対談 2019.12.24
加藤千恵さん×綿矢りささん|【第1回】女性作家が語る! 円滑な女同士のコミュニケーションって何だ?
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- 綿矢りさ
- 1984年京都府生まれ。小説家。2001年高校在学中に『インストール(河出書房新社)』で第38回文藝賞受賞。2004年早稲田大学在学中に『蹴りたい背中(河出書房新社)』で第130回芥川賞を史上最年少・19歳で受賞する。2012年『かわいそうだね?(文藝春秋)』で第6回大江健三郎賞を受賞。『勝手にふるえてろ(文藝春秋)』『意識のリボン(集英社)』など著書多数。近刊は『生(き)のみ生のままで(集英社)』(上下)。
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしい話”をお届けする「今週のお客さん」。
今回の対談テーマは『女同士のコミュニケーション』です。ニコニコしながら嫌いあっていたり、よくケンカするのに大親友だったり……。男性から見ると理解しがたい、女同士の関係。そこには、男同士や男女の関係性とは明らかに異なる“何か”が潜んでいます。今回は、そんな一筋縄ではいかない女同士の関係や、コミュニケーションについての本音対談!
ゲストにお迎えしたのは、最新刊にて「女同士」をテーマに書かれている小説家のお2人。女同士の恋愛をみずみずしく表現した綿矢りささんと、近いようで遠い存在の2人の女性をリアリティたっぷりに書いた加藤千恵さん。
前編では、そんなお2人のプライベートに迫ります。他ではなかなか聞くことのできない女性作家同士の交流や女同士の関わり方をお話ししてくれました! 前後編の2回に渡ってお届けします。
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—— お2人は同い年で普段から仲が良いとお聞きしていますが、普段は一緒にどんなことをされているんですか?
グループで旅行に行ったりするよね。
うん、箱根に温泉旅行とか、シンガポールも行ったよね。
シンガポールは西加奈子ちゃんとか村田沙耶香ちゃんとか、女性作家何人かでね。
※西加奈子:1977年イラン生まれ大阪育ちの小説家。2004年『あおい(小学館)』でデビューし、2007年『通天閣(ちくま文庫)』で織田作之助賞を受賞。
※村田沙耶香:1974年千葉県生まれの小説家。2003年『授乳(講談社)』でデビューし、群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。
\3人には以前アマノ食堂にご来店いただました!/
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女性作家同士ってけっこう仲良いよね。同年代の人数も多いし。
そうそう。私たちも同学年だし、あとは島本理生ちゃんとか、金原ひとみちゃんとか、すごく多いよね。
※島本理生:1983年東京都出身の小説家。2001年に『シルエット(講談社)』で群像新人文学賞優秀作を受賞。2005年出版の『ナラタージュ』は、翌年「この恋愛小説がすごい」第1位に輝き、2017年秋に映画化。2018年『ファーストラヴ(文藝春秋)』で直木賞受賞。
※金原ひとみ:1983年東京都生まれの小説家。2003年『蛇にピアス(集英社)』は綿矢りさの『蹴りたい背中(河出書房新社)』とともに芥川賞を受賞
なんの話をしているかな。こうやって作家同士で集まっても、小説の話は全然しないよね(笑)。
そうだね(笑)。なんやろう? 千恵ちゃんはカニが好きとか、カニに目がないとか。
カニの話ばっかじゃん!
あとは、私が飛行機怖いとかかな。
ああ、そうだ。りさちゃんは飛行機が怖いんだったよね。でも、最近は周りも子どもを産んで、育児の話が増えたかも。
たしかに。作家だからといって、女子が集まれば割とそんな感じだよね。
たま〜に、小説のタイトルの話をしていて、「作者が違うと印象が変わるよね」みたいな話をすることがあるくらい。例えば、「生のみ生のままで(村田沙耶香)」だと、「ああ、死者が出るだろう」とか(笑)。
ああ、分かる……(笑)。それぞれ作風が違うから、同じ題名でも作者名が誰かで全然印象は変わる。
——プライベートでも仲の良いお二人ですが、「女同士の関わり方」についてお伺いしていきたいと思います。男性同士や男女の関係とは違う、“女同士ならでは”のコミュニケーションの難しさや苦労はどんなところにあると思われますか?
女性だからこそ伝わる「ニュアンス」の感情
(綿矢りささん)
機嫌の悪さがすぐに伝わるというのは時々大変だなと思いますね。
女同士だとニュアンスが伝わるというか、ね。
すごく仲が良くても、たまに不機嫌になったりすることもあるじゃない? 男の人だったらわからないことも、女性だと数秒くらいで伝わってしまう気がする。
口には出さないけど、なんとなくムードが悪くなったりすることあるよね。
お互いに深い意味はないんだけど、そういう時はちょっと大変かなって思う。
女性同士の「行間」を読む難しさ
(加藤千恵さん)
女性のほうが行間があるからかな? そこは男性とは違うかも。行間がないほうが楽なときももちろんあるし。
なるほど! 行間かぁ…。
りさちゃんは京都人だからさ、京都って行間の文化じゃないの?
そう言われてみると、行間の文化やね(笑)。東京に出てきて初めて「あれ?伝えわってないの?」と思ったことは結構ある。何も言わずとも伝わる能力が地元はすごかったから。
恐ろしい街だよね (笑)。
「何かご意見ありますか」と聞かれて「はーい!」と大きく手を挙げる人は京都では少なくて、シーンとするんだけど、そのシーンとした空間すらも形式美として捉えるみたいな(笑)。おとなしさの中に人の気持ちを読んでいるみたいなところは、まさに行間かも。
私は逆に、行間を読むのが難しいと感じていて、こんなに大人になっても社交辞令が下手だったりする。それは北海道民だからなのかな(笑)。
京都の社交辞令はどうやって成立していったんだろうね。
京都は社交辞令が上手そうなイメージがあるなぁ。
人を家に招待する数は明らかに京都にいた時のほうが少なかった! だから京都人はプライベートな空間と公的な空間というのがくっきり分かれているのかも。
私の周囲がたまたまそうなのかもしれないけど、北海道民は、大雪とかに慣れてるせいか、普段から「なんでもあり得る」と思っているところはありそう。他者の秘密とかもあまり驚かず、トラブルに対して冷静な感じがする。
北海道の雄大な道民性を感じるね!
—— 女同士のコミュニケーションの苦労や難しい部分についてお聞きしましたが、逆に、「女同士だからこその楽しさ」はどんなところに感じますか?
それこそ、最初に言った旅行とかは女同士のほうが楽しいんじゃないかな。ちょっと感覚的になっちゃうけど。
そうだね。一緒に旅行に行ったとき、みんなで千恵ちゃんが持ってきたゲームをしたよね?
ああ、やったね! すごく盛り上がった。
あの時すごく熱中して黙々とみんなでやったよね。話しているときも、時間を忘れて夢中になるときがあって、同士で夜中に何時間も話していると、謎の異空間トンネルに突入するというか。時間を忘れるような……。
分かる! あと、友達が彼氏にフラれて話を聞いてみんなで泣くとかは、あまり男の人にはないかもね。語り合って、スイッチが入る感じというかね。
そうそう、モードがあるよね。没頭する感じみたいなのは、やっぱり女同士の面白いところ、醍醐味かなと思う。
—— 普段、女性同士のコミュニケーションを円滑にするために、お2人が心掛けていることを教えてください!
何年後もつながっていけるような親密度を大切に
(綿矢りささん)
私は最近、「長いスパンで人と付き合う」というのを考え始めるようになってきたかな。その瞬間だけが楽しいではなくて、付かず離れずでもいいから縁自体を大切にしたいと思いながら付き合うようになってきた。
素敵な考え方だね!
大人になると新しく出会う人も多くないしね。学生のときみたいに、そのときが楽しいことが重要ではなくて、何年か後も細々繋がっていけるくらいの親密度を目指したいなと思うようになってきたんだ。
親密度で思い出したけど、私、りさちゃんに対して感動したことがある!
なになに!?
私が出産したときに出産祝いを何人か合同で贈ってくれたでしょ?それで、お祝い返しにカタログを送ったら、りさちゃんがわざわざお礼状というか、可愛いカードを送ってくれて。
懐かしい〜、そうだったね!
お祝い返しに対して、さらにハガキを返してくれたの。文章を書く仕事をしてるのに、私、筆不精で、年賀状すら全然出せていなくて。だからそういう心遣いや気配りができるりさちゃんに感激したし、見習いたいなあとも思ったよ。まだ全然見習えてないけど(笑)。
私もあまり得意ではないんだけどね。でも、最近そういうことの良さに気付き始めてきた。手紙ってやっぱりいいよね!
うん!もらったらすごく嬉しい。最近は紙で手紙をもらうことが少なくなったから、余計に嬉しかったよ。
東京って素敵な文具屋さんが駅近の行きやすい場所にたくさんあるから、手紙書くための便箋や葉書も、用途に合わせて色々選べて、その選んでるときも楽しい。千恵ちゃんは何か気をつけてることとかある?
「分かり合えない」という前提で話す
(加藤千恵さん)
私は、うまく実行できているかは分からないけど、話を否定せずに一通り聞いてから答えようとは常に思ってる。
あ、わかる!
100パーセント正解、間違いというのはないと思っているので、自分の意見と違っていても「ああ、ここはこうだね」とか「でも、ここはたしかにわかる」とか、そういう共通部分を見つけたりとか。
私も、あまり頭ごなしに否定しないようにしてる。マウンティングって言葉ができたから尚更。今まで以上にそこは気を付けたいなと思うようになった(笑)。
近い部分があるからといって、他の部分まで全部分かってもらえるとか、逆に分かった気になるとか、そういうのはなるべくやめたいなと思ってる。人は、基本は分かり合えないって思うから。
『私に似ていない彼女』(ポプラ社)の中の「非共有」の話に書かれていたようなことだね!
—— ここまでお話を伺ったところで、アマノフーズのスープでほっと一息。今回は「ぜんざい」を召し上がっていただきました。
今日は、これを楽しみにしてきました!
お噂はかねがね。
以前、こちらの対談で柴崎友香さんが色々な商品をひと通り食べてから来たというのを聞いてびっくりしちゃった(笑)。
柴崎友香さんの対談はこちら
▶︎村田沙耶香さん×柴崎友香さん【第2回】読書好きじゃなくても読んでみて! 芥川賞作家が選ぶ1冊
—— ぜんざいは、おこげとぜんざいが分かれているので。先にお湯を入れていただいて、上におこげをのせてください。それを崩しながら食べると美味しいですよ。
これはすごい。凝ってますね!
崩れるんだ!楽しい!
おこげの食感がパリパリしてていいね。あと、食べていくうちにおこげの食感が変わってちょっと柔らかくなるのも楽しいですね。
おこげとぜんざいって、すごく意外だ。
確かに、ぜんざいにおこげってあまりないよね。でも、美味しい。香りもいいなぁ。
今日の試食、楽しみだねって話してたんだよね。これ小説を書いてる時とかにさらりと食べられる! 女同士でこうやって甘いものを食べるのもいいよね。
(後編へ続く)
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女性作家の意外な交流や、ご自身の作品に登場する女性たちへの思いなど、普段は聞けないお話が満載でしたね。後編では、「女同士」をテーマにしたお2人の最新刊について詳しくお聞きします!
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撮影/パタヤナン・ワラット(vvpfoto)
取材・執筆/大西マリコ
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