対談 2016.05.12
栗原心平さん×和田明日香さん|人気料理家が伝えたい「料理の楽しさ」とは?
-
- 栗原心平
- 1978年生まれ。 料理家・栗原はるみの長男。 (株)ゆとりの空間の代表取締役専務として会社の経営に携わる。一方、幼い頃から得意だった料理の腕を活かし、自身も料理家としてテレビや雑誌などを中心に活躍。仕事で訪れる全国各地のおいしい料理やお酒をヒントに、ごはんのおかずやおつまみにもなるレシピを提案している。2012年8月より料理番組『男子ごはん』(テレビ東京系列)にレギュラー出演中。
- yutori no kukan
-
- 和田明日香
- 1987年4月17日生まれ。2010年より、平野レミのもと修行を重ね、現在は食育インストラクターとして活動中。20代にして3児の母。こどもと一緒に楽しめる料理を得意とし、テレビや雑誌でレシピを発信。ママ向け雑誌のモデルをつとめるなど、幅広く活躍する。
- remy cook your happiness.
東京下町のとある街角にひっそりと佇むアマノ食堂。この店に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けします。第19回の対談テーマは、「料理」について。家族と食卓を囲んで、喜びを分かち合う、忙しい日々の中でもそんなひとときを大切にしていきたいものですよね。
今回のゲストは、 料理家・栗原はるみさんの長男として、人気料理番組『男子ごはん(テレビ東京)』に出演中の栗原心平さんと、平野レミさんの次男と結婚後、食育インストラクターとして子供と一緒に楽しめる料理やレシピを発信する和田明日香さん。たくさんの方に料理の魅力を伝えているお2人にとっての“料理を作る楽しみ”と、それぞれの家庭での思い出の味を教えていただきました。
—栗原さんは母・栗原はるみさんと姉・栗原友さん、和田さんは義母・平野レミさんと、料理家の大先輩がご家族にいらっしゃいますよね。そんなお2人が料理を始めたきっかけを教えてください。
小さい頃からよく台所に入ってお手伝いをしていました。中学校に入ってからは、父が毎日のように食べていたステーキを焼くのが僕の担当になっていたんです。家にたくさんの食材があったので、台所にいる時間は他の子と比べると長かったと思います。でも、特に料理の勉強をしていたわけではないんです。作ったことがなかった海老フライも、試しに油で揚げてみたら何とか作れたり。とりあえずやってみようってことで昔からいろんな料理を作っていました。
すごいですね!手探りで色んな料理にチャレンジしていたんですね。
食べて喜んでもらえることで
料理の楽しさを知った
(栗原心平さん)
男の人が台所に入って料理をすることって、僕の家では昔からとても自然なことだったんです。母だけでなく、父も手の込んだ料理を作ってくれることがあって、いきなり肉を5kg買ってきて塩漬けにしてからさらに12時間くらい煮て「コンビーフ」を作ってくれたりとか。料理の楽しさを感じるようになったきっかけは、母の料理関係の知人が家に集まった時に「わらび餅」を作ったらみんなが喜んでくれたことかなぁ。明日香さんに聞いてみたかったんですけど…結婚してレミさんが義理のお母さんになってから、生活と「料理」は切り離せなくなっただろうし、周りからも比較されがちじゃないですか。そういう部分で不安になったことってありますか?うちの奥さんと同じ境遇だなと思っていたから気になって。
私の場合は全然不安もなく…(笑)。結婚した当時は何も考えていませんでしたね。料理に興味がなかったので、実はレミさんのことも知らなかったんです。レミさんと初めて会ったのは、旦那さんの家で友達と集まって鍋をした日でした。鍋に入れる「香菜(シャンツァイ)じょうゆ」がスーパーで売り切れていて、旦那さんが「実家になら絶対にある」と言うので取りに行ったんです。その時、レミさんがキッチンにいて、ものすごい勢いで刻んだ香菜と醤油をボウルに放り込んで…。あっという間に香菜じょうゆを作ってくれました。その時に「料理ってこんなに自由でいいんだ!」という大きな衝撃を受けました(笑)。
おぉ〜。すごいインパクトのある出会いですね!
料理に目覚めたきっかけは
「子供の成長」
(和田明日香さん)
結婚してから料理をするようになったんですけど、それまでは全く興味がなくて。今となっては本当に恥ずかしい話ですが…「キャベツ」と「レタス」が同じ食材だと思っていたぐらい無知だったんです(笑)。でも、子供が自分の作った料理を食べて成長していく姿を見て、中途半端なままではいけないと思い、「食育インストラクター」の資格をとりました。そこからはレミさんのアシスタントみたいな感じで、お仕事についていくことが増えていきました。
本格的に料理に目覚めたのは、子育てがきっかけだったんですね。
そうなんです。レミさんの料理って豪快で一見めちゃくちゃなんですけど(笑)、家族の健康を一番に考えて料理を作るっていう姿勢がとても素敵なんですよ。料理家としてだけでなく、子を持つ同じ母親としても見習っている部分がたくさんあります。ところで、心平さんは昔から「料理家になりたい」と思っていたんですか?
いえ。もともと料理家のかたわら、会社(株式会社ゆとりの空間)の経営にも携わっていたんです。本当は30歳を過ぎた頃、料理の仕事は辞めようと思っていたんです。でも、会社経営の仕事をしながらも、料理やレシピのことを考える。「こんな仕事をしている人って他にいるのかな?」って考えた時に両方とも続けていったほうが面白いやつになれるんじゃないかって。そこからバランス良く、両方の仕事に力を入れるようになりました。そんな時に『男子ごはん』のお話を頂いて。今では料理の仕事のほうが多くて、7対3くらいの割合ですね。
私の周りにいる女子もみんな『男子ごはん』、観ていますよ!
正直、反響の大きさに驚いています。でも、だいたい街で声をかけてくれるのは中年のサラリーマンの方ですよ。居酒屋でいきなり席に乱入されることもありました(笑)。あと、スーパーに行くとご年配の方が話しかけてくれることもありますね。
—自分の料理を食べて喜んでもらえることは、大きなモチベーションになりますよね。それぞれの家庭での思い出深い料理はありますか?
料理本を見ながら、その通りに作ってみても「何か違うな…」って思うことがあるんです。そんな時、自分が食べておいしいって思う味は“母の味”なんだってわかって。それからは、自分の舌や味覚を頼りにおいしいと思えるものを作るようになりました。私の母が作る「筑前煮」にはなぜか大根も入っていて、しかも具ひとつひとつが一口じゃ食べきれないくらい大きいんです。でも、そういう何でもないメニューにこそ飾らないおいしさが詰まっているんだって気付きました。
素朴な“母の味”にこそ
飾らないおいしさが詰まってる
(和田明日香さん)
以前、『FOODIES TV』という番組で私の思い出の味をレミさんに知ってもらおうという企画があって、母直伝の「筑前煮」と父がよく休日に作ってくれていたピザ風味の「トースト」を作りました。嫁いで6年が経つんですけど、ただでさえ義理の母に料理を食べてもらうことってハードルが高いのに…私の場合はレミさんだから余計に不安だったんです。でもレミさんは「私が好きな味と同じよ!」と言ってくれて。すごく嬉しかったですね。
明日香さんとレミさんって、本当にいい関係ですよね。
「同世代みたいだよね!」って周りからよく言われます(笑)。心平さんにとっての“母の味”って何ですか?
我が家の定番は
母が作る「麻婆春雨」
(栗原心平)
僕が小学生の頃、両親が共働きだったので、授業が半日で終わる土曜の昼には必ず「麻婆春雨」を作り置きしてくれていました。朝作っているのでしっかりと味が染み込んでいるんです。それがまたおいしくて!あったかいごはんにかけて、一気にかき込むのがたまらなく好きでした。僕にとっても忘れられない“母の味”ですね。
とってもおいしそうですね!今でもご実家に帰ると、はるみさん(栗原はるみさん)が料理を振舞ってくれるんですか?
いや、家族で集まる時は僕が必ず作るんですよ。母の誕生日に40人くらいの知人を呼んでパーティーをした時も僕が作りました。奥さんといる時も基本は僕が作ることが多いですね。奥さんとは完全に逆の立場で「今日、何が食べたい?」って聞くと、「う〜ん。何でもいい」ってそっけなく返されたりも(笑)。
—お仕事と家庭の両立。忙しい中でも家族と過ごす時間を大切にしているんですね。お2人が料理で大切にしていることやこだわりはありますか?
基本的にはおみそ汁とごはん、おかず3品の“一汁三菜”に決めています。どうしても忙しい日はワンプレートで、鶏と野菜、目玉焼きをご飯にのせて「ガパオ」だって言い張ることもありますけどね(笑)。それでも、ちゃんと手を加えて心を込めて作った料理であれば何でも良いと思うんです。名前のつかない料理こそ、家庭料理の醍醐味だと思うし。それぞれの家庭に合った“おいしい味”があると思うので、正解ってないと思うんです。うちはメニューや味付けも子供に遠慮せずに決めて、そこに野菜を隠し込むような工夫をいつも考えていて。おかげで子供は好き嫌いがほとんどなくて、パクチーもにんじんも平気で食べてくれます。
うちも子供から野菜が嫌いって聞いたことがないですね。普通のサラダなんですけど、よく子供から「サラダ食べたい!」って言われるんです。食べ物の好き嫌いがないと楽ですよね。
食べ物の好き嫌いって子育てをするうえで大きな悩みの一つですよね。
忙しい時は「常備菜」を
作っておくのがおすすめ
(栗原心平さん)
忙しくてなかなか時間を取れない場合は “常備菜”を作っておくといいですよ。「れんこんの甘酢漬け」や「ひじきの煮物」とか。お米と合わせて食べてもおいしいのでおすすめです。
私の家では、「肉味噌」をいつも常備しています。卵があれば「卵とじ丼」みたいにアレンジして食べてもおいしいので。とろみをつけてあげると、「中華丼」のような食感になりますしね。あとは、野菜と合わせて炒めても良いし、合わせる食材次第でいろんな食べ方を楽しめる。だから冷蔵庫にいつでも使えるように大量に作っておくんです。ちなみに、心平さんはどんな時にレシピを思いつくんですか?
僕の場合、ほとんどスーパーに行ってレシピを決めることが多いですね。頭の中にある味の記憶の断片を、スーパーで実際に食材を見ながら繋ぎ合わせる感覚。じっくりとテーブルで考えるっていうことはあまりしないんですよ。
なるほど。私もお店で食材を見ながら決めることが多いですね。どう料理するのかはその場で考えて…。あとは、旬の食材がやっぱり気になります。旬の食材って、スーパーに行くと店頭の目立つところに置いてあって目につくんですよね。今の時季だと…「筍(たけのこ)」もおいしいですよね〜。
うん。旬でおいしいですね!筍は茹でて柔らかくして、ほぐす。それを生ハムとパルミジャーノ・レッジャーノ、木の芽(山椒の若芽)を和えたものを食べるのが僕のおすすめです。そこに塩コショウとレモン汁を絞ると、さらにおいしくなりますよ。
へぇ〜、意外な組み合わせですね。今度試してみよう!
—毎日欠かせない食事。せっかくならおいしい料理を自分で作れるようになりたいと悩んでいる方も多いはず。お2人が料理初心者に伝えたい「料理上手になるコツ」を教えてください。
自分の上達に気付くと、
料理はもっと楽しくなる
(和田明日香さん)
毎日料理を作っていても自分では上達しているのかってわからなくて。ただ、毎日料理しているうちに、だんだん大事だなって気付いたのが“効率”ですね。例えば、50分でお米が炊きあがるようにセットして、その間に他のメニューを作る。初めの頃は、おみそ汁とおかず1品しかできなかったのに、だんだん作れる品数が増えてきて。子どもが3人いると時間がない、けれど妥協はしたくない。だから作業時間を短縮するしかない!って自分を追い詰めて上達しました(笑)。でも、今は作ること自体が楽しい。一緒に食べる人がいて、褒めてもらったり、喜んでくれたり。みんなで集まった時においしくお酒が飲めたり。些細なことですけど、私の料理で周りの人が幸せを感じてもらえるって考えると、こんなに楽しいことないな!って思います。
僕もそう思います。たまに、普段料理を作らない方に「料理を好きになるにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあるんです。やっぱり一番は“誰かに作ること”だと思うんです。相手からの反応があると、そこから作る楽しみや喜びに変わるんですよ。料理嫌いな奥さんの場合、大体は旦那さんが悪い(笑)。「おいしい!」っていう表現や食べた感想を言うことも大切ですよ。
あと、自分の食べたいものを作るのが一番。人から「これやってみて!」って言われて作るレシピって、いつの間にか正解を求められてしまう。でも、自分が食べたいと思うメニューを適当に作って「あれ?なんかおいしいかも!」っていう瞬間、嬉しいですよね。そうやって、おいしく出来上がった時の喜びが料理を好きになるきっかけになると思うんです。料理は難しいって構えずに、まずやってみること。以前、『料理は、切り方も分量もきっちりと考えすぎないで、気のむくままに楽しく、実験のつもりでやる“大人のおままごと”なんだよ』ってレミさんが教えてくれたんです。たまたま作ってみて、おいしかったらラッキーじゃん!っていう気持ちで挑戦してみたら良いんじゃないかな。
男性には失敗が次につながる
「餃子」がおすすめ!
(栗原心平さん)
そういう気持ちを持つことは大切ですよね。あと、個人的に僕が男性におすすめしたいメニューは「餃子」ですね!餃子って、作って失敗しても原因がわかりやすいから、また次につなげられるんですよ。
なるほど!男性ならではの視点ですね。
例えば、焼く時に皮が開いてしまった時は「閉じ方が甘かったのかな?」「具が多かったのかな?」って改善点を見つけやすいので、次に作る時はその失敗を活かして再挑戦できる。
うんうん。成果が積み重なっていくような気がしていいかもしれない!
中に入れた具材の味もわかりやすいんですよ。野菜の水気を抜かずに、皮に包むと水っぽくなってしまうんです。そんな時に「じゃあ、どうやって水を抜こう…」って考えて、野菜をしっかりと絞ってから包むようにするとか。作ってみて初めて気付くことがたくさんあるんです。試行錯誤しながら、自分好みの味に近づいていくから案外ハマっちゃうかも!
旦那さんにも教えておきます。でも、何で男の人って「面倒なことこそが料理!」っていう考えなんでしょうか(笑)?うちの旦那さんも凝り性で、料理をする時にわざわざ鍋を買ってきたり、私が使ったことのないスパイスを試してみたり、細かい部分にも手間をかけるんです。普段、自分では作らない料理なので面白いんですけど、作り終わったあとは、ボウルが何個も出ていて、キッチンがものすごい状態になっているんですよ。
達成感がほしいんじゃないかな。作り終わった達成感の後にくる満足感もあるんでしょうね。子供の「パパの料理って、おいしいね〜」っていう一言だけで男性はグッとくるんですよ。
なるほど。あと、はるみさんの本を読むと、ご家族のお話がよく出てきますよね。「旦那さんが好きな鯖味噌を進化させた」とか、旦那さまを想う言葉が随所に書かれているので、本当に家族のことが大好きなんだなってずっと思っていたんです。ご家族のために磨いた料理の腕って、説得力もあるし。そこに行き着くまでの愛と労力が素晴らしいなって。
料理に関していうと、実は母より父のほうが味に厳しかったんです。ご飯にもこだわりを持っていたので、水の量から米の種類、炊き方まで、母は何度も試行錯誤して、やっと父が納得する味に近づいた。母もそういう意味では相当苦労したんじゃないかな(笑)。
それをちゃんと徹底できるはるみさん、すごい!
母も、父に認めてもらえる喜びがあったんだと思うんですよね。でも、最近は関係がだんだん変化してきて。結婚してからもう40年くらい経つかな…。父はそれまで、朝ごはんを作ったことさえなかったんですけど、5年くらい前から突然、母が大好きなミルクティーとサンドイッチを2人分作るようになったらしいんです。父はミルクティーを絶対飲まない人だったのに。
え〜!素敵なお話でキュンとします!
—料理を通して、家族や周りの人を喜ばせる。“食”がもたらす効果は絶大ですね。今後、お2人は料理を通じてどのようなことを伝えていきたいですか?
誰かが料理を楽しめるきっかけを作ることが僕の使命
(栗原心平さん)
肩肘を張らないで作れるものこそ、“家庭料理”だと思うんです。料理って一度難しいと捉えてしまうと、暗中模索状態になってしまう。でも、どんな料理にも色んな味の傾向やパターンがあって。そのパターンの最初の部分だけでも見極めることができれば、あとは自分で何でも作れるはずなんですよ。そういう“誰かが料理を楽しむきっかけ”を作って、しっかりと伝えていくこと。それは、料理研究家の使命だなって考えています。
子育てに奮闘する世の中の
お母さんと同じ目線で
料理の楽しさを伝えていきたい
(和田明日香さん)
周りにいるお母さんと同じ目線で、料理の楽しさを伝えていきたいと思っています。私のように料理が全くできなかったという方もたくさんいると思うので、一緒にやってみようよ!という気持ちで、自分のこれまでの経験を共有していきたいですね。そして、作ったごはんをあったかいうちに一緒に食べる人がいるのはとても幸せなことだと思うので、自分も家族との食事の時間を大切にしていきたいです。
料理を作って相手が喜んでくれること。食を通して、自分にも楽しみや喜びが返ってくるんです。そこからまた「その人に何かを作ってあげたい」っていう気持ちが芽生えて、人と人の関係が深まる。料理ってそういう大きな力を与えてくれるものだなって思います。
—さて、そろそろ〆のお時間。本日の〆の一品は、和風だしで仕上げたやさしい味わいが際立つ「定番にゅうめん 蟹のかきたま」です。
お湯で戻した瞬間にとろみが…!まろやかでおいしいですね!
お弁当と一緒に食べても良いですね。あと柑橘系のもの…例えば柚子とかを絞って加えると、さっぱりとした風味が増していいかも。
完成された味に、何だか感動しました。ごちそうさまでした!
— 素敵なトークをありがとうございました!またのご来店をお待ちしています。
撮影協力 / EDITORY神保町
関連記事
RELATED ARTICLES