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bar bossa・林伸次さん×わいん厨房たるたる・伊藤博之さん| 【第1回】人気店の店主が語る、BARで繰り広げられる人間模様

林伸次と伊藤博之
  • 林伸次
    林伸次
    1969年、徳島県生まれ。渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」オーナー。レコード屋、ブラジル料理店、バーテンダー修行を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。ソフトな雰囲気と的確なアドバイスから相談が絶えず、林さんに会いに訪れる常連も多く、お店で年間6000人のお客さんと出会う。電子メディア『cakes』で連載中の恋愛コラムも人気。著書『ワイングラスのむこう側』(KADOKAWA)、『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか -僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』(DU BOOKS)がある。新刊『バーのマスターは「おかわり」をすすめない 飲食店経営がいつだってこんなに楽しい理由』(DU BOOKS)も発売中。
  • 伊藤博之
    伊藤博之
    1967年、埼玉県生まれ。銀座のワインバー「わいん厨房たるたる」オーナーソムリエ兼シェフ。素材メーカーに研究者として勤めていた際に行ったフランス出張でワインの魅力に目覚め、以降ワインバーやフランス料理店で修行を積み、2000年に「わいん厨房たるたる」をオープンする。ワインに関する豊富な知識と丁寧でわかりやすい説明に定評があり、伊藤さんに会えば必ず好みの1本が見つかる。著書に『男と女のワイン術』(日本経済新聞出版社)、『男と女のワイン術 2杯め -グッとくる家飲み編』(日本経済新聞出版社)がある。
林伸次伊藤博之

 

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「今週のお客さん」。今回の対談テーマは、「バーカウンターから見る人間模様」について。

ゲストは男女の真髄に迫る恋愛コラムが人気のバーテンダー・林伸次さんと、ワインに対する並外れた情熱でメディアにも引っ張りだこの人情派ソムリエ・伊藤博之さん。大人の夜を彩る、「お酒」を中心に繰り広げられる人間模様から、オーナー2人が感じ取ったディープな世界をお楽しみください。

 

ー初対面ということで、まずはそれぞれのお店の特徴や開店のきっかけについて語っていただきましょう。

林伸次と伊藤博之

うちのお店はほぼワインしか置いてないんですよ。ビールは1種類あるだけで、あとは葡萄から作ったお酒を揃えています。「とにかくうちの店に来たら、あなた好みのワインが絶対にあるから!」という想いで。去年は1万8259回テイスティングして…その世界中のワインの中から引っかかったものを常時120種類ほど置いてあるんですけど、そんなに多いと皆さん選べないじゃないですか。だから、お客さんの顔を見ながらインタビューするような気持ちでその日のワインを決めていきます。

テイスティングの回数すごいですね!僕はお店をやる前、レコード屋で働いていたんですよ。ボサノヴァ(ブラジルの音楽)が好きで、始めはボサノヴァのカフェをやろうかなとか、外国人がいっぱい来てライブをやるようなお店にしようかなって考えていて。でも色々考えて結局BARだなと思って、2年間バーテンダーの修行をしたんです。

僕も実は飲食店で働いてから独立したわけじゃなくて、昔は素材メーカーの技術者だったんですよ。当時は毎日研究してたんですけど、ワインが好きになったので「よし!ワインのお店を開こう」って。

BAR BOSSA林伸次さんのお店『bar bossa(バールボッサ)』の店内。壁には林さんおすすめのボサノヴァのレコードやCDもディスプレイ。なかでもおすすめはAntonio Carlos Jobimの「Stone Flower」(下段左から2番目)

そうなんですか、すごい行動力ですね!僕はお店を開いたときから決めてることがありまして。僕のお店は13坪あるんですけど、従業員は雇わずに僕1人で回してるんですね。

1人で?それはすごい。

でもやっぱり大変なこともあって。例えば日本人女性ってグループで同じものを頼むことが多いんですけど、乾杯も全員のドリンクが揃ってからじゃないとしないんです。だから、シェイカー振ってカクテル作って…を繰り返しているうちに、一番初めにお出しした人のお酒がぬるくなっちゃう。それでどうしたものかと考えていた頃、ちょうど妻がソムリエの資格を取ったので「それならワインをメインにしたお店にしよう」と思い、途中から少しスタイルを変えたんです。

いいですね。ワインって栓を抜いてドンって机に置けば、あとは注げばいいだけですからね。

そうそう、ワインなら注げばいいだけってことに気付いて。まぁ、元からワインが好きだったというのもありますが。お店ではブラジル料理も提供しているので、もちろん料理に合うカクテルもよく出すんですけど。…なんだか、こうやってお話していると、開店のきっかけからお店のスタイルまで違いがあって面白いですね!

 

ー お酒好きが集うお2人の店。昼間の喫茶店などでは見られない“人の素”が垣間見えたり、ディープな話にもなりやすいようです。

酔ってくると人間心理が出てきますよね。「この人、こんな人なの!?」みたいな。それはいい意味でもあり、あまり度が過ぎなければ酔っ払ってくれる姿を見せてくれるのは主として信頼されている証というか、嬉しいなと思いますね。ただ僕は厳しいほうなので、度が過ぎたときは注意しますけど。

僕もやりますよ(笑)。BARは2軒目で来ることが多いので、酔っ払っている人は多いですね。でも最近は注意するとネットに書かれちゃうからなぁ…。

林伸次

年間6000人のお客さんと出会い

そこから人間心理が見えてくる

(林伸次さん)

ははは(笑)。確かにそうですよね。でも僕の場合、そういうのには割とひるまないというか。「主としてじゃない。人と人とのマナーとして言うんだからな!」って気持ちでね。

すごい!伊藤さんのキャラクターだからこそですよ。すごいな〜羨ましいな〜。あと、これは全世界のバーテンダーがそうだと思うんですけど、恋愛相談をよくされますよね。男性に多いのは「独立しようと思ってる」とか「今の職場を辞めようと思ってる」とか、ビジネスに関する相談。

あぁ、ありますね。

「王様の耳はロバの耳状態」といいますか、職場で「辞めようと思ってる」とかあまり相談できないじゃないですか。でも、バーテンダーになら罪がないっていうか、話しやすいんでしょうね。僕は21年間バーテンダーをやっているんですけど、お店に1ヵ月間で約500人、年間だと6000人ほどのお客さんがいらっしゃるんです。そう考えるとすごい人数に会っているし、色んなタイプの人を見てきているんですよね。だから、「男の人にこういう風に言われてるんですけど、それって本気ですかね?」みたいに相談されるんだと思います。でも決して僕、すっごい恋愛の話が好きってわけじゃないんですよ(笑)。

最近印象に残っている相談とか、あります?

いっぱいあるんですけどね。一番多いのは女性からの「出会いがないんですけど、どうしたらいい出会いがありますか?」っていう相談ですかね。

林さんの本の中でも書いてありましたよね。

あと…これは本には書いてないんですけど、既婚女性によくされる相談がありまして。僕、こんなおじさんみたいな顔してるんですけど中性的だと言われることが多くて。だからなのか、よく聞かれるんですよ。「夫と夜のほう全然なんですけど…私って最近魅力なくなりました?」って。「いや、すごい魅力ありますよ!」って力強く言いますけど(笑)。

さすがにないとは言えないですよ(笑)。きっと相談される方たちは安心感を求めてるんでしょうね。あと、誰かに悩みを話すだけでも気持ちが軽くなりますし。

伊藤博之

「このまま家に帰りたくない」

気分を切り替えるためにお店に来る方も

(伊藤博之さん)

そうですね。「みんなそういう悩みあると思いますよ、十分魅力ありますよ」って返すんです。きっとそういう答えを待ってるんだと思うんです。本当の答えを求めてるんじゃなくて、ただ聞いてほしいだけっていう気持ちもきっとある。ちゃんとした正解を出さなくても、「なるほど、大変ですね」っていうひとことで心が満たされることもあると思うんです。

うちの店には、恋愛相談してくるお客さんはあまりいないんですけど、“何かひっかかるもの”があって来られる方は多いかも。1人で飲食店やBARに行くのって、とにかく「まっすぐ家に帰りたくない」からなんですよ。

それ、すごくわかります。

例えばうちの場合、銀座という土地柄的に多いのが、1軒目が接待だった方。でも接待だととにかく気を遣うから、いくら高級料理を食べてもおいしく感じないんですよね。で、そのまま帰りたくないから仕切り直しに2軒目へ!っていう。気分転換なのかな。

たしかに、もう1軒行きたい時の心理として「そのまま家に帰りたくない」っていうのはありますよね~。その気分転換の場としても、BARはちょうどいいんでしょう。

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撮影協力/bar bossa

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