対談 2019.08.23
有坂塁さん×土谷みおさん|【第1回】365日映画鑑賞!映画マニアが語る、映画の新しい楽しみ方
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- 有坂塁
- 全国を旅する映画館「キノ・イグルー」代表。2003年、中学校の同級生である渡辺順也氏とともに設立し、映画館やカフェ、本屋、雑貨屋、学校など様々な空間で世界各国の映画を上映。音楽やフードトラックを取り入れるなど、映画を軸にした空間を提供している。代々木上原のギャラリーでは、1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」を毎月開催中。
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- 土谷みお
- 1984年、東京都生まれ。グラフィックデザイナーを経て、2012年、菓子ブランド「cineca」を立ち上げる。映画をきっかけにして制作する“物語性のある菓子”が人気。代表作に猫のごはん・通称「カリカリ」を模した「kalikali -ネコ気分なクッキー-」や、食べられる花を封じた砂糖菓子「herbarium-甘い標本-」など。
雑誌 PERK「cinecaのおいしい映画」、PINTSCOPE「cinecaのおかしネマ」など連載コラムも好評。
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アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。
今回の対談テーマは『映画の新しい楽しみ方』です。映画は、「映画館で観るもの」「非日常を味わうもの」というイメージがあり、敷居の高さを感じてしまう方も多いはず。しかし本当はもっと気楽に、自由に楽しんでイイんです!
そんな映画への固定概念を良い意味で壊してくれる本日のゲストは、新しい形で映画の魅力や楽しみ方を表現されているお2人。
無人島や本屋など、さまざまな場所で映画上映する移動映画館「キノ・イグルー」代表の有坂塁さん。映画を題材に制作されたユニークで美しいお菓子が人気の菓子作家「cineca(チネカ)」の土谷みおさんです。前後編の2回に渡ってお送りします。
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―もともと2人はお知り合いだったんですね。
映画イベントをやりたい!という方がいらっしゃって、その方が引き合わせてくれたのがきっかけですね。
そうそう。懐かしいですね! 6年くらい前かな。
それから僕が月1でやっていた映画のサロンで、お菓子を作ってもらい始めたんだよね。久しぶりにこうやって話せて嬉しいです!
―普段どのくらい映画を観られますか?
帰ってくるのも遅くて家帰ると眠くなっちゃうし、家は完全にオフの時間にしたいから映画は映画館で観るようにしてるんだよね。忙しいとなかなか行く時間も少なくなってしまうけど、観ないことがストレスになるから年間1日1本のペースで観るようにしています。
じゃあDVDは家にあんまりないんですか?
そうそう。レンタルで観れる作品は買わないようにしてる。感動したものを全部買っていたらキリがないから(笑)。タイトルデザインが面白い作品とかはDVDで持ってるよ。 cinecaちゃんはたくさん持ってるよね?
この部屋の棚に700本くらいDVD が入ってます。それでも入りきらなくて(笑)。私は「もう一度観たい」と思ったらDVDを購入するのでどんどん増えてしまって、国ごとにまとめて収納しているのですがついにこの階の棚に納まらなくなってしまったので、「アメリカ」のDVDは全て下の階の棚に移動させました。
今回の対談は土谷さんのご自宅(アトリエ)にて実施。壁面に付けられている棚の扉を開けるとDVDがずらり!
すごい! 入りきらないくらい持ってるんだ!
—映画にハマったきっかけは?
仕事もプライベートも付き合いあるけど、cinecaちゃん(※土谷さん)が映画好きになったきっかけ、聞いたことなかったな。
そうでしたっけ?
あれ……ごめん、覚えてない(笑)。
小さい頃からジブリがめちゃくちゃ好きで、母と一緒にそのビデオを借りに行くのがすごく楽しみだったので、元々映画は(アニメは)好きだったんですよ。大学生になってからは、美大に通っていたのでいわゆるアート系とかミニシアター系、B級ばかり観ていたんです。
昔は偏食の映画好きだったんだね。
そうなんです。でもあるとき『スーパーマンIII/電子の要塞』※(1983)を観て感動したんです。
※スーパーマンIII…世界最大のコンピューターを相手に戦うアメリカ映画「スーパーマンシリーズ」の第3弾
アメコミ映画がきっかけで視野が広がった
(土谷みおさん)
昔、「10+1」という建築系の雑誌が好きでよく読んでいたのですが、開いてすぐのところにダイアグラムのページがあったんです。毎回テーマがあるのですが、あるとき映画『スーパーマンIII/電子の要塞』についてのダイアグラムの回があって、それがめちゃくちゃ面白くて!ハリウッド映画で、しかも具現化が強くて隙の少ないDCコミックスとかのアメコミでこんなに面白いことができるんだってすごく感動したんです。
それは価値観崩されるね。
それからは映画の見方が大きく変わりました。ハリウッド映画やアメコミ系の映画も積極的に観るようになって、私の視点でしか見つけられないかもしれないそれぞれの映画のいいところを探しながら観るようになったんです。
いい話だ……!
塁さんが映画を好きになったきっかけは?
僕、実は12年間映画が嫌いだったんです。
え…! そうだったんですか!?
映画嫌いだった12年間を経て…
(有坂塁さん)
7人生初映画は『グーニーズ』※(1985年)だったんだけど、当時7歳だった僕は「超面白い!」って感動したの。映画館にみんなで出かけたこと自体も初体験で嬉しかったんだよね。
※グーニーズ…海賊の財宝を捜しに悪ガキ集団「グーニーズ」が繰り広げる冒険を描いたアメリカ映画
記憶にしっかり残っているんですね!
仲の良い何家族かで銀座の映画館まで行って、みんなで「どこ座る?」みたいな。当時は自由席だったからそういうのも覚えてる。あの広い空間を見て「どこでも選べるんだ! 」ってワクワクして。主人公のグーニーズのメンバーと自分の年代がほぼ同世代だったから、もう自分を見ているかのようだったの。
『グーニーズ』って塁さん世代にドンピシャだったんですね。
そうそう、直撃世代。当時住んでいた家の裏に空き家があって、今まで何も気にしてなかったのに『グーニーズ』を観てから「きっとあそこに財宝が眠ってるんだ!」ってみんなで本気で侵入するみたいな(笑)。それくらい影響受けてた。
それで映画にハマって、それから?
『E.T.』※(1982年)で映画が嫌いになった。
※E.T …1982年のSF映画。地球に取り残された異星人と子どもたちの交流を描いた物語
なんでですか!?
『グーニーズ』をもう一回観たくて、親に連れて行ってって頼んだら「せっかくだから違うのにしよう」って『E.T.』を観せられたの。親はいろんな世界を見せたいと思ってくれたんだと思うけど、E.T.の顔が怖くて映画に入り込めなくて……。
確かに子どもにはちょっと怖いかもしれないですね……。
途中で「無理!」と思って双子の兄と上映中の映画館を走り回って、「もう二度と映画なんて観ない!」って誓ったくらい(笑)。それが7歳くらいで、19歳までの12年間1本も観てない。観ないとかじゃなくて積極的に嫌いだった。
今の塁さんからは想像がつかないですね……。そこから19歳で何があったんですか?
19歳のときに付き合っていた彼女に「映画に行こうよ」と誘われて。でも映画嫌いだから「ごめん」って断ったの。
(笑)
それで、誘われ、断りが3回くらい続いて。もう行かないと嫌われるかもと思って、嫌だけど行くしかないって観に行った映画が『クール・ランニング』※(1993年)だった。それがもう、すごく楽しくて!
※クールランニング…オリンピック出場の夢に敗れたジャマイカの陸上選手が冬季五輪に挑戦する実話を元にしたアメリカのコメディ映画
塁さんはあれを映画館で観たんですか。いいなぁ〜。
何も期待しないで観たら、笑えて笑えて、最後思いっきり涙した。今でも覚えてるけど、その日ずっと映画が頭から離れなくなっちゃって、薄っぺらい600円のパンフレットを買って何度も何度も読み返してた。「映画って最高〜!」ってなって。次の日から1人で映画館に行くようになってた。
知らなかった! 今の塁さんがいるのは、彼女のおかげですね!
ほんと、彼女のおかげ。あと今思えば、『クール・ランニング』ってチョイスもよかった。時間軸が変わる頭を使う映画とかだと、当時は内容を理解できなかっただろうから、ここまで好きになってなかったな。なんたって、それまでの人生で映画を2本しか観ていないから(笑)。
「クール・ランニング」は物語もわかりやすいし、ポップだし、サッカーをされていた当時の塁さんと馴染深いスポーツのお話ですしね。
——映画に対して偏食だった土谷さんと、12年間も映画嫌いだった有坂さん。今のお2人からは想像もつかない意外なお話でしたが、今はどんな映画でも観られるのですか?
はい、今は何でも観ます。
私も恐ろしく怖いホラー映画以外はなんでも観ます。
どんな映画でもどこかに必ず魅力がある
(土谷みおさん)
私は映画というもの自体が好きすぎるんです。映画を作っている人たちって、みんな映画への愛があるから、どんなものでも絶対に良いところはあるし、どれも否定したくないんですよね。
そうだよね。自分に合っているかどうかの目線で観るのも良いけど、その映画の良さってもっと大きいから、それを取りこぼしちゃうのはもったいないよね。
私は自分もモノ作りをしていて、自分が作るものに対して向き合う気持ちを知っているから、余計に否定しにくいというか。映画をつくるのって大変じゃないですか。お金もかかるし、人もいっぱい動くし。完成しただけでも素晴らしいことだ!って思ってしまう。
わかる! 僕もいつも同じようなこと思ってる(笑)。良いところを探して観ちゃうから何を観ても満足できるよね。僕はどっちかというと自分が映画の中に入っていく感覚。
自分が映画の中に入っていく感覚
(有坂塁さん)
映画の中に入って、良いところを探せば、面白いことって必ずいくつもあって。ストーリーが最悪だなと思う作品でも「この衣装がいいな」とか、「この音楽はすごく良いタイミングで流れるなぁ」とか、必ず魅力が見つかると思う。
あー、すごくわかります!
cinecaちゃんも、そうやって映画の良いところを探して作品を作っているのが面白いよね。普通は自分の美意識や独自の視点で作品を観る人が多いけど、モノ作りをしているのにフラットな状態で観れるのがすごい。
映画においては、映画作品への尊敬の意識の上に美意識があるから、許容する美意識の範囲が格段に広くなっているのがあると思います。みんながひどい映画だっていう作品の中にも、私はこんないいところ見つけたよ!って思って観る方が得だと思うし、そうやって鑑賞すると映画を観ることが毎回宝探しのようで楽しくて仕方ないんです。
— 映画を観る際のマイルールについても教えてください。何か食べたり飲んだりされますか?
僕は映画館で映画を観る派なんですが、1時間半くらい前から何も食べないです。
私もそれです。心地いい映画に出会うと寝ちゃうことがあるので、コンディションを整える意味で2時間くらい前から食べないようにしています。
ダメな映画の話になったときに、「眠くなる」とかよく言うじゃないですか。寝ちゃったからダメな映画だなんて、「映画のせいにするなよ」ってすごく思うんですよ(笑)。
たしかにそうですね!
その映画の1回目を観るというのはこの瞬間にしかないから、なるべく自分なりのベストで臨みたいなと思ってる。
1回映画館で寝ちゃって、すごく反省しました。
わかる! 自分を責めるよね。
実は私個人的には、「眠くなる映画」=「いい映画」なのですが、でもやっぱり映画館で寝てしまいたくはないから、こちらもできる限り真剣なコンディションで臨みたいとは思ってます。
(後編へ続く)
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「映画」という存在の虜になっているお2人の映画との向き合い方は、私たちに映画の新しい楽しみ方を教えてくれましたね。後編もお楽しみに!
撮影/山田健司
取材・執筆/大西マリコ
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