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中村航さん×島本理生さん|【第2回】質問!「自分の恋愛観、作品にも反映されてますか?」

中村航
  • 中村航
    中村航
    1969年、岐阜県生まれ。小説家。2002年『リレキショ』で第39回文藝賞を受賞し、デビュー。2004年『ぐるぐるまわるすべり台』で第26回野間文芸新人賞受賞。2005年出版の『100回泣くこと』は累計85万部を突破するベストセラーとなり、2013年に映画化。『年下のセンセイ』、『世界中の空をあつめて』、『小森谷くんが決めたこと』など著書多数。2012年出版の『トリガール!』は映画化され、2017年9月に上映予定。
  • 島本理生
    島本理生
    1983年、東京都生まれ。小説家。小学生から小説を書き始め、15歳で『ヨル』が「鳩よ!掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞する。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年、20歳のとき、『リトル・バイ・リトル』で受賞した第25回野間文芸新人賞は、同賞史上最年少。近著に『イノセント』、『Red』など多数。2005年出版の『ナラタージュ』は、翌年「この恋愛小説がすごい」第1位に輝き、2017年秋に映画化。
中村航島本理生

アマノ食堂に訪れる、お客さんの“おいしいお話”をお届けする「お客さん対談」。今回のテーマは「恋愛小説」について。ゲストは作家の中村航さん島本理生さんです。

最近読んだ恋愛小説から、おすすめ作品までたっぷり伺った前回に引き続き、第2弾はお2人の作品からプライベートな恋愛観(!!)までちょっぴりディープなお話を伺いました。

 

—さまざまな作品を手掛けてきたお2人ですが、恋愛小説を書く際の「傾向」みたいなものはあるのでしょうか?

中村航と島本理生

将棋で駒を進めていくような

「攻防する恋愛」が好き

(島本理生さん)

前にも一度、島本さんと対談したことがあったじゃないですか。そのとき島本さんが、恋愛小説は“将棋で駒を進めていくようなイメージ”だとおっしゃっていたのが印象的です。いつか相手の王を詰むために、今端歩(はしふ)を突いてみるとか、向こうが桂馬(けいま)の通り道をあけてきたから、こっちは銀の前をあげるとか…。そういうふうにしてやってくるって。

戦ってますね(笑)。よく覚えています。そのとき航さんは、「僕は一緒に旅をしていくイメージです」みたいなことをおっしゃっていましたよね。

中村航

登場人物が同じ方向を向いて

「旅」をするようなイメージ

(中村航さん)

そのころ僕は“隣に並んで同じほうを向いて旅をしていくような恋愛”しか書けていないなと思ったし、そういうのが僕は好きなんだろうなと。だから島本さんみたいな恋愛の“攻防”みたいなのはうまく書けないと思っていた。

攻防は今も好きなんですけど、さすがにいつもそれだと読むほうも疲れちゃうし、書くほうも毎回はいいかな、て(笑)。なので最近は、2人で同じ方向を見て並んでいるような恋愛も書きたいと思っているんです。

へぇ!そうなんだ。恋愛小説ってひと言で言っても、そこには恋だけじゃない別のテーマや要素があるじゃないですか。例えば、ダース・ベイダーを倒そうとしている時にレイア姫と恋に落ちるとか。僕はそういうふうに別の側面から入って読んだり、書いたりすることが多いかな。

そもそも男性って、恋愛すると相手のことで頭がいっぱいになったりするんですか?それとも、例えば「タイムマシーンを発明しなきゃ」みたいな夢や使命感の隙間でちょっと思い出す程度なんでしょうか?

「この子に会うために機械を発明しました」とか、「この子を助けるためにこんなものを作りました」とか恋愛がきっかけになっているような設定はSF作品だとよくあるけど、書いているときは“この子のために”とかじゃなくて機械のことばっかり考えてますよね、きっと。

あはは(笑)やっぱり、そうなんですね。

だってそうじゃないですか。タイムマシーンを発明しちゃうんですよ?彼女のこととかはもう“神棚”みたいなもので、儀式的な感じになると思うんですよ。

“彼女のため”からそもそも始まっていたはずが、いつの間にかタイムマシーンのほうに夢中になっちゃうみたいな。

うん、そういう気がするなぁ。そういった男の人にとっての色んな関心事がすべて好きな女の子に置き換わる瞬間っていうのが、「好きな人で頭がいっぱい」っていう状態なのかなと思う。オセロが1枚一枚ひっくり返っていくように。

オセロがパタパタパタ…ってひっくり返って全部真っ白になるみたいな。その例え、すごくわかりやすいですね!

中村航と島本理生

男性一人称で小説を書くこともあるんですけど、私自身は女性の目線なので。身近な男性を観察して書くことはできても、やっぱり想像でしかないんですよね。

それは僕もそうですよ。女性の話を聞いたり少女漫画を読んだりもするけど、実感としてあるわけじゃないし。

航さんって、少女漫画読むんですか!?

『Cheese!(チーズ!)』とか読んでる。

意外です(笑)!あ、だけど私、男性からたまに「男の考えることなんて見透かしてるでしょう」と言われたり、恋愛のダメなエピソードを語られることはあります。たしかに小説では男性目線の心情を描いたり、現実でもよく観察したりしているけど「そんなのわかるわけないじゃん!」と。あと書いてはいるけど、それを許しているとはひと言も言ってない!(笑)。

でも、その男性の気持ちはよくわかるな。島本さんが男性視点で書く作品はすごく優しいから。

男性が読んでいる女性作家の本って、傾向があるんですよね。良くも悪くも、男の人のダメな部分を理解して描いている小説が多い気がします。

島本さんの小説もそうだと思うよ。なんか許してくれそうな気がしますもん。

いやいや、そんな寛容じゃないですよ…(笑)。

だけど小説で書かれていることって、作者と重ねちゃうときありますからね。主人公が頭撫でられて喜んでいたら、作者も頭撫でられたら嬉しいのかな、って思ってしまう(笑)

 

ー 作風のお話から、気付けばご自身の恋愛観トークへと突入!ちなみに、お2人の恋愛観ってご自身の作品にも反映されているんですか?

島本理生

自分が年を重ねるごとに

登場人物の恋愛観も変わってきた

(島本理生さん)

たしかに私はかなり反映されていますね。

読ませてもらった島本さんの新刊『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』は、「本当はもう好きだけど、でも本当に好きになっていいのか」といった葛藤や、結婚とか色んなことに対して自分の中でひとつずつ折り合いをつけていく心理描写が印象的でした。それこそまさに、全部黒だったオセロを1個1個、白にしていくような小説でしたね。

そうですね。1つずつ確認していくっていう。それは書き手である私自身の年齢も関係している気がします。誰かと一緒に暮らしたり、一生付き合っていくっていう、理想だけじゃない現実的な物事のほうへも視野が広がってきたのかも。航さんはどうですか?

中村航

自分自身の気持ちや体験を

すべて作品に“利用”してます

(中村航さん)

小説は全部、自分の人生が反映されていると思います。小説を書くときは、自分がこれまで見たものや体験したことを全部利用する。じゃないと書けないんですよね。自分の体験をそのまま書くということじゃないけど、人生で培われた世界観をトレースしている感覚です。

細かい具体的なディテールって大事ですよね。描写が細かいとそれだけで印象に残るしインパクトがあります。最近クリープハイプの尾崎世界観さんの『祐介』という小説を読んだんですけど、瞳ちゃんという女の子の家に行くとガラス瓶か何かに避妊具を大量に入れてて、男の人が来るとそれを使うんですよ。で、ある日それがごっそり減っていてショック!みたいな…。それが強烈に印象に残っていて。

は〜それは思い付かないよね。凄い。

「細部」ってこういうことだなって思ったんです。ショッキングだけど、妙にリアリティのあるシーンじゃないですか。

ショッキング!お客さん用に「飴玉こんもり」置いてある、みたいなことでしょう?

ちょっと違いますけど(笑)。タイトルの『祐介』はご本人の本名で、内容も半自伝的な小説なので、完全にフィクションではないかもしれないですけど。というか、想像だけじゃなかなかあの描写は出てこないですよ。あれはすごい強烈!

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