対談 2015.10.02
村上祐資さん×眞﨑恵理子さん| スーパームーンの次は流星群!夜空を眺めながら聞きたい「宙(そら)トーク」
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- 村上祐資
- 1978 年生まれ。極地建築家。第50次日本南極地域観測隊・越冬隊員。MDRS Crew144・隊員。2016-17年実施予定の模擬火星探査計画「MA365」、およびNASA「HI-SEAS」の、日本人唯一のファイナリスト。 日本火星協会・フィールドマネージャー。防災士。JFNラジオ番組『ON THE PLANET』水曜パーソナリティ。
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- 眞﨑恵理子
- 株式会社東京ドーム宇宙ミュージアム部「TeNQ」支配人。株式会社東京ドーム入社、東京ドームシティ再開発プロジェクトチームに異動ののち、ラクーアのスパ施設を担当。その後、2011年開業のフードコートGO-FUNの開発を担当。2011年から宇宙ミュージアムTeNQの構想・企画段階から関わる。2014年7月開業、2015年8月より現職。
- 宇宙ミュージアム「TeNQ」オフィシャルサイト
東京下町のとある街角にひっそりと佇むアマノ食堂。この店に訪れるお客さんの“おいしいお話”を毎週お届けしていきます。第6回のテーマは「宇宙」。
中秋の名月、そしてスーパームーンを見るべく、秋の夜空を見上げた方も多いのではないでしょうか。10月〜12月にはさらに、3つの流星群が見られるそうです。今回は、「宇宙」に縁が深いお2人にご来店いただきました。
1人目のゲストは、元南極観測隊員で模擬火星探査計画選考の日本人唯一のファイナリストでもある、極地建築家の村上祐資さん。そして2人目のゲストは、宇宙ミュージアム「TeNQ」の支配人として宇宙に関するさまざまな展示イベントを行う眞﨑恵理子さん。果てしなく遠い「宇宙」が、ちょっとだけ身近に感じられるお話です。
ー 実は以前面識があり、今回で2度目の対面となるお2人。それぞれが行っている活動についてお話を伺いましょう。
マウナ・ケアで星を見たときの感動が
「TeNQ」に活きています
(眞﨑恵理子さん)
ご無沙汰しています。村上さんにこうしてお会いするのは、2014年の秋以来ですね!
そうですね。僕が「MDRS」という模擬火星探査計画での訓練に行く前に、今後展示などを一緒にできたらなと思って相談に行きましたね。「TeNQ」はオープンしてから2年目だそうで。眞﨑さんは、オープン当初から「TeNQ」に携わっていたんですか?
そうです。東京ドーム入社後は財務部にいたのですが、そこから異動を経てスパ施設「ラクーア」のオープンに携わったり、ショッピングモールを担当したりもしました。その後に今度は開発室という部署に異動して、古いアトラクションエリアの開発などを担当していました。そこで“宇宙ミュージアム”プロジェクトの企画段階から関わって、今に至ります。
なるほど。根っからの宇宙畑ご出身というわけではないんですね。
はい。“宇宙ミュージアムの支配人”と聞くと、何だかその道の専門家ように思われるかもしれませんが…実はそうなんです。
へぇ、ユニークですね。なかなか全容を伝えにくい“宇宙”というものを、一般の人に理解してもらうって、苦労することもあるのでは?
ありますね。あまり専門的になり過ぎず、宇宙に関する知識がなく訪れていただいても楽しめる施設でありながら、一方で宇宙好きの方が来ても楽しめるエンタテインメント施設を目指しています。
なるほど。
宇宙というのはテーマが幅広いので、いろいろな捉え方ができるんですよね。当初は、正直自分でもピンときていませんでした。そんな頃、ハワイ諸島にあるマウナ・ケア山で壮大な星空を見てすごく感動したんです。あれこれ難しく考えるのではなくて、星を見て「きれい!」と誰でも感動する、そういう思いを入り口にすれば良いんだなとその時に気付きました。
僕も5人くらいの宇宙好きの仲間と「宙(そら)旅」というのを企画していて、マウナ・ケア山に登ったことがあります。ああいう、むき出しの地球があるところに行くと感動でぞわぞわっと鳥肌が立ちますよね。
えぇ、私もまさにそんな感じでした。ちなみに、村上さんは大学で建築を学ばれたとか。一見、宇宙と建築ってかけ離れているように思えるのですが、それはなぜだったんでしょうか?
実は「月面に家を建てたい!」と、大学生の頃から思っていて。宇宙飛行士など月に行く人達にとっての帰る場所。つまり、その人達の命を預ける家を作るということです。ただ、それを本気で作るということをある時すごくプレッシャーにも感じたんです。どんなものを作っても「これで良いんだろうか?」と自問自答していました。その時は大学の研究室の中だけで作っていたんですけど、それではダメだと気付いて。まずは自分自身が命を張った経験をしようと思ったんです。それからは、富士山の山頂にしばらく住んだり、エベレストに登ったり、それから南極へ行ったりも。
すごいですね。先日、火星に水があったことを証明したスティーブ・スクワイヤーズ博士をお招きして「TeNQ」でお客さん達とセッションをしたんですよ。そこで、テラフォーミング(=人為的に惑星の環境を変化させ、人類の住める星に改造すること)の話になりまして。お客さんからの「火星に住めるようになるのでしょうか?」という質問に対して、博士は「できなくはないけど、まだ先の話でしょうね。火星に住むことを実現する技術を作るなら、まずは地球で実験をするでしょう」と。サイエンスの分野でなぜ太陽系惑星の探査をするかというと、それは他と比較して“地球を知るため”なんですよね。そういう話を聞くと、地球とつながっているんだなと宇宙が少し身近に感じられます。…村上さんは、「MDRS」 の訓練へは2014年12月に行かれたんですよね?
はい。訓練は砂漠で行われました。参加メンバーはアメリカ人が3人、イギリス人が1人、フィンランド人が1人、ブラジル人が1人。そして僕です。日本人は僕だけ。
砂漠とは興味深いですね。どれくらいの期間をそこで過ごしたのですか?
2週間です。初対面である7人のメンバーたちと一緒に過ごしました。その7人の中から選考されるので、みんなすごい勢いでアピール合戦をするんですよ。最初は「ギスギスした空気が生まれるかも」と心配でしたが、最終的にはすごく良いチームができました!この間も、そのうちの1人がわざわざ日本に僕を訪ねてきてくれて。今でも交流はありますね。
素敵なお話ですね。周囲が皆ライバルという環境でチームワークを生むというのは非常に難しいように感じますが、何かコツがあるんでしょうか?
こんなに粋に過ごしたやつはいないと
言われて嬉しかった
(村上祐資さん)
他のメンバーたちは「自分はこれができる」とアピールするけど、僕は、選ばれるのは結果でしかないと思っているんです。なので「せっかくだから2週間楽しもう!」という感じで、焦るわけでもなく普段通りに過ごしました。選考では、2週間のこのペースを1年間継続できるか、という等身大のパフォーマンスを見せたかったんです。だから背伸びをして選ばれたとしても、いざ選ばれて「できないじゃん」となるほうが僕は嫌だなと。
そうですね。
当初、チーム内はやっぱり多少ギスギスしていたんですね。その中から選ばれるわけだから。メンバーの1人に、陽気で明るいんだけどちょっと危なっかしいクルーがいて。最初、他のメンバーは彼に「あれはダメだ」「これはダメだ」と言いがちだったのですが、僕は彼にも良いところが必ずあるからそれを引き出せるようにと色々考えて行動しました。結果、僕は自分のペースを保ちつつ、彼の良さも徐々に引き出すことができた。そしたら、チームのみんながだんだん仲良くなってきて。
へぇ、すごいですね!
訓練終了後に自分たちで仲間を評価し合う機会があったのですが、僕のそのペースをみんなが評価してくれた。「こんなにストイックな時間をこんなに粋に過ごしたやつはいない」と言ってくれて(笑)、とても嬉しかったですね。
一緒にいる時間をどう過ごすかというのは非常に大事ですね。
食事もそういうものかなと思っています。食事というのはただ食べるだけのものでもないし、味の良し悪しだけでもない。その訓練期間中、みんなが顔を合わせる機会が一番多かったのは、やっぱり食事時だったんですよ。その時間を良い思い出になるように工夫すると、自然と良いチームになるんだなと思いました。
勉強になります。私は「TeNQ」開業当時、忙しいあまりに食事がおろそかになっていた時期がありました。それが習慣になってしまい、同じ部署のみんなで食事に行く機会が少なくなってしまって。でも、1人で食事をしているとお腹はいっぱいになるけれど何だか癒されないんですよね。味や栄養も大事ですが、それよりもその場の雰囲気や食事しながら誰かと話をするとか、そういうことがとても大事だなと気が付きました。
ー 2014年にオープンして今年2年目を迎えた宇宙ミュージアム「TeNQ」。どんな施設なのか教えてもらいましょう。
「TeNQ」には、照明やトイレのサインなど設備の細かいところまでこだわったいろいろな仕掛けがあると思いますが、一番のこだわりはどこですか?
気付かないかもしれないけど、気付いてくれたら嬉しいという、そういう小さなこだわりはたくさん入れるようにしました。見つけた人が他の人に知らせたくなったり、写真を撮って共有してくれたりしたら嬉しいですね。
9つのエリアがあるんですよね?
はい。展示構成を考える際に、まず参加者をどういう気持ちにさせるか、入口から出口までのマインドストーリー(=心の動き)を考えました。入り口を抜けてトンネルを通るところで、一度心をリセットしてもらう。それから驚きを与えて、シアターで感動してもらう。その後はサイエンスやイマジネーションの分野で、いろいろな情報による刺激を受けてもらう。記憶に残して、満足して帰っていただく。そういう心の動きを重視して構成しています。
— 普段あまり聞くことがない宇宙に関するエピソードの数々。人類にとってまだまだ未知の分野だからこそのこれからの大きな可能性に、胸がワクワクしますね。さて最後に、お2人のもう1つの共通点でもある「フリーズドライ」ついて、お話をお聞きしました。
「フリーズドライはずるい(笑)」
(村上祐資さん)
そういえば、眞﨑さんはクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』という映画は観られましたか?
まだ観ていないんです…!映画は好きなのですが。
ネタバレしたら申し訳ないんですが、ちょっとだけ話させていただいてもいいですか(笑)?『インターステラー』は“宇宙”をテーマにした作品で、主人公たちがとても長い時間旅をするという物語です。でも人間には寿命があるから、普通に考えると何億光年という距離を旅できないんですね。それを解決する方法として「コールドスリープ」という方法が出てくるんですよ。冷凍して眠らせてしまうという方法です。長い歳月が経った後でも、解凍すれば体は冷凍した時の状態のままっていう。それを観て「コールドスリープ」はずるい、と思ったんです。人間の時間に対する感覚を抜きにしたストーリーがつくれちゃう。そういう意味では「フリーズドライ」もずるい(笑)。季節だとか、それを作る過程だとか、何もかもを凌駕してしまうじゃないですか。言い方を変えれば、それらが抜け落ちているのを、映画に登場した「コールドスリープ」という設定を観て感じました。
それは、おもしろいですね。
南極にいると、短い滞在と長い滞在がどれだけ違うかが感覚としてわかってくるんです。例えば、夏の滞在を何回繰り返しても、通年で越冬越夏を経験したことにはなりません。経験ではなく計算上成立してしまうのが「コールドスリープ」でありフリーズドライだと思います。逆にいうと、僕はそのフリーズドライが凌駕してしまったものに気づいているので、そのあたりをエッセンスとしてプラスしていけるという可能性も感じています。
「一番人気の宇宙食は、たこ焼き味」
(眞﨑恵理子さん)
フリーズドライといえば…「TeNQ」のミュージアムストアでは宇宙食を売っていて、とても人気なんですよ。その中で一番人気は何だと思いますか?
う〜ん…何なんですか?
たこ焼きなんですよ。
へー!たこ焼きですか。
はい。ストロベリーアイスとか、チョコレートケーキとかたくさんの種類がある中で、たこ焼きがもっとも人気なんです。
ありえないと思う感じが、魅力的なのかもしれませんね。宇宙食になったときの味が想像できないというか。
そうかもしれませんね。ストロベリーなんかは想像しやすいですものね。
きっと、そういう驚きを他の人と共有したいんじゃないかな。
【information】
▶︎宇宙ミュージアムTeNQ(テンキュー)
[住所]東京ドームシティ(東京都文京区後楽1-3-61)黄色いビル6F
[営業時間]平日11:00~21:00、土日祝日・特定日(GWおよび春夏冬休 み)10:00~21:00(ともに入館は20時まで)
[アクセス:JR]都営地下鉄「水道橋」駅より徒歩すぐ
[問い合わせ先]東京ドームシティわくわくダイヤル TEL:03-5800-9999
[公式サイト]http://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/
ー 宇宙食になったたこ焼きは、一体どんな味がするのでしょう。気になった方はぜひ「TeNQ」のミュージアムストアでチェックしてみてください。本日の〆は、今が旬の松茸の豊かな香りが広がる「松茸のお吸いもの」。実りの秋を感じることができる一品です。
松茸が大きくて、存在感がありますね。食感がとても良いです。
言われなかったらフリーズドライだとわからないかも。それくらい本格的!アクセントのカイワレ大根も良いですね。
ー 興味深いトークをありがとうございました。またのご来店をお待ちしています!
企画協力/鯰組、なんてんcafe
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