対談 2016.09.15
bar bossa・林伸次さん×わいん厨房たるたる・伊藤博之さん| 【第2回】店主に必要な「可愛がられ力」!愛されるBARの秘訣
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- 林伸次
- 1969年、徳島県生まれ。渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」オーナー。レコード屋、ブラジル料理店、バーテンダー修行を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。ソフトな雰囲気と的確なアドバイスから相談が絶えず、林さんに会いに訪れる常連も多く、お店で年間6000人のお客さんと出会う。電子メディア『cakes』で連載中の恋愛コラムも人気。著書『ワイングラスのむこう側』(KADOKAWA)、『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか -僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』(DU BOOKS)がある。新刊『バーのマスターは「おかわり」をすすめない 飲食店経営がいつだってこんなに楽しい理由』(DU BOOKS)も発売中。
- bar bossa
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- 伊藤博之
- 1967年、埼玉県生まれ。銀座のワインバー「わいん厨房たるたる」オーナーソムリエ兼シェフ。素材メーカーに研究者として勤めていた際に行ったフランス出張でワインの魅力に目覚め、以降ワインバーやフランス料理店で修行を積み、2000年に「わいん厨房たるたる」をオープンする。ワインに関する豊富な知識と丁寧でわかりやすい説明に定評があり、伊藤さんに会えば必ず好みの1本が見つかる。著書に『男と女のワイン術』(日本経済新聞出版社)、『男と女のワイン術 2杯め -グッとくる家飲み編』(日本経済新聞出版社)がある。
- わいん厨房たるたる Facebookページ
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「今週のお客さん」。ゲストは、男女の真髄に迫る恋愛コラムが人気のバーテンダー・林伸次さんと、ワインに対する並外れた情熱を持つ人情派ソムリエ・伊藤博之さん。
BARで繰り広げられる人間模様についてお話を伺った前回に続き、第2回の今回は、お店の主に欠かせない「可愛がられ力」について聞いてみました。
ー 絶妙な距離感を取ってくれるマスターとおいしいお酒があれば、人はつい気を許してしまうよう。しかしその“ほどよい距離感”は、誰とでもうまく取れるものではありませんよね。お2人はそのコミュニケーション感覚を、一体どこで培われたのでしょうか?
僕、お客さんが「こっちに来てほしい」「話しかけてほしい」というサインが見えるんです。よく手相とか人相とか、“相(そう)”って言葉があるでしょ?人間って、仕草とか表情のどこかに必ず出るんですよ。絶対に隠しきれない。言ってみればバーテンやサービスマンのように人と直接接する仕事は、洞察力がないとできない。
僕もそう思います。「お客さんが求めているもの」を見つけるのもこの仕事で大事なこと。例えばほら、最近「ビオワイン」が流行っているじゃないですか。うちはビオワインもクラシックワインも両方扱っているんですけど、お客さんの服装や雰囲気を見て「この人はビオが好きそうだなぁ」と推測するんですよね。
へぇ。ちなみに、ビオワインが好きそうな人って?
メガネかけてて、ヒゲ生やしてて、ニューバランスを履いてキャップ被っている人とか。個人的な見解ですけど、そういう傾向はあります。
はははは!ちょっとわかるような気がするなぁ(笑)。
四人兄弟の末っ子
「観察眼」は生来培われてきたもの
(伊藤博之さん)
「何かボトルで持ってきて」って言われて、4千円前後のワインを持っていくとなかには不快に感じる方もいらっしゃるんですよね。もっと高級なワインが飲みたい、と。だからお客さんの求めるものを見極めるのは大事で。あと、お酒の好みだけじゃなく空気感も。2人連れで「男性が女性を口説きたい感じだな」と思ったらあまり会話の邪魔にならないようにするとか。伊藤さんもそういう観察はいつもされていますよね?
そうですね。その人にふさわしいものを勧めるという点でスマートなのは、こちらがなるべくしゃべらないことなんですよ。お客様にインタビューするとは言ったものの、根掘り葉掘り聞くわけにはいかないので。初めて来店されるお客様には特にそうですね。そういえば…話が少し逸れるんですけど、僕4人兄弟の末っ子なんですよ。
ほぉ、そうなんですね。僕も弟なんですよ。
やっぱり。末っ子って観察力に長けている気がしませんか?お兄さんお姉さんの親とのやりとりを見て学ぶから、まぁとにかくかわいがられ上手なんですよ。だから僕の観察眼はまさに、生来培われてきたものっていうんでしょうか。
そうかもしれませんね。一概には言えませんけど、長男がサービス業をやるとあまりうまくいかないっていう話もたまに聞きますし。僕、お店をやる立場として、どういう人が好かれるんだろう?っていつも考えていて。
なるほど。
それで、行き着いた答えが「一生懸命で情熱がある人」は好かれるということなんですね。さらに「誠実さ」があると、人はどんどん集まってくるんです。上から目線だったり斜に構えていると、人って集まってこないんですよ。
長男だとつい仕切る側に回っちゃいますもんね。大体いつもまとめ役、というか。その一生懸命さが好印象というか、共感や「応援したい」という気持ちを喚起させるのかもしれませんね。
気付いたら周りが応援してしまう
「可愛がられ力」と「空回り力」
(林伸次さん)
末っ子とか、僕みたいにあまり男っぽくないとか、そういう人間が向いていると思います。特にBARの場合だと、男性を立てる必要があるので、男っぽいバーテンダーが主張しちゃうとそこで男性客が見栄を張れないしぶつかっちゃうんですよね。「この人のお店だから行こう」と思われるような、バーテンダーやソムリエのキャラクターってすごく大事だと思います。それでいうと、伊藤さんのそのキャラクターは本当に羨ましいなぁ~。
BARの魅力って色々あるけど、「主とのやりとりが好きで行く」っていう部分は大きいと思うんですよ。ワインとかカクテルのことは全然知らないけど、林さんと触れ合いたくて来るっていう人も多いと思いますよ。間違いなく。それに、そういう人って店を応援してくれるというか、お客さんを連れて来てくれるんですよ。
そうなんですよね、本当にありがたいです!そういう“可愛がられ力”って、BAR経営だけでなくどんな仕事にも必要ですよね。それを僕の中で「岡村靖幸力」って呼んでるんです。
岡村靖幸力!岡村靖幸さんって、たしか歌手ですよね?それは興味深いな。
でしょう?流行らせようと思って色んな人に言ってるんですけど、全然浸透しないんですよね(笑)。岡村靖幸さんって、ステージの合間におかしなダンスをしたりするんですけど、一生懸命で誠実で不思議とみんなが応援したくなっちゃうんですよ。空回り力っていうのかな。あ、決して伊藤さんが空回りしてるって言ってるわけじゃないですよ!
(笑)!
撮影協力/bar bossa
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[第2回]店主に必要な「可愛がられ力」!愛されるBARの秘訣
[第3回]1杯目は“ど真ん中”から。失敗しないワインの選び方
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