対談 2019.07.25
小野美由紀さん×野木青依さん|【第1回】価値観が変わる! 銭湯の新しい魅力と楽しみ方
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- 小野美由紀
- 1985年、東京都生まれ。エッセイスト・小説家として活躍しており、恋愛や人間関係、家族についてのコラムが人気。エッセイ集『傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻冬舎)、『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社)、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)など著書多数。最新作は銭湯を舞台にした小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)が絶賛発売中。
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- 野木青依
- 1994年、宮城県生まれ。マリンバ奏者として活動しながら高円寺の銭湯「小杉湯」の番頭として日夜番台にも立つ。銭湯の浴場でマリンバ演奏を行う斬新な銭湯パフォーマンスが話題。全豪マリンバコンクール2018第3位・新曲課題最優秀演奏賞。渋谷のラジオ「渋谷の東北ユースオーケストラ」(水曜11:30〜)のメインMCとしても活躍中。
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- 野木青依 インスタグラム
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。今回の対談テーマは『銭湯の新しい魅力』です。
近年、じわじわと銭湯ブームが来ていることをみなさんはご存知でしょうか?廃業寸前だった老舗銭湯を若者が継業してアートな空間として蘇らせたり、コミュニティの場として音楽ライブやトークイベントが開催されたり。「公衆浴場」という枠を超えた新しい取り組みが各地で起きているのです。
そんな今回の対談ゲストは大の銭湯好きのお2人!
まずは、銭湯好きが講じて生まれた銭湯を題材にした小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)が話題の文筆家・小野美由紀さん。そしてお相手は、普段はマリンバ奏者として活動しながらも高円寺の老舗銭湯「小杉湯」番頭として勤務する野木青依さんです。
新しい形で銭湯ブームを牽引しているお2人をお迎えし、前後編の2回に渡ってお話をお聞きします。
◆銭湯にハマったきっかけ
—まずは、銭湯にハマったきっかけから教えてください。
ライターとして独立した20代の頃、当時風呂なしのアパートに住んでいたのが始まりでした。家から一番近かったのが代々木八幡の「八幡湯」という銭湯で、単純に生活のために通い始めたんです。
生活のために通っていたところから、ハマったのは何か理由があったんですか?
独立したてのライターって会社もないし仕事も少ないから、1日中誰とも喋らないみたいな日もあって……。心細い時期が続いていたんですよ。
孤独じゃないと思えた居場所
(小野美由紀さん)
でも銭湯に行くと全然知らない人とでも会話がありました。毎日来るおばあちゃんと一言だけ話すとか些細なことだけど、地域の人との繋がりや周りの人の生活リズムが感じられて、「1人だけど孤独じゃない」と思うことができたんです。
わかります! 私もフリーランスなので、銭湯の温かさが身体だけじゃなく心にも沁みます。
そうなんですよね。あとは、大きいお風呂に入ると疲れの取れ方も違う。創作活動をしていると頭が煮詰まってくるじゃないですか。そういうときに広いお風呂に入るとアイデアが浮かんだり、気持ちもリフレッシュして「また頑張ろう」と思える。それもハマった理由の1つですね。野木さんは?
私はお風呂がきっかけじゃなくて、実は銭湯の構造に目をつけたのが始まりで……。
構造!?
はい。音楽大学を卒業してフリーのマリンバ奏者として活動しているんですが、マリンバってまだまだ知名度が低い楽器で。演奏会をコンサートホールとかで開催しちゃうと、“ホールに行く”という敷居の高さも加わってしまうんですね。でもたくさんの人に聴いてほしくて、まずみんなが来やすい場所で、マリンバの音色の良さである“響き”がよく出る場所を探していたんです。
へー! なるほど。
演奏の場所として選んだ銭湯
(野木青依さん)
そのときに銭湯が思い浮かんで。銭湯で演奏したらどんな感じだろう、絶対良いだろうなぁって! それで「小杉湯」に連絡しました。「銭湯でマリンバをやらせてください」って。
すご〜い! めちゃめちゃ面白い。
そこから「小杉湯」とのお付き合いが始まって、ライブをした後に「銭湯に入らないで帰るのも失礼だな、入るかぁ」って。
気遣いからの入浴だったんですね(笑)。それまでは銭湯はあまり好きではなかったんですか?
そうなんです。どちらかというと銭湯や温泉は苦手なタイプでした。のぼせやすいので具合が悪くなっちゃうんです。あと、人の裸を見るのが苦手で……。
意外な理由があったんですね。
高円寺の老舗銭湯「小杉湯」。高円寺の憩いの場として若者からお年寄りまで多くの人が訪れる
今は人の裸を見るのは慣れました! のぼせやすかったのも「小杉湯」で交互浴(※)を初めて知って、お湯と水風呂に交互に入るようになったら気持ちよく入れるようになりました。鼻から冷気が抜けた瞬間、銭湯の魅力に“落ちました”(笑)。
銭湯の魅力に落ちた瞬間かぁ。素敵な話だな〜。
※交互浴
熱い湯船と水風呂に交互に入ることで、自律神経を整え、血行を改善する入浴法。「小杉湯」の水風呂は自然回帰水を使用しているので、夏冬通して16度前後。水質が滑らかでゆっくり入れると好評。ゆえに「小杉湯=交互浴の聖地」と呼ばれている。
—銭湯ではどんな風に過ごされていますか? お気に入りの過ごし方やマイルールなどがあれば教えてください。
私はサウナも好きなので、サウナがある銭湯によく行きます。サウナと水風呂を交互に入るのがすごく好きです。
「小杉湯」にはサウナがないので未体験なのですが、私もお風呂と水風呂の交互浴がお気に入りです。
交互浴は銭湯の醍醐味ですよね!
入浴ハイの境地へ行ける「交互浴」の魅力
(小野美由紀さん)
私も繰り返し入って1時間くらいはお風呂場にいます。脳みそにちゃんと血流が行くせいか、すごく頭が冴えてくるんです。悩んでいるときに入ると「ハッ!」っとなることがあって、たまに悟りを開いてます。
悟り(笑)! でもわかります、その感じ。私も頭がどんどん冴えて水風呂から出られなくなる瞬間があります。
「トランス状態に入った!」みたいな瞬間ありますよね。サウナハイ、入浴ハイみたいな感じで精神が整ってくるというか。野木さんは時間を決めて入りますか?
時間は決めないです。「今日はどうしたい?」って、自分の体の声を聞きながら体調に合わせて入っています。でもそうすると、あっという間に時間が経ちますよね。あとは、お風呂のなかで仲良くなった人と会話していると、つい長風呂に。
住んでいるところも名前も知らない人なのに、裸でお風呂に浸かっていると不思議とコミュニケーションが生まれたりしますよね。野木さんはとくに番台に立たれているから、たくさん声を掛けられそう。
お話はたくさんするんですけど、ほとんどの方が貸しロッカーの番号しか知らない間柄なんです。「あ、56番のおばあちゃんだ」みたいな(笑)。
いいね。お客さん側からすると、そうやって覚えてもらえるのって嬉しい。「八幡湯」に通っていたときも、番台のおばあちゃんに「久しぶりに来たね」って声掛けてもらえるだけで嬉しかった。
そんな場所って他にあまりないですよね。銭湯ならではのコミュニケーションというか。
なんたって初対面で裸だからね(笑)。もはや哺乳類同士ですよ。
—銭湯の魅力、奥深いです…。銭湯の魅力にも繋がることだと思うのですが、銭湯好きになられたことで、ご自身に良い変化や影響はありましたか?
あります、すごくあります!
銭湯通いで身も心も変われた
(野木青依さん)
私は去年の秋頃から体調が優れなくて、精神的にも鬱っぽくなっていたんですけど、「小杉湯」に通うようになってから体の不調も整って、性格も明るくなりました。動悸とかめまいとか、手汗もすごかったんですけど、全部なくなりました。交互浴って自律神経を整えてくれる効果もあるらしいんです。
そうだったんだ、想像つかない。野木さん、すごく明るくてチャーミングだから。
別人になったって言われます(笑)。それまではスルッと声が出なかったんですけど、働き始めて2週間くらい経って「あ、私声が出るようになったな」って気付いて。あと、よく笑うようにもなりました。
お風呂だけじゃなく、「小杉湯」の力もありそうですよね。平松さん(「小杉湯」三代目)の包容力とかね。
そうですね、銭湯と「小杉湯」のおかげです。お湯もそうだし、働く環境がすごく良いんです。三代目の平松さんはとっても懐が深いんですよ。生まれたときから銭湯に入って育つとこんなに優しい人に育つのか!って思っちゃいます。
“お湯のような人”ですよね。
まさにそうです!
私は銭湯のおかげでコンプレックスが減りました。銭湯に行くといろんな女の人の裸を見るから、「どの裸もきれいだな」と思うようになって。おばあちゃんも若い子も、みんな違って「人それぞれ良いところがあるな」と思うようになりました。
私も「人の裸を見るのが苦手」と言いましたが、銭湯に通うようになって「みんなそれぞれ素敵」だと思うようになりました。
意外だったんですけど、銭湯って「自己肯定感」を上げてくれるんですよね。
うんうん! 自分の見た目で色々とコンプレックスがあったけど、「みんな違ってみんな良い」というか、みんな美しいんだって本当に思います。
(後編へ続く)
* * *
温かなコミュニケーションが生まれ、自己肯定感まで上げてくれる「銭湯」。意外な魅力にますます興味が湧きますね。後編もお楽しみに!
取材・執筆/大西マリコ 撮影/パタヤナン・ワラット(vvpfoto) 撮影協力/小杉湯 ヘアメイク(野木青依)/SAYAMI 衣装(野木青依)/工藤葵(あおにさい酒店)
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