対談 2019.06.25
岸本拓也さん×山野ゆりさん|【第1回】空前のブーム到来!『食パン専門店』に惹かれる理由とは?
-
- 岸本拓也
- 1975年、神奈川県生まれ。ジャパンベーカリーマーケティング株式会社代表。大学卒業後に外資系ホテルに入社し、広報PR・ブランディング・レストランカフェ・ホテルベーカリーショップのマーケティングと企画業務を経験して独立。2006年に横浜・大倉山に「TOTSZEN BAKER’S KITCHEN(トツゼンベーカーズキッチン)」を開業。2011年よりベーカリープロデュースをスタートし、食パン専門店「考えた人すごいわ」、「午後の食パン これ半端ないって!」のほか、手がけたパン屋はおよそ100店舗にのぼる。
- 岸本拓也 Twitter
- 岸本拓也 インスタグラム
-
- 山野ゆり(パン野ゆり)
- 1982年、東京都生まれ。モデルとして雑誌や広告などに出演。最近ではパンコーディネーター・パン野ゆりとしての活動も広げており、パンイベントでのワークショップやトークイベントのほか、テキスタイルブランドとベーカリーのコラボグッズのプロデュースも行う。自身が取材・執筆するパンコラムも人気で、現在はWebマガジン「PARISmag」、「Numero」、雑誌「オズマガジン」などで連載中。
- 山野ゆり インスタグラム
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。
今回の対談テーマは『食パン専門店の魅力』。人気パン屋を手がけるベーカリープロデューサーの岸本拓也さんと、パンコーディネーターの資格を持つモデルの山野ゆりさんをゲストにお迎えしました。
岸本拓也さんはベーカリープロデューサーとして、これまでに食パン専門店「考えた人すごいわ」、「午後の食パン これ半端ないって!」など手がけた店は次々に大ヒットしています。
お相手の山野ゆりさんはモデルの仕事に加え、パン好きとしての別名「パン野ゆり」としてパンイベントの出演や雑誌・web媒体で数々のパン連載も担当されています。
2019年、食パン専門店は全国で怒涛の出店ラッシュ。人々が食パンに魅力される理由はいったい何なのか。そして、この食パン戦国時代を勝ち残るために岸本さんが仕掛けるユニークな店づくりの秘訣もお聞きしました。
前後編の2回に分けてお届けします!
***
◆お2人の出会いについて
—もともとお2人はお友達だったんですね。最初はどんな出会いでしたか?
うちの奥さんがきっかけでしたよね?
はい! 私はパンコーディネーターの資格を持っているんですけど、その協会の代表が岸本さんの奥さまだったんです。
最初に会ったのは去年くらいかな?
そうですね。奥さまとパンコーディネーター協会で知り合って、旦那さまが人気パン屋を手がけるすごい方だとお聞きしてからずっとお会いしたくて。「会をセッティングしてください!」って私からお願いしたんです(笑)。
それでこの事務所に来てもらったんですよね。
今回の対談インタビューは岸本さんの事務所にて。随所に遊び心がいっぱい!
ここに初めて来たとき、「なんてかわいらしい事務所なんだろう」ってワクワクしました。私もインテリアやファッションが好きなので、岸本さんとはすぐに意気投合しちゃって(笑)。そのままみんなでごはんも食べに行きました。
あのときけっこう飲みましたね〜(笑)。あと山野さんはうちがプロデュースした食パン専門店を記事でも紹介してくれました。
Webメディアのパン連載(パン野ゆりのぶらりパン歩き)で「考えた人すごいわ」を取材させていただきました。真夏の暑い日にお邪魔したんですけど、100人くらいの大行列ができていて驚きました。
「考えた人すごいわ 清瀬店」
ありがたいですよね。その後が“半端ないって”か。
「午後の食パン これ半端ないって!」もご紹介しました。あのお店も最初に登場したときはびっくりしましたよ(笑)。
「午後の食パン これ半端ないって!橋本本店」
―岸本さんの手がけるパン屋さんはユニークな店名と奇抜な店構えが印象的ですね。
お店を作るときは1店舗、1店舗ディテールをこだわりつつ、あえて「ハズし」を作るようにしています。山野さんはそこをちゃんと理解して紹介してくれるんです。
初めて見たときは衝撃でしたよ。「このパン屋さんすごくない!?」ってみんなに写真を送りました。
はっはっはっ(笑)。
「考えた人すごいわ」にお邪魔したとき、インスタグラムにお店の写真をアップしたんですけど、私のインスタで過去最高数の「いいね」がついたんですよ。みんなやっぱり気になるんだ!と思って(笑)。
おお、それは光栄! 僕たちは正統派の店づくりではなく「日常の中でどれだけ話題にさせるか」というサブカルチャー的な意識づけを持ってやってきたので、そこが伝わっているのはやっぱり嬉しいですね。
これだけ人気なんですから、みなさんにも伝わっていますよ。岸本さんの遊び心と今までにない新しい発想。
ありがとうございます。
ユーモアというか、抜け感というか、一度聞いたら忘れられない店名も良いですよね。パン屋さんってフランス語の「ブーランジェリー○○」みたいに、一度では覚えづらいお店も多いじゃないですか。
あまり長い店名だと忘れちゃうんだよね。昔、自分の店をオープンしたときにスタッフから店名を募集したんだけど、スタッフが提案してくれた“フランスの丘の名前”から取った店名、出した本人も忘れてたくらいだから(笑)。パンがおいしいのは大前提だけど、覚えてもらうための店名やデザインもすごく大事ですよね。
ほんとですね。
僕もそうだけど、山野さんってパン好きでありながら“パン屋好き”でもありますよね?
すごい! なんでわかるんですか?
◆“パン屋好き”としての楽しみ方
―パン好きと“パン屋好き”の違いはなんですか?
パン好きの人は「この店のこのパンが好きだ」ってパン指定でお店に行くんだけど、“パン屋好き”はパン屋が仕掛ける全体の表現を丸ごと楽しんでくれる人のことです。
“パン屋好き”としての店づくり
(岸本拓也さん)
パンの味はもちろんだけど、店づくりとか、雰囲気とか五感をフルにしてその空間を楽しんでもらえると僕らも嬉しいですよね。パン屋ってどうしてもステレオタイプなお店になることが多いので、もっともっと個性的なパン屋さんを作ってお客さんを驚かせたい。
いいですね〜。私も、岸本さんのおっしゃる通りパンだけじゃなくて「パン屋さん」が好きなんです。
パン屋で非日常を味わう
(山野ゆりさん)
パン屋さんって日常の中で気軽に行けるトリップ空間というか、独特な世界観があるなって。パンだけでなく空間全体がデザインされているお店に出会うと、非日常感が味わえてワクワクします。だからパン屋さんのデザインにはすごく惹かれるものがあります。
極論を言うと「ただ机に並べられただけのパンを買う」という行為も「パン屋に行く」ことなるんですよね。でもそれだけだとつまらないから、僕は「パン屋に行く」=「スタイルを買うこと」って考えるようにしています。
「スタイルを買う」かぁ、なるほど!
その店のスタイルごと楽しむための自分の表現として、今日はどんな服を着て行こうとか、何を楽しみに行こうとか考えたりしてね。
あー! 私もまさにそうです。クロワッサンを買いに行く日はベレー帽を被ったり、バゲットを買いに行くならトレンチコートを着るとか。ファッションとパンと店づくりと自分をリンクさせて楽しんでいます。
そうそう! だから“パン屋好き”としてそういう楽しみ方をしている山野さんは、ほかのパン好きクリエーターさん達とは違うんですよ。
そう言っていただけると嬉しいです。
◆食パンの試食タイム
―今日は「考えた人すごいわ」の高級食パン「魂仕込」(税込864円)をご用意いただきました!
やったー! いいんですか〜!?
丸ごと1本どうぞ。
すごく贅沢ですね〜。いい香りです。
僕がプロデュースしたパン屋の中で、食パン専門店はここが第1号。この食パンの開発にはかなり時間がかかりました。
モッフモフですね。いただきます。ん〜、久しぶりに食べたけどやっぱりおいしい。
僕は厚切りに切って、塩とはちみつで食べるのが好きだけど、やっぱりそのままがおいしいですよ。買ってすぐに車で食べちゃう人も結構いるし(笑)。
これは本当に何もいらないですよね。この甘さと口どけがたまんない。
甘さと口どけは特に大事にしています。ダイレクトに届く甘さと、そこから派生する風味。食感は口の中ですぅーっと溶けるような。生地が“水が抱きかかえている”ように仕上げるために、吸水と焼き方にはこだわっています。
水が抱きかかえているような水分量、たしかに! しっとりしていて耳までしっかり甘みがあっておいしいです。 私、実は食パンの耳ってあまり得意じゃないんですよ。でも、これは大好き。
それは嬉しい。耳のおいしさは自慢なんです。じゃあ今後「福耳」って名前のパン屋さん出そうかな…。
「福耳」(笑)。いいじゃないですか!
–食パンと一緒にお好きなスープもどうぞ。
僕は「海藻スープ」ですね。和風のスープも食パンに合うんですよ。
では私は「マッシュルームスープ」で!
もずくがたっぷり入っていておいしい。今日、八戸の出張から帰ってきたんですけど、向こうでもめかぶそばを食べました。海藻好きだな〜。
マッシュルームスープ、マッシュルームをそのまま食べてるような感じで、すごく濃厚でおいしい。生食感があります!
―食パンとスープの組み合わせ、いかがですか?
合いますね!
この食パンは何と食べても合うように作っているので、スープとの相性もバッチリですよ。
岸本さんの食パンはお土産としても普段の食事用としても、いろんな使い方ができますよね。
毎日食べても飽きないように、主張しすぎないことを意識しています。バターの量を増やしたり、小麦の香りをもっと引き立たせることも可能なんですけど、そうするとお土産だけのパンになっちゃうので必要な量以上は入れません。100点満点の味に作ればヒットはするんだけどお客さんが飽きちゃうんですよ。専門店でやっていくにはそのギリギリのラインを保つのが大切だなと思います。
なるほど! 私は食パンとバゲットは常に家にストックしていて、食パンは朝だけじゃなくておやつとしても食べたりするので、飽きがこないおいしさは大事かもしれないです。
―岸本さんが食パン専門店にこだわる理由ってなんですか?
フランスのパンがバゲットであるように、食パンってもう日本の文化のひとつになっていると思うんです。文化になっているけど日本での歴史はまだ浅いので、これからの可能性がすごくある。僕の感覚だと、バゲットが白ごはんだとするなら、食パンは炊き込みごはんなんです。
炊き込みごはん…!
はちみつを入れたり、生クリームを入れたり。個性が出しやすいし、使い方の可能性も広がる。喜んでくれる人の顔色も食パンによって変わる。惹かれる理由ってそこかな。
なるほどなぁ、例えがわかりやすくて面白いです!
(後編へ続く)
* * *
食パンはごはんで例えると「炊き込みご飯」! これからの可能性がたくさん詰まった食パンの未来が楽しみですね。後編もお楽しみに。
(写真/パタヤナン・ワラット<vvpfoto>)
関連記事
RELATED ARTICLES