対談 2015.12.25
DJみそしるとMCごはんさん×EATBEAT! さん|五感で楽しむ「食×音楽」
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- DJみそしるとMCごはん
- HIPHOPアーティスト。女子栄養大学 栄養学部 食文化栄養学科卒業。大学の卒業研究で、架空のHIPHOPユニット「DJみそしるとMCごはん ~くいしんぼうHIPHOP~」として「Mother’s Food」と、そのミュージックビデオを自ら制作。2013年「おりおりのおりょうり~X’mas~」でメジャーデビュー。通常は、料理のレシピをラップに乗せた楽曲を制作しているが、自炊推進ソング「ジャスタジスイ」や、自炊の思い出をセンチメンタルに歌った「あのすばらしい味をもう一度」など、料理や食にまつわる様々な楽曲も制作。最近ではバラエティー番組への出演も増加したりとじわじわお茶の間にも進出中。
- DJみそしるとMCごはん
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- 堀田裕介(EATBEAT!)
- 「食べることは生きること 生きることは暮らすこと」自ら生産者の元へ赴き生産者の暮らしを知り寄り添いながら、食の本質を生活者へ届ける料理開拓人。
食の安心・安全だけでなく、美味しく楽しいことを自らのアートの感性を活かした「foodscape!」で表現し、五感を通じて食に向き合う空間を創出。独自のネットワークを活かした商品開発や店舗プロデュースを手掛ける一方、食と音楽の融合イベント「EATBEAT!」や将来へ向けた「種から育てる子供の料理教室」など、本質を伝える活動の開拓は続く。2015年6月にはfoodscape! bakery/caffee/cateringのオリジナルショップが大阪の福島区にオープン! - EATBEAT!
- foodscape!
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東京下町のとある街角にひっそりと佇むアマノ食堂。この店に訪れるお客さんの“おいしいお話”を毎週お届けしていきます。第10回のテーマは、「食と音楽」。
料理をしている時の音やレシピさえも素敵な音楽に変えてしまう。そんな五感で味わう音楽についてのお話です。
ゲストは、料理のレシピやそこにまつわるエピソードをラップに乗せて歌う話題のアーティスト・DJみそしるとMCごはんさんと、全国各地で食を通じた新しい体験を届けるライブパフォーマンスユニット・EATBEAT!。今回は、音楽×食を融合させたさまざまな活動を行うこの2組にお話を伺いました。
—皆さんは、以前一緒にイベントをされたことがあるそうですね。
はい、以前EATBEAT!さんとコラボして、曲を作ったことがあるんです。
去年の春に僕らのイベントに一度出演してもらったんだよね。
お2人が作ってくれたトラックに合わせて、「EATBEAT!のテーマを歌います!」という感じでいきなり登場して。そこでラップさせてもらいました。
すごく緊張してたよね?
実は生演奏でライブをするのはあの日が初めてで…。もう緊張しすぎてごはんが全然喉を通りませんでした(笑)。
でも、お客さんとも掛け合いしたりして、めっちゃ盛り上がったし楽しかったね。
そのイベント用にCDも作ったんですよね。その場にいたお客さんに配る分だけしかなかったから100枚くらいかな?
そうそう。僕らがコラボした音源ってそのCDにしか収められていなくてネット上にも出回っていないから、そこにいた100人くらいしか聴いていないっていう。今となっては“幻の曲“だな〜。
どこかで日の目をみることがあれば(笑)!
—幻の曲…気になりますね!お2人は「食×音楽」を通じて表現するアーティストという共通点がありますが、それぞれの分野に興味を持ったきっかけ、活動に至る経緯は何だったのでしょうか?
いろんなものを組み合わせて、作り上げていく過程がある。
料理と音楽って似ているんじゃないかな
(DJみそしるとMCごはんさん)
小さい頃から楽器を弾いたり絵を描いたりすることが好きだったんです。高校時代、将来や進路を考えるタイミングになった時に手に職をつけるためには、どうしたらいいかなと考えていました。でも色んな選択肢があってなかなか選べずにいて。そこでふと自分の好きなことと共通することが「料理」にはあるはずだと思って、女子栄養大学に進学することにしました。現在のDJみそしるとMCごはんとしての活動は、在学中の卒業研究がきっかけです。料理の作り方をラップする架空のヒップホップユニットがいたら、おもしろいだろうなって。みんなの前でプレゼンをしたら、「何それ、おもしろそう!」と意外にも反応が良くて。
活動を始めたのはそのころかもしれないけど、そのもっと前から食と音楽っていう発想は頭の中にあったんやね。
料理を作るのに人それぞれのテンポやリズム感があるように、音楽もいろんなものを組み合わせて、作り上げていく過程があるからすごく似てる。それに料理を器に食材を盛ったり、彩りを考えることは絵を描くことにも似ているように思います。そう考えると、料理って実はすごくクリエイティブな作業ですよね。
楽器を弾いたり絵を描いたり、小さい頃から好きだったことや学生時代に勉強したことがちゃんと今につながっているというのはすごいね。
当時は、うっすらとそうゆう風になったら良いなくらいだったんですけど(笑)。でも、結果的にそういった色んな要素がリンクして今に至るという感じです。ちなみに、お2人はどんなキッカケでEATBEAT!としての活動を始めたんですか?元はそれぞれ単独で活動していたんですよね。
元々ヘンリー君が個人で音楽活動をしていて、僕がそのライブを見に行ったのが最初のきっかけ。サンプリングしながらその場で曲に仕上げていくヘンリー君のスタイルを直で見て、僕から声をかけたんだよね。実はその時はもう僕の中ではEATBEAT!の構想があって、ちょうど彼のような人を探していたんですよ。だからその時はもう「いたー!」って。
そうそう。終わったらすぐに声をかけられて。
とにかく早くEATBEAT!の構想を話したかったから「はよライブ終われ」って思いながら聴いてた(笑)。
運命的な出会いですね!
環境も自分達で作っていけば
新しい「食体験」が生まれる
(EATBEAT!・堀田裕介さん)
当初はどんな構想があったんですか?
僕は、普段ケータリングや店舗プロデュースなど料理の仕事をしていて。料理の提供の仕方ってバリエーションが無限にあるように思えるけど、実は意外とそんなにたくさんあるわけじゃないんだよね。まだ誰もやっていない「食体験」を提供したいなって考えていた時に、食と音楽を融合させたライブパフォーマンスっておもしろそうだなと思って。EATBEAT!のイベントでは、そういったクリエイティブな部分を見出せたらいいなと思ってる。料理を食べてもらう環境自体も自分達で作っていけば、新しい食体験が生まれるはずだから。
なるほど。最初は2人でどんな活動をしていたんですか?
最初は、5年くらい前だったかな。その時はまだEATBEAT!というユニット名もなくて、今のスタイルがまだ確立していなかったんだよね。パフォーマンスも無言でずっと料理を作って、その音を録音してみたいな感じで。
それが攻めすぎたのか、見ているお客さん達は置いてきぼりになっちゃって(笑)。でも、料理がおいしいから最終的に満足してはくれるんだけど、ライブ中はみんな「ぽかーん」って感じ。
「ぽかーん」(笑)。
それでだいぶへこんで、2〜3年くらい期間が空いたの。でも、何年かぶりにまた一緒にやろうということになって。その時のイベントの様子を映像にしてYoutube にアップしたら、その動画を見た人から声を掛けてもらう機会が増えてきて。
あとは、無言じゃなくてトークを入れてみようかということで合間にMCや料理の紹介を入れたり、お客さんも一緒に参加できるようなホームパーティのようなスタイルにしてみたり…試行錯誤しながら少しずつ今のスタイルに近づいてきたという感じかな。自分達が何をやっているのかを言葉でも伝えることで、ようやく「きたきた〜!」っていう手応えを感じるようになった。
最初の頃と比べると、だいぶ手応えを感じられるようになったよね。これはいけるなという。最近はライブの半分くらいがトークっていう時もあるよ(笑)。
私も初めてYouTubeにアップされているEATBEAT!の動画を見て、「私がやりたかったことをやってる!」と思って、イベントに遊びに行ったんですよ。ライブ感があってすごく感動しました。
それは嬉しいな。最初はオシャレなイメージを持って来てくれたお客さんも、イベントに来ると意外とギャップもあって着飾っていた人も素に戻るというか。
確かにおいしいものが目の前にあると、みんな無防備になるな〜って。オシャレに着飾った人達もおいしいものの前では格好つけていられないですよね。
そうそう!料理が目の前に出てくるとオシャレなクラッチバックを床に置いて、ごはんに夢中になったりね(笑)
おもしろいからやってみる。
冒険することで、そこでしかできないことに出会える
(EATBEAT!・ヘンリーワークさん)
お客さんを満腹にさせることが僕らの活動では絶対的に必要な部分で、それがないと成り立たない。時間内に満腹にさせるためにはどんな調理過程で、どれくらいの食材が必要かなとか。そこをしっかりと押さえたうえで演出や構成を決めてる。
お客さんも作っている人も一緒になってその場を楽しめるっていいですよね。料理や音楽を作っている過程って見えない部分だから、見ているだけでも勉強になります。
でも設備が毎回完璧に整っているわけじゃないから、どこまで準備しておくかも事前に考えておかなきゃいけない。できるかわからない所に飛び込んでも、意外とそこで助けてくれる人もいるし。自分達では思いつかなかったことや予定調和でないことをどう乗り越えていけるかという感じかな。
でも、そこがおもしろいところでもあるんだけどね。実は来年、香川県の高松で電車を貸し切ったイベントを予定してるんだよ。
え〜!すごい楽しそう!
でしょ。電車の中で音が録れるの?電気使えるの?とか企画段階では実現できるのかわからなくても、おもしろいからとりあえずやってみる。そういう風に冒険していくと、そこでしかできないことに出会える。
電車のつり革に大根とか干し柿とかぶらさがっていたらおもしろそうだな〜(笑)。
それいい!ナイスアイデアだね。
—電車イベントの企画もそうですが、普段から曲作りやライブパフォーマンスにおける“アイデア”はどのように生まれているんですか?インスピレーションの源が気になります。
私の場合はまず、18歳で上京した時に「今日からお母さんの料理が食べられないんだ!」という絶望感があって。それで自分でもおいしいと思えるものを作れるように、日々がんばってきたことを『ジャスタジスイ』という曲にしました。当時はおいしいごはんが作れなくて本当に悲しかった(涙)。
今年の5月に開いた僕の個展にゲスト出演してくれた時、壁に書かれた『ジャスタジスイ』の歌詞をひとつひとつお客さんに解説してくれたのがおもしろかった(笑)。
その時によく聞いていた曲のこととか、当時住んでいた近所のお店とかすべて実体験をもとに歌詞を書いたんです。
そういえば…前から聞いてみたかったんだけど、ラップの歌詞っていつもどうやって考えてるの?
最近は、ノートに書き留めたりしてますね。えっと、こんな風に…(バッグの中をガサガサ)
(歌詞を書き留めるアイデアノートをお2人に見せてもらいました!)
へぇ!これすごいね〜。机に向かっている時に思いつくの?
料理を作るのと同時に歌詞を書けないんですよ。なので、一旦仕切り直してから頭の中で料理している時のことを思い出すんです。包丁の持ち方とか切り方とか。少しずつ整理されてだんだんと出てくる感じですね。お2人は曲のイメージやアイデアってどんな時に思いつくんですか?
その土地や場所に行って思いつくことが多いかな。僕らの活動理念は「どこか行きたい」だから(笑)。その場所に行くと、出会いがいろいろあるから。生産者の人やその土地で出会ったものからアイデアをもらって音作りのイメージを固めるというか。想像だけだとあまりイメージが湧かなくて。
実際にその土地に行ってみると「あの人の話良かったよね」とか色んな発見がある。その地域にしかない郷土料理や伝統食材もたくさんあって、そういった人や物との出会いが僕らの音作りの源になっているんだよね。だから僕らの場合は、“場所”に音が付随してる。
例えば、最近よく行く香川県には「カンカン寿司」という春の代表的な郷土料理があって。春の収穫や田植えが忙しい時期にごはんを作る手間を省くために、その寿司を大量に作って作業の合間に食べるっていう風習があるの。その作る過程で、鎖を手鎚で打ち込んで押し付けるんだけど、カンカンと音がなるんだよ。だからカンカン寿司。実際に行ってみなかったらそんな料理があることも調理法だって知らなかったし、地方独特の料理と音って実は密接につながっているんだよね。
どんな味、どんな音、どんな作り方なのかってやっぱり想像しているだけじゃわからないですよね。私も実体験がそのまま歌詞や曲になっているから、イメージだけだと言葉がなかなか出てこない。
事前にリサーチしに現地へ行って、そこで毎回音のヒントをつかむ感じだね。
そういえば、鹿児島テレビの「かごしまフィーバー」というキャンペーンで、鹿児島県内の色んなところを実際に訪ねて、そこで出会った“おいしいもの”を取り入れて曲を作るということをしているんですよ。その時に色んな郷土料理を食べたんですけど、地方には今まで食べたことのないようなおいしいものがいっぱいありますよね。
へぇ〜おもしろい企画だね。例えばどんなことするの?
鹿児島県の伊佐市にはチョウザメのキャビアを生産しているところがあって、そこでチョウザメを抱っこさせてもらったり、田んぼのあぜ道でおじいちゃんおばあちゃんと一緒にキャビアがけごはんを食べたりもしました。色んな刺激や発見があって地方のおもしろさを感じましたね。もちろん東京も東京独特のおもしろさがあるんですけど。
そうだね。あと東京と地方でライブに来てくれるお客さんも少し違うんだよね。どちらも20〜30代の女性が多いんだけど、一番違うのは距離かな。東京のお客さんは、かなり食い気味できてくれる印象がある。
会場で音録ってる時に知り合いに肩叩かれたり、料理を作っていて気付いたらお客さんが自分の真横にいたりとかして、たまにびっくりするよね(笑)。
-「料理」「音楽」はどちらも人に感動を与えるという共通点があり、作り上げる工程もとても似ていますよね。舌でおいしい料理を、耳でおいしい音楽を提供し続ける3人に今後の活動や伝えたい想いを聞きました。
「自分達が“楽しい”と感じることを大切にしていきたい」
(EATBEAT!・ヘンリーワークさん)
僕は、「自分達が楽しいと思えるかどうか」を何よりも大切にしたいと思っていて。それが楽しめなくなった瞬間に義務になってしまうでしょ。当初堀田さんに誘われてEATBEAT!の活動を始めた動機が「どこか行きたい」「おいしいものを食べたい」ということだったし、活動の中で色々肉付けされてきてやる意義も見出せたので、ここで一度初心に立ち戻ってもいいのかなと思ってます。
「出会いを大切に、一つ一つを丁寧に」
(EATBEAT!・堀田裕介さん)
新しいことを取り入れつつも、根底はしっかり食べ物のことを理解して生産者にもリスペクトがあって、そして最終的に「楽しい」「オシャレ」「おもしろい」と感じてもらえるアウトプットをしていきたい。若い人達にも「日本にこんなおもしろくて魅力的な食が溢れているんだ」ということを知ってほしいし、今の日本にとってもそれは必要なんじゃないかなと。今は全国各地をまわることで、日本の伝統的な食文化を伝えていけるように進めているところ。イベントを通じて出会えた人達、関わってくれた人達を大切にして、何か恩返しをできるようなイベントも作っていきたいね。
出会いをすごく大事にしているんですね。
何かさ、ちょっとおじさんくさいんだけど「人生、時間に限りがあるな」って最近思うんだよね。出会える人の数にも限界があるから、1人1人との出会いを見つめ直したいなって。今まではたくさんの人達にイベントに来てもらってただ「楽しかったな〜」で終わっていたけど、今後はもう少し一つ一つを丁寧にしていけたらと思っているところ。
「音楽を通じて、料理の楽しさを伝えていけたら」
(DJみそしるとMCごはんさん)
新しい食べ物に出会って思ったことや、日々料理をしながらおもしろいと感じたことを、音楽と食を通じて色んな人に少しでも共有できたらいいなと思っています。私は「音楽のプロ」でも「料理のプロ」にもなりきれていないけれど、その2つを組み合わせることできっと自分にしかできない表現ができると思うから。
素晴らしい…!!!
ちょっと話が変わるんですけど…お2人は「砂のパスタ」って聞いたことありますか?パン粉を炒めたものなんですけど、イタリアのシチリアではそれを「砂のパスタ」って呼ぶんです。
チーズの代わりに使われるものだよね?
そうです。「砂のパスタ」は“貧乏人のパルミジャーノ”とも呼ばれているんですけど、そのことを知った当時、私は毎日に味気なさを感じていて。「砂を噛むような日々だな…」と。
たまにワードが渋いよね(笑)。
そうですかね(笑)。で、そんな風にモヤモヤと過ごしていた時に「砂のパスタ」の話を聞いて。家にあるたくさんの調味料で、砂を噛むような日々にいろんな味を付けて、パスタにしておいしく食べたら「よし、またがんばろう!」って思えるんじゃないかなと。そういう食や料理の楽しさをたくさんの人に伝えていきたいです。『ジャスタジスイ』を聴いたらお米くらいは炊く気になった!とか、ほんのちょっとでも誰かの食に対する想いや意識を変えていけたらいいな。
—楽しいトークをありがとうございました。またのご来店をお待ちしています!
企画協力/鯰組、なんてんcafé
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