮒のためいき(新潮3月号掲載)』で小説家としてデビュー。2014年に『すっぽん心中』で川端康成文学賞を、2016年に『のろい男 俳優・亀岡拓次』で、第38回野間文芸新人賞を受賞。主な著書に『まずいスープ』『ぴんぞろ』『ひっ』『どろにやいと』などがある。
都築響一

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けするお客さん対談。今回のテーマは、「人生の転機」について。

ゲストは、秘宝館やスナック、独居老人などマニアックな場所や人に光を当て、世界中の“ロードサイドを巡る取材”を続ける都築響一さんと、2007年に劇団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げし、俳優や小説家としての顔を持つ戌井昭人さん

それぞれの道を突き進むお2人の人生のターニングポイントとは?全2回でお届けします。

都築響一と戌井昭人

—今回のテーマは「人生の転機」です。これまでの過去を振り返って、お2人が「ここがターニングポイントだった」と感じる出来事はありますか?

転機…うーん、ないかもな(笑)。

僕は2009年に『まずいスープ』(新潮文庫)が芥川賞候補に入ったんですけど、そこでもし選ばれていたら転機になっていただろうな〜と思います。

発表された翌日、戌井さんと西調布のスナックで飲んだよね。

そういえば、最初に「落ちました」って報告したのが都築さんでした。

初めて会ったのは10年くらい前だっけ。

そうですね。その当時、都築さんはスナックの本を作ると話されていました。お店の名前は何だったかな…。

本にも載ってたな〜(ページをめくりながら)。あ!一緒に行ったお店は『美幸』だね。

都築響一と戌井昭人
都築さんが自らの足で探しあてた東京のスナックを1年間かけて50軒取材を行った『天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~』(廣済堂出版)。50人のママやマスターのドラマをインタビューで綴る渾身の1冊。

そうそう!父親の知り合いがよく行っているスナックが西調布にあって。行ってみたら、すごく濃いお店だったんですよね。

そうね。そもそも薄いスナックなんてないけどね。

この本に登場している方ってみんな人生の転機だらけじゃないですか(笑)。都築さんとはそれ以降も、いしいしんじさん(作家)を交えて食事に行ったり、鉄割(※1)の公演を観にきてくれたり、思えば長いお付き合いになりましたね。

※1 戌井さんが1997年に旗揚げした劇団「鉄割アルバトロスケット」

—都築さんは編集者、戌井さんは劇団を旗揚げして小説家としての顔を持っていますが、現在の道に進んだきっかけを教えてください。

都築さんは学生時代から編集のお仕事をされていたんですよね。

マガジンハウスの『POPEYE』『BRUTUS』編集部で10年くらいかな。それからもずっとフリーで仕事をしてきたから、「会社を辞めて起業した」「ある日いきなり誰かに弟子入りした」とか、そんな転期といえるような出来事なかったんだよ。戌井さんはさ、途中で就職しようと思ったことある?

当時付き合っていた子に「そろそろ、ちゃんと働いたら?」と言われて、一度だけ工場の面接に行ったことがありますね。落ちましたけど(笑)。

はは!そこで工場に就職しなかったことが“転機”かもね。就職や転職が必ずしも転機になるとは限らないじゃない。そのまま面接に受かって働いていたら、今とは全然違うわけだし。

戌井昭人

文学座を辞めて、「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ

(戌井昭人さん)

落ちた時に、もう自分は就職して会社員になるのは無理だなと思いました。

僕も「社員にならないか」って何度か会社に誘われたことがあってさ。その時はフリーの道を選んだけど、もしあの時に就職していたらどうなっていたんだろう。たまにふと考えるんですよ。

出版社で役員とかになっていたかもしれないですね〜。絶対に会社員にならないって決めていたんですか?

頑なに拒否していたわけじゃないよ。ただ、その頃はフリーで自分のやりたいことができていたから。会社員になると異動もあるし、そもそも配属されるのが編集部とは限らないでしょ。仕事を選ぶことができないならフリーのほうがいいかなって。

そう考えると、僕も「文学座」(※2)を辞めたことが大きいかもしれません。当時から自分で脚本を書きたいと思っていたし、鉄割の構想もすでに漠然とあったんです。

※2 2017年で創立80周年を迎える日本を代表する劇団。戌井さんが所属していた専門養成機関「文学座附属演劇研究所」は、本科で1年基礎を学んだのち、選抜メンバーが研修科で2年修業。その後、さらに選抜されたメンバーは準劇団員として2年の研鑽を積み、ようやく劇団員となる。

劇団は年功序列な世界でもあるしね。

あのまま文学座に居続けても好きなことはできたとは思うけど、自分で何かを生み出そうという覚悟までは持てなかったかもしれません。まぁ、辞めると決断した時も「革命を起こしてやるぞ!」って感じではなかったんですけどね。基本的に、嫌なことから逃げてましたから(笑)。

むしろ深く考えずに進んだ時のほうが、あとで考えてみると転機になっていたってことはあるよね。鉄割を立ち上げたのは何歳の頃?

26歳くらいですね。

そんなに長いんだ!なんかバンドみたい、すごいね。

一応終わらずになんとか続けてこられました。ただ、20年も経つと体がどんどん動かなくて(笑)。月日の流れを実感します。

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鉄割アルバトロスケット『鉄と割』(画像・左)、『鉄寿』(画像・右)チラシビジュアル

長く続けることって素晴らしいこと。だって、最初はうまくいく確証もないわけでしょう。

全然ないです!確証はないけど、当時は若かったから自信だけはあった気がします。

昔は今みたいにSNSで宣伝したりクラウドファンディングで賛同者を募ったりする手段がないじゃない。どうしてたの?

チラシを手書きで作って、いつも配りながら歩いてましたね。お金がないから「何分割でプリントすれば一番安くなるか?」とか考えながら。

そんな時代に劇団を立ち上げるのは、きっと今の100倍くらい大変だろうね。いろんな労力が必要だし。

最初のうちは劇場を借りたり照明をお願いしたりするにも色んな規制があって。一から自分たちでやらないといけなかったので、労力はかかりましたね。

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2016年11月に開催された『鉄割アルバトロスケット山』公演の様子

転機って、狙って作れるものじゃないよね。

そうですね。「やってみたい!」という衝動だけで行動していた気がします。もともと演劇界を変えてやろうって大きな野望があったわけじゃなくて、その時々で足りない部分を補うようにしていったら、いつのまにか今に繋がっていたって感じです。

彼女に言われたひと言とか、面接に受かったり落ちたりとか。自分の意思とは関係ない小さなきっかけが、転機になる可能性は大きいよね。

都築響一

やるしかない状況で生まれた『TOKYO STYLE』

(都築響一さん)

僕が写真を撮るようになったのも、別に自分がやりたくて始めたわけじゃないの。

え、そうなんですか。

『TOKYO STYLE(※3)』も、最初は自分で撮影するつもりじゃなかったし。

※3 1993年に京都書院から出版された都築さんの写真集。東京の普通の人々の生活感溢れる雑然とした居住空間を捉えた写真で注目を集める。2003年には筑摩書房から文庫版が発刊。

TOKYO STYLE

そもそも、なんで『TOKYO STYLE』を作ろうと思ったんですか?

若い子たちの部屋に惹かれるものがあったんだよね。狭くてごちゃごちゃしてるけど面白いものが置いてあったり、独特の居心地の良さがあったりさ。おしゃれなインテリア雑誌に取り上げられるような暮らしじゃなくても、気持ち良く暮らしている人はたくさんいる。そんな空間を集めて1冊の写真集にしたら面白いんじゃないかと思って。で、それを色んな人にプレゼンしたんだけど…みんなに笑われちゃってさ。

へぇ~!そんなことが。

だから、自分でやるしかないじゃない?仕方なくだよ(笑)。でも何のノウハウもないから大変でね。フィルムの入れ方とか基本的なことを人に教わりながら、なんとか!って感じで。

ない状況でどう工夫するか、ですね…。

そうそう。もし当時、頼めるカメラマンが近くにいたら、その人にお願いして終わっていたかもな。取材して原稿書いて写真も撮って…って、いろんなことができるようになったり、仕事の幅が広がったという点では、僕にとって『TOKYO STYLE』が一つの転機だったのかもしれないね!

 

(後編へ続く)

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