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村田沙耶香さん×柴崎友香さん|【第1回】芥川賞作家に聞く! わたし流・自由な「読書の楽しみ方」

  • 村田沙耶香
    1979年、千葉県生まれ。小説家。2003年『授乳』で群像新人文学賞優秀作を受賞し、デビュー。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞を受賞し、2016年にのちの代表作となる『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『となりの脳世界』(エッセイ集)『私が食べた本』(書評集)などがある。
  • 柴崎友香
    1973年、大阪府生まれ。小説家。2000年刊行のデビュー作『きょうのできごと』が行定勲監督により映画化され話題となる。2007年『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞を受賞。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞を受賞し、2018年に映画化。2014年には『春の庭』で芥川賞を受賞。その他、『パノララ』『公園へ行かないか?火曜日に』『つかのまのこと』、エッセイに『よう知らんけど日記』『よそ見津々』など著書多数。

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。

今回は芥川賞作家の村田沙耶香さん柴崎友香さんをゲストにお迎えしました。

2016年に発表された衝撃作、『コンビニ人間』が記憶に新しい村田沙耶香さんは小説家の傍ら、自らもコンビニでアルバイトをされていたことでも有名です。

柴崎友香さんは昨年、著書の『寝ても覚めても』が東出昌大さん、唐田えりかさん主演で映画化され話題となりました。

そんなお2人、日本酒好きの女性の作家仲間が集う日本酒の会や、アフタヌーンティーを食べに行く会(通称:紅茶部)を開催するなど、プライベートでの親交も深いのです!

今回お話いただいた対談テーマは『自由に楽しむ、読書のススメ』

さまざまなメディアが飛び交い、情報を得ることがせわしくなった現代。気になって買ってはみたものの、読んでいない本が溜まっていく「積ん読(どく)」など、“読みたいのに読めないジレンマ”を経験したことのある人も多いのでは?

ということで、無理をせず自由に楽しむ「読書」の方法や、読書がちょっぴり苦手な人でも楽しく読めるおすすめの本をお聞きしました。前後半の2回に分けてお届けします!

 

まずはお2人の「共通点」について

―同じ小説家でも作風が異なるお2人。お互いに「ここは似ているな」と思う点はありますか?

うーん、なんだろうね。

共通点かぁ。

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日常の”小さな疑問”が作品のヒントになる

(柴崎友香さん)

私も村田さんも、普段生活する中で疑問に思うことや違和感から作品が出発していることが多いと思います。作品になったときの形は違うけれど、スタートはそこから生まれることが多いような。

ああ、たしかに。そうそう、違和感なんだよね。

何に対しても「なんでなのかな?」とかよく考えてしまう。

柴崎さんの『寝ても覚めても』を読んだときもずっと考えていた。「顔ってなんなんだろう?」って。

そうなの!それが違和感の出発点。

(柴崎さんの著書『寝ても覚めても』は、顔がそっくりな2人の男性とその間で揺れ動く1人の女性の感情を描いた大人の恋愛小説)

好きになった人が一卵性の双子だったとして、彼のことは好きなのに、もう1人のことはセクシャルに思えないのはなぜだろう? 何が違うのかな? とか。

すごく好きな人の「顔」と「中身」、それぞれの部分が同じ別の人が現れたとしたら、どっちが気になるんだろう?とかね。

不思議なんだよね。

そういう日々の気になることが小説の出発点になることが多いかな。

私も同じ。普通ならくだらないと思えるようなことの妄想が広がって小説になるんだと思う。

よくあることだし、「世の中そんなもんじゃない?」と言われそうな小さな出来事を「でも…」と気にしてしまうことがあって。それ自体を書くというよりは、そこから広がって、なぜそう思うのかなとか、なぜこういう場面ではこういうことをしがちなのかとか。

私もそういうことを考えるの好き。ずっと考えてる。

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コンビニバイト時代に感じた”不思議”が小説に

(村田沙耶香さん)

今は小説の仕事が忙しくて辞めてしまったんだけど、芥川賞を受賞する頃まではずっとコンビニのバイトをしていて。働きながらいろんなことを考えていた。

そうだよね、村田さんは作家をしながらもずっとコンビニでバイトしていたんだよね。実際にコンビニで働いていたからこそ書ける視点や感じ方があった。

(村田さんの著書『コンビニ人間』では、1つのコンビニで18年間アルバイトを続ける女性店員の独特な視点で様々な物語が展開される)

お客さんから「このコンビニはずっとあるよね、変わらないよね」って言われるんだけど、本当はお店の中のものは全部入れ替わり続けているんだよね。商品も店員もお箸も袋も。

そういう視点が、おもしろい。

店長もずっといるけど、バイトの私たちにとっては実は7人目の店長だったりね。同じ看板は出ているけれど、中身は入れ替わっていて。「変わらないね」って言われるのが不思議な感じがしていて。それが小説の出発点になったかな。

 

人気小説家の読書事情

―普段から執筆でお忙しいお2人は、どんな風に「読書」を楽しんでいますか?

私は切り替えができないタイプなので、「読む日」と「仕事の日」を分けているかな。

ああ、わかるなぁ。

でも作家って仕事中も動かないから運動不足が気になって、最近エアロバイクを買って。家ではバイクを漕ぎながら本を読んでます(笑)。

それいい! 私もバイトをやめてから全然動いてないもん。運動しながら読書いいね、マネしよう。

最近は電子書籍も併用して読んでる。

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スピード感のある本は
電子書籍が読みやすいことも

(柴崎友香さん)

カバンの中に入れておけば、出先で急に時間ができても気分によっていろいろ読めるから便利。読み終わって紙として持っておきたい作品があれば本でも買うし、使い分けてます。

電子書籍かぁ。私、紙の本を“パラパラ”ってするのが好きだから、“パラパラ”ができないとダメなんだよなぁ。

たしかに、電子書籍だとページを戻って確認がしにくいんだよね。

外国の小説とかだと「この人誰だっけ?」みたいな登場人物が久々に出てきたりするでしょ? そのときに“パラパラ”って。

わたしも基本的には紙の本で、ときどき電子書籍。本によって向き不向きがあって、スピード感を持って読みたい本は向いてると思う。エアロバイク漕ぎながら(笑)。

あと私、ここまで読んだぞ!って読んだ厚さを眺めたいの。本によって変わる文字の感じとかも好き。やっぱり紙は好きだなぁ。

読んだ達成感や充実感は紙の本のほうがあるかな。村田さんは本に書き込みする派?

んー、あんまりやらないかな。本のイベントとかでお話しするときくらい。

 

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読むたびに好きな一節が変わる面白さ

(村田沙耶香さん)

例えば、好きな一節に線を引いたとして、もしかしたらその次の行が2回目に読むときに大好きな行になるかもしれないから。1つ前の自分の感動が邪魔になっちゃうんだよね。

それわかるなぁ。時間がたって読み返すと全然違うところが気になったりする。

こんなんあったんだ。とかね

私はだいたい付箋をつけながら読むんだけど、2回目のときは「前はこんなところに付箋を貼ったんだ私」って思いながら読む。

あのときの私、なんでここが気になったんだろうってね。

そう。時間をあけて読む面白さって、自分が変わっていく面白さでもあるね。

たしかに。

たまにすごくたくさん書き込みしてる人いるね。メモだけじゃなく、登場人物の似顔絵とか、位置関係まで。

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サイン会のとき、ここ(中表紙の見開き)にみっちり書いている人いた! わかりやすいかも。

読書の方法って、これじゃないとダメっていうルールはないよね。決めてしまうと続かなかったときに「できなかったー」ってなるから。そのときどきの自分の読みやすい読み方でいい。

私はミステリーで最初に犯人のネタバレから読んじゃうときある。

わかるわかる(笑)。解説を先に読んだりね。

犯人がわからないとイライラしちゃって。「この人が犯人なんだ」とあらかじめ知って読むと、また趣が変わるんだよね。

1冊の本でも楽しみ方は人によって違うから、ネットとかで人の書評を見てから読んでも楽しいよね。そういう読み方もあるのか!って。

「読みたい」から「書きたい」へのシフト

―本屋での本の選び方について伺うと、村田さんの本屋に対する独特な考え方が話題に上がりました。

誰かのおすすめを読むのも良いけど、本屋さんでの出会いもいいよね。

思わぬ出会いがあるよね。

私は本屋さんに対しての考え方がおかしかったなぁ。…ワープロと天国が繋がっていると思っていた話ってしたっけ?

天国? なになに、なにその話!?

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ワープロで物語を書けば
勝手に本になると思っていた

(村田沙耶香さん)

私、読むのも好きだけど、書くのも大好きな子どもだったの。小学5年生くらいでワープロを手に入れて。ワープロって自分の文章が全部活字になるし、これは神様の機械だと思った。

活字になると嬉しかったよね。本物の小説家みたいー!って。

そうなの! それで、ワープロで打ったら天国に自分の物語が上がっていって、神様が「あ、これ結構面白いな」と思った小説が本になる仕組みだと思っていて…。

なんと…! 天国の神様が勝手に本にしてくれると思ってたんだ(笑)。

一生懸命小説を書いて、本屋さんへ行くたびに作家名の「む」のコーナーをずっと探してた。私の小説はまだ本になってないなーって。中学生くらいまで(笑)。

私もずっと小説を書いていて、高校生のときにワープロを買ってもらって。鉛筆でノートに書いたときとは違って、自分の文章を客観視できるようになった。それから小説というものへの距離感が変わったかな。私も書けるかもしれないって。

手書きだといろいろな要素が気になるけど、明朝体になることで文章だけにしかないものの味わいに変わるよね。それがものすごく面白くて、ワクワクした。あと、人の文体のマネとかもやったなぁ。

文体ね。私はいわゆる純文学を読み出したのが割と遅くて、高校の教科書で夏目漱石を読んだのがきっかけ。物事の描写がとにかく美しくて鮮烈だった。

私も純文学に触れたのは高校生だったなぁ。山田詠美さんが最初で、本を開いたときに「あ、きれい」って。山田さんの文章は句読点とかひらがなとか全部に神経が通っているような感じがした。

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山田詠美さんの『蝶々の纏足・風葬の教室』。この本をきっかけに山田さんの美しい文章の虜になったと話す村田さん

同じことを表現しようと思っても、自分だったら1行しか書けないのに、この人は3ページくらい書けて、日本語ってこんなにいろんなことができるのかって感動した。書き写しも結構してた。文章のリズムだったり漢字の使い方とか、読むだけじゃわからないこともわかってくる。

同じ本でも字組みが違うものをもう一度買ったり、最終的には大きくコピーして眺めてみたりとか、そうすると同じ文章が違って見えたりする。

夏目漱石は結構自由に当て字をしていて、そういうのも写すとわかるんだよね。結構自由だなって。読む方も気楽にというか、身構えなくてもいいと思う。

その作者が楽しんで書いてる姿とか、こだわって書いている部分を見るのも好きで。

あぁー。

話の中で、そこまで重要じゃない食べ物のシーンとかで…

好きなことになると急に生き生きする(笑)!

さっきの電車のシーンは全然だったのに、食べるシーンになった途端すごく楽しそうに書いてる!みたいな。

そう、そういう風にいろんな作家がいて、いろんな楽しみ方をしている。そういう一面を知るだけでも、本を読むのは面白いと思う。
(後編に続く)

***

続く後編では、読書がちょっぴり苦手な人でも楽しく読めるおすすめの本をお聞きしました。更新は2/22予定!どうぞお楽しみに♪

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【第1回】芥川賞作家に聞く! わたし流・自由な「読書の楽しみ方」
【第2回】読書好きじゃなくても読んでみて! 芥川賞作家が選ぶ1冊

(写真/パタヤナン・ワラット (vvpfoto) 撮影協力/6次元)

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