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矢部太郎さん×山崎ナオコーラさん|大家さん、そして家族…型にはまらない「新しい人間関係」のカタチ

矢部太郎と山崎ナオコーラ
  • 矢部太郎
    1977年生まれ。お笑いコンビ・カラテカのボケ担当。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。父親は絵本作家のやべみつのり。『大家さんと僕(新潮社)』は初めて描いた漫画。2018年4月現在も大家さんの家の二階に住んでいる。
  • 山崎ナオコーラ
    1978年生まれ。作家、文学者。国学院大学文学部日本文学科卒業。2004年、会社員をしながら書いた『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞し、作家活動を始める。著書に、小説『美しい距離』『偽姉妹』などのほか、エッセイ『指先からソーダ』『かわいい夫』『母ではなくて、親になる』などがある。

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けするお客さん対談。今回のテーマは「出会いと人間関係」について。

ゲストは、大家さんとの心温まるエピソードが詰まった漫画『大家さんと僕』(新潮社)が話題の芸人・矢部太郎さんと、新しい出産・子育てエッセイ『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)が注目を集める作家・山崎ナオコーラさんです。

結婚、出産や、引っ越し(!?)と…いろいろなターニングポイントを経験しているお2人。その経験で得た人との出会いを通じ、いま人間関係を築くうえで大切にしていることは?

春は出会いの季節。人との付き合いについて、考えることが増えるこの時期にぴったりのお話を伺えました!お2人の意外な関係性も明らかに♪

 

奇跡の実話漫画、『大家さんと僕』を描いた理由

 

―まずは、矢部さん。『大家さんと僕』(新潮社)が大きな話題になっていますね。この作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。

今の家に住み始めてから8年目になるんですけど、二世帯住宅だった家の2階に僕、階下に大家さんが住んでいるんです。

矢部太郎

きっかけは8年前の引越し。

「大家さんとの出会い」が全ての始まり

(矢部太郎さん)

どうやって仲良くなったんですか?

大家さんの部屋に毎月家賃を払いに行ってたら、突然お茶に誘われて(笑)。最初は正直距離感に戸惑いました。でも、お話をしてみたら、すごく素敵な方で。その時は、まさか漫画になるとは思ってもみなかったんですけどね。

漫画はもともと描かれていたんですか?

描いてはいなかったんですけど、台本の隅に落書きをしたり、相方(※1)がフリップネタをする時に手伝ったりはしていたので、もともと好きだったんです。

※1…お笑いコンビ・カラテカのツッコミ担当の入江慎也さん。

本格的に描くようになったのは、漫画家の倉科遼先生に偶然お会いしてから。「面白いから描いてみなよ!」って勧められて、背中を押された感じです。

『大家さんと僕』、拝読しました。帯に書かれている「新しい家族のかたち」という言葉に惹かれて手に取って、一気読みです。大家さんとの関係を素晴らしいと思いました。

「大家さんだから立場が上」という関係でもないんですよね。

フラットな関係?

そうですね。「桃むいたからどうぞ」とおすそ分けを頂いたり、僕の方でも大家さんの庭の草むしりをしたり、台風が来そうなら木を縛ってあげたりとか、お互いに助け合っている関係です。自分では普通に思っていたことを周りに話をすると、結構驚かれるようになって。

大家さんと僕
大家さんとの実話にもとづく心温まるエピソードが詰まった漫画作品『大家さんと僕』(新潮社)

昔は上下関係を作らないと人間関係が築けなかったんでしょうね。そして、年齢や性別を常に意識して人と接していたんじゃないでしょうか? でも、今は社会が成熟してきて、年齢の差や性別を気にしないでフラットに人間関係を築けるようになった。それを提示してくれた本だと思います。

ほぉ~!そんなに褒められると嬉しいです(笑)!

漫画や近代文学で同居が題材になることはよくあります。たとえば、手違いで急に上司との同居が始まって、嫌なやつなのになぜか恋愛に発展しちゃうとか。間借りした学生が、大家さんの娘に恋心を抱くとか。大体、恋愛で物語が作られるんです。

この作品には恋愛の要素が一切ないじゃないですか。『大家さんと僕』は、恋愛に関係なく人づき合いが行われていて、「こんな風にもストーリーを紡げるんだ」って、現代文学の新しい道が見えたように思いました。

 

発売初日にツイート!? お2人の意外な関係性

 

—山崎さんの旦那さまも『大家さんと僕』を読まれたそうですね!

私、ほぼ毎日“書店パトロール”をしているんです。

毎日ですか(驚)!すごいなぁ…

『大家さんと僕』は発売初日に書店に積んであるのを見かけ、帯に惹かれてすぐに買いました。絵や構成、言葉の完成度も高い。傑作でした。

注目してくれたのがすごく早かったですよね。

たぶん、発売初日にツイートしました。

それがすごく嬉しくて…!

まさかご本人に気付いてもらえるとは思っていなかったので、私も嬉しかったです。

めちゃくちゃエゴサーチしてますからね(笑)。入江君に「キングコングの西野君みたいにエゴサーチしっかりしたほうがいいよ!」って言われて…。

(笑)。私の夫は書店員をしているんです。私が『大家さんと僕』を読んで「ものすごい傑作があった!」って薦めたら、夫も読んで「これはすごい本になるね!」って。

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『かわいい夫』に登場する

旦那さんとの関係に憧れる

(矢部太郎さん)

旦那さんは雑誌の担当をされているんですよね。僕がその書店に伺った時に、『President』(プレジデント社)と『ムー』(学研プラス)の間に僕の本を置いてくださっていて。「こんなに良いコーナーに…!」って感激しました。

夫は割といい仕事をするんですよ。書店員のセンスは、その本の隣に何を置くかに発揮されますから、『President』と『ムー』の間なのには何か理由があるに違いありません(笑)。大ヒットしてからもサインやお土産を持ってきてくださる矢部さんを、「本当に良い方だ!」と夫はべた褒めしてました。

「その書店の近くに彼女がいるんじゃないか?」って噂になるくらい何度も通いましたからね(笑)。

ふふ(笑)。

僕、ナオコーラさんのエッセイで最初に読んだのが『かわいい夫』(※2)なんです。旦那と妻の役割を分けずに成立するお2人の関係性が面白くて。

※2…2015年に夏葉社から発行された結婚エッセイ集。日々の暮らし、父との死別、流産、ふたたびの妊娠など、さまざまな出来事をとおして、浮かび上がってくる、あたらしい結婚の形がテーマ。

頼りがいがある感じではなく、なよやかな夫です。タイトル通り“かわいい夫”なんです。

僕も「こんな夫が欲しい!」って憧れました(笑)。

 

人間関係を築く上で大切にしていること

 

—矢部さんは大家さんとの出会い、山崎さんは旦那さまと出会っての結婚・出産。人との「新たな出会い」が大きなターニングポイントになっていますね。

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人間関係って結局1対1ですよね。「親子や家族はこうあるべき」という固定観念はいらないし、関係性も時間が経つにつれて変わってくる気がします。

ナオコーラさんの作品は、ご家族との関係が描かれていることが多いですよね。

そうですね。以前、『美しい距離』(※3)という終末医療小説で夫婦関係を書いたのですが、それは私自身の父親がガンで入院して亡くなったときのことをそのまんま書いているんです。私が毎日お見舞いに行っていたときのことなんですよ。小説は夫が妻を看取る話なんですが、私が父に対してやったことや思ったことをそのまんま書いても通る。つまり、親子だろうが夫婦だろうが、結局は人間関係、一対一で、大きな違いはないんですよ。

※3…2016年に文藝春秋から発売された、世の人の心に静かに寄り添う中篇小説。

あと、最近は子供と一緒に街を散策することが増えたんですけど、街の見え方も変わってきました。子供がタンクローリーやミキサー車が好きだから、それに注目するうち、仕事でひとりで歩いていても車が目につくようになって。

へえ!お子さん、すごく成長されましたね。確か、『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)の作中では、「首が据わった」って書かれていた記憶が…。

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山崎さんの新刊『母ではなくて、親になる(河出書房新社)』。周りを照らす灯りのような赤ん坊との日々を描く、全く新しい出産・子育てエッセイ。

今、2歳なんですが、子どってどんどん成長するから、1年が5年分くらいある感じ。首が据わったなんて10年前の話に思えます(笑)。矢部さんは大家さんと仲良くなって変わったことはありましたか?

大家さんは旬の食材を買うためだけに、伊勢丹までわざわざ足を運んだり、季節の行事を大切にしているんですよ。それがすごく素敵で、見習いたいなって思うんです。

あと、最近は大家さんと同世代の方を街で見かけると、見て見ぬふりができなくなりました。歩くスピードが気になったり、電車でも席を譲ってあげないと落ち着かなかったり。

大家さんはいろんな知識も豊富ですよね。一緒にいると、刺激を受けそう。ひとつ気になっていたシーンがあるんですけど、入院した病院で大家さんが軍歌を歌っているシーン。あの歌詞って、後から矢部さんが調べたんですか?

ネーム(※4)の段階で大家さんには毎回見せているので、その時にくわしい歌詞を教えてもらったんです。

※4…漫画を描く際にコマ割り、コマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表したもの。

え!発表前に全部を大家さんに見せていらっしゃったんですか?

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困ったのは、「知覧(鹿児島)で1000機くらい特攻隊が飛び立ったけど、1機も帰ってこなかったことを思い出しました」というモノローグを足して欲しいと言われて。それを入れるスペースがないし、内容が重たくなりすぎちゃうかなぁ…って。

それは、どうやって説明なさるんですか?

「そんな雰囲気が伝わるように、頑張って絵で伝えます!」ってやんわりお断りしました。

上手い説明ですね! 矢部さんって人間関係を築くのが上手そうですよね。

そんなことないですよ。たまに、交渉術とか恋愛のHOW-TO本を読んだりしますし(笑)。

意外ですねえ!

(笑)。でも、そういう本に書かれていることを実践するのは、どこかズルい気もしていて。テクニックを使って人と接するのはヤダなぁって。まぁ、僕には一番近くに入江君っていうHOW-TOをフル活用している人がいるんですけどね…(笑)。

あはは、真逆ですよね?

彼への反発がそうさせているのかも(笑)。やっぱりコンビって2人でひとつなので、自然と人格が相反していくというか…。

その関係性もすごく面白い。

 

作品を生み出す時に心掛けていること

 

—読者の皆さんに伝えたい&これから挑戦していきたいことを教えてもらいました!

「遠い人に、腹を割ること」を大切にしています。家族や友人ではなく、遠い関係性の人に読んでもらうために作家をやっているので。

素敵ですね。

もっとエッセイを極めたいんです。ただ、上手な文章は傑作を産まないんですよね。漫画やお笑いも、絵が上手い人や喋りが達者な人が成功するとは限らないじゃないですか。爆発的な作品は神様みたいなものがヒュッと入って生まれるから、文章を練習して上手くなったところで、駄目なんでしょうね。

たしかに僕も、喋りだけ上手くなりたいって考えたことはないですね。芸人同士で交流を深めたり、常にそんな感覚を養っている芸人は多いんですけど、僕はそういうのが苦手で(汗)。ダメだなぁ…って自分でも思うんですけどね。

若い頃、私は野心家だったので「売れたい」「評価されたい」と思っていました。でも、夫は真逆の考え方で、競争を全くしない。そういう夫に影響を受けて私も変わってきました。

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「大家さんとの話」を

今後も描き続られればいいな

(矢部太郎さん)

作品でも「勝ち負けじゃない」って書いてありましたよね。今回、ナオコーラさんとお会いすることが決まってから、もう一度今までの作品を読み返したら、その部分に付箋が貼ってありました。

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「遠い関係性」の人にも届けたい

(山崎ナオコーラさん)

勝ち負けにこだわらないようになりたいですね。でも、まだときどき勝負が気になってしまうときがあります。それに、「純粋な人間関係に憧れる」って言いながらも、こうやって人と会う時、相手の性別や年齢とかを頭のどこかで考えてしまっている自分もいます。まだまだですね。なので、矢部さんと大家さんのような、年齢や性別を超えた、カテゴライズされない自由な関係に強く憧れます。私もそういう新機軸を生み出す仕事をしたいです。矢部さんはこれからも漫画を描き続けたいですか?

そうですね。「また描いてください」って温かい声をいただくことも多くて、僕自身も描くことが楽しいですし。今の家には、できればずっと住みたいなって思っているので、これからも大家さんとの話を描き続ければいいなと思ってます。

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—本日は楽しいトークをありがとうございました!対談後に、アマノフーズの「チーズリゾット」で一息してもらいました♪
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『チーズのコクがあって、すごくおいしい♪(by矢部太郎さん)』
『お湯だけで気軽に作れて便利ですね!(by山崎ナオコーラさん)』
と、フリーズドライ商品に驚きのご様子!最後に、お2人の印象的なこぼれ話をご紹介♪

将来、こんなおじいちゃんになりたいとか、考えたことありますか?

全然想像できないなぁ…。おばあちゃんになった時のことを考えますか?

すごく考えます。長生きして、老人エッセイを書きたいんですよ。

老人エッセイ!

これからは超高齢化社会なので、きっと需要もあるはず。エッセイストとしても長く頑張っていきたいので、100歳になっても書き続けていきたいです。

93歳で活躍されている作家の佐藤愛子さんもいらっしゃいますしね。佐藤さんの著書の『九十歳。何がめでたい』(小学館)を大家さんに頼まれて買って届けたことがありました。100歳になったナオコーラさんの作品も読んでみたいなぁ〜!

頑張ります!!

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【Information】
※お2人の作品はこちらから!
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山崎ナオコーラさんの新刊『母ではなくて、親になる(写真・左)』
矢部太郎さんの実話漫画『大家さんと僕(写真・右)』

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