対談 2015.08.27
小鳥遊しほさん×茂木雅世さん|「食×アート」で広がる世界
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- 小鳥遊しほ
- モデル・フードコーディネーター・イラストレーター。1988年生まれ。美容師免許、調理師免許、フードコーディネーター検定、色彩検定など数々の免許や資格を持つ。モデルとしてメディアに出演するかたわら、LINEスタンプやコラボTシャツの制作などマルチに活動している。雑誌『mini』(宝島社)でコラム「小鳥遊しほの旬のお野菜研究所」を連載中。2015年4月に出した初のコミックエッセイ「くまっているのはボクなのに。一問一頭」も好評発売中。
- 小鳥遊しほ オフィシャルウェブサイト
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- 茂木雅世
- 日本茶アーティスト。煎茶道東阿部流師範。茶育指導士。1983年生まれ。「ゆる茶」をテーマに、日本茶に関するイベントの企画立案や、参加型のお茶会やワークショップを行いながら、日本茶の楽しさを広める活動をしている。監修本に「やまとなでしこお茶はじめ」。FMヨコハマにてレギュラー番組「NIPPONCHA・茶・CHA」を放送中。自由大学「日本茶コトはじめ」教授。
- 茂木雅世 オフィシャルウェブサイト
東京下町のとある街角にひっそりと佇むアマノ食堂。この店に訪れるお客さんの“おいしいお話”を毎週お届けしていきます。第4回のテーマは「食×アート」。
お腹を満たしてくれる食と、心を豊かにしてくれるアート。組み合わせることで可能性は無限大に広がります! 今回は、食とアートのコラボレーションから生まれる新たな世界のお話です。
ゲストは、日本茶アーティストの茂木雅世さんと、モデル・イラストレーター・フードコーディネーターとして多方面で活躍する小鳥遊(たかなし)しほさん。小柄でキュートな“おかっぱ女子”2人がエネルギッシュに語る「食×アート」の世界をご堪能ください。
─ モデル・フードコーディネーター・イラストレーターと職域を超えマルチに活躍する小鳥遊しほさん(写真左)と、「日本茶」にファッションや音楽などのクリエイティブを加えた新しい活動を行っている茂木雅世さん(写真右)。まずはお2人の気になる経歴からお伺いしましょう。
「人生で一番行き詰まっている時、1杯のお茶に心惹かれた」
(茂木雅世さん)
まず“日本茶アーティスト”って新鮮ですよね! 茂木さんのホームページを最初にみた時に「お茶を職業としてどう調理しているんだろう?」って思いました。どんなきっかけでお茶の世界に入られたんですか?
実家でお茶を急須で淹れて飲むのが当たり前だったので、私にとってお茶は日常でした。もともとは文章を書くことが好きで、大学卒業後しばらくは放送作家をしていたんです。でも体調を崩してしばらく引きこもってしまって。その一番行き詰まっている時に、自分で淹れた1杯のお茶にものすごく心惹かれたときがあったんです。それまでずっと言葉の力を信じていたんですが、それが信じられなくなった時に見つけたのがお茶。それから「急須で淹れるお茶をもっと広めたい!」と思って“日本茶アーティスト”として活動するようになりました。日本茶に関する企画づくりからイベント出演まで、自分でやっています。小鳥遊さんはどうですか? すごく幅広い活動をされていますよね。
私は美容師だったんですが、20〜21歳の時に辞めて、メディアに出たいと思うようになったんです。ちょうど当時は“美人すぎる料理研究家”とかが流行った頃で。私も料理が得意だったから、周りに言われてtwitterなどで「自称フードコーディネーター」を名乗り始めました。でもそれだけだと仕事にならないから、そこからレストランで働きながら調理師免許をとって、同時期に学校へ通ってフードコーディネーターの資格も取りました。さらにその間にモデルのオーディションを受けて事務所に入って…。で、いざ事務所に入ってみたらイラストが受けてイラストレーターとしても活動してるという感じです。
イラストかわいいですよね! どこかで勉強されたんですか?
もともと趣味で描いていただけで、特に勉強はしてないんです。でも活動を始めてすぐ、食べ物の写真とイラストを組み合わせた作品を出版社に持ち込んだら、その場で連載が決まって。
すごい!
今思うとすごいことなんだけど、当時はきょとんっていう感じでした(笑)。でもそれがきっかけで料理やイラストの仕事は今も続いています。連載も、もう3年目になるかな。
へぇ〜おもしろい。本当にマルチですね。
「ひとつだけだと飽きちゃいそうだから(笑)
色々やって、忙しいくらいがちょうどいい」
(小鳥遊しほさん)
全部自分でやりたくなっちゃうんです。例えば、以前ある企業さんから「Tシャツを作りましょう」という話をもらったことがあって。その時はドーナツの写真とイラストを組み合わせたデザインを考えたんだけど、ドーナツを自分で作って、撮影も自分でカメラマンさんを手配して、それで写真データをもらったら自分で描いたイラストをパソコン上で組んでそのまま提出。Tシャツのタグも作りたいって言って、それも全部自分で作らせてもらいました。でも、ちょっと前まではパソコンも電源つけるだけでいっぱいいっぱいって感じだったんですよ。
え!本当に?
そうなんです。調理師免許を取得しようとしている最中に、知り合いのアートディレクターさんの下でアシスタントのようなこともやらせていただいていて、そこでパソコンソフトの使い方などを教えてもらいました。最終的に自分のホームページや作品を作ろうとする時に、誰かの手を借りなきゃいけないのが嫌だったんです。誰かにお願いしたら自分の頭の中のイメージ通りには絶対いかないから。やっぱり自分以上に自分のイメージを具現化できる人なんていないので。もちろん世の中にすごい人たちはたくさんいるけど、そういう人たちに任せたらお金もかかるし、自分も成長しないし。
すごい…。でも全部自分でやると忙しくなるし、疲れません?
ひとつのことだけをやっていると飽きちゃうから、ちょうどいいのかも(笑)。
なるほど、バランスがうまく取れているんですね。
「おもてなしってもっとクリエイティブで
壊していいものだと思う」
(茂木雅世さん)
私たちのような「食×アート」っていう生き方って、色んな発信方法がある現代を写していますよね。ちょっと前だったら難しかったんじゃないかな。でも外からパッと見られた時に、小鳥遊さんがそこまで考えて努力してるっていうのをわかってくれる人ってまだあまりいないんじゃないですか? 結構軽く見られちゃったりとか…。
そうですね〜。
それが嫌だなって思うとき、ありません!?
そんなにないかもしれませんね。むしろ自分でそのギャップを生ませて、勝手に楽しんでいる感じです。「どうぞバカにしてください」って思うこともある(笑)。
強いですね! 私はその悩みで最初の2年くらいへこんでましたよ(笑)。
食を仕事にしている人って世の中に山ほどいるじゃないですか。じゃあその中でどうやって生き残っていけるかといったら、私には食とアートの合わせ技しかなかったんです。多分私がやっていることを軽く見る人はたくさんいるけど、ちゃんとわかってくれる人は、「どれをやってもちゃんとできるんだから、どれかひとつに絞れば?」って言ってくれたりもして、私はそう思ってもらえる感じのままいきたいんですよね。
でも茂木さんの見られ方ってそれとはまたちょっと違いますよね。「日本茶を仕事に?」って思われることはないですか? 「日本茶が仕事として成立するの?」っていう。私も最初びっくりしましたもん。
私の場合はとにかくビジネスとして成立するまでが大変でしたね。日本茶アーティストと名乗り始めて、今5年目なんですけれど、最初は「お金を払うのでやらせてください」から始めて、そこから0円になって、少しずつギャラをいただくようになって…。
そうですよね。少しずつ。
最初は、普段お茶を急須で飲む習慣のない人に向けて発信するって決めて活動していたんです。普段コーヒーや紅茶を飲んでいる人に「急須で淹れるお茶っていいね」って思ってもらいたかった。でもお茶って無料で飲めるイメージが強いし、誰かのライフスタイルを変えることってとても難しくて、そこを打ち破るのはすごく苦労しましたね。それで、打ち破る手段として日本茶にアートをかけ合わせて、一見奇抜に思われるようなことをやってみたんです。「日本茶×ファッション」で、急須柄の洋服を作って着てみたりとか。それは、パッと見は浅く見られがちなんだけど、すごく意味のあることだった。でもやっぱりうまく伝わらなくて葛藤したりもしましたね。
それは確かに。軽く見ちゃったら、そう見えちゃいますもんね。
あと、お茶の世界って伝統もあるし、変えずに伝えていく部分も多いので、お茶業界の人に色々言われたこともあったし…。一般的には日本茶ってPOPとかおもしろさとは真逆の場所にあると思うんですね。私はお抹茶ではなくて急須を使う煎茶道をやっているんですが、やっぱりお手前があったらそれを間違えずに正しくやらなくては!というところばかりにとらわれてしまう人が多いと思うんです。でも、もともとお茶をやっていた人って、千利休とかその前から、もっとクリエイティブだったんですよ。お花を飾る床の間に奥様を座らせてお客さんをもてなしたりとか!
えぇ〜!おもしろい!
自分なりのおもてなしというのを真剣に考えた結果そうなったんでしょうね。あと、茶室の前に落とし穴を作って、お客さんを一度落としてお風呂に入れてから、「リラックスできたでしょ。お茶どうぞ」っていう人もいた(笑)。「おもてなし」って今すごく使われている言葉だけど、本来もっとクリエイティブで壊していいものだと思うんです。
型にはまらない、ってことですね。
そうそう。大切なのは、お茶をおいしく淹れてそこにいる人を幸せにすること。でもそれが難しいんですね。煎茶道って江戸時代から始まって、昭和の頃、花嫁修行としてやる人も多かったようなんですが、本質を大切にしながらも、より煎茶を面白く発展させようと試行錯誤し続ける人ってあまりいなかったのではないかと思うんです。私はそこをやりたいと思ったんです。
実は私も小学校のとき、母の影響で茶道と華道やっていました。
お華とかお茶ってクリエイティブなものを作る根本ですよね。
そうですね。今、めっちゃお華とかやりたいですもん!
音楽も絵も料理もみんな一見違って見えるけど、創作するという根本はどれも同じなんだと思います。
「“楽しい”ばかりじゃなく、
それをお金に変えていくことも大事」
(小鳥遊しほさん)
だから根本が似ているっていうか、センスが合う人とはどんなジャンルでも本当に仕事がしやすいですね。もちろんプライベートで遊んでも楽しい。この前も仲間内でホームパーティーした時に、知り合いのシェフがダチョウの卵でものすごく大きな月見バーガーを作ったんです。今そのシェフと、そういうおもしろいことを打ち出せる媒体があったらいいねっていう話をしています。
普通はついビジネスが先行しがちになるけど、「楽しいからやる」っていうのは大事ですよね。無意味かもしれないけど、無意味なことこそがおもしろかったりして。
そう、無意味だからこそなんですよね。それが最終的に仕事に繋がればいいし、仕事にしようとした時に実現できる脳があったら最高。やっぱり楽しんでいるばかりじゃなくてお金にも変えていかないといけないですからね。
そのあたりの発想はどうしているんですか?
なんだろう…お金になることって大体わかるじゃないですか(笑)。
でも普通は真逆にあるじゃないですか? 楽しければいいっていうところと、ビジネス的な思考って。
例えば私、飲み歩くのが好きなんですね。その場で生まれる人と人との繋がりがすごく好きで、家に帰るのは週1回くらい。それって普通はお金を使うばかりだけど、私はせっかく食関係の仕事もしているんだから、これはお金に変えるべきだって思って。まずは飲み会でグルメサイトの会社の人と繋がろうとしました。記事とか書かせてもらいたいと思って。
そんな飲み会、すぐあります?(笑)
(笑)。グルメサイトの人が主催する飲み会は一生待っていても来ないけど、その会社の人の友達の友達とかは結構いるので。あと、前はinstagramに作った料理の写真をアップしていたけど、最近は飲み歩いてばかりで家で料理をしなくなったから、じゃあ自分で“ひとり食べログ”をつけようと思って。それで今、twitter上で「#小鳥もぐログ」ってハッシュタグつけて飲み歩いたお店の講評を書いたりしてます。とにかく土台を作っておけば、あとはコネを作って好機がきた時にビジネス提案さえできれば仕事になるかなって(笑)。
そうか。だからちゃんと計算している部分と、楽しいからやるという直感的に行動する部分が両立できているんですね。
はい、同時進行です。楽しいっていう欲望を何かのせいで汚したくないんです。
あはは(笑)。おもしろい。
だから「その欲望を守るためにどうするか?」という思考で計算していきます。例えば、今の生き様とか周囲からの見られ方のまま売れるためには、自分がアイコンにならなきゃいけない。ということは髪型はボブのイメージを定着させよう、とか。実はこの夏だけ急に赤髪パーマにしたんですけど、それまで5年間くらいはずっと黒髪ボブでした。それも「黒髪おかっぱといえばしほちゃん」と思ってもらう大切なアイコンとして維持していましたね。姑息ですけど(笑)。
でもそれってすごく大事だと思う。そういう第三者から抱かれる自分のイメージをどう活かすかというところもちゃんと考えないといけないから結構大変なんですよね。私が最初にぶち当たったのもそういうことでした。
「とにかく、姑息に早道をして生きていきたい!」
(小鳥遊しほさん)
今後やってみたいことってありますか。
私の場合は表に出る仕事もやらないと気が済まないんです。それは目立っていたいっていうよりも表に出て表現することが好きだから。それでこの間から急にジャズピアノを始めました。ピアノはもともと10年くらいやってたんですけど。
思い立って?もしかして小鳥遊さんってB型ですか?
B型です(笑)。
私も! B型ってパッと思いついたらすぐ行動に移しますよね。
やります、やります。とにかく、姑息に早道して生きたいんですよ。でも、それは色々省いて中がスカスカというのではなくて…。
そうやってストレートに言う人、珍しいですよね(笑)。逆に清々しい。
すぐ言いますよ(笑)。勉強だったら、学校で気持ちが上がらない授業は寝て、塾ですごく勉強して、あとは一夜漬けで点取る!みたいな。まあうちの親や祖父母は教員なんですけど(笑)。母は保育士だったんですけど、その後趣味で始めた絵で絵画教室を開きました。
あぁ、血筋だ!
ちなみに姉はパティシエで。何かを作るのが当たり前だった。家に帰ったら手づくりのおやつがあって、料理は作れるのが当たり前っていう環境で育ちました。あの…これあまり大きな声では言えないんですけど、私実は料理も絵もとにかく大好き!ってわけではないんですよ。
そうなんだ! ジャンルに傾倒しているというよりは、自分が考えていることや感じたことを“発信”したいのかな。表現欲というか。
それです、表現欲! いい言葉いただきました(笑)。
私も表現欲が強くて。今、肩書き上は“日本茶アーティスト”なんだけど、実は自分の中ではもっと色々なことをやりたいっていう葛藤もあって。5年間日本茶を広める活動をしてきたなかで、お茶で自己表現をしたいって気持ちはなくなりました。ビジネスになったというか。だからこそうまくいく部分もある。でも文章を書くことは自己表現の手段として好きなんです。最近やっぱり私は文章を書かないと生きていけないということに気付いて、こっそり書いたりしています(笑)。
こっそり(笑)。
色んな表現方法がある中で、私たちはたまたま「食×アート」というやり方を選んだっていう感じなのかな。
そう、食もイラストも文章も表現ツールのひとつに過ぎません。伝えたいことや自分の中のイメージを表現できるのなら、どんな組み合わせでもいいんだと思います。
ー一見自由で楽しそうに見える仕事ほど、裏側では粛々と努力を積み重ねているもの。新たな道を開拓していくにはやはり試練や葛藤がつきものなんですね。それでも自分らしい表現方法でクリエイティブ活動を続けているお2人は、とてもたくましくキラキラ輝いています。さて、そろそろ〆のお時間。最後に、お2人が世の中に今一番伝えたいことをお聞きしました。
「日本茶を飲んで、明日も頑張れそう!
って思う人が増えたらいいな」
(茂木雅世さん)
私の場合は明快で、急須で淹れるお茶の楽しさを伝えるために、アートとかけ合わせたりして、初めてこの世界に入ってくる方にも魅力的に見せることです。主役はあくまでもお茶。最初は私がアイコンになることも考えたんですけど、表に出ることがあまり得意じゃなくて(笑)。だから日本茶にまつわる企画でおもしろいことを考えて、それによって、日本茶を飲めたことで明日も頑張って生きられそう!って思う人が増えたらいいなと思ってます。
え〜、絶対表に出た方がいいですよ!
やめてください(笑)。カメラの前とかでうまく笑えないんです。
そういうときは笑わなくていいんです。
そうか…なんか今、人生相談みたいになってますね(笑)。
「料理の見た目も気にかけて
楽しい食生活を歩んでほしい」
(小鳥遊しほさん)
私は、おいしいものを作ることも大事だけど、おいしく見えるっていうものも大切だから、あまり味や慣習にとらわれずに見た目も気にかけて楽しい食生活を歩んでくれたらなって思います。料理をもっと何かとかけ合わせたら、そのバランスでおいしく見えることもありますからね。絵だけを見ても何も思わなかったけど食べ物と組み合わせることでよく見えたりとか、料理だけじゃ表現できなくてもイラストが加わることによっておいしそうに見えたりとか。幅が広がります。
食ってやっぱり暮らしの中心にあるものだから、大切ですよね。
食欲は三大欲求のひとつですからね。
ちなみに将来の夢ってあります?
うーん、難しい質問ですね。将来の夢というわけではないんですけど、とりあえず常に「やれることをやる。なるようになる、やればできる」という姿勢です(笑)。
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わ〜おいしそう!
かぼちゃの味がしっかりしていて、具だくさん。おいしいです。
─ 楽しいトークをありがとうございました。またのご来店をお待ちしています!
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