対談 2017.03.17
中村航さん×島本理生さん|【第1回】村上春樹から短歌まで…人気作家がすすめる「恋愛小説」傑作集!
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- 中村航
- 1969年、岐阜県生まれ。小説家。2002年『リレキショ』で第39回文藝賞を受賞し、デビュー。2004年『ぐるぐるまわるすべり台』で第26回野間文芸新人賞受賞。2005年出版の『100回泣くこと』は累計85万部を突破するベストセラーとなり、2013年に映画化。『年下のセンセイ』、『世界中の空をあつめて』、『小森谷くんが決めたこと』など著書多数。2012年出版の『トリガール!』は映画化され、2017年9月に上映予定。
- 中村航 公式サイト
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- 島本理生
- 1983年、東京都生まれ。小説家。小学生から小説を書き始め、15歳で『ヨル』が「鳩よ!掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞する。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年、20歳のとき、『リトル・バイ・リトル』で受賞した第25回野間文芸新人賞は、同賞史上最年少。近著に『イノセント』、『Red』など多数。2005年出版の『ナラタージュ』は、翌年「この恋愛小説がすごい」第1位に輝き、2017年秋に映画化。
- 島本理生 Official Website
アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。春は新たな“出会い”の時季。そんな季節だからこそ、つい読みたくなる「恋愛小説」とは?もしかしたら、皆さんの恋のヒントも見つかるかも。
ゲストは、甘く切ない恋物語を書いたら右に出る人はいない!?と話題の小説家・中村航さんと、甘酸っぱい恋から濃密な恋まで幅広い作風で多くのファンを集める小説家・島本理生さん。
人の数だけ恋愛の形があるなか、幅広い世代から共感と支持を得つづけるお2人に “イチ押しの作品”を教えてもらいました!
—“書く側”であるお2人ですが、読者として最近読んだ「恋愛小説」はありますか?
少し前に、川上弘美さんの『センセイの鞄』を再読しました。
発表されたのは十数年前ですよね。なぜ今になって再読しようと思ったんですか?
去年『年下のセンセイ』という本を出したんですが、書いているときから、書き終えたら、十年ぶりくらいに読んでみよう、って決めてたんです。『センセイの鞄』。
「センセイ」繋がりなんですね(笑)。
先生の表記をセンセイとしたのは、そもそもこの作品の影響なんです。年齢差のある恋愛、って意味でも同じですし。
そうだったんですか!それで、久しぶりに読んでどうでした?
まったく色褪せないですね〜。昔よりいろんなことを感じたかもしれない。主人公の年齢に近づいたか越したくらいだから、それも大きいと思います。
素敵な小説ですよね。
主人公の女性が、高校時代の先生に再会して恋に落ちるという物語なんですけど、久々に読み直してみると、「あれ、こんなに飲み食いしてたっけ?」と、まず思ったんです。若いころって、色のついたジュース飲みながらでも恋愛できるじゃないですか。もの凄く若いころなら給食食べながらでも、恋できる。でも今、恋愛するなら、やっぱり美味しいもの食べたいですよね。
豚キムチのお弁当を食べる場面がありますよね?ずいぶんガッツリしたものを公園に行って食べるな、と思ったので印象に残っています。
飲み屋で美味しいもの食べて会話する、というのが軸ですからね。食べるといえば島本さんの新刊も、食べるシーンが多く出てきますよね。
(島本さんの新刊『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』のゲラを事前に読んでこられた中村さん。読んだ感想を早速島本さんに伝えます。)
今回、島本さんと対談するということで、ひと足先に新刊の原稿を読ませていただきました。「いろんなところに行って、旅行して、食べる小説」と島本さんから聞いていたから軽い気持ちで読み始めたら、たしかに旅はするし各地でおいしいものを食べてはいるんだけど、思っていた内容と全然違ってびっくり。
ふふ。そうかもしれないですね。
かなりシリアスな内容ですね。
病気とか結婚とか家族とか、30代の恋愛とか…色んな設定があるんですけど、元々の題材がシリアスな分、本編では苦しくなるような場面よりも、幸せで美味しい瞬間をたくさん入れたいと思って。そこはすごく意識しました。
なるほど。そう言えば、前述の『センセイの鞄』も、不思議だなとか、センセイの行動言動面白いなとか、とかいうシーンに、死の観念みたいなものが含まれているところがあった気がします。不思議な夢のシーンは、死者としてのセンセイが主人公を呼んでいるんだ、と思ったし。以前に読んだときは、そんなこと思わなかったから、再読して良かったです。島本さんは最近恋愛小説、何か読まれました?
初恋の人を探す旅を描いた
アンナ・カヴァンの『氷』
(島本理生さん)
新書や実用書を読むことが多かったんですけど、久しぶりに恋愛小説を読んだらすごく良くて!最近だと、アンナ・カヴァンの『氷』を読みました。ベースがSFっぽくていいんですよ。主人公の男の人が、初恋の少女を探すためにありとあらゆる手を使って「もうすぐ終わろうとしている世界」中を旅するっていう。
それは最近の小説?
刊行されたのが1967年なので、かなり古いですよ。登場人物たちはエキセントリックだし、描写もすごく幻想的です。あまりネタバレになるといけませんけど、氷の壁が迫ってきてもうすぐ世界が終わってしまうという設定で。で、初恋の少女を必死で探してようやく見つけることができるんです!
ほぉ。引き込まれますね。
で、「あ〜見つかってよかった!」ってなるんですけど、その少女から拒絶されてしまって、しょんぼりと帰っていくんですよ。でもしばらく経つと、やっぱり少女じゃなきゃダメだって言ってまた探しに行くんです(笑)。
でも、その気持ちはちょっとわかるなぁ。こっちの記憶は鮮やかなんだけど、向こうにとっては思い入れが全然ないから、必死で探しても拒絶されて、「あぁ、すみません…」みたいな。似たような経験ある気がする。
航さんが…!?
今じゃなくて、すごい昔だよ! それこそ学生の頃の話だけど…。でも意外とそういう経験がある人は多いんじゃないかな。だってほら、Facebookで昔好きだった子を探したりするのも、一種の「サーチの旅」じゃないですか。
今だったらそうですね!ネットやSNSを使って追いかけるっていう。『氷』は50年ほど前の作品だけど、そういう“恋心”って時代を問わず普遍的なものですもんね。
—お2人オススメの「恋愛小説」を、たくさんご紹介いただきました!
大人な恋愛がグッとくる
千早茜さんの『あとかた』
(島本理生さん)
私がおすすめしたいのは、千早茜さんの連作短編集『あとかた』。これを読んで、「私もこんな小説書きたかった!」ってすっごく思いました。関係性に名前をつけられなかったり、説明しにくいような男女の恋愛が描かれていて、とても余韻が残る小説です。夫婦や恋人、友達とか…その枠の中で収まりきらない関係って、年齢を重ねるごとに出てくるじゃないですか。そういう関係が文章で表現されていてすごく良かったです。
僕、実は恋愛小説はあまり読まないほうなんですけど、オススメってなると、島本さんの恋愛小説は結構読んでるなぁ〜。爽やかなものからドロドロしたものまで、振れ幅がすごい。みんな面白い。
わ、ありがとうございます!航さんはデビュー当時から私の本を読んで感想をくださったりしていましたよね。2005年に出版した『ナラタージュ』とかも。同じ作家の方から感想をもらえるって嬉しいし、学ぶことも多いです。
恋愛小説といえば
村上春樹さんの『ノルウェーの森』
(中村航さん)
僕が初めて読んだ恋愛小説は村上春樹さんの『ノルウェーの森』。有名すぎて、今さら挙げるのもあれなんですけど。
でもやっぱり、『ノルウェーの森』ってすごい小説ですよ。
そう思います。まず読みやすい。時代や背景が違っても、実は誰でも自分と重ねられるんじゃないかな。かと言って、主人公とか特定の人物に共感しながら読める話じゃない。自分の影と重ねるっていうか…。これを読むと、「相手のことって結局はわからないんだな」っていうことがわかりますね。
今、航さんがおっしゃった「わからない」で思い出した!最近、村上春樹さんの短編集『女のいない男たち』を読んだんです。物語のなかで男の人たちが彼女や妻に浮気され続ける話なんですけど…。それぞれの話の中で男の人たちは「なぜ彼女は浮気したんだろう?」ってすごく考えて、でも結局わからないんです。
うんうん。
村上春樹さんって一貫して「女の人のことはわからない、ということだけはわかる」ということを書き続けているなぁと思って。
たしかにそうですよね。そういえば…特に少し前の恋愛小説って、ドロドロしてるイメージがありませんでした?
恋愛小説って、だいたい2人の間に問題がありますもんね…。
問題がないと書けないのかもしれない。そもそも歌舞伎とか文楽とか、ああいう何百年も続いている作品の男と女ってドロドロしかしていないし。そういう小説を書ける人は凄いな、いいなって思う。
なぜですか?
誰しも恋愛で辛い思いをすることってあるじゃない。だから読む側としても、「辛い」エピソードは気持ちがシンクロしやすい。加藤千恵さんの小説のあるあるで言えば、彼氏が浮気しがち(笑)。
千恵ちゃんが短歌でデビューしたときは衝撃でしたね。私、同い年なので余計に衝撃度が大きかったです。
加藤千恵さんのデビュー作『ハッピーアイスクリーム』とかすごいと思う。文庫には小説がついているんだけど、元々は短歌集で、今の女子高生が短歌を読んで「何これヤバイわかる!」って言ってたのを、本当に耳で聞いたことがある。その言い方に衝撃を受けた。僕の小説を女子高生で読んでくれる子はいても、「何これヤバイわかる!」とは言わない。時代と人種を超えて共感されるんだなと。
男性作家の恋愛アンソロジー
『I LOVE YOU』
(中村航さん)
恋愛小説って女性が書くことが多いと思うんだけど、男性が書く恋愛小説もおすすめしたい。一つ挙げるなら、『I LOVE YOU』っていう男性作家によるアンソロジー。意外な人が恋愛ものを書いていて新鮮だったり、それぞれの恋愛観を競わせている感じもおもしろくて。…と言いながら、実は僕もそのなかの1人なんですけど(笑)。
『I LOVE YOU』、おもしろいですよね〜。「この人、こんな恋愛小説を書くんだ!?」ってすごく新鮮でした。
僕はそれが初めての恋愛小説だったし、伊坂幸太郎さん、中田永一さんもきっと初の恋愛ものだったと思う。
男性のほうがロマンチックというか、女性をまっすぐに素敵なものとしてイメージしてるんだな、て感じました。
男性作家が書く恋愛小説って、“こういう女性であってほしい”っていう理想が出やすい傾向があるから。女性が読むと「いやいや、私たちそんなんじゃないし!」ってツッコミ入れたくなるものもあるかもな…。
そんなことないですよ!航さんが書く女性ってすごく自然体というか、同性から見ても素敵なので、応援したくなります。でも、やっぱり男性のほうがロマンチックですよね。
まあね、女性の嫌なところとか、知ってても別に書きたくないし。素敵な女子を書いて、素敵な女子に読んでもらいたいです(笑)
『I LOVE YOU』に話が戻るんですけど、あの本にも色んなタイプの男女が登場しますよね。それぞれの恋愛描写に個性があっておもしろかったです。
それぞれの強みが活かされていると思う。伊坂さんのものにはミステリー要素があるし、石田衣良さんと市川拓司さんは“これぞ恋愛小説!”という感じ。安定したなかに遊びもしっかりあってさ。石田さんなんか「こういうのは他の誰も書かないだろうから!」って、冒頭がいきなりセックスのシーンだったり。王道でいくか、あえて外すか…水面下で実はバトルしていたのかもしれない。
あの本に収録されている中田永一さんの『百瀬、こっちを向いて』は切ないけどいい話ですよね。私、あの話すごく好きでした。
良いよね。ちなみに『百瀬、こっちを向いて』には『鯨と煙の冒険』っていうスピンオフ短編があるんだけど、めちゃくちゃおもしろいですよ。
わっ!それ絶対読みます!あと航さんの小説を読むと思うんですけど、男同士のやりとりとか会話って魅力的ですよね。ああいうの憧れます。
え〜そうかな?
だって楽しそうじゃないですか!女の子とはまた違う可愛らしさがあるというか、傍から見ていて「あ〜男の友情っていいな〜」って思っちゃいます。女同士も楽しいんですけど、もうちょっと内容が具体的というか、それこそ、ドロドロした生々しい話も結構多いから…。
あぁ…男側からするとちょっと恐ろしいやつですね(笑)。男性が書く恋愛小説と、女性が書く恋愛小説の違いも、そういうことなのかもね。何を面白がっていて、何を人に話したいか、っていう。恋愛小説って言っても、いろいろあるから、色んな作品を読み比べてみてほしいですね。
【本文に登場した作品】
◉『センセイの鞄』(川上弘美)
◉『年下のセンセイ』(中村航)
◉『氷』(アンナ・カヴァン)
◉『あとかた』(千早茜)
◉『ナラタージュ』(島本理生)
◉『ノルウェーの森』(村上春樹)
◉『ハッピーアイスクリーム』(加藤千恵)
◉『I LOVE YOU』(伊坂幸太郎/石田衣良/市川拓司/中田永一/中村航/本多孝好)
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