対談 2019.05.24
藤村忠寿さん×嬉野雅道さん|【第1回】『水曜どうでしょう』名物ディレクターが語る! 数々の伝説を生んだローカル番組の舞台裏
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- 藤村忠寿
- 1965年、愛知県生まれ。北海道テレビ放送の番組ディレクター。
1990年に入社し、95年に本社の制作部に異動。『水曜どうでしょう』(HTB)の前身となる番組『モザイクな夜 V3』の制作チームに加わり、翌年チーフディレクターとして『水曜どうでしょう』を立ち上げる。番組にはナレーターとしても登場しているほか、ファンの間では“出演者よりもしゃべる!?名物ディレクター”とも囁かれるほど、番組内でもたびたび大笑いをするなど存在感を現す。著作に『けもの道』(KADOKAWA)など。愛称は「藤やん」。 - 藤村忠寿 公式Twitter
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- 嬉野雅道
- 1959年、佐賀県生まれ。北海道テレビ放送の番組ディレクター。
『水曜どうでしょう』(HTB)ではディレクター兼任カメラ担当。出演者をあまり映さない定点的なカメラワークが面白いと好評に。また、同局の大泉洋主演ドラマ『歓喜の歌』ではプロデューサーを務め、安田顕主演ドラマ『ミエルヒ』では企画プロデュースを担当。著作に『ひらあやまり』『ぬかよろこび』(ともにKADOKAWA)、藤村さんとの共著に『腹を割って話した』(イースト・プレス)など。愛称は「うれしー」。 - 嬉野雅道 公式Twitter
- 藤やんとうれしー Twitter
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。
今回は北海道が生んだ伝説のローカル番組『水曜どうでしょう』のディレクター、藤村忠寿さんと嬉野雅道さんをゲストにお迎えしました。
1996年からスタートし、レギュラー放送が終了した2002年以降も不定期に新作が発表されている『水曜どうでしょう』。出演タレントの大泉洋さんと鈴井貴之さん(通称:ミスター)が2人のディレクターによる無茶振りに応えながら無謀な旅に出かけ、各地で様々な面白ハプニングに遭遇していきます。
北海道発のローカルバラエティでありながらその斬新さが全国に広がり、レギュラー放送が終了した現在でも各地のテレビ局で放送されています。今年は最新作の公開も予定されているとか!?
そんな今回の対談テーマは『仕事を楽しむ』。
人気番組を手がけた名コンビのお2人に、番組の制作秘話をはじめ、今年2月に発刊されたお2人の共著『仕事論』(総合法令出版)でも語られた、楽しく働くための心得をお聞きしました。前後編の2回に分けてお届けします!
※この対談はYouTubeチャンネル「藤やんうれしーの水曜どうでそうTV」の番組収録と同時に行いました
『水曜どうでしょう』という番組について
—最近のバラエティ番組で見かけない“ぶっ飛び企画”が魅力のこの番組。北海道テレビの社員として、社内で企画を通すのはさぞかし大変だったのでは?
あはは、ぶっ飛び企画ねぇ(笑)。藤村さん、大変でした?
まぁ、大変も何も…僕らは上の人の意見は聞いてないですからね。
一同:(笑)
そこは昔から一貫して変わらないよね(笑)。
当時ローカル局で僕らが「面白い!」と思う企画をやった先輩は誰もいなかったから、許可をもらう必要はないと思ってた。自分たちが初めてやるわけだから、上の人の許諾をうける必要はないでしょ?
許可を取るも何も、突然始まっちゃうからね。大泉君はもちろん、ときにはミスターも、何も聞かされないまま収録がスタートするものだから「今日はどうして呼ばれました?」って困っちゃって(笑)。でも藤村さんのそういうやり方、独特で良かったと思いますよ。
我々は自分たちが面白いと思うものを“正直に”やっているだけなんですよ。
自分の気持ちに正直に作る
(藤村忠寿さん)
東京のテレビ局で全国に向けてお金をかけてやるならいいけど、僕らは地方。東京と同じようなお金の使い方もできないし、一般的に面白いと言われるものをやっても敵わない。だったら少人数で、限られた予算でやれることをって考えたんだよね。
僕らの場合は、北海道民だけが見ている世界からのスタートです。だから最初はみんな手探りで、やりながら少しずつ面白くなって、どんどん深まっていった。でも藤村さんは『水曜どうでしょう』6年間の歴史の中で、かなり早いうちからシミュレーションして番組を作っていましたよね。どういう風に作っていくかという構想があるからこそ、この人は現場でタレントでもないのにコメンタリーを入れて視聴者を導くわけ。
みんなテレビを作るにしても、仕事をするにしても「セオリーとは何か?」を追いがちなんですよ。「こんなことをやったら面白い!」をそのままやれば良いのに「でも、これをやると誰かに何か言われるかも…」って部分でだんだん負けていく。
それを我々は無視しているんですよね。「こういうことやったら面白いよね」をそのままやってしまう。
そうそう。「面白くするためにどうするか」の部分にはすごく労力使うけど、「これを上長に言ったらどう思われるだろう」という部分はひとつも労力を使わないの!
だから「どうやって作ってるんですか?」と聞かれると、力を入れてないということです。上司を説得することもないんです。
ただ、上司を説得すると安全性は非常に高くなりますよね。
そうだね、自分は責任をとらなくていいもんね。
我々は自分たちの身は自分で守るっていうと気持ちでやってるから。
「自分の身は自分で守る」って、みなさん人生で当たり前にやっていることですよね。
世間のセオリーに逆行するから楽しくなる
(嬉野雅道さん)
会社の中でおかしなセオリーに苦しめられている人は多いのではないでしょうか。僕らはその実勢に「やりたいこと」を横槍的に入れて通すので、それらとは別枠の正直なセオリーに則っていることになります。そうすると、視聴者のみなさんはご自身の「人生で全うできないような体験」を我々の番組内で味わうことができる。そりゃ楽しくなりますよね。
逆のことを全うするって、普通はなかなかできないんですけどね。
―「車内でクリスマスパーティ ※」の回、まさに自分の人生ではあんなこと絶対にできないけど、番組でやってくれたことで非日常を味わえた気持ちでした。
今となっては人気回だけど、あのパーティは本来全面に押し出してやりたかった企画ではないんです。
※「シェフ大泉 車内でクリスマスパーティ」…クリスマスの深夜に突然呼び出された大泉洋がテレビ局の駐車場に簡易的に設営された車内キッチンで料理を振る舞った回。タレント・ディレクター陣ともに泥酔状態になり、激辛料理を作ってはその場に居合わせた人々に“おみまい”していく。挙げ句の果てには早朝のニュース番組へそのまま乗り込んで暴れる…というハチャメチャ企画。
ある人気シリーズを放送している時期だったんだけど、たまたま1回だけ放送が深夜になる日があって。その企画を深夜に当てるのはもったいないから「別企画を1本やろう!」と、思いつきでやったんですよね。そんなのが意外と盛り上がるんですね〜。
力が入ってないからかもね。「あんな時間帯、どうせ誰も見てないからいいや」って(笑)。
でも力が入ってないようで、仕上がりにはかなり力が入るっていう! 現場力があるよね〜。
―想定していなかったシーンこそ面白くなることのほうが多いですか?
想定はしていませんね。「だるま屋ウィリー事件 ※」なんて典型ですよ。
※「だるま屋ウィリー事件」…1991年放送、タレント陣がスーパーカブに乗って東京から札幌まで旅をする「72時間!原付東日本横断ラリー」で起きた事件。工事現場の信号待ちをしていた大泉洋が青信号と同時にスロットル全開でスタートしようとしたが、ギアがニュートラル状態で動かず、1速に入れたことで急発進。前輪が浮き、ウィリー状態で前方バリアに激突した。
そりゃ想定外のほうが面白いです。でも、安全策を取るディレクターなら想定しないハプニングが起こると慌てると思いますよ。僕ら、その点に関しては想定しているので。
「何が起こるかはわからないけど、きっと何かしらの面白いことが起こるだろう!」という想定ね。
そうそう。それはあくまで自分の中での想定だから、ハプニングが起これば万歳。「大泉、やってくれた!」という感じですよ(笑)。
これこそ「許可を取る必要はない」という人の考え方ですよね。いちいち誰かの判断を得なきゃいけないなら、ハプニングが起きた時点でカメラを止めて一旦会社に戻るでしょうから。
―『水曜どうでしょう』がローカル番組から、じわじわと全国で人気に火がついたとき、どのように感じましたか?
ローカル番組ではなく、バラエティ番組が作りたかった
(藤村忠寿さん)
自分たちが自信を持って面白いと言える番組だったから、北海道で人気が出たのも当然だし、東北エリアの人が楽しく見てくれたのも当然。それは全国も同じです。ローカル局の人は“ローカル番組”を作ろうとしているんです。でも僕はテレビの“バラエティ番組”を作りたかった。
なるほど。ローカル局のための番組を作るみたいに、そもそも自分が外に出ようとしてなかったらその番組が外に羽ばたくことはないということですよね。
そうだと思いますよ。
その話で言うと、僕らが作ったドラマ『チャンネルはそのまま ※』もそうですよね。
※「チャンネルはそのまま」…北海道テレビは開局50周年を記念して今年3月に放送されたスペシャルドラマ。プロデューサーに嬉野さん、監督に藤村さんというチームで製作された。
ローカル番組が世界中で観られる時代へ
(嬉野雅道さん)
ローカル局ではあまりやらない5話連続ドラマをがっつり作ったんです。5話連続ですからね、全国放送の枠なんてもちろんなくて北海道だけでの放送で、番組を買ってくれた全国の地方局が地道に放送してくださってます。でもその一方で「NETFLIX」では世界配信が決定。日本にとどまらず色んな国の人たちが、しかもかなりの人数観てくれました。世界配信って聞くと夢が広がるけど、観てもらえないと意味がない。この番組は僕らがこうして一生懸命手作りしていますから。そういうのって、きっと伝わるんです。
すごいですよね。番組を作るときにセオリーというか、システムというか、「ローカル番組はこういうもの」なんてものはいらないんですよ。
海外の言葉で「本当に面白かった」「これ見たほうがいいの?」「絶対見たほうがいい」という会話がされているのを見て、世界配信を実感しました。今の時代はネットやSNSがあるので、ローカル局でドラマを作っても海外の人に認めてもらえるくらいのプラットフォームができているんですよね。
だから僕は、ターゲットは絞らなくて良いと思います。『水曜どうでしょう』は僕が作る初めての番組でした。番組がスタートする頃、周りの人たちは「ターゲットはどこを狙いますか?」と散々聞いてくるわけですよ。「女性がターゲット?」「それとも若い人?」とかって。
『水曜どうでしょう』のターゲットが女性!? いいね〜(笑)。
テレビのセオリーとしてはターゲットを定めるのが普通なのかもしれないけど、ターゲット絞った時点で視聴率低くなるじゃねーか!って。できることなら全員に観てほしい。だから「オールターゲットです!」って答えると「それだとボヤける」とか言われるんだよ。
あー、言われたね。
「いや、本気で面白いものを作ればみんな観るでしょ」って言うと、みんなポカン…とするんだよ。「なんでこんな当たり前のことが通じないんだろう?」って。結局そのまま貫いてオールターゲットで行きましたけど(笑)。
「ターゲットを定める」というセオリーがあるから、オールターゲットなんてみんな考えたこともなかったんだろうね。結局、どんなことをしたらみんな喜ぶだろうという姿勢じゃないってことでしょ? 普通のセオリーは。
そういうことだね。
結局、何かを決断するときって「これ面白いな〜」って自分ごとにするのが一番じゃないですか。きっとそれは大発見でも何でもなくて、当たり前のことなんだけど、セオリーとかシステムができてしまっていると、その当たり前が入る余地がないんですよね。「それっておかしくないですか?」って言うか言わないかで、視聴者に共感されるか、されないかが決まるんじゃないでしょうかね。
―そんな『水曜どうでしょう』、最新作が今年公開されるということですが、公開予定はいつ頃でしょうか?
ん〜いつ頃だろう。まだ最後まで編集してないからわからないね!
でも年内にはやるんでしょ?
やると思いますけどね。
はい、年内にはやるとおっしゃってます!
みんなすごく聞いてくるんですよ。「次いつやるんですか?」って。でも、僕らの回答としては「待ってろよ!」なんだよね(笑)。
乱暴ですねえ。
いつ放送されるの?って聞かれて「待ってろよ!」って言うディレクターいませんよ。
僕らはレギュラー番組として6年間毎週ずっと番組を作ることをやってきたけど、今はそういう枠から解き放たれているから。自分たちがロケしたいときにやって、良く編集できたタイミングで放送するっていうスタイルなの。まぁ、みんな待ちきれないから聞いてくれているんだよね、それはありがたいんだけど…。
もうそこは「待ってろよ!」と言ったもん勝ちですよ。
(後編に続く)
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続く後編では、お2人の共著『仕事論』でも語られた、仕事を楽しむ方法、楽しめる仕事の見つけ方についてお話しいただきました。【5月31日(金)】公開予定です。お楽しみに♪
撮影/佐々木 謙一
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